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14-15.白岩様と鬼族の武術

前回のあらすじ:リストに載った方々(見知った人は結局全員載った)に傾聴を行う件は、一通り終われば単位認定して貰えることになりました。仕事優先で街エルフの義務教育のかなりの部分は手付かずなのでありがたいことです。街エルフは何でもできるのが売りですが、傾聴技能を習得していても使うとは限らないと聞いてちょっとがっかりました。(アキ視点)

傾聴は家族の三人から始まった。


父さんは、何でもできる街エルフ、そう思ってきたし、それなりの自負もあったけれど、親としてできる事の限界も感じてると内心をそっと教えてくれた。ロングヒルに来てからの僕の行動やそれに必要となる技能、経験は成人の儀で求められるソレを遥かに超えるモノであって、一通りの基礎を学び終える成人と、僕の経験は大きく異なりバランスの悪さが問題とならないか心配だと。

一部だけ突出した才は、その分野では強みを発揮するが、揺らぐと弱く、心のしなやかさ、強靭さ、安定性がどうしても足りないのだと。そして、あちらの感覚からすれば迂遠に感じるかもしれないけれど、身一つで自然に対峙するような実地訓練を通じて、生きる力を身に着けさせたいと語ってくれた。


母さんは、親の付き添いなしで、子供が日帰りの遠足に初めて出かける時の事を思い出したと話してくれた。ミア姉はなんの気負いもなく、隣の家に遊びに行くような気軽さで参加し、リア姉は魔力感知ができない事もあって、行くのを嫌がり、友達に誘われて渋々出かけていったものだったと。僕の場合、日帰り旅行ではあるけれど、付添いは天空竜、子守妖精も魔導人形ではない本物の妖精で、目的地は碌な国交も行われていない小鬼達の帝国、それも彼らの領土の奥深く、人も街エルフも誰も訪れたことの無い首都とあっては、比較するのも馬鹿らしく感じたって。

そして、ちゃんと帰ってくるか、困ったことにならないか、思い出となる旅となるか、それを考えずにはいられない、そう話してくれた。


リア姉は、まだ誰とは決めていないけど、近い年代の街エルフの友人がいた方がいいと話してくれた。自身の経験として、自分と同じくらいの年代の友人がいれば、ずっと年上の大人や、年の離れた子供達には話せないような悩み、希望、興味などの話題を話す事もできて、未成年なりに考えた事をぶつけ合う事は心を育む事にもなったと。

同期を全員凹ました件を聞いたら、そのうち一割くらいはガチでぶつかる事を楽しんで、全力を出し切れた事を喜んでたし、今も良い関係だよ、と話してくれた。……一割が多いのか、少ないのかはわからないけど、上辺だけの付き合いでなく、ぶつかり合えるのは、きっと良い事なんだろうね。で、僕の場合、直接触れると危ない、起きていられる時間が短い、魔力感知されない、竜族級相手の魔力感知しかできない、こちらの常識に疎い、感性と知識の基本が日本あちら、仕事の関係でロングヒル住まいといったように色々と問題を抱えているけど、それでもロングヒルの二人の王子やエリーのように交流を持てそうな人はいそうか聞いてみた。

……まぁ予想通り、未成年は出国が許されてないし、大使館領住まいならセーフ、などと言って、わざわざこちらにやってくる性格、それが許される家庭環境の子がそうそういるかと言うと、やっぱり無茶らしい。

それでも、ずっと年の離れた大人達に囲まれて、同年代との触れ合いがないまま、と言うのは小さく纏まった面白みのない性格になりがちだから、いずれは何とかしたい、と話してくれた。


そして、三人とも、僕が雲取様やお爺ちゃんと、帝国領に行くこと事態は効果も期待できるから仕方ないことと考えていて、それよりはそれを経験することで僕が何を思うのか、何を掴むのか、それを楽しみにしてくれていた。心配はあるけれど、それで籠の中に囲い込むのは、僕の為にならないと。


あなたの為だからとか、こうするのがいいと思うとか、それをしなさいとか、そんなレールを敷く意識は全く無いと断言してくれた。そもそも、用意されたレールの上を進むような性格なら、今も共和国の屋敷にいただろうと笑われた。


……手は出さないけど、見守ってくれている、僕の自主性と進む先々について、一緒に悩み、心配もする、けれど、判断は任せる、判断ができると信頼されている、そんな心遣いが理解できた。





