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13-35.三つ巴の研究方針(前編)

前回のあらすじ:洗礼の儀も無事終わることができました。竜神子に比べると、一般の方々はやはり負担が大きいようで、早々に終わったのがちょっと残念でしたね(アキ視点)

一般枠の方々に対する洗礼の儀は、特に揉めることもなく、粛々と終わったけれど、参加者達のアンケートの分析結果を持って、師匠とエリーがやって来た。


「えっと、参加者の皆さんのアンケートが揃ったんでしたっけ?」


「そうだよ。頭数を揃える程の話じゃないが、先々を考えれば、意識しておいた方がいいから、こうして話に来たのさ」


「プレリハーサルの時のアンケートとの比較もあるから私も同席してるわ」


ふむふむ。


「その感じだと、連合の()()()と、ロングヒルのソレでは結構、差があったとか?」


僕がそう話すと、二人して、何か諦めの表情を浮かべて、それでも説明してくれた。


「いいかい、アキ。確かに竜視点なら、神子かそれ以外になるだろうけどね。それは連合からやって来た連中を纏めて、人族と括るくらい雑な話だ。悪意はないのはわかるけれど、相手が()()()()()()にも配慮してやるのが賢い話し方ってもんだよ」


「師匠、言葉に毒を混ぜ過ぎです。でも、まぁそう言うこと。相手が何らかの人々の上に立つリーダー格と分かっているのだから、それを意識した言葉遣いにしなさい。無用な衝突を避けたいのなら」


むむ。言われてみれば、確かにそうかも。ただ、いちいち把握して配慮するのは面倒臭いなぁ。


そう考えてたら、エリーが僕の頬を引っ張ってきた。


「ひゃにふるの!」


「面倒とか考えてるからよ! 言葉を選ぶ程度の気遣いで、相手がいい気になるなら安いもんでしょ」


頬が痛い。というか、あれ?


「えっと、エリー、僕に触れて問題ないの?」


「私専用に調整した新しい護符を手に入れたから、短時間触れる程度なら問題ないわ。そう心配そうな顔をしないの」


エリーが胸元から護符を取り出し見せてくれた。


ふぅ。


「話が逸れちまったが、ざっと話すと、天空竜が何たるか理解させ、竜神子達に余計な干渉をする考えは大きく減らせたと判断していいだろうね」


ん、それは予定通り。


「竜の放つ圧への恐怖に対する耐性には、ロングヒルのメンバー達に有意な差が出たわ。日頃から、己を高め、死の恐怖を直視し、それを受け入れる訓練を積んできた成果だと思う」


恐怖に心身が萎縮しては戦場では生き残れない、そこから目を背けるのでは無く、受け入れるってあたり、ロングヒル男子はその身に狂気を宿すと言われるだけのことはある、と。


「んー、それだと心が折れた人がゴロゴロ出ちゃいました? 一応、応援もしたし、奮起してる感じもしたから、平気かなーとは思ったんだけど」


「始めに鬼族が辞退を表明してくれたおかげで、余裕を持って退避した者達が多く、心が折れる程、酷い者は出なかったよ。それに自分達を信じ、応援する巫女に好感を持った者達も多かった」


師匠が笑みを浮かべて、そう評してくれた。


「それは良かった」


だけど、エリーが問題点を口にする。


「けれどね、アキ。僅か半年前には存在しなかった竜神の巫女。竜の傍らに立つ少女の異質さ、これまでとの連続性の無さに、大きな疑問と整合性の無さに起因する恐怖を感じた者達が多く出たわ」


まぁ、異質なのはその通りだけど。


「以前、ケイティさんから聞いた、ピースが合わず違和感が拭えないって印象かな? 地球あちらの話抜きだと、腑に落ちない所も出てくるかも。でも、違和感を感じるけれど好感も持ってくれてるなら、想定通りだよね?」


「アキは、連合内や共和国で自身への声が割れる事に興味がないの?」


敢えて、不安とか恐れじゃなく、興味と言う切り口を選ぶあたり、僕の事をよく解ってる。


「同じ種族だろうと、同じ国であろうと、同じ言葉を話そうとも、会話が通じない相手がいると知っているから。種族が違っても、国が違っても、言葉が通じなかろうと、心を交わして、理解し合える相手が居れば、僕は後者を大切にしたいからね」


国と言う枠組み、皆を束ねる立場のエリーと僕の大きな違いがここだ。まぁ、そんな僕も選り好みできる状況なら、という条件付きだけど。


師匠は、静かに頷いた。


「そこのリスクは許容すると言うのが、共和国や財閥、それにアキやその家族の意向だから、私らは文句はないさ。だがね――」


そこで、師匠はガラリと表情を変えて、口元がニタ〜リと笑みの形に変わった。


「天空竜の傍らに居て、仲良く談笑してる稀な髪色の美少女と、大空を飛ぶ竜の姿に心胆寒からしめた自分達。魔力が感知できない事も相まって、アキを神霊の類ではないかと、言い出す者も少なくない。御利益は何になるかねぇ」


うげっ、英雄への単なる憧れからでも神は生まれるって聞いてはいたけど、その流れ!?


