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13-27.竜神子達との懇親会(前編)

前回のあらすじ:竜神子さん達と会う前に、近況についてあれこれ聞いて、状況を頭に入れました。樹木の精霊(ドライアド)達との交流が、予想以上に難題でした。「妖精の道」の直接観察は、次元門にも繋がる大切な試みなので、何とかしたいところですが悩ましいですね。(アキ視点)

さて、竜神子の皆さんとの懇親会だけど、竜神子同士は二週間の集中合宿で、親睦もかなり深まったそうなので、実質は、僕と彼らの理解を深める為の催しだ。


鬼の人達もいるから、集中合宿は鬼族の大使館が使われている。僕が到着した時も、ちょうど、昼食を終えて、まったりした雰囲気で良さげ。


初めから他種族を招くことを主眼としていたのか、小鬼族でも、人族でも、鬼族でも、ちゃんと日常生活に困らないように、水回りが用意されているのは見事。鬼族のこういった工夫は見習いたいものだ。


女中の格好をしたウタ、テル、ハナの三人が出迎えてくれた。竜神子さん達が萎縮しないか気になったけど、皆の反応を見ると、食堂のおばちゃんポジションに落ち着いてるようで驚いた。鬼族の体格の良さを活かして、大量の飲食物も余裕で作り、カウンターで受け渡しをすることで、鬼族が歩くエリアを限定する工夫もしてる。何より、竜神子さん達が自主的に動き、単なるお客さんではないところも良いね。学校の食堂みたいな光景だ。よく訓練されているとも言える。


壁際のテーブルに案内され、ジョッキのような器にたっぷりと麦茶を注いでくれた。隣に人用、妖精用の器も置いてあるから、必要があれば自分で注げばいい。


以前のように、お爺ちゃんが仮初めの器を創り、それぞれの器に注いで準備完了。


合宿中の皆さんに合わせて、今日の装いは、ビターなチョコレート色のスカートとペチコートを重ねてふんわり感をアップ、薄い色合いのブラウスを重ね着しているようなドッキングワンピースで、袖口のフリルもあって、お嬢さんって感じが強いコーデかな。でも、共和国に帰った時のような、学生っぽさは控えるから、子供っぽさは減ったと思う。


二週間で竜神子さん達のセキュリティチェックも済んだのか、今日は護衛人形の皆さんは鞄の中、両脇にケイティさん、ジョージさん、テーブルの上、邪魔にならない位置にトラ吉さん、僕の肩のあたりにお爺ちゃんが浮かんでいる並びとなった。


「皆さん、お久しぶりですね。二週間の集中合宿で、全員、合格ラインに達したと伺いました。おめでとうございます。本日は短い時間ではありますが、忌憚なくお話下さい。皆さんに公開可能な範囲で、できるだけお答えします」


できるだけフレンドリーな態度で、さぁどうぞ、と水を向けてみたけど、さてさて。


お、前回、質問を話してくれた、多分、貴族か資産家系のお姉さんが挙手してくれた。


「天空竜の視点、距離感、私達との力量差、文化、それと、財閥が主導しているという様々な研究について、この合宿で学ぶ機会を得た事にまず感謝します。忌憚なくとの事でしたので、遠慮無く伺いますが、貴女は、私達、竜神子とその支援機構に何を期待しているのか、言葉にして示して頂けますか?」


ふむ。名目上とはいえ、支援機構の代表の僕から、そのあたりを直接聞きたいと。ストレートでいいね。


「そうですね。人伝に聞くより、こうして対面している時に直接話した方が思いが伝わるでしょう。それで何を期待しているか、でしたね。竜神子には竜と地の種族の交流の仲立ちを、支援機構にはそんな竜神子が十全に活動できるよう支援を、なんて概要を聞きたいんじゃ無いですよね?」