傾聴した後に、考えた事を口述筆記して貰うと、午前中は終わってしまったし、傾聴もかなり神経を使うので、午後は白岩様とお話する時間としてくれた。


「竜と会うのは気が重いと言われるよりはマシなのかもしれませんが、竜族と対面するのが楽しみだ、心が癒やされるなどと、遊び気分で迎えるのはアキ様くらいなのは変わりませんね。私も結構な回数、竜族の皆様と対面していますが、未だに慣れませんし、今後も慣れるとは思えません」


馬車の中で、ケイティさんが呆れた心象を隠さず教えてくれた。


「白岩様は体を鍛えるのが好きで、面倒見がいい近所のおじさんって感じで、若い衆からも一目置かれてる落ち着いた雰囲気と、小さい子が頑張る様子をしゃがんで同じ目線で応援してくれる、そんなところがあるでしょう?」


そう話すと、ケイティさんが怪訝そうな顔を向けてきた。


「アキ様、まさかと思いますが、あちらの娯楽作品のように、天空竜が心象イメージのように擬人化して見えているなんて事はないですよね?」


「それはそれで面白そうですけど、普通に竜の姿に見えてますよ。眼差しや思念波、僅かな表情の変化から、感情を読み取ってる程度で」


同じ歳上の世代でも、黒姫様より白岩様の方が表情が読みやすいと話すと、私にはそこまで識別できませんと、手を軽くあげて困った顔をされたけど、そんな、ちょっとした仕草が可愛らしくて、少しドキっとさせられた。


そして、第二演習場に到着すると、白岩様と、その前では二人の鬼族が鉄棍を持って鋭い技の応酬を行っていた。試合形式ではなく、演舞のようで、示し合わせた型の手合わせをしてる感じ。

一人はセイケンの付き人のレイハさん。そしてもう一人は鬼人形の人だ。いつも全身鎧を着てるところしか見たことがなかったから、武術着だけの軽い装いは新鮮だ。


僕はお爺ちゃん、トラ吉さん、ケイティさんと一緒に近付くと、思念波で横に来るように言われて、白岩様の隣に移動して、二人の演舞を眺めることになった。

時には槍のように、また杖のように、鋭く剣のようにと、変幻自在に繰り出される杖術の絶技を見せられて、自然と手を強く握り締めてた。

二人の体躯の大きさと、鉄棍の長大さは、人のそれとは比べ物にならないリーチと衝突した際の破壊音を撒き散らす事になって、途中からはケイティさんの用意してくれたイヤーマフを付けたり、破片が飛んでくる万一の事態に備えてシューティンググラスも付けた。トラ吉さんとお爺ちゃんはケイティさんが展開した障壁の陰へ。

打ち合うたびに銃撃並みの衝撃音が飛び交うんじゃ、二人だって辛いよね。


白岩様は、この域になると、そうして身を護らねばならんのか、と興味深く頷いたり、二人が打ち合う際、併用している魔術にも目を向けるようにと教えてくれたりしてくれた。僕から見れば重機のようにすら感じられる鬼族の巨体も、成竜の白岩様からすれば、チワワくらいの大きさだからね。こういう感性の違いはやっぱり色々出てくるものだ。


白岩様が鬼の武術を学んでいるという話だったけど、こうして、観て覚えているんだね。まぁ、体の作りも違うから、白岩様が鉄棍を振り回す訳にもいかないし、当然だったか。


かくして、見ている間、息を止めてしまうほどの激しい演舞は、途中、緩急を付けた技の応酬もあって、トータル七分くらい続いたと思う。


終わった時にはケイティさんも含めて、良いモノを見せて貰ったと拍手を送り、二人も一礼してそれに応えてくれた。


<二人共、見事な技であった。身を軽くする事で体捌きの速さを増し、身を重くする事で技の威力を高め、相手の力に耐え、逆に姿勢を崩しにいく様は何度見ても興味深いモノだ>


白岩様はご機嫌な様子で、初見の僕達にも分かるように解説してくれた。


「竜の体の使い方にも応用ができそうですか?」


<地の種族は地面の上に立ち、地を蹴って駆ける。軽く跳んで落ちる力を利用もするが、やはり地に足を付けてこそ力を発揮できるのだろう。それに比べると、翁なら我らの感覚も理解できようが、空中では体は安定せず、風に流され、何かにぶつかれば、勢いを流す地面もなく、その身は回転を始めてしまい、下手をすれば落ちかねん」


