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13-34.追加の洗礼の儀

前回のあらすじ:リア姉とのスキンシップや、ミア姉の新しい手紙もあって、心が穏やかになりました。今度(13-37パート)、皆のミア姉とのエピソードや認識を聞いてみようと思います。(アキ視点)

過ぎてしまえば早いモノで、認識を改めれば、有力な仲間となり得る候補の皆さんを集めて行う、洗礼の儀の開催日となった。


白岩様の鱗色に合わせた赤銅色のワンピを着て、雲取様の鱗から創り出した装身具ブローチを付ければ準備完了。


馬車の中で最後の打ち合わせを行い、第三演習場に到着すると、会場を埋めた参加者さん達への示威行為デモンストレーションがちょうど終わったタイミングだった。


青竜さんの助言で、妖精さん達は両翼に整然と姿を表したまま浮かんでいる。これは、人の感覚に換算すると、警戒行動に入っている沢山の雀蜂が飛んでる場所に降りていくようなモノで、妖精達に姿を消されていると、常に竜眼を使う事になり精神的にストレスになると言われたから。


妖精さん達の投槍は竜の鱗を貫通してくるからね。敵意が無くとも、警戒するのも無理はない。


示威行為デモンストレーションは、鬼族レイハさんによる鉄杖を用いた演舞、森エルフの護衛による速射の妙技、ドワーフの技師達による避難所シェルターの説明、街エルフの人形遣いによる集団剣舞、そして妖精さん達による各種術式の試技が行われ、その結果、場内はかなり騒然としていた。


僕はいつもの様に、少し後ろにケイティさんとジョージさん、隣にはお爺ちゃん、足元にはトラ吉さん、四方には式典用の礼装をした護衛人形さん達の組み合わせで壇上に登った。


さてさて。


ざっと見回した感じだと、竜神子候補の時より年齢層が高めで、リーダー格の人が多そう。それに身分も高めで、威嚇を兼ねた示威行為デモンストレーションに恐れと共に、憤慨してる感じの人もいる。場もざわついてて、僕への意識もまだ集まってないね。


と言っても、ここでいきなり手荒な真似はせず、竜神子さん達で効果的だった振り鈴(ハンドベル)を鳴らしてみた。


何も考えずに鳴らすより、隅々まで届くように意識しながら鳴らしたほうが、意識をこちらに向ける効果があったので、今回もそれを意識して。


鈴の音が場内に響くと、皆の意識がこちらに向き、場が静まった。驚愕の表情が張り付いてる人もそこそこ出たけど、それは想定通り。


ん、効果ありだ。


まぁ、実は念の為、鈴の音が鳴ったら、静かにして注目する事をお願いし、無視する残念な人がいる場合は、連帯責任として全員を対象とした戦術級術式で、真冬の冷風をプレゼント、とアナウンスしてたから、と言うのもありそう。


実際、隣で杖を構えていたケイティさんが、杖を降ろしたのを見て、表情を固まらせてる人達がそれなりにいたくらいだから、躊躇なくぶっ放してたであろう態度に、背筋が凍る思いをした事だろう。


まぁ、何にせよ、準備は整った。さぁ、ここからは意識を切り替えて、巫女の時間だ。


ミア姉の演技には文句を言ってたのに、自分もこうして役割を演じる事が可笑しくて、ちょっと楽しい気分になった。


壇上に据え付けられた声を拾う魔導具(マイク)に触れないように注意しつつ、ケイティさんに起動して貰った。


「皆さん、お忙しい中、参加して頂きありがとうございます。洗礼の儀を執り行う、竜神の巫女アキです。本日は天空竜の白岩様と対面して頂きますが、やってくるまでの間、本日の儀式の趣旨、注意点をお話します」


一応、説明は受けてる筈だけど、白岩様と対面する前の心の持ち方は、竜の圧への対抗を大きく左右するからね。


「本日、いらしている皆さんは、武や知、魔術、或いはまつりごとに優れた手腕を発揮されている方々を聞き及んでいます。それらは自らを支える自信に繋がり、激動する時代の節目において、我こそはと思う所もあるでしょう」


皆さんの事を評価してますよ、知ってますよ、とアピール。うん、なかなか力の入った視線を向けてくれる方々も多くて期待できそう。侮ってる視線は思ったより多くない。それよりは推し量ろうとする感じかな。良い傾向だ。


「それらは相手と競う時の尺度、差となります。一番ではないにせよ、多くの人々より優れたソレは、様々な機会に役立ってきた事でしょう」


その通りと揺るがない視線を向けてくるあたり、確かに、認識を正しさえすれば、使える人材だね。


「ですが、それは、それらを競う尺度として共有するからこそ、不利な相手に強いる事ができるからこそ、意味があります。強いる力は自身ではなく、所属する組織や国家が供する事もありますが、両者が揃って始めて意味を持ちます」


あー、何を当たり前な事をって顔をしてる人がちらほら。それに早く本題を言えって感じで、苛ついた表情を浮かべた人も出てきた。表情が出てしまったのではなく、敢えて見せて催促してきたってところか。


