13-37.ミア姉ってどんな人?
前回のあらすじ:研究組の今後の研究方針について揉めてたら、ロングヒルの元宰相ザッカリーさんがプロジェクトマネージャとして参加することになりました。師匠が物凄く嫌そうな顔をしたのが印象的でしたね。(アキ視点)
ミア姉が手紙の中で自分の事を聞いてみるよう勧めてた事もあり、接点のある人達に、ミア姉について話を伺ってみることにした。多方向からの評価、意見を集めることで、ミア姉自身をより良く理解するのが目的である。
まずは、家族の場合。
父さんは、リア姉と違い、魔術や学問に興味を持つ研究者肌の子で、マコト文書を記すなど、学問や文化への功績も大きいと世間では称されているが、アレは、可愛がってる「マコトくん」を自慢したくて仕方なかっただけだろう、と話してくれた。
母さんは、要領が良くて、最低限クリアすれば、後は好きな事に傾注する子だと話してくれた。通常の十倍以上の性能を誇るロゼッタさんを創ったのも、並の魔導人形では秘書をするのに力不足だったからで、家令にマサトさんを抜擢したのも、彼がマコト文書を理解し、それをこちらに応用できる知見を兼ね備えていて、ミア姉が引くくらい心酔してたからだったそうだ。手を抜く為に努力は惜しまない、優先順位を違えず、一切の妥協をしない、興味のない事はバッサリ捨てる、そんな性格だと。
リア姉は、誰よりも妹思いで、目的を達成する為なら国どころか魔獣や大精霊、神々すら利用する事を厭わないところがある、と話してくれた。リア姉との心話成立を突破口に、リア姉が魔術習得に成功し、ある程度落ち着いてくると、今度は「マコトくん」にどっぷり浸かって、生活の根幹が「マコトくん」中心になっていったけど、マサトさんやロゼッタさんを筆頭としたサポートメンバー達が居なければ生活が成り立たない有様だったと、何とも微妙な表情で話してくれた。
街エルフは人形達に生活を支えられて活動してるという話だったから、何が違うのか確認すると、髪を梳かしたり、メイクをしたり、肌や爪の手入れをしたり、そんな事もロゼッタさんにやって貰ってたそうだ。……なら、本人はその時に何をしてたかと言えば、他の女中人形達から報告を聞いたり、考え事をしてたり、疲れてたらそのまま仮眠をとったりしてたらしい。
キッチンに立つのも、「マコトくん」から聞いた料理の検証を行う為、こちらで該当する食材を探索させたり、品種改良させたりと、好き勝手やってたそうだ。
友達付き合いも疎遠にならない程度、外部の人と会うのも、マコト文書絡み以外は、最低限と徹底してたらしい。
健康と美容について専門の研究チームも用意して、健康的で美的観点を損なわない最低限の運動方法を編み出したのも、自身のマコト文書研究時間を可能な限り確保する為で、それを体系立ててサービス化して、利益が出るようにマサト&ロゼッタのペアが商売にしたそうだ。
物事に優先順位を付けて、他人に任せられる事は任せて、自身は必要な所に傾注する、それに周囲に対しても非礼にならない程度には配慮する、実にミア姉らしいし、それが許される立場なら、それでいいとも思ったけど、三人からは、その考え方自体、ミア姉にそっくりだと呆れられてしまった。
◇
ケイティさんに話を伺うと、探索者稼業も疲れてきたので、何か仕事がないかと探してたら、ジョージさんとセットでヘッドハンティングされたそうだ。能力や資格よりは、それ迄の経歴や考え方、振る舞いなどを綿密にチェックされたそうだ。未成年の妹が成人するまでの間、ケイティさんは家政婦長として、ジョージさんは、護衛の長として、生活や教育も含めて面倒を見る契約で、のんびり田舎暮らしも悪くないかと承諾したものの、誓約術式を求められ、有名な財閥や議員の父母も絡むので、当然だろうと承諾してみれば、まさか、魂交換の秘技で、当主たるミア姉自身が入れ替わるから、あとは宜しく、と明かされて衝撃を受けたそうだ。