彼女はその通りと頷いた。


「では、まず第一期生たる皆さんに期待する事は、天空竜に従属するのでは無く、竜と他の種族の間に立つ意識を持つこと。そして竜族の外面に惑わされる事なく、その心と向き合い、交流を深める事。それと全てが初めての試みで、竜によっても考え方は違うので、万全の対策などと言うモノはない、だからこそ失敗を恐れず、失敗から得られた知見を次に活かす姿勢を忘れずに」


まぁ、この辺りはこれまでに話してきた内容だから疑問を持つ人はいないようだ。


「次に組織面ですが、各地に戻った竜神子同士が密に連絡を取り合い、一つの組織として活動する心構えを持って下さい。竜と対面する時は一人でも、その背後には支援者がいて、連絡網を通じて同じように、神子として働く仲間がいます。一人では難しい事も仲間同士で知恵を出し合えば、乗り越えられるでしょう。組織の力を使い、そして同期の仲間の為に力を貸してあげて下さい。一人だけでできる事などたかが知れてます。自分が悩んでる話はきっと他の人も悩んでいるし、どう対処したか、その顛末を聞くだけでも値千金でしょう」


「支援機構の方からも、私達のあげた情報を集めて本として、定期的に送付する旨の発言がありました」


「そうですね。通常時はそれでいいと思います。急ぎであれば、財閥の連絡網を使って下さい。余程のことがなければ、制限なしで気楽に使えるよう配慮してくれます」


これも事務方からアナウンスされていたようで、特に疑問はなさげ。


「後は、皆さんの活動実績を踏まえて、第二期、三期と竜神子は増えていく予定です。そうなれば、先達として、後輩の皆さんに手を貸してあげてください。皆さんもこの合宿で何度も見てるかと思いますが、弧状列島の全体図と、一期生の皆さんが戻る国々の位置、それと交流予定の若竜の巣の想定位置、竜の行動範囲という視点で、地図を頭に入れておいてください。逆に、連合内の国の配置や詳細、連邦や帝国領内の詳細もさほど気にしないで良いかと。皆さんに必要なのは竜族の視点、感性です。私達の国々の仕組みや営みは、竜からすれば小さ過ぎて、あまり興味を向けるモノではありません。雲の上から地上を眺める、そんな意識で地図に目を向ければ、意識できるのは川や森、山、城塞都市といった大きなモノまでです」


スタッフさんに、上空から撮影した光景の幻影を出して貰い、天空竜、航空視点を確認して貰った。

やはり、高い位置からの視点といっても、せいぜい山頂からの眺めまで、それも一部の限られた人しかそんなことには挑戦しないので、航空視点は結構、インパクトがあったみたいだ。これがロングヒルで、あっちがベイハーバーと、幻影の変化に合わせて説明していったけど、全体が騒然とするくらいで、嬉しい気持ちになった。


ループ表示してても、ずっと眺めてそうな雰囲気すらあったので、滞在期間中、観る機会を別途設ける、と告げて、話を元に戻した。


「今、お見せしたのはゆっくり飛んだ際のモノですが、僕達の感覚で言えば、駆け足くらいの速さで飛んでいるデータもあるので、そちらも観ておいてください。あー、えっと、ケイティさん、先日の高速飛行実験のデータはありましたっけ?」


「編集済の公開可能データがあります。音より速くとは言いませんが、全力の何歩か手前くらいの速さがある光景ですので、ご期待ください」


ほぉ、ほぉ。


「ソレは僕も観てみたいですね。下から眺めてたから、速いとはわかっても、当事者目線だと印象は大きく変わるでしょうから」


そう話したら、当事者であるお爺ちゃんが補足してくれた。


「速さを増していくと、揺れが酷くなって、肝を冷やしたもんじゃった。皆が滞在してる間には、改良型の試験もやるじゃろうから、揺れの減った様子も間に合えば見せられるじゃろうて」


