13-22.ケイティとの心話(前編)
前回のあらすじ:やる気と不満に満ちた人達を対象とした追加の「洗礼の儀」、話は代表の方々から聞いてはいたけど、思ったより準備が早い感じ。まぁ集まって竜の前に立つだけだから、楽と言えば楽とは思う。まぁそんなことより、ケイティさんとの心話を遂に試せることになって、今からドキドキしてます(アキ視点)
今朝は、鏡越しに目があって、あたふたしたりと、多少の混乱はあったものの、のんびりと朝食を終えて、予定とかについて話を聞くことになった。リア姉も同席してるんだけど、なんか少しぶすっとしてる。
「リア姉、どうしたの?」
そう聞くと、リア姉はぐでーっとテーブルに突っ伏して、残念そうな目を向けてきた。
「ケイティはアキと心話ができるのに、私はアキと区別がつかず、最悪、アキが心話を自身に向けて無限ループ、なんて紅竜様の時のようになりかねないから駄目って話でさ。姉として出遅れた感があって、寂しい気持ちで一杯なの」
「紅竜様の時も、なんとかなったけど、危なかったもんね」
「アキがそうなったら、雲取様や他の雌竜達にお願いするというのも手だろうけど、そもそも、私との心話はそこまで優先順位も高くないから、まぁ仕方ない。仕方ないってわかってはいるんだけど」
妹の為に頑張る姉って感じでいきたいのに、あれこれ邪魔ばっかりだ、とぶー垂れてる。こうして、リア姉は感情を露わにしてくれるから、僕も触れやすくて嬉しいんだよね。
「んー、ほら、トラ吉さんだって、心話もそうだけど、お話だってしないじゃない? でも、確かな絆ってあると思うし、言葉を介さないってことで助かってもいるから」
テーブルの隅っこで丸くなってるトラ吉さんに話を振ると、大きな欠伸をして、ちょっと嬉しそうな顔をしてくれた。
「むむ、なら、スキンシップをして取り返そう! 二人ペアで行うストレッチ運動とか――」
リア姉がそう話し出したところで、ケイティさんがその当たりで、と止めに入った。
「リア様、今日は私との心話、明日は竜神子達との懇談会を予定してますので、またの機会に」
「はいはい」
リア姉も、予定表を見て、なら、ここで、と予約して、満足してくれたようだった。
◇
「それでは、アキ様。それとリア様にも関係のある件についていくつかお話します。樹木の精霊探索チームですが、そろそろ一週間が経過し、中継地点の街に辿り着く手筈となっています。これまでのところ、緊急で妖精が呼ばれてはおらず、呪符による連絡も届いていません。何も反応できず全滅という事態は考えられないため、予定通りに探索が進んでいると考えられます。竜神子達への短期集中合宿ですが、こちらの成果は最低限といったところでしょうか。やはり教育レベルや文化の違いは大きく、複数のチームに分けて個別指導をしています。明日にアキ様との懇親会をもう一度行い、以降はそれぞれの地元に戻り、教材を送って、自己学習をしていただく方針です」
ほぉ。
「自己学習ってモチベーションの維持が結構大変と思いますけど、その辺りは大丈夫です?」
「給金の出る仕事であること、地元の領主が支援者を手配し、学習についても指導役を用意していただきました。それぞれが感じた疑問や不満、提案なども定期的に集めて、横展開していくので、学習効率はある程度維持できると判断してます」
なら、大丈夫か。
「樹木の精霊探索チームの方も、中継地点への到着待ちか。まぁ、そもそも街道沿いを歩く訳でもなく、山林を切り開いて進むようなところがあるから、時間がかかるのも仕方ないとは思う」
「精霊使いさんの探知頼みだもんね。あ、ケイティさん。精霊使いって、樹木の精霊の位置を簡単に特定できるものなんですか?」
「それは精霊使いの実力にもよりますし、相手の樹木の精霊が潜む性格であれば、発見は困難になります。それと、樹木の精霊の勢力範囲はある程度、重複しているので、それらを区別して、特定していくのには、試行錯誤も必要と思います」
それって、電波強度を頼りに、スマホの基地局を目視で確認してみようってくらい、面倒臭そう。
