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13-24.ケイティとの心話(後編)

前回のあらすじ:ケイティさんとの心話を始めました。心話は直接、相手の記憶に触れることができるのが利点ですけど、長老さん達と心話なんて怖くてできないのと同様、触れることがリスクになることがよ~くわかりました。あー、もう、そういう修羅場なんてインパクトがあり過ぎです(アキ視点)

会話がまともにできる程度に落ち着いたところで、何とか心話を再開!


人によって露骨に態度を変えてくると言えば、やっぱり猫かなぁ。日本あちらでも近所で飼われている猫は小さい頃から仲が良かったから、僕を相手にしてる時と、お爺さんやお婆さんを相手にしてる時の態度の豹変具合や、ちょっと小首を傾げて、真ん丸な目をキラキラさせて、何かありました?って顔をして、お爺さんの書斎を荒らした時も逃げ果せていたし、こっちの話を理解してるのに、知らんぷりをしたりと、思い返してみると、何とも調子のいい性格だった。


その事をケイティさんに記憶も合わせて見せてみると、その通りなんです、と深く同意してくれた。


<猫は無邪気を装い、人の心に付け入り、翻弄する小悪魔なんです。だいたい、彼らは――>


ケイティさんから渡された記憶やイメージを見ると、誰かに愛でて貰い優越感に浸る視線を向ける猫とか、邪魔をしてきて構う事を当然と要求する猫とか、理解してる癖にスルーして我が道を行くトラ吉さんとか、相手が怯えたのを見て揶揄うトラ吉さんとか、狭い所をわざと通って存在感アピールをするトラ吉さんとか、あー、なんか途中からトラ吉さんへの不平不満だらけになってきた。


そこで、天空竜を前にしても寄り添ってくれる凛々しいトラ吉さんとか、悲しくて涙が止まらない僕に、自分はここにいるぞとアピールするトラ吉さんとか、お爺ちゃんと仲良く遊ぶトラ吉さんのイメージを渡したら、ケイティさんは呆れながらも、興味を示してくれた。


<アキ様のトラ吉推しは知ってますが、同じ相手なのにこれ程、評価が分かれるのは面白いですね>


<誰もが様々な面を持ち、見る人の眼鏡にも色が付いてる、って話でしょうけれど。でも、ケイティさんの目線だと、トラ吉さんの格好良さ、頼れるお兄ちゃん感が少な過ぎません?>


不満があっても、トラ吉さんの温もりが欲しい、と手を伸ばせば抱きしめるのを認めてくれるし、優しいでしょー、ってアピールして見たけど、残念、完全同意には程遠かった。


<アキ様に見せている面を否定する気はありません。しかし、トラ吉はあくまでもリア様、賓客のお一人のペットという扱いで、別邸の指揮命令系統にも属さず、好き勝手し放題! おまけに都合が悪くなると、自分はただの猫なので、なんて顔をして――>


それからも、ケイティさんの不平不満の吐露は留まるところを知らず、僕が見てないトラ吉さんの数々の所業を知る事になった。





ケイティさんのトラ吉さん絡みの心の澱みや鬱憤の記憶に延々と触れて、ボリュームがあったこともあり、ちょっとした達成感が得られた気になって、どちらからともなく笑って一息つけた。


そして、さて、次の話題に移ろうか、と考えたところで、急に心話の接続が切れた。


意識を戻すと、慌ただしく魔導医師の人と師匠がケイティさんに駆け寄っていくのが見えた。


嫌な想像が頭を駆け巡ったけれど、ケイティさんがハンドサインで、大事ではない、と示してくれたから、何とか心を落ち着ける事ができた。


フワリとお爺ちゃんが飛んできて、足元にもトラ吉さんが来てくれた。


「健康状態を監視する術式が作動したようじゃ。今は診察待ちじゃな」


「ニャ」


トラ吉さんも、慌てなくていいと諭すように声を掛けてくれた。


紅竜さんも竜眼で診てくれているようだ。


術式の安全機能が働いたと言うことは、生体信号(バイタルサインに何か異常を検出したと事を意味する。心拍、脳波、脈拍、呼吸、発汗、体温、血圧、血中酸素濃度、それにこちらだと魔力か。