それは楽しみ。


おっと、ケイティさんから話を戻せ、とサインが来た。


「それで、先ほどのは短期的な視点ですけど、組織的な意味での長期視点では、天空竜の全てに、最低でも一人ずつの竜神子を専任で配置、竜神子には支援者も複数人必ず付けるようにして、それを支援機構が全国規模で支える、という体制にしていきます」


説明用の図を表示して貰い、一番上に竜族の層、中間が神子達、下層が連合、連邦、帝国に分かれた地の種族、という関係を示した。そして、神子達と地の勢力の間に、共通枠として、弧国、統一国家の層を追加して見せた。ざっくり計算で神子が三万、支援者が二人ずつ付いたとして、六万、相互交流などの支援要員が同程度と想定して、竜神子支援機構は十八万人程度の規模だろうとも話した。


「竜族が興味を示しているのは、地の種族の文化や娯楽、学問といった共通要素であり、それは仮称ですけど、統一国家である弧国レベルの話です。ですので、連合、連邦、帝国の中には所属する国々がありますが、そういった細かい部分を竜神子達は意識せず、竜と地の種族の仲立ちをする事を目指します。竜神子支援機構は独立採算制で維持される、他と切り離された組織となります。ただ、勘違いしないよう注意して欲しいのですが、竜族には全体的な統治機構は存在せず、百程度の村といったレベルの緩い共同体の集まりです。ですから、竜神子支援機構もそれに合わせて、竜の群れに応じたグループを集めた緩い組織形態を取ることになるでしょう。独立採算制と言いましたが、支援機構は国ではなく、労働組合に近い仕組みです。実際には連合、連邦、帝国がなければ、活動の継続はできません。合計人数は多くても、個別に見れば五人、十人程度の小さな枠組みなのですから」


なので、竜神子もそれぞれの国に所属しつつ、竜神子としても活動する、という二足の草鞋を履くのは忘れずに、と補足した。


おっと、小鬼の研究者、ユスタさんが手を挙げた。


「アキ様、帝国の例ですが、皇帝陛下を頂点とした中央集権制が敷かれてます。それでも所属各国の裁量もかなり認められており、竜神子は中立である、という前提に対して、許される範囲内で、利を得ようとする働きかけが出てくることは避けられないと思いますが、その点はどうお考えですか?」


ん、竜族との会話にも参加しているだけあって、そんなユスタさんに接触を図ろうとする人々との経験がありそうだ。それに、単なる研究者視点だけじゃなく、まつりごとの高い視点からも考えられるっていうんだから、凄い才女だ。


「竜族には、地域レベルの防災に関わる情報の提供を、好意で気が向いたらして貰う、という緩い繋がりから始めることを想定しています。こちらの国は、地形的な影響を強く受けていて、同じ共同体として活動しやすい範囲と、国と重なることが大半でしょう。ですから、防災の観点であれば、国の人々の意向と、竜族の提供する情報は合致するので、そこで利を得ることは問題がないと思います。竜にお願いする際にも、地の種族が呼称する地名や地域名を把握して貰い、それに沿って情報を提供して貰えれば大助かりです」


ユスタさんは当然として、他の人達も話に着いてきているようで何より。合宿の効果が出てる。


「ですが、他の国との関係に影響を与えて、利を得ようとする、というあたりまでくると、それは中立の枠組みを超えると考えたほうが良い話です。例えば、水利権問題はどこでも根深く揉める話ですけど、その地域の様子を見る竜から話を聞ける自分達こそが管理するのに相応しい、などと、我々の問題に竜族を絡めるのは悪手です。彼らからすれば、誰がどう管理しようと、どうでもいい話なので、そっちで好きにやっておけ、というだけでしょうし、もし興味でも持たれて介入されたら大変です。川の流れが悪いからと、竜の吐息(ドラゴンブレス)や戦略級魔術で直線路を作るなんてのは、やろうと思えば、天空竜なら軽くできる話でしょう。でも、それで、地域によって水が増えたり、減ったり、上流の水が短期間で下流に流れるなどして水害も招きかねません。彼らの力は大き過ぎて、振り回される側は洒落になりません。……いずれは、竜族もこの地に住む同じ住人として、国の枠組みに入って、共に活動していく、そんな時代も来るかもしれません。でも、それは遠い未来です。多分、竜神子支援機構が神子を通じて、竜達の相互交流を促す呼び水となり、竜族が弧状列島全体で、統一勢力として振る舞うようにでもならなければ、それは難しいでしょう」