確かに。宇宙飛行士程ではないにせよ、空中で相手を受け止めるなんて真似は、相対速度を合わせないと、二人揃って大怪我、墜落間違いなしだ。それに少しでもベクトルがズレれば、重心からズレた分だけ回転する動きが生まれてしまう。


「鳥同士の戦いのように、相対速度を合わせてから、鉤爪で掴みかかるとか、切り付けるとか、嘴で突付くのと同じで、勢いをつけたまま、ぶつかるような真似はしないんですね」


「そうじゃな。儂らも混戦になり、誰かと衝突しそうになったなら、球状の障壁を展開して、弾き飛ばされつつ距離を取り、移動の方向性がコントロールできる範囲になってから立て直すモノじゃよ。ぐるぐる飛ばされてる最中に何かやろうとしても、とても制御できんからのぉ」


ほぉ。


<そこは空を飛ぶと言っても、群れで暮らす妖精族と、単独で暮らす竜族の差だろう。我らの空に混戦はない。我らは相手より高みに位置し、より優位な相手の背面を取ろうとするモノだ>


なるほど。


「より高い背面位置を取れれば、反撃を受けずに一方的に攻撃できるからですね?」


<そうだ。勿論、やられそうになった側は無理な機動をするなどして体制を立て直す事になるが、そのような真似をすれば大きく魔力を失う事になり、長期的に見れば追い詰められていくことになっていくのだ>


「実力の近い竜同士だと、魔力の削り合いをしつつ、絶好の体勢を作ろうと駆け引きをしていくと。それで鬼族の武の技を学ぶと言う事は、身の重さを操作する術を習得しようとしている。えっと、重くする技は打ち合った際の攻防に主に使うようですから、体を軽くして身のこなしを早くするって感じでしょうか。うーん、でも竜の空の飛び方は、重力を任意の方向に曲げる事で、目指す方向に向けて落ちていく感じだから、重くても軽くても加速は変わらないような――」


話してて、いまいち利点が何なのか分からなくなってきた。


すると、レイハさんが助け舟を出してくれた。


「アキ、ヒントを出そう。白岩様は我らよりずっと大きい。それと、身の重さを変える術は、妖精族にはきっと役に立たない」


ふむ。お爺ちゃんを見ると、その通りと頷いた。


「俺等は見ての通り、小さくて軽いからのぉ。多少軽くなろうと重くなろうと、儂らの飛び方には殆ど影響を与える事は無いじゃろう」


ひょいと、模様を描くように光の粒をばら撒きながら飛んで見せてくれたけど、運動ベクトルを無視して、素早く何度も飛ぶ向きを変えて、光の粒で☆マークを描いてくれた。


一部のステルス戦闘機がエンジンの排気方向を制御する事で空気の薄い高空で姿勢を変更できてるけど、妖精族は大推力を任意の方向に向ける事で、羽の揚力に頼ることなく、思うがままに空を飛び回れている。どんな生き物も真似できない特異な飛び方であり、竜の巨体で真似をしたら、大怪我間違いなしだ。


<相変わらず、目を疑う飛び方だが、翁も話したように、身が小さく軽い妖精族には利のない技だろう>


つまり。


「体が大きく重い竜族ならば利は大きいと。ぼんやりとですけど、なんか伝わってきました」


具体例がないからいまいちピンとこないけど。


そう思ってたら、レイハさんが鬼人形さんに声を掛けて、説明してくれる事になった。


「ブセイ、術無しを想定して受けてくれ」


ん? ブセイ?


「鬼の武の技を正式に学ぶにアタリ、弟子としての名を授けていただきマシタ」


鬼人形さんが少し誇らしげに教えてくれた。いまいち、その意味が判ってない僕の為にレイハさんが補足してくれた。


「鍛えて伸びるだけの下地があり、技を授けてもよいと思える精神を持つと認めたからこその弟子入りだ」


なんと。


「とても名誉な事なんですね」


「そう思ってくれていい」


そんな話をしていると、鬼人形改めブセイさんが、それより技を見せまショウ、と流れを変えてきた。


わかりにくいけど、このままだと何時までも褒められそうで、それを聞き続けるのが恥ずかしかったっぽかった。厳つい感じの人がふと見せる、こういうところは可愛く感じられていいね。


それでは、と仕切り直して、鉄根を短めに持ち、突進しつつ、相手に叩きつけることで、突進の勢いを上乗せして体勢を崩しに行く流れを見せてくれることになった。巨体同士のぶつかり合いなので、重機の作業エリアに立ち入らないのと同様、二人が動く範囲から余裕を持って離れ、更に念の為、ケイティさんは杖を利用した耐弾障壁を展開した状態で観戦する事になった。