……何があったのか。


先程まで楽しく話をしていただけに、気になって、あれこれ考えてしまうけど、情報が足りなくて、思考がぐるぐる回るだけ。


そうこうしている内に、トラ吉さんが膝上に乗ってきて、撫でるよう催促してきた。


少し俺でも撫でておけ、って態度だけど、伝わってくる鼓動と緊張感、それにジッと観察する態度が、トラ吉さんも心配してて、でも落ち着こうと努力しているのが理解できた。


それから十五分ほどトラ吉さんを撫でて待っていると、魔導医師の人や師匠に付き添われて、ケイティさんがやってきた。体の運びにふらつきなどの問題は見られない。


「ご心配をお掛けしました。本日はこれ以上の心話は行えませんが、休めば回復するのでご安心ください」


そうは言うけど、徹夜明けで疲労困憊って感じで心配だ。というか僅か三十分程度で人はここまで疲弊するのか、とそっちに驚いた。


「過剰に心を酷使した結果起きた発熱、心因性発熱と言う奴だね。ケイティに今必要なのは休む事、寝る事さ」


師匠はそう言うけど、薬を飲んだりしなくていいのかと、魔導医師さんの方を見ると、それでいいと頷かれた。


「この症状に解熱剤は効かない。魔術でどうにかできるものでもない。ソフィア殿の話された通り、休む事が癒やしとなる」


お医者様が言うなら、その通りなんだろう。しかし、薬が効かない発熱とは厄介な。


<私達がアキと初めて心話をした時と同じ容態のようだ。それよりは軽い。起きているのも億劫だろう。眠らせてやるといい>


紅竜さんもそう教えてくれた。思念波から伝わってきた感じだと、自分の時はもっと疲労してて、仲間はその変化に気付いたのに、僕は気付いてなかったとか、弱みを見せないように振る舞ってはいたけれど、竜族の表情が乏しいとは言っても、気付いてくれても良かったんじゃないだろうか、とか、仲間が竜眼で観察した時の容態、それも竜眼で見た皆の話で全て同じ容態だったから、心話特有なのは確実だろう、とか、今は慣れたがアレはかなりきつかったとか、なんで僕は平然としてるんだ、とかとか。


最後の白竜さん自身は竜眼での観察対象ではなかったけど、雌竜の皆さんが初来襲してきた時に、残り六柱について竜眼でも観察してたとは知らなかった。……まぁ、さっきまで元気なのに急に憔悴してたら、いくら天空竜だって心配にもなるか。いや、高い実力を持つからこそ、衝撃を受けて慎重な選択をしたということと思う。


沢山、同じ症例が出ていて、お医者様も、竜眼での観察でも同じというなら、安心できる。


そして、スタッフの人達が担架を持ってくると、ケイティさんの抗議も軽くあしらって、荷物のように積み込んで、師匠と魔導医師さんの寝てもいいコールに、ケイティさんは電池が切れたように寝落ちし、そして、そのまま、運ばれていってしまった。


何だろ、この雑な扱い。


「彼女は念の為、私が常駐している大使館で預かろう。それでは失礼する」


魔導医師さんはそう言って、皆に礼をするとウォルコットさんの方へ。ウォルコットさんも、ダニエルさんと手分けしてケイティさんを運び入れると、馬車を走らせて去っていった。





それからは、ケイティさんは寝てれば回復するんだから気持ちを切り替えろと言われ、ウォルコットさんが戻って来るまでの間、今回の心話で気付いたことについて、紅竜さんを含めた関係者の皆さんに話したのだった。僕が認識する前の段階でもケイティさんのほうは、心を触れている状態だったから、トータルでの心話の時間はそれも含めた長さになっていたとのこと。また、言語化することは思考の速度を緩めて余裕を持たせる意味もあり、それを省くと、心が一切休まずにずっと高負荷で集中し続けることにもなる、なんて意見が出た。


言葉を使う遅さを解消できて、しかも見た光景や感情、とそれに連なる記憶も含めて、纏めて渡し合えるのが心話の利点だからね。


――心話をすると頭を全力で動かした感覚があって充実感があり楽しい、と告げたら、化け物を見るような眼差しを向けられてしまった。ミア姉だっていつも楽しく付き合ってくれてたと話してみたんだけど、師匠からは、僕の魔術行使と同じで、そんなイカれた話に着いていける奴なんざいないと思え、と呆れられてしまった。


紅竜さんならどうか、と期待を込めて視線を向けたら、目を背けられてしまった。酷い。


今回の経験で、どの程度の距離感で触れればいいかはわかったのと、ケイティさんの心に触れた感触も覚えているから、次は最初からすぐ話ができると思う、と伝えた。曇りガラス越しのような精度の悪さは今後改善して欲しいところだけど、事前に得ている知識で補完していけば、それほど障害にはならないとも。


あと、同じ対象でも人によって心象はかなり異なる、と言う話では、トラ吉さんは、はて、何の事やら?、なんて顔をしてた。


それで報告を終えた後、揶揄うのもほどほどにね、と話してみたんだけど――。


「ニャオ」


任せておけ、と楽しそうな顔をしたトラ吉さんを見る限り、揶揄うのを止める気は微塵も無いようだった。

感想、ブックマークありがとうございました。執筆意欲が大幅にチャージされました。

ケイティとの心話ですが、初回の雌竜達との心話と同じ結果となりました。雌竜達のほうはアキが潰しにかかったのに対して、ケイティに対してはそうはしてなかった点が違いでしょうか。

相手とのガチな討論会を休みなしで心話換算で三十分、心話の効率は会話の十倍とかアキは話してるので、その換算なら十倍の三百分=六時間。ケイティが高名な魔術師だからこそ、そこまで付き合えた、善戦したといった評価となりそうです。

回復したケイティからヒアリングをしたら、心話魔方陣の改良にも着手できるでしょう。まぁ、それで雲取様と庇護下の森エルフやドワーフ達が心話を行えるかというと、それはまた別の話。完全無色透明属性のあるアキやリアと違い、普通は相性問題があって、親子間でも心話が成立しない、なんてこともある訳ですから。

次パートは、短期集中合宿を乗り越えた竜神子達との懇親会再びです。

次回の投稿は、六月二十七日(日)二十一時五分です。

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