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13-29.竜神子達との懇親会(後編)

前回のあらすじ:竜神子さん達との懇親会も、竜達のご近所付き合い的なところまで話して、楽しんで貰えるくらい理解も進んだので、安心しました。(アキ視点)

竜神子さん達との懇親会も、二週間前とは大きく変わって、僕の話したかった、竜同士の関係とか交流とか世代間のやり取りとかを伝える事ができて大満足。長命だから、家系図を取り出して遡るほどの先祖も在命どころか現役だったりして、かなり面倒臭い事も、長命種の皆さんは強く共感してくれたし、人族なら古い時代の生き字引に会える事に興味を示し、短命な小鬼族は、年表レベルの生態の雄大さに目を丸くしていた。


小鬼族は世代交代が進まない事で、変化に対応するのが遅れる危険性も理解してるから、長命種の事を羨ましい、とばかりは捉えてないのも興味深かった。


お爺ちゃんも、市民層寄りの人達が相手だからか、普段に増して饒舌で、生まれや育ち、住んでる地域によって異なる考え方や文化に興味津々だった。


「お爺ちゃん、随分、楽しんでたね」


「うむ。儂らは簡単に空を飛んで行けるから、何万と国民がいても、その考え方や文化に違いはないんじゃよ。せいぜい、職業によって、暮らし振りが変わる程度じゃな。それに比べて、地形によって環境が変わり、行き来が少ない分、地域毎に特化して、独自の文化を育んでおるのが面白い。多様で豊かな伝統が生まれるのは良いのぉ」


相互交流が頻繁なら、均一化は避けられないもんね。


「数日で行き来できない、何週間、何ヶ月と離れた土地に移住して生活圏を増やしていけば、妖精族にも違いは生まれていくと思うけど、そんな機運はないの? ほら、空に浮かぶ島に探検に行く人達もいるんでしょ?」


前から気になってはいたんだよね。


「儂らの国の周囲は人族の国々があるからのぉ。彼らの土地は森も疎らで、地に満ちた魔力も少なく、儂らにとっては魅力が薄いんじゃよ。それよりは空に浮かぶ島や、こちらの世界が楽しそうに思えるくらいじゃ」


ふむ。


「妖精族は鬼族並みか、それ以上に住む場所の好みが強いんだね。それで、こちらと交流して、新しい機運は生まれてきた?」


そのままでも、当面は現状維持できるだろうけど、関東地方並みの広さに使う言葉じゃない気もするけど、箱庭の世界で満足してると言うのは、勿体ないと思っちゃう。


「世界は広い。そして、遠い地に向かう術や何に注意を向けるべきかも、この半年で多くを学んだ。街エルフのように人工衛星に手を伸ばすのは容易いことではないが、全体を把握するなら高みに飛べ、とも言う。こちらの世界への関心は別格じゃが、その次に熱いのは飛行船なんじゃよ。空に浮かぶ雲のように、何もせずとも浮かんで居られる乗り物と言うのは、高空からの観測にはうってつけじゃ。幸い、儂らの製造魔術であれば、複雑な形状で強度があり軽量な骨格構造を作る事はできる。今は全体の設計と、軽くて燃えない空気の量を確保する為の地質調査をしておるところじゃ」


うん、水素式よりはヘリウム式にしたいよね。妖精さんサイズの飛行船なら、気体の量も大していらないし、設計すれば数日で一品モノの製造を終えられるんだから、フットワークも軽い。


「空気を通さず、軽くて薄い布は用意できそう?」


「作る事はできるんじゃが、全体の形状を縫い目無しで作り、構造体に被せる方法に難儀しておる。それにこちらの帆船に倣って、熱光学迷彩や陽光から魔力を得る機能も付けるからのぉ。魔力の変換効率や、熱光学迷彩に必要な魔力量の軽減、それに強度と空気を通さぬ密閉性を兼ね備えさせるのが難しいんじゃ。機能毎に別のシートにすれば良い気もするが、そうするとシート同士の接着が手間でのぉ。それに損傷した時に現地で修理できる仕組みも必要じゃ。そもそも帆船のような動く城を儂らは作った事がないから、多くの魔導具を組み合わせた乗り物の考え方や設計方法から試行錯誤の日々じゃ」


――なるほど。空間鞄もあるし、空は飛べるし、小舟じゃ魚に襲われるからそちらも作らない、つまり、妖精さん達の国では、車輪は発明されないし、荷車も乗り物も生まれなかった訳だ。魔力豊富で魔導具もポンポンと作れるから、風力を活かす考えも生まれない。


「にしても、個人単位の魔導具と天衣無縫がスタートラインで、途中をすっ飛ばして、多機能素材に、繋目無しの巨大軽量構造体で飛行船建造って、普通なら意味解んないですよね」