マコト文書の知識を最低限、カバーするよう、大勢の女中人形やジョージさんと学ぶ事になり、女中人形の中でも頭角を現した三人を専属として抜擢したとの事。たかが未成年の子供一人に、三人も女中人形を付けるのは過剰ではないかとも聞いたけれど、入れ替った「マコトくん」は、マコト文書に精通していて、大人に任せて、庇護されるだけの立場に押し込められるような子じゃない、なら有能な手はあった方がいいと。
いくら優秀な子だとしても、やり過ぎだろうと思ったけれど、金持ち故の過保護思考なのだろうと、暇を持て余したらどうするか、などとその時は考えていた、と苦笑された。
魂交換の副作用で、生活に支障を来すかもしれないからと、屋敷を一つ、スタッフ込みで用意したから、家政婦長として上手く仕切ってね、等と言われた時は、感覚のあまりの違いに唖然としたものだったそうだ。
幸い、ロゼッタさんが細かくフォローしてくれたから困らなかったが、マスターキーを渡したから、引き継ぎ完了と後は、自由裁量とされたのも驚いたそうだ。
マコト文書について、時折、自ら講義を行い、「マコトくん」への深い愛情を感じるやり取りはあったものの、それ以外は、相手に一任すると言う姿勢を徹底する方だったと話してくれた。
ジョージさんは、武術や野外活動、護衛される訓練なども受けてない市民の子と思って、一通りの訓練と護衛を頼まれた、と教えてくれた。誓約術式を受けた後に、あちらでの体育の授業で習う内容を聞き、あまりの少なさ、武器を触る事すらなく、周囲を警戒する意識もない、と聞いて驚いたそうだ。僕があちらで住んでいる地域や、あちらについてマコト文書で学び、想像以上の長丁場になりそうな事、街エルフの魔導具をフルセットで使う、国主レベルの護衛体制を敷く事を当たり前のように求められて、部下として付けられた護衛人形達と頭を悩ませる日々が続いたそうだ。
屋敷の庭も、庭師の魔導人形達とゼロから設計して、整備する徹底ぶりに、次第に感覚が麻痺していくのを感じたそうだ。
本人に負担にならない配慮と、最上級の護衛体制を、必要と思うものはあれば全て用意するから、上手く差配して、と言われ、実際、必要と思う体制、設備を求めたら、翌日には手配を終えられて、その本気さを理解した、と真面目な顔で教えてくれた。
予算内で安全を確保しろ、という話は良くあったが、安全を確保せよ、予算は気にするな、と言う依頼は始めてだったと。一介の探索者風情に過分な依頼とも思ったが、任せます、と言われれば、悪い気はしなかったそうだ。
「マコトくん」への深い愛情と、信頼した専門家に一任する度量の広さには感服したそうだ。
ウォルコットさんも、魔導馬車の開発、運用とセットでヘッドハンティングされたと教えてくれた。自分の私有地や、ロングヒル領の道路は整備しておくからと、その道路の規格に合わせた魔導馬車を創るから、開発、運用をするように、財閥の伝手は自由に使っていいと言われ、震えが来たそうだ。なぜ、ウォルコットさんを指名したのか、との問いには、財閥の知る中で、隠居しようと考えてる商売人の中では一番、多様な商いを経験していて新しい事に取り組む事を厭わない性格そうだから、と言われたそうだ。誓約術式を交わした後に、こちらに疎い子であり、サポート役の家政婦長と護衛頭は、探索者あがりで市井には疎いのでフォローするよう話があったそうだ。馬車の開発、運用以外、相談役の任も書かれた契約だったので、驚きはなかったものの、「マコトくん」の正体や生立ち、生活の場となる屋敷や広大な敷地など、他の全てが規格外で、それには流石に身が引き締まったそうだ。
商売に財閥との繋がりを利用してもいいとは言われたが、それは謹んで辞退したそうだ。余りに身の丈に合わない伝手は身を滅ぼすからと教えてくれた。