鬼族の体躯で動くと飛んでくる小石程度でも銃弾並みに危険がある為の措置だと言われ、皆も納得してくれた。お爺ちゃんも何かあれば撃ち落とそう、と子守妖精としての仕事を思い出してくれた。


始めは魔術併用なし。


待ち構えるブセイさんに対して、レイハさんが一気に突進していくと、相手の鉄棍に己の鉄棍を叩きつけた。同時にイヤーマフ越しにも頭を揺さぶる重く鈍い衝突音が響き、ブセイさんは勢いに押されて後ずさった。


<今のは、ブセイが姿勢を低く、地を踏みしめた事で、姿勢が崩れるのを上手く防いでいたな>


僕が武術にさほど詳しくないと理解してくれたようで、白岩様が状況を説明してくれた。


ふむふむ。


「次はぶつかる際に身を重くする。違いをよく見ることだ」


始めの位置まで戻り、再びレイハさんが突進し鉄棍を叩きつけた。でも衝突音はさっきよりずっと大きく、わざとさっきと同じように受けたブセイさんは一瞬だけは拮抗できたけど、その後、大きく体勢を崩されて、後方へと飛ばされてしまった。


巨体が嘘のように飛んでいったけど、勢いに逆らわず、地面に手を付けると体を捻って、一発で姿勢を立て直して四点着地姿勢で止まって見せてくれた。僕には全然無理なレベルの高度な体術だ。


<相手の迫る勢いから想定した力よりずっと大きな衝撃を受けた為に、ブセイは飛んで衝撃を受け流した。もし力量が低ければ、地を転げ回る羽目に陥った事だろう>


そして、そんな無防備な状態で追撃を受ければお終い、と。いやー、怖い、怖い。


「最後に身を軽くする。衝突の際には、二人、それぞれの動きを観察するように」


そう話すと、レイハさんはこれまでと同じように突進していき、衝撃に備えて身構えるブセイさんに鉄棍を叩きつけた。


……んだけど、その衝突音は最初と比べてもとても軽く、小さく、予想を外されたブセイさんの姿勢が前のめりになる程だった。そして、そんな相手の動きに合わせて、脇を滑るように回り込んていき、ブセイさんの首元に鉄棍を当てた時点で、二人は動きを止めた。


なんか凄い。


<突進してくる勢いに負けじと、前に向けて押したブセイだったが、レイハの身は軽く、予想と違った為に姿勢が崩れた。そしてレイハは突進していく勢いの向きを少しズラして回り込み、姿勢の崩れたところに攻撃を仕掛けたのだ。二人共見事であった。ではアキ。今の攻防で何が肝だったかわかるか?>


白岩様は僕の反応を観て、何故か上機嫌な笑みを浮かべて質問してきた。





即答するのはちょっと待って。


見たままの応酬について語るのはハズレだ。二人の攻防は見事だったけど、身を固定できない空中では打ち付け合うよう流れにはならないし、参考にもならない。

でも、体が小さく軽い妖精族には役立たなくても、体が大きく重い竜族には役立つという。


つまり。


「――今の攻防は、相手の予想を外す事に意味がある。これを竜族に当て嵌めるなら、重力を曲げたり、魔術を併用した動きは相手も想定していて簡単に出し抜けない。でもそこに身の重さを変える技を併用すれば想定を超えた動きで、相手を出し抜く事ができる、そんな感じでしょうか」


具体的にどうとは言えないけど、身を軽くしたり重くしたりしたら、竜の巨体なら影響は大きい気がする。


<取り敢えず正解としておこう。我らの体は大きく、重力を曲げて飛ぶと言っても、風の流れから影響を大きく受けるのだ。身を軽くすれば風に流され、重くすれば風の流れを突き抜けやすくなる。つまり、こちらには相手の意図しない飛び方を選ぶ自由があり、相手にはこちらの意図通りにしか飛べない縛りがある、とな。目指すはソコだ>


まだ、ほんの触りしかできないが、なんて伝えてきたけど、思念波からは、成果を見せたい、誇りたい、驚かせたい、なんて気持ちが伝わってきた。


「ちょっと興味があるので見せて貰ってもいいですか?」


<うむ。では見せてやろう>


白岩様はそう言うなら、と弾むような気持ちで快諾してくれた。





と言っても、まだ少ししかできないからと、白岩様は、飛んできた勢いを抑えて、浮遊状態に移行する流れで三種類の飛び方を見せてくれた。何かあった時にすぐ対応できるようにと、ケイティさんに片手をがっちり恋人繋ぎでロックされたけど、白岩様の巨体で低空を飛び回るとなれば、ヘリコプターのような吹き降ろしの突風(ダウンウォッシュ)がなくても、巨体が迫ってくる様子は大迫力で怖いものがあるから仕方ない。