ケイティさんに話を振ると、その通りと頷いてくれた。隣のベリルさんも同意してくれてる。


「異なる道具を組み合わせて、新しい仕組みを作るのも多くの試行錯誤を経るモノなのに、その極限とも言える帆船級の複合構造物に手が届くなんて、冗談にしか聞こえません」


竜と人と妖精が協力して、跳ね上がるように高みに手を届かせたのは誰かと言えば、その筆頭が妖精なのは間違いない、とも話してくれた。


「儂らは小さいから材料もちょっとで済む。それに望んだ形状を直接作るから、材料に無駄もない。それとな、儂らとていきなり全体を作ったりはしとらんぞ? ちゃんと毎日、試作品を作り、評価して、改良して、と手順は踏んでおる。沢山の失敗、問題を見つけて、対処して、という地道な活動はちゃんとしておるのじゃよ」


うん、いきなり無謀な挑戦をせず、ボトムアップ式に問題を片づけていくのは好感が持てる。ただ、乗り物文化なしからスタートして、ハンググライダーを経て、多機能飛行船まで四半期程度で到達って、やっぱりおかしいよね。


あ、いや、その急激な進化を支える素材の知識や、3D加工技術、魔導具で培ったシステム設計の蓄積があればこそか。


「お爺ちゃん、飛行船は多くの技術の集大成だから、必要な技術、知識をどう研究して、改良してきたか、系統図みたいな絵にして見せてくれる? あと、船の運用となれば、船員が役割を分担して、船長が全体の統括をするって感じになるから、そっちの流れも知りたいな」


「うむ。飛行船のお披露目に向けて準備しておるから、こちらに幻影で持ち込めるようにしてみよう。最悪の事態に備えて独りでも運用できるよう魔導具を用意しておるが、魔導具の故障に備えて、乗員が手分けして対応できるよう考えておるぞ。ファウスト船長がその辺りは詳しく教えてくれたんじゃ。自動化は大事だが、いざという時は、魔導具に頼らず運用できるようにしておけ、とな」


あー、うん。いくら洗練された先が見えてると言っても、崖を命懸けで登っていく隣を、ふわりと飛んで先に行かれる気分だ。


「妖精さんだからって事だね」


そう、達観した気持ちで呟いたら、ベリルさんが「街エルフだから、と同じデスネ」と追い打ちをかけてくれて、乾いた笑いしか浮かばなかった。





さて、寝るまでの僅かな時間だけど、ちょっとだけ気になった点を話しておこう。


「結局、事前準備をしたけど、帰国が遅れるのに合わせて、妖精さんについて学ぼう、と話した程度でしたね」


「竜神子の皆様に直接、影響のある話は、教育状況と、帰国時期の遅延だけでしたから、妥当な結果ですよ。探索者の訓練と同じです。よく用いる技だけで無く、使用頻度の低い技も一通り学んでおくのは、もしもの場合に備えてです。殆ど、使われることの無い技、道具だからと、訓練しない、持参しないと言うのは悪手です。もしもに備えて。いざという時に慌てないように。それに自身を取り巻く状況を把握しておく事は、生き残る為には重要です。間近に対しては悪手でも、ゴールまでを考えると妙手となる事もありますが、広い視野を持たねば、本当の意味での最善手は選べないのです」


僅か五分間のプレセンの為に、一ヶ月用意を重ねたスティーブ・ジョブズのような人もいる訳で、確かに横着は駄目だね。


「例え、目的地が見えても真っ直ぐ飛べるとは限らない。天候が荒れるかもしれんし、魔導具が壊れるかもしれない。面倒な魔獣に邪魔される事もある。じゃから、無駄な気もするが、出発前に一通り考え、試しておくんじゃよ。生き急ぐ効率優先の考えは、迷いや躓きに脆い。開発と同じじゃな。試作と評価の繰り返しこそが高みへの近道じゃ」


さっきの仕返しとばかりに、お爺ちゃんがしたり顔で自説を語った。


「にゃ」


トラ吉さんも、その通りと駄目押ししてくれて、残念、周りには、援護してくれる人は残ってなかった。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

今回は、懇親会の帰りに、竜神子達と話をした翁の感想や、妖精さん達の近況を聞けました。やはり3D製造技術と、制作対象サイズの小ささは、開発速度アップに効果的ですよね。飛行船外皮の複合素材は、いくらなんでも機能の載せ過ぎなので、ほどほどのところで手を打つことになるでしょう。頑丈さを追求すると重くなってしまいますが、竜のように重力偏向するのは、省エネで浮遊できる飛行船の利点を殺してしまい、併用は無理でしょうから、頑丈さはほどほどで諦めざるを得ないでしょうね。

何にせよ、個人装備限定の文化だった妖精の国にも、大人数が乗って長距離移動できる乗り物の文化が花咲くことになったので、これで周辺地域探査も大きく発展していくことでしょう。シャーリス女王も、人に知られず調査を進める問題が解消するので胸を撫で下ろしてるんじゃないでしょうか。

次回の投稿は、七月十四日(水)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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