マコト文書の知識を活用した魔導馬車の開発は、ミア姉も楽しんでいたようで、試作車には何度も乗って、技師達とも熱心に意見交換してたそうだ。でも要望や感想は言っても、仕事には口出しせず一任してくれたので、技師達とも最高の仕事ができたそうだ。
あと、馬車に乗ってやってくる前にも、頻繁に屋敷には出入りしていて、外から馬車で現れたのは、演出だったと教えてくれた。とても絵になる素敵な登場だったと話したら、ミア姉と検討した甲斐があったと笑ってくれた。
女中三姉妹のアイリーンさん、ベリルさん、シャンタールさん、それとウォルコットさんの助手のダニエルさんは、ミア姉とのやり取りは少なかったものの、僅かな立ち振舞い、受け答えだけで、内心を見透かすようなミア姉には、高名な魔導師と言う事もあり、敬服したそうだ。同時に、誓約術式の後、「マコトくん」の事を頼みます、と話した時の態度に、深い慈しみの心を感じたとも教えてくれた。
最後にお爺ちゃんだけど、お爺ちゃんの帽子を所縁の品として、心話で接触してきた手腕、物怖じしない心、僅かな接触で心の内まで見通す技量は感服したそうだ。それで、ある程度、やり取りを重ねて、お爺ちゃんがこちらに来ることに並々ならぬ熱意を持つと知ると、子守妖精の仕事を頼むかもしれない、と切り出して、お爺ちゃんも機会があるなら是非引き受けようと快諾したらしい。もっとも、その時点では、魔導人形に降りてきて貰う、「マコトくん」を依代に降ろすようなパターンを想定してたそうだ。まぁこれまでの歴史上、数分しか成功してない召喚なんて、初めから想定してる訳もないよね。
それで、話をしていく中で、どうやって僕がこちらに来るか、マコト文書とは何か、なんて話とか、僕の生活拠点となる別邸やその体制何かも聞いていたそうだ。
心話と言う事もあり、僕の事をそれはもう丁寧に、間違えようがないレベルでしっかりみっちり教えられたそうで、その際に、ミア姉の僕に対する深い愛情も感じたとの事。
改めて聞いてみると、サポートメンバーの確保や、生活の場となる屋敷や敷地の整備等も、かなり手堅く準備していた事が分かった。あと、サポートメンバーだけど、初めからケイティさん、ジョージさん、ウォルコットさんの三人体制で準備してきてたというのは予想外だった。でも、今から振り返ってみると、ウォルコットさんは後から追加参加したんじゃなく、必要があるまで紹介を後回しにしてただけと考えた方がしっくりくるとも思えた。
◇
サポートメンバーとも言えるけど、別格なのは家令のマサトさんと、秘書人形のロゼッタさん。
んで、先ずはマサトさんに話を伺ってみたんだけど、「それは私が他家で家令として働きながらも、物足りなさを覚えていた頃の事でした。マコト文書抜粋版と書かれた一冊の書物を目にした事、それこそが私とミア様の人生が交わった切っ掛けだったのです――」などと、それはもう饒舌に、恐らく何度となく語ったのであろう熟練の語り口で、それはもう熱く、ミア姉との出会いから始まり、ミア姉の家令に採用されるまでの話や、家令となり、多角経営を広げて財閥を創り上げるなんて流れをサクサク教えてくれた。彼曰く、ミア姉は異世界の知であるマコト文書の研究と理解に余念がなく、些事は全て任せつつも、丸投げとはせず、「マコトくん」との交流を通じて、常にユーモアを忘れず、溢れる思いを上手く律してきたらしい。
一般的な家令とは、大きく役割を変えた今でも、自身の立場は第一にミア姉の家令であり、ミア姉と共に歩む事が出来る事は無常の幸せだとも。