ケイティさんに合図をして、声を拾う魔導具(マイク)を止めて貰った。稼働中だと壊れる可能性もあるから。


さて。


彼らへの認識に問題はない。想定した程度の反応で、マイナスイメージも増えてないから大丈夫。


では、思いを伝えよう。


『拙い芸ですが、結構、インパクトがあるので、以降は、言葉を直接届けますね。どうでしょう? このように、異なるルールの場に立たされると、自らが拠り所とするそれらが絶対的なモノではない事が理解できるのではないでしょうか?』


場内の人達に、隅々まで届くように、淡々と、横たわる現実に視線を向けてもらうように、思いを乗せて、言葉を話した。


おー。


ざわついたけど、騒ぐ者なし。と言うか、経験した現象が何なのか、混乱しながらも理解しようとしてる強い意識が感じられた。


ん、確かに感情より理性を優先できる人達だ。応援する気持ちが一割増しくらいになった。


『皆さんに思い返して欲しいのは成人の儀です。庇護されてきた幼少期に別れを告げ、大人の仲間入りをして、庇護する側に変わった、その時、心の有り様が大きく変わった事でしょう。本日の洗礼の儀はそれに匹敵する鮮烈な経験です。今、体験されている言葉は、皆さんが見ている盤面に、新しいルールが加わった程度の話です。ですが、これから対面する天空竜とは、盤面ごと打ち壊す、生ける天災に他なりません。世のことわりに従って等しく災いを齎すのではなく、自らの意思を持って絶大な力を振るう存在です」


言葉に意思を乗せるなんてのは児戯であり、地の種族同士の争い、力比べなど、根底から破壊しうる存在、生ける神、竜神なのだ、という思いを強く乗せてみた。


頻繁に天災に襲われる弧状列島において、意思ある天災、というのが何なのか、イメージできた人達は多かった。


『力の余りの差に、心が絶望に囚われるかもしれません。荒れ狂う暴風雨を前に、過ぎ去るのを待つしかないと祈る気持ちを思い出すかもしれません。天空竜とは、意思ある天災、竜神なのだと理解する。それが洗礼の儀の目的、その一です』


ん、お爺ちゃんがハンドサインで残り時間を教えてくれた。予定通りだ。


『幸い、現在の竜族は聡く共に生きることを良しとする穏やかな存在です。矛盾するように聞こえるかもしれませんが、そんな彼らと共存できる仲間となるよう交流を進めながらも、竜族には、地の種族同士の争い、問題には関わらせない、その意識を持つこと、それが目的そのニです』


はい、わかりました、とはならない感じだね。誰かに意見を話して貰うか――って、何故か見覚えのある人が混ざってる事に気付いた。丁度いい。


『えっと、ディアーランドのトレバーさんでしたよね? 参加されてるとは驚きました。ご意見があるようなので、話して頂けますか?』


彼が頷いたのを受けて、スタッフさんが声を拾う魔導具(マイク)を届けてくれた。


「時間もないようなので手短に。竜神子を通じて、各地の竜族と緩やかな取り決めを行うと聞いている。それは竜族がその力の一端を我々の為に使う事を意味するが、関与させないという方針との違いを話して欲しい』


ん、ナイスアシスト。今欲しい提言を、前準備無しに話してくれるんだから有難い。


『御指摘ありがとうございます。この秋に各地で、竜神子が両者を繋いで、天空竜は気が向いた時に天災の情報を伝える、地の種族は秋に実りを提供して好意に応える、そんな緩い新たな関係を結ぶ予定です。これは契約ではなく、あくまでも双方の好意によるもので、それくらいの距離感から始めよう、という試みです。私達は弧状列島に住まう隣人同士ではありますが、竜神と人の立ち位置は大きな隔たりがあるのも確かです。その差を埋めて、共に歩む仲間と認識し合うには長い年月が必要となるでしょう。竜神子はそんな両者を繋ぐべく、竜の傍らに立つ存在となります』


ん、ここまではOKそう。


『長命種の皆さんは覚えている話、そうでない方々も歴史を学んでご存知の「銃弾の雨」では、大軍が撃ち合う銃撃の騒音に苛ついた母竜達の腹いせで、多くの城塞都市が滅び、王達が決死の覚悟で母竜達のもとに赴き、何とか怒りの矛を収めて貰いました。でもそれは、騒音に苛ついて怒鳴り込んだ程度の話である事をご理解下さい。竜族と街エルフが本気で殺りあった挙句、豊かな地が「死の大地」と成り果てた事を思い出しましょう。竜の力はこの世界には強過ぎて、我々の営みの基盤そのモノを壊してしまいます』


今、話しているのが、竜族と殺りあった当事者たる街エルフである事を思い出したのか、単なる想像ではなく、実際に起きてしまった話だと理解してくれたようだ。ただ、まだ概念的で具体性に欠けると言う感じでもありそう。