最初はいつも通り。羽を広げて、速度を落としていき、浮遊状態になったけど、少しずつ減速していく感じだ。


次は、徐々にではなく、一気に速度を落とすパターン。勢いよく降りてきて、羽根を広げるのと同時に、魔力もぐっと高まって、それに応じて停まった感じだ。


最後はやはり一気に速度を落とすパターンだけど、羽を広げても魔力は抑えたままで、でも勢いは急に落ちて浮遊状態になった。


手品を見てるような不思議さだったので、ケイティさんに聞いてみたけど、自身に働きかける身体操作魔術を使われた以上のことはわからない、との事だった。


そして、そんな僕達の振る舞いを見て、白岩様は降りてくると、満足そうに笑って種明かしをしてくれた。


<違いが伝わったようだな。最後の時は、身を軽くする技を使い、風の力をより大きく受ける事で勢いを止めたのだ。止める力は風頼み、だからこそ魔力は抑えたままで、同じ結果を得られたという事だ>


簡単そうに言ってるけど、思念波からは、上手く伝わった嬉しさが滲み出ていた。ここは素直に褒めておこう。


「いくら竜眼があると言っても、馴染みのない体系の技の習得には苦労も多かった事でしょう。先ずはお見事と称賛させてください」


<うむ。手放しで称賛されるとこそばゆいが――>


苦労話を語って聞かせる相手がいたからか、飛行機ではあるけれど、飛び方への理解があると伝わったからか、白岩様の語りはそこから堰を切ったように始まり、僕達は、スタッフさん達が用意してくれた椅子に座って、白岩様が満足するまで話に付き合うことになった。


その話題は、身の重さを変えることにより、既存の竜を超える飛行能力を獲得する事とか、風を上手く利用することによる長距離飛行の効率向上を狙える事とか、体を軽くして風に舞うタンポポの綿毛のように空を漂う遊びといったように、幅広いモノがあり、それはもう盛り上がった。


ちなみにレイハ&ブセイの二人は、僕が白岩様との話を広げるだけの知識があるとわかると、任せたと言わんばかりに、身を休めるとして立ち去っていく始末だった。


まぁ、航空知識がないのに地頭と想像力だけで付き合うのは大変とは思うけど、せっかく竜の飛行について当事者から直接聞ける機会なのだから、もう少し食い下がる貪欲さがあってもいいのにね。


ちなみにケイティさんとお爺ちゃんも途中からだんだんと口数が減って、最後は聞き役に徹する感じだった。ケイティさんはマコト文書を読んでいるんだし、お爺ちゃんは空を飛べるんだし、もうちょっと粘って欲しかったかな。トラ吉さんはほぼ最初から目を閉じてスルーしてたけど、そこはまぁ猫だから仕方なし。とは言え、白岩様と僕、それとそれ以外のメンバーとの間で、何とも温度差を感じる対話となった。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

今回も含めて4パートほどは、傾聴+他のイベント、といった形式になります。


白岩様と鬼族の相性はいいようで、こうして武術を学び、語り合う仲にまでなりました。また、鬼人形もこれまでの行いや心の在り方が評価され、正式に弟子入りを許されたことが明かされました。


彼は魔導人形なので、武術と魔術の併用と言っても、身体ボディに刻まれた呪紋の効果を併用する、という、ちょっとした変化球ではあるのですが、それも含めて認められた、というのは金星と言えるでしょう。


ちなみに、今回のように鬼族同士が武器を打ち合うような真似は、連邦大使館でも許されておらず、街から離れた演習場に出向かないと行うことはできません。街中でこんな真似をすれば騒音問題どころじゃありませんからね。わざわざ騒音対策の為に、戦術級術式「風の輪舞曲ロンド」を使うというのも、コスパが悪過ぎるので、まぁ仕方ないところでしょう。


鬼族は人族ですら数十人単位でないと話にならないレベルなのに、小鬼族も、伝統とはいえ、成人の儀でよくもまぁ、戦争を吹っかけるもんですよね。


次回の投稿は、十月十三日(水)二十一時五分です。

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