ミア姉が大半を他人任せにしてた件に触れると、多忙な中でも、自らが定める気品を保ち、心の余裕を忘れない意識はなかなか真似できるものではない、として、堕落した生活を送る街エルフもある中、自らを律するミア姉は素敵な方なのだ、と言われた。何でも自分でやる、と言うのは街エルフでは悪癖であり、自身が行うべきことに注力し、常に余裕を持つことこそが、在るべき姿なのですよ、と親切に教えてくれた。
むむむ。
予め、ミア姉の助言を読んでて正解だった。
ならばと、気を引き締めて、ロゼッタさんに話を聞いてみたのだけど、うん、こちらも予想通り。
「私がミア様の秘書となって幾星霜、千一夜語ろうとも語り尽くせぬ主従の歩み、語られぬ主の思いを私が話すのは無粋というモノ、デスから、ほんの僅かではありますが、主の心に触れる出来事をお話しまショウ。あれはそう、雪の降る日の事でシタ――」
などと、演技過剰に始まった独演会は、遠距離通信のリミットを目一杯使い切る大盛り具合で、同じ時間、心話をする方がマシなくらい疲れた。
ロゼッタさんの説明によると、リア姉が完全無色透明の魔力属性に苦しむ中、成人の儀を迎えた際に、四方手を尽くしても解決策が見つからず、生半可な手段では解決できない中、諦める事を良しとせず、ミア姉の秘書としてだけで無く、リア姉の相手もする事を期待され、他の魔導人形達を束ねるサブリーダーとしての役割も担えるよう、予算に糸目を付けずに創られたそうだ。
そして、魔導師として何やかんやあって、海外の国や、神々、妖精等にも手を伸ばし、何が功を奏したのかは謎だけど、リア姉との心話を行えるようになり、それを足掛かりに、リア姉は魔術を行使できるようになったそうだ。それまで九分九厘、リア姉の為に尽力したミア姉は、同じ時期に始めた僕との心話を楽しむ余裕も生まれ、リア姉が魔術を学び、歩みが確かとなるに従い、燃え尽き症候群のような状態に陥り、気分転換と癒やしを求めて、僕との心話を行っていたらしい。
最終的には活動の主軸を僕との心話と、そこから得られた知識を纏めた「マコト文書」を書き記していくようになったそうだ。
リア姉のお姉さんなのだからと気を張っていた頃は、表には出さないようにしてたものの、かなりギリギリの状態だったらしい。肩肘張っていた生き方も、反動なのか、僕との心話に傾注するほどに、無理をしないスタンスに変わっていったそうだ。
幸い、僕との心話は、さほど予算は必要としない趣味なので、日記感覚でマコト文書を書いていたけれど、研究者気質な事もあり、得られた知識は、ある程度、整理されていたそうだ。
有用な知識なので、本に仕立てて、身近な人に見せている内に、徐々にファンが増えて、使える知識はどうせならと権利をキチンと確保して、生活費の足しとし始めた。
それから、あれこれあって、今では権利だけでも生活に困らなくなりました、と締め括ってくれた。
リア姉も同期を全員しばき倒したとか話してたし、魔術を身につけるまでに、波乱に飛んだ道を歩んだのは間違いなさそうだ。
僕が朧気ながら覚えている、ミア姉との初めての心話では、ヤケにハイテンションで楽しそうなお姉さんで、アニメのキャラクターとお話できたのかと思った位だった。
アレは、リア姉との心話が出来て、嬉しさが天元突破してた所に、異世界の子供と心が繋がったオマケがついて、最高にハイな気分になってたんだろう。それでも、僕がどこの誰で、地球がどんな世界か、最低限、聞き出したんだから、流石、ミア姉だ。
マサトさんもロゼッタさんも、過去の出来事と自身がどう思ったかは話してくれたけど、その時にミア姉が何を考えていたのかは敢えて語らなかった。嬉しい配慮だ。
先入観で理解が歪まないとも限らないのだから。
◇
長老のヤスケさんは、何を知りたいのか、それまでに誰から何を聞いたか確認すると、静かに口を開いた。
「それなら、儂の知るミアについて、教えてやろう。アレは頭痛の種であり、大きな貸しと借りがある相手であり、好き勝手に動く我儘猫であり、そして、孫のような存在だ」