『国は優れた王だけでは成立しません。王が指し示す先を理解し、力を合わせる人々、つまり皆さんの協力が必要です。自らの益となるよう竜や竜神子に働き掛けようとしたり、或いは相手に竜の怒りが向くように仕向ける謀略を試みるような輩を、火種の内に止められるのは皆さんしかいません。竜は聡く、竜眼は容易く嘘を見抜きますが、それでも地の種族の争いに、竜族が興味を持たないとも限りません。ですが、強過ぎる力は振るわれるべきではありません。小火を消すのに、都市ごと消し去るようなモノで、我々はまだ天災を御する術を持たないのですから』


天災を招こうとするな、地に向けさせるな、と言うメッセージはわかり易かったようだ。トレバーさんも理解した、と礼を言って質問を終えてくれた。


おっと、巻いて巻いてと、お爺ちゃんからの合図だ。


「時間も押してきたので、白岩様を迎える前に、皆さんへのお願いです。天空竜を前に退くのは恥ではありません。相手は天災、逃げるのは当たり前です。ですが、そこを敢えて、ギリギリまでは挑戦してみて欲しい。自身の状態が許す範囲で、できるだけ踏み止まって下さい。そして、儀式なので醜態を晒す前に退く見極めも忘れずに。皆さんならできると信じています。護衛の方々も控えてますが、白岩様が介入する事態だけは避けてください。一応、白岩様に確認はしますが、多分、反射的に力を振るったら、問題を起こした者だけで無く、その周囲を含めて塵と化すでしょう。でも大丈夫、本人が抑えられず、周囲が抑えられず、護衛の方々、妖精の皆さんまで抑えられない事態は、ゼロではありませんが極小です。本番前の訓練と思い、緊張感を持って取り組んで下さい』


単に各種族のお偉方と会うような話ではなく、生ける災害と向き合うのだ、と、白岩様から感じる圧を思い出しながら、それでも応援してる、ギリギリまで頑張れと言う気持ちを言葉に込めた。


あ。


何人かヤバそう。竜が力を振るえば消し飛ぶ、という当たり前の事を、事実として露骨に意識に乗せ過ぎたかも。フォローはしたけど、安全性が完全に確保された話じゃないって現実を直視したようで、バンジージャンプをやらされそうになってる人みたいな青い顔の人もちらほら。


『障壁は全体に対してのみ、護符の個人への貸与は、数に限りがあるので、ある程度、人数が減ってからとなります。いつ退くと判断しても、責める者はいません。無理はしないで下さい。あと、障壁や護符越しだと感覚が鈍るので、余裕があるようでしたら、それらは使わない事をお勧めします。白岩様の力強さ、落ち着いた心、目の前に立つ者へ向ける敬意に触れたなら、一生モノの価値がある事でしょう』


それと、僕や竜神子が、竜の傍らに立つ者である事が何を意味するのかも余裕があれば観察してみて下さい、と補足して説明を終えた。


おっと、皆の意識が空に向いた。


『白岩様がきましたね。予定通り、高空でゆっくり旋回しながら、まず皆さんの反応を確認します。心を強く持ってください。事前に説明されている通り、これから段階を踏む毎に、天空竜からの圧は倍増していくことを忘れずに』


穏やかで圧がとても安定してますね、と皆さんをリラックスさせる声掛けもしながら、洗礼の儀が始まった。





……結局、上空を旋回している間に、鬼族の一人が退くことを表明し、それを聞いた人族も雪崩を打って辞退者が続出、小鬼族も大半がその時点で退いて、降りてきた時には参加者は当初の一割しか残ってなかった。いや、一割が残った、と誇るべきかな。


白岩様がちょっと話をした時点で、参加者達の様子を見て障壁を張るよう指示し、その時点で膝をつく人も出たりして、医師達がドクターストップを宣言。


白岩様も手短に彼らの勇気を称え、そこで、洗礼の儀の終わりを宣言した。抑えた魔力の開放もなし、とは残念、何人かは残ったりすることを期待してたんだけど。


まぁ、それは欲張り過ぎか。


せっかく白岩様も来たのだから、竜神子達の時と同様、この後、お話でもしますかー、と提案したら、医師達から、参加者達の人数が多く、距離を離すことが容態の回復に繋がるので、第二演習場に移るよう懇願されてしまった。


白岩様も、それは気が付かなかったと詫びて、先に行くと告げると、軽やかに舞って飛び去って行った。


待たせる訳にも行かないので、イベント終了時のアナウンスをイメージして、残った参加者達に、体調に気を付けて、無理をしないように、休んでから帰るよう話してから、第二演習場に向かったんだけど、皆さん、虚勢を張る余裕もなく、精魂尽き果てた様子だった。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字、脱字の指摘、ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないので助かります。

釘を打っておかないといけない残念な方々改め、認識を改めれば役立つ仲間を対象とした、洗礼の儀が執り行われました。彼らもこれで、他種族に対する意識や、それらが手を取り合っているロングヒルの特殊性、時代が移り変わる変化、意志ある天災と称される天空竜の何たるか、を心底理解したことでしょう。

アキは十分成功したと思ってますが、実際のところがどうだったかは次パートで少し触れます。失敗してる訳ではないんですが、条件付き成功といったところなので。

まつりごとに完璧はなく、常に反作用がでるんだよ、と言った程度の話ですけどね。

次回の投稿は、八月一日(日)二十一時五分です。

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