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2-27.新生活六日目①

前話のあらすじ:成人までの教育に実際にかかる年数を聞いて、長命種との感覚のズレの危険性に気付いた話でした。

今日、用意された服装は、ストライプ柄のロング丈キャミワンピ―ス、レース袖のカットソー、それに重ねて履く三重に重ねられたレースのペチコート、という重ね着(レイヤード)を意識した組み合わせで、生地を重ねている割に、レース部分が多いせいか、全体的に涼しげな印象だ。

昨日より普段着に少し近い感じがして安心した。


「さて、アキ様。今日は新しい仕草を覚えましょう」


「はい」


「ポイントはゆっくり動くことです。といっても、無理に遅く動く必要はありません。次の動きに合わせて、急な動きにならないように、できるだけ緩急をつけずに振舞います。ちょっと悪い動きをやってみますね」


 そういって、ケイティさんが入り口まで戻ると、手を大きく振って、スカートを翻して歩いてきて、目の前で急に立ち止まった。空気が乱されて、慌ただしい雰囲気になってしまう。


「あ、えっと、ケイティさん!?」


 何かあったのか、と驚いてしまった。それくらい、普段のケイティさんの印象と違う動きだ。


「ちょっと、メイドの装いで今のような動きをすると違和感が酷いですね。でもお分かりになったかと思います」


「驚きました。誰だ、と思ったくらいです」


「では、次はゆっくり動くことを意識してみます」


 入口まで戻ったケイティさんがいつものように、空気を乱さずにそっと歩いてきた。目の前でただ立ち止まっただけなのに、女性らしい上品さを感じる。


「普段のケイティさんの振る舞いですね。素敵です」


「アキ様の場合、扉の開け閉めも、椅子に座る時も、音を立てないように動くよう注意されているようなので、あと少しだけ注意されるだけで、問題はないと思います」


「わかりました」


 うん、今回の振る舞いはなんとかなりそうだ。それにミア姉の身体は線が細くて、手足をどこかにぶつけたりしたら怪我をしそうで、つい、何手か先まで考えてから動くように注意していたくらいだから、そういう意味でも、ちょうどいいと思う。





今朝の食事は、石窯パンにグレープフルーツのママレード、ふわふわのスクランブルエッグ、生野菜のサラダ、ヨーグルト、それとスープだ。石窯パンは噛み応えがあって香りもよく、中はやわらかで食べてて飽きない。ママレードの瑞々しくて、さっぱりとした清涼感のある甘みがとても美味。それだけでいくらでもパンを食べていられそうなくらい。


皆も食べ終わって、茎茶を飲んで一休み。


「アキ、魔導具関連だが少し進展があったよ。魔力抵抗を引き上げておくことで機能保全が可能だ。簡単に言うと、抵抗力を引き上げる機能を持った一部の魔導人形であれば、接触しても問題ない。注意する点は、常時、抵抗力を引き上げることは魔力消費の関係でできないから、魔導人形が接触することを認識して、予め、抵抗力を引き上げておく必要があるということ。それと、抗魔力効果がある人工皮膚も影響を抑える機能が多少だが確認できた。不意の接触でも短時間であれば気にしないでいい」


「確認作業、大変じゃなかった?」


「面倒臭かったけどまぁ、自分のことでもあるから苦ではなかったよ」


 リア姉は何でもないことのように言うけど、どれくらいなら大丈夫とか、見極めるだけでもかなり手間がかかったと思う。


「お疲れさまでした。それで一部の、ということは例えば、アイリーンさん達はいいけど、外で見かける魔導人形達は駄目ってこと?」


「そう考えていい。接触してもいい魔導人形はこちらから言うから、それ以外は駄目だと考えて欲しい。今、接触しても問題ないのはアイリーン、ベリル、シャンタールの3名だけだ。それと妖精召喚の頃には紹介できると思うが、ミア姉の秘書人形がいると言っただろう? ロゼッタという名で、その人も大丈夫だ」


「わかりました。それで、ロゼッタさんはどんな人なんですか?」


「そうだなぁ……いい人だよ。少し重いけど」


「戦闘力重視で骨格が重い金属製だとか?」


「いや、そっちの重さじゃなく。ロゼッタはアキより頭一つは小さいくらいで体重自体は軽いもんだ。さっき触れてもいいと言ったが、できれば最初に抱擁する魔導人形は、ロゼッタにしてくれ」


 リア姉が面倒くさそうな顔をしている。


「そもそも、そうそう抱擁するようなことにはならないと思うんだけど」


「ならいいんだが。そのロゼッタが、子供には身体言語は必須だ、ちゃんと大切にしているのだと伝えるためにも抱き締めてあげたいとまぁ、主張しててね」


「あー、その、そんな小さい子扱いされても……」


「ロゼッタからすれば、アキはまだまだ小さい子なのさ。で、ロゼッタだが、家令、マサトというんだが、その秘書を兼任していることもあって、抱えている仕事が終わってからでないと、こちらに顔を出せないんだ」