むむむ。他の人に比べて言葉が少なくて、謎解きみたいだ。
「……えっと、それだけですか?」
そう問うと、ヤスケさんは心外といった表情を浮かべた。
「これだけ糸口を与えたのは、大盤振る舞いだぞ? 今のアキは心の余裕に乏しい。そうで無ければ、ここまでは話しはせん」
なるほど。と言うか、糸口、つまり、それを突破口に自力でゴールに辿り着けって事か。
僕が意図に気付いた事を確認して、ヤスケさんは満足そうに頷いた。
「教えられた答えに何の価値があろうか。悩め、若人。例え、真実に辿り着かずとも、思いを巡らせる事にこそ意味がある」
あー、これ以上は話す気ゼロだ。
「ヤスケ御爺様、お話ありがとうございました」
意趣返しの意味も込めて、老人扱いしつつお礼を伝えたけれど、蛙の面に水とばかりに、笑って軽くスルーされた。
◇
エリー達、ロングヒル王家の皆さんにも聞いてみたけど、財閥の当主だが、表に出ることが殆ど無く、重度のシスコンで、あちこちの宗教団体から強引な手法で神器を貸し出させるなど、よく思わない者も多いと教えてくれた。ベイハーバーとロングヒルの間の道路を敷設したり、ワイン醸造場を買い取ったりと、その行動の意図が読めず、抜粋版のマコト文書によると、「マコトくん」に尋常でない愛情を傾けていたらしい、変な人だとも。
だいぶ、言葉を選んでくれたようで、マコト文書の信者でない人からすれば、水面に映る自身の姿に恋をしたレベルの残念な人扱いされているっぽかった。
セイケンに聞いてみたら、財閥の当主で、異界の知識を事業に役立てて、手広く商いをしているらしいが、実務は家令と秘書に任せて、自身は「マコトくん」との心話に耽っていて表に出ることもなく、謎の多い人物だ、と教えてくれた。
ダメ元で、ニコラスさん、レイゼン様、ユリウス様にも手紙を出してみたんだけど、思いの外早く、三人共、返事を書き記してくれた。
ニコラスさんはエリーの内容とほぼ同じ。シスコンを姉妹思いと柔らかく表現していた程度。追加の話で、財閥の通信網が整備された理由の一つは、リア姉の悩みを解決する為に、役立ちそうな情報を根刮ぎ調べて、速やかに手に入れる為だったと推測してるそうだ。情報を集めた後にミア姉の姿がパタリと消えて、家令や秘書任せに変わったから、興味を失ったのだろうと。
マコト文書を書き始めてからは、表舞台から姿を消してくれて、連合がミア姉の行動で荒れる事も無くなり、胸を撫で下ろした国も多かっただろうとも教えてくれた。
レイゼン様は、セイケンと同程度だったけど、魔獣や神霊の所縁の品の貸し出しが出来ないかと水面下で打診があったそうだ。感知できない完全無色透明の魔力を持つ家族の悩みを解消する為と説明は受けたものの、連邦内に住まう高位存在に接触される事の影響がどこまで広がるか予想できず、交渉は結局、実を結ぶ事はなかったとの事。
最後にユリウス様だけど、財閥については認識していたものの、姿を見せないミア姉の事は、当主であり、実務はマサトさん&ロゼッタさんに任せっきりだとしか把握してなかったとの事。まぁ、連合が間にいて、海を超えた先、共和国の島から基本、出てこないミア姉の事を把握してる訳もないか。
でも、マコト文書の抜粋翻訳版を入手してから分析した結果は特別に教えて貰えた。年頃の娘が、異界の子供に懸想して、浮かれている姿を見ていて、家族の心痛がどれだけのモノだったか、同じ子を持つ親として、目頭が熱くなる思いとの事。また、そのような子を好きに振る舞わせる感性に共感する事はできないが、人生の長い種族故に選択できるのだろうと、理解はできる。日本の生活はこちらと違い過ぎる為、思考実験として興味深く読み込む事ができたそうだ。