「師匠や私が生きてる間は、等身大のアキを伝えてあげるけど、弧状列島が統一されて、アキの望みが叶って、早々に表舞台から姿を消したりしたら、逸話も増えて、信者もうじゃうじゃ増えそうね。マコト文書の知識を携え、竜と人の架け橋として遣わされた「マコトくん」の御使いか、或いは姉妹神なんて話になるかも」


エリーが僕の頭を撫でながら、笑いを堪えつつ、追い打ちをかけてきた。


そして、僕達を微笑ましそうに眺めながら、師匠が最後のひと押しをしてくれた。


「実在の人物に信仰が集い、神が生まれる、それを後から振り返った本人の著書とされる物はあるが、後から書いているせいで、どこまで信用していいか眉唾物だ。その点、アキはこれからだ。世間一般の信仰はエリーにでも定期的に集めさせるとして、アキは自身の思考、心情の変化を観察して定期的に記すんだ。どんな影響が出てくるか、或いは出ないのか。師として心配なんだよ」


慈愛溢れる眼差しや声色も、内から溢れる研究者魂は隠せてない。小躍りしてる内面が手に取るように感じられて、思わず天を仰いだ。





洗礼の儀は先々への懸念はあるものの、表立った波風が立つことはなく終わる事ができた。せっかくロングヒルに来たのだからと、他種族との交流をしてから帰国する人達も多く、竜神子の皆さんも共に帰国するパターンとなった為、帰国ラッシュはニ、三週間と幅広いモノとなるそうだ。

その間に樹木の精霊(ドライアド)探索チームも仕切り直しの準備を終えて再出発し、少し間は開くけど、樹木の精霊(ドライアド)との交流チームも編成して後追いするとの事。


そんな感じで、色々あったけど、やっと研究に専念できるかな、と思った矢先、ソレは起きた。


場所は、鬼族の大使館の庭先。

研究組の面々が集まって、それぞれの検討内容を持ち寄り、今後の研究をどう進めていくか話し合っている場で、火花が散った。


実際に散った訳じゃなく比喩だけど、僕が合流した時には、それぞれが自分達の成果と方針を書いたホワイトボードを前にヒートアップしながら熱弁を振るっていて、三つ巴の論戦が繰り広げられていたんだ。


会場中が熱気に包まれてて、三陣営の論者の視線がこちらに絡みついてきたせいで、よーく判った。流れを変えて自身に都合が良くなるよう、僕を引き込もうとする肉食獣の笑みだ。


論者は師匠、トウセイさん&賢者さん、それに小鬼のガイウスさん達のチームと。


小っちゃい雲取様と白竜さん、あと、妖精女王のシャーリスさんは中立陣営っぽいけど、論戦を興味深く見守ってる感じだ。


何がどうなれば、ここまで熱くなるんだか。

こんな時にエリーやセイケン、リア姉は不在か。


幸い、離れたところで、議事録を書いていたベリルさんが僕の考えを汲んで、皆に声を掛けてくれた。


「皆様、互いの主張もある程度交わされたかと思いマス。議論の流れをアキ様に説明し、この後、加わっていただくノデ、休憩されては如何でショウカ?」


計ったように、アイリーンさん達、給仕係の皆さんが飲み物や軽食を携えて現れた。


どれだけやり合ってたのかわからないけど、水を差された感じになり、そのまま、小休憩の時間となった。

ブックマーク、評価ありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。

誤字、脱字の指摘、ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないので助かります。

洗礼の儀では、参加者全員にアンケートを取って、心身への影響や感じたこと、今後への課題など、多くを語って貰ってます。ただ集めて竜を拝んだだけじゃ、勿体ないですからね。それに連邦や帝国でも今後、似たような儀式は行う訳ですし。

で、アキですが、エリーのように華がある訳ではないけれど、人気を集める流れが生まれてしまいました。アキからすれば勘弁してくれぇって感じですけど、この流れは止まらないでしょう。

そして、十三章のラストを飾るのは、研究組内部の衝突でした。ちょっと長かったので前後編に分けました。(13-35、36パート)

ミアについて聞いて回る話はおまけということで、13-37パートで語ります。

次回の投稿は、八月四日(水)二十一時五分です。


<雑記>

昼間、エアコンを付けていても室温が27℃より下がらず暑かったです。外気温が気象庁データだと34.5℃とかでしたが、ビルだらけの地域なので実測は37℃とかになってるせいなんですがヤバいです。皆さんも体調管理にはご注意ください。簾も付けて直射日光は遮ったりしてるんですけど、焼け石に水って感じです。

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