「リアも、ロゼッタにだけは頭が上がらないものね」


「……ノーコメント」


 母さんの言葉に、リア姉がぷいっと横を向いた。なんだか可愛い。


「私からも頼むよ、アキ。ロゼッタの気持ちは尊重してあげたいんだ」


 父さんの穏やかな表情からすると、ロゼッタさんは皆にとっても大切な人なんだろう。


「わかりました。会う時には教えてください」


 どんな人なのかな。ミア姉の秘書をしてるくらいだから、僕の知らないミア姉を知ってるだろうし、会ったら色々教えて貰おう。楽しみだ。





 今日は講義の前に、気になっていたことを質問してみることにした。


「ケイティさん、ちょっと教えてください。孤児院ってどんな感じですか?」


 僕の問いに、ケイティさんは用意していたフリップを横に置いて、ちょっとだけ考え込む。


「私がいたのは街エルフの孤児院なので、人族のそれとは違うことを御認識ください」


「はい。それで街エルフの運営という話ですけど、孤児院はこの国にあるんでしょうか?」


「初等から高等課程までは、人類連合の主立った地域には全てありますが、専門課程や特別枠のメンバーは、街エルフの国にある孤児院で学ぶことになります」


「特別枠というと、優秀な人を集める感じ何でしょうか?」


 確かケイティさん達は、街エルフの所にある孤児院にいたという話だったけど。


「いえ、私やジョージのように、人とは異なる量の教育を長期間必要とする人種は、人数も少ないので、一ヶ所に集めて纏めて教育するんです」


「教育の方針とか、何か特色はあるんでしょうか?」


「自主性を重んじる方針は明確ですね。例えば、食材の作り方は教えるけど、自分達で作らなくてはならず、団体行動は自然と身につきました」


「作り方というと農業ですか?」


「農業、林業、漁業といった一次産業はもとより、綿の栽培から始めて糸を作ったり、金属を精錬して、針を作ったりと徹底してました。生徒は必ず何か生産に従事しつつ勉強や運動の時間も捻出しなくてはならず、効率よく動く思考も当たり前のようにしてました」


「何ともハードですね。あと、それだと各地の孤児院では仕事を分担している感じでしょうか? 先ほどの話だとかなりの規模がありそうに思えたので」


「はい。なので、品質の悪いものを作ると各地から文句が殺到して大変なことになります。何とかするまで教師も付き合ってはくれるんですが、泣こうと喚こうと逃げることだけは許されず、最後までやりきることになるので、ミスを繰り返す子はいなかったです」


「とてもバイタリティ溢れる子が育ちそうですね」


「はい。街エルフの孤児院出身というだけで、一目置かれる感じです」


「街エルフ所縁の人ですが、各国でも頭角を現している感じですか?」


「そうですね。どの国でも街エルフの孤児院出身者がある程度の人数はいて、一定の影響力は持っている感じです」


なんとも手堅い策だ。何か指示することもなく、教育済みな卒業生を輩出し続けていれば、それだけで自然と派閥は形成される。気長な長命種ならではの策だろう。


「聞いている感じだと、融和策はかなり成功しているように思えますが、敢えて街エルフと、各国の距離を置くような施策も行なっていたりするんでしょうか?」


「各国の自主性に任せて、介入は最小限にするのが基本ですが、そもそも街エルフは引き篭もっていて、外で見かける事は極めて稀です。なので、話にはよく聞くし、取引も活発だけど、街エルフに直接会ったことは少ないといった感じです。それが、距離を取っているとも言えるかもしれません」


「毎日、会っているから忘れがちですが、そう言えば、引き篭もっているんでしたね」


「その代わり、手紙を書いて送る量は、全種族の合計を、街エルフだけで越えるほど、筆まめです」


 ケイティさんが、孤児院に毎日のようにこんなに、と手で結構な量を示した。……一体何人で書いているんだか。


「国から出ないけど、手紙だけは頻繁に届くんですか。存在感がないんだか、あるんだか、悩ましいですね」


「国家間の配達の半分近くは、街エルフが出す手紙で占めている、などと言われたりもしています。実際、人類連合の物流網が高いレベルで維持できているのも、手紙の頻繁な運搬があればこそ、です」


「手紙を送るのは、それが狙いだと?」


「……いえ、単に出不精で、暇で、世話好きなだけでしょう。よくあれだけ書くことがあると感心するほど、多彩な文面で、孤児達には手紙が届いたものです」


「里親みたいな制度があるんでしょうか?」


「はい。孤児に複数人がつく感じでした。手紙を送ってくる頻度も、内容もバラバラでしたね。ただ、何か要望を書いてくるようなことはなかったですね。強いて言えば、自分で考えることを期待されていた印象はありました」


「パトロンと捉えると、彼らの期待する方向に成長することを望まれそうな気もしますが、自主性に任せるというのは、とても良いですね。どうせ、子供は思ったようには育たないといいますし」


 お金を出す人から手紙を貰えば、どうしてもそこに書いてある内容に行動が左右されがちだから、街エルフの策は良いと思う。


「アキ様は年の離れた兄弟の面倒をみたりしていたのでしょうか?」


「いえ。ただ、ミア姉に頼まれて、地球あちらの教育制度や教育内容、子育て、孤児院支援とか、そういったものを根掘り葉掘り聞かれたので、経験自体はありませんが、経験談、失敗談はかなり読みました」


「それは大変でしたね」


「そのせいで、教育分野に進学したいのだろうとか、担任の先生に誤解されまして、色々と大変でした」


「アキ様は教育や子育てには興味はないのでしょうか?」


「そうですね……何かを知ることは楽しいですが、それを仕事にまでしたいかというと、そこまでではなくて。まだ、大学入試までは時間があるので、真剣に考えてませんでした」


「いえ、こちらでも街エルフの皆さんはそんな感じですから。それに仕事はやってみると、事前のイメージと違うなんてことはよくあるので、あまり最初から絞り込み過ぎても仕方ないと思います」


「そうですよね」


 大学か……。ミア姉も今は夏休みも本番ってところだけど、上手くやってるのかなぁ。心配だ。

感想ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

増え続けることはないとわかってはいますが、ブックマークが減るのはちょっと寂しいものがあります。


次回の投稿は、七月四日(水)二十一時五分です。


本日は昼間、日陰ですら三十四℃の高温で、直射日光を浴びる道を歩いてて危険を感じるほどでした。日射病にならないように注意しようと思いました。汗の吹き出し方もヤバかったです。

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