「チームとして上手く纏まってくれて、揉め事とか起きてないといいんだけど」
「彼らもプロですから、そこは心配ないかと」
なるほど。
「それで、今日の私との心話ですが、念の為、第二演習場で、紅竜様にも立ち会っていただくことになっています」
おや。
「心話だけなら、別邸の魔法陣を使うのかと思ってました」
「今回はアキ様だけでなく、私も別の魔法陣を用いて、心話の強度補助を入れます。また、心話に何か問題が発生した際、紅竜様に強制的に介入していただく予定です。その二点を考えると、別邸では設備が足りないのです。それと、私は相手との心話の距離を変えることができないので、アキ様の側で調整していただくことになります。心への影響を考慮し、最初は接続可能な最低レベルでの接触から始めます。そこから徐々に近付けていってください。負担が限度を超えると安全術式が発動して、心話を停止します」
簡単な図を書いて説明してくれた感じだと、ケイティさんと僕では心の圧が違い過ぎて、普通に触れても僕はケイティさんに気付けないらしい。そこで魔術を用いて、ケイティさん側の圧を高めることで、僕が感知できるレベルとする、とまぁ、そんな仕組みらしい。ケイティさん側の魔法陣に安全を考慮した術式が入っていて、圧が高過ぎると心話を止める、と。紅竜さんのほうは、以前、僕がやったように、外部から心をぶつけることで、無反応なり、暴走なりしてる心の状態を強引に変える為にスタンバイしておくそうだ。
「えっと、ケイティさんに万一、何か問題が起きた時の備えはあるんでしょうか?」
「そちらはソフィア様が控えてくださる手筈です。他にも心話に長けた魔導医師を用意しました」
ふむふむ。
「心話をする際の注意点とかあるでしょうか?」
「恐らく、アキ様の心が活発に動いていると、私の心はそれに埋もれるくらい微弱と予想しています。ですので、心を穏やかに、静かにして、僅かな反応に気を配っていただく必要があるでしょう」
それは、なかなか難しそう。
「アキもそうだけど、私も雌竜達や雲取様と心話を試していて感じるのは、彼らの心の圧の高さだ。触れればすぐにわかるし、ミア姉との心話と同じで、相手と心を触れ合わせることをキツイ、とは感じなかった。一応、ミア姉の手記も漁ってはみたんだけどね。存在としての格の差が大きい相手、神とか竜とかを相手にする時は、まず、心の距離を最大限、広く保って、怪我をしない程度に少しずつ距離を詰めていくのが肝心、って書いてあった。ただ、私も距離の調整はできないから、どうやっていいかピンとこないんだ」
リア姉の話だと、心の圧が低いミア姉が自身で調整してたのに対して、今回は圧が高い僕のほうで調整するってところに、注意点がありそうだね。
「最後に、アキ様。竜族の方々との心話でわかってはいますが、あまりプライベートを覗き見るような真似は控えてくださいね。互いに許す範囲でちょっとずつ近付いていくのがマナーというものです」
ケイティさんが僕の手に触れて、ちょっと恥ずかしそうな顔をしながら、話をするものだかから、あっという間に僕の顔は茹で上がってしまった。
「はいはい、そこまで! ケイティもあんまり揶揄わない! アキも表情緩み過ぎ!」
繋いでいた手を手刀で、せいっ、と断ち切って、リア姉が呆れた顔で割って入ってきた。そんなリア姉の態度が何故かおかしくて噴き出してしまい、それに釣られて二人も可笑しくて笑いだした。この分なら、ケイティさんとの心話も余計な力を抜いて挑むことができそうだ。
近況の整理と、ケイティとの心話について事前説明の回でした。リアも不平たらたらですが、アキとの間の共鳴っぽい何かは、似た事例すらない手探り状態であることから、二人の間での直接のやり取りは極力、行わない方針に変わっています。本編でも語られているように、二人が完全同一属性であることと、召喚された紅竜が自身を見て、思考がループ状態に陥った、という件が尾を引いてます。
次回の投稿は、六月二十日(日)二十一時五分です。