……関係の薄い皆さんに聞いてみた限りでは、共和国と同盟関係にあるだけあってロングヒルの分析、視点が一番詳しい感じかな。連合には色々と迷惑を掛けてたようだし、連邦にも手を伸ばしたけど、交渉が頓挫したのは、連合内の高位存在と接触して、実りがなかったからと言うのもありそう。頻繁に戦争をしている帝国は流石に接点なし。で、マコト文書を分析した結果は、ミア姉は二次元にド嵌まりして、青春時代を引き籠もって過ごしてしまった残念な人ってところらしい。寿命が人の半分しかない小鬼族からしたら、人で言う四十代まで引き籠もりが続いた換算になるから、嘆く気持ちも良くわかる。
街エルフは長命種で、心が完全に折れても、時間を掛けて立ち直った方が強くなる、とか言ってるくらいだし、その辺の感覚はかなり違うんだろうね。
あ、でも、初めて僕と心話した話を聞いた時、家族総出で病院に行こうと説得したと、リア姉も話してたし、街エルフの感覚でもヤバい感じか。
◇
むむむ。
一通り聞いてみた感じ、ミア姉は何でも平均以上にできて、やる事、為す事、絵になる綺麗で知的で優しくて、ちょっとカワイイ所もあるお姉さん、と言う僕の認識は、ミア姉が見せたい面だけを深掘して、全体を理解した気になっていた……って気もしてきた。
でも、そもそも、文化の根底が違う、魔力もない地球の話を、幼い子どもから聞いて理解するだけでも大変な努力と才能が必要で、更に僕の成長をさりげ無く導いてもくれて、飽きないようにあれこれ工夫もしてくれてたんだから、手が回らない部分を助けて貰ってるのも、生活できるよう自前の稼ぎもあって、健康や美容にも配慮して、他の人との義理も最低限でも維持してるなら問題ないし、凄いなーと思っちゃう。
僕の思考も、マサトさんと似た傾向があるかもしれない。
それと肝心なところはごっそり避けられてるね。
……でも、今はこの辺りまででお終い。
ミア姉はあの時「またね」って言ってたから。
今は、これ以上は無理。
「ニャー?」
あー、長い事、深く考え込んでたせいで、トラ吉さんの肉球で頬をプニプニされてしまった。
「皆にミア姉の事を聞いてみたんだけどね――」
僕は自分の中の考えを纏めるように、トラ吉さんに説明してみた。分量も多いから、時折、休憩を挟みながら。
そして、トラ吉さんも、長くて、時折、戻ったりもしてた僕の話を飽きずに最後まで聞いてくれた。
多分、聞き役に徹してくれたとしても、ケイティさんやリア姉に話をしたなら、ここまで自分の中の気持ちを整理できなかったろうし、話し終えた後の心も、ここまで穏やかにはならなかったと思う。
「にゃ」
話を聞き終えたトラ吉さんが、一仕事終えたのだから労えとばかりに、ごろりと横になった。
今日はマッサージを御所望のようだ。
「ありがとうね」
早速、反応を伺いながら、丁寧に指圧して、揉んで、摘んで、撫でていった。最後は、猫は液体と思う程、御満悦だった。
ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
十三章、おまけ話も終わりました。他の人から見たミアの事を教えて貰いましたが、アキのミアに対するイメージはさほど変わらなかったようですね。
こちらの世界も春も本番、様々な活動が本格的に始動してきました。仕切り直しもいくつかありましたが、まぁ順調な滑り出しと言えるでしょう。
今後の投稿予定は次の通りです。
2021年08月11日(水)第十三章の登場人物
2021年08月15日(日)第十三章の施設、道具、魔術
2021年08月18日(水)第十三章の各勢力について
2021年08月22日(日)14-1パート 連載開始
次回の投稿は、八月十一日(水)二十一時五分です。
<雑記>
台湾パイナップルを食べてみました。芯まで食べられて、とても甘いと聞いてましたが、まさにその通り。普段食べるには高価ですが、美味しさは噂通りだったと思います。