時系列も表示して貰い、竜神子が何十期生まで排出して、全ての竜との繋がりを確保して、更に離れた地域の竜の話や考え、営みについても今よりずっと高密度にやり取りするようになって、それが人族換算でも何世代か進んで、そうしてやっと、手が届く話だと補足した。


その頃には、連合、連邦、帝国という枠組みも、弧国という一つの枠に変わっていることだろう、とも。


ここまで聞いて、種族毎の反応には結構違いが見えてきた。街エルフや森エルフ、ドワーフや鬼族のように長命な種族からすれば、長いといっても一世代で辿り着く変化なので、自身の事としてそんな未来を想像しているようだ。人族の場合、上手くいったら孫の世代には辿り着く壮大な計画、そう感じたっぽい。そして小鬼族はと言えば、五世代は先、歴史の年表レベルに相当するスパンでイメージしてるってとこかな? でも、その為の礎を自分達がまずは築く、その後は次の世代に任せる、という割り切りも強そう。


「それから、竜族にも文字を導入する事で、これまでは口伝で継承されてきた知識が、竜個人から切り離されて、竜達の間で行き来し始めます。小型召喚を利用して団体行動の経験も広がり、瓦版のような写真と文章の宣伝も普及していくことで、雄竜と雌竜の間の恋の駆け引きも変わっていくでしょうね。竜神子達はそんな変化していく竜族と寄り添い、暴走しがちな時には自分達の経験を活かして、穏やかな変化となるよう働きかける、というのも神子の大切な仕事となっていく気がします。なにせ竜達にとっては初めてのことばかりなのだから。竜族に並ぶ妖精族の存在もまた、竜達の思考に様々な影響を――」


竜神子支援機構が十全に稼働していくのは単なる土台であってぇ、と興が乗ってきたところで、質問者のお姉さんからストップが掛けられた。


「アキ様、ちょっと待ってください! 話が広がり過ぎてて、理解が追い付きません!」


ありゃ。そうなのか、とざっと様子を見てみたけど、確かに話に着いてこれてないって表情があちこちにあるし、何か異質な存在を見た、とでも云わんばかりの驚愕にも似た表情を浮かべてる人までいる。ユスタさんもジェスチャーで駄目、駄目です、と教えてくれた。

さて、仕切りの直しの竜神子達との懇親会が始まりました。トップの意向は明確に示す必要がある、どちらに進むのか示さないと下も困る、と諭された事もあったので、アキも丁寧に話をしていきましたが、「竜族と地の種族の社会の差異を理解し、必要な物を必要なタイミングで問題なく導入していくフォローをしてね」というのは、やはり様々な階層から集まった神子達にはハードルが跳ね上がり過ぎてたようです。実際、貴族階級と思われるお姉さんですら、お手上げと言ったくらいですから。

まぁ、実際、アキの示した視点って、国王レベルの視点、多くの専門家達の支援を受け、その内容を理解する賢王、しかも他種族の異文化にも深い理解を示す、類稀なる賢王クラスのそれを要求してますから。

地球(あちら)の現代人なら把握している事も多い巨視的な観点ですが、江戸時代の村人に現代のグローバリゼーションを説明して、理解して貰うには、基礎的知識を理解していく数多くのステップを踏まないと厳しいでしょう。(勿論、柔軟に理解できる地頭の良さはあるものとして)

次パートでは、補助資料も使い、平易な形で軽く話していきます。

次回の投稿は、七月七日(水)二十一時五分です。

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