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13-10.雲取様との心話

前回のあらすじ:紫竜、緑竜、金竜の三柱との心話もさくさく終わりました。金竜さんとの心話は盛り上がって少し時間オーバー。でもこの分なら、今日中に雲取様、福慈様との心話も終わりそうでほっとしました。(アキ視点)

雌竜の皆さんと話した内容を再確認してから、次の心話相手である雲取様に接触した。この前の飛行試験時に経路パスを通じてお話したのはリア姉だったから、雲取様との心話は久しぶりだ。


<雲取様、お待たせしました>


<うむ、どれ――>


やはり雲取様も言葉にせず、心の触れ合いをしてきたので、もう猫にでもなったつもりで、雲取様が納得するまで付き合った。そのおかげで、僕が飽きるよりもずっと早く切り上げてくれた。雌竜の皆さんよりも、雲取様に触れたほうが安心するのは、彼が恰好いい好青年って感じで、さっぱりしたシンプルな関係を好む雰囲気があるからかもしれない。仲のいい相手とは並んで座る感じ。雌竜の皆さんはどちらかというとしっとり系で、膝の上に乗せる感じかな。紅竜さんはそこから更に抱き着いて頭を撫でるーってとこで、好みは分かれそう。それはそれで好きだけどね。


<温和で何よりだ。その分だと彼女達との心の触れ合いも満喫したか>


<はい。皆さん、優しくて癒やされました>


まぁ、幼竜扱いされるのはどうかと思うけど、誰かに寄り添って貰えれば、それだけで心が穏やかになるし、癒やし効果もあるからね。何より、皆さん、程々の触れ合いに慣れていて、過不足なく触れ合う加減は見事なものだったとも伝えた。


<幼竜もな、構い過ぎると自主性が損なわれる、足りぬと不満が残る、とあって、面倒を見る時には皆、苦労しているのだ>


それでもそうして経験を積むからこそ、番となって生まれた子を育てる時に、新米の父母であっても余裕を持って子と向き合えるようになる、とも教えてくれた。


また、実は幼竜の面倒を見る手際は、母竜達の交流を通じて雌竜達にも伝わるから、手は抜けないのだ、とも内緒話として教えてくれた。下手で不評だと、番の相手としては魅力が下がる、という実害があるそうで、それは大変だ。

因みに幼竜に受けが良くとも、悪い事、危険な事はちゃんと教える手際の良さがなければ、単に一緒に遊んでるだけで心は幼い、と烙印を押されると言うのだから、なかなかハードルは高い。一緒に担当する他の若竜との関係や仕事の分担なんてところもさりげ無くチェックされてるという事だから、巣が空くまでの長い部屋住み期間に、どの若竜も幼竜の扱いには慣れてくるのだろうね。

まぁ、気質的にどうしても慣れない、やりたくない、なんて残念な竜もいるだろうけど、そんな竜は自然と雌竜から相手にされなくなるだけだからね。それに、もし不満を持っても、絶対的な上下関係のある竜社会では、骨身に染みて、理解させられるだけ。


……ストレスも溜まる訳だ。


雲取様も初めは上手くできず苦労したとの事。それでも、それならどうしたらいいか、子育てを経験している年上の成竜達に話を聞いて回り、それを自分ならどうするか考えて、試して、といったように続ける事で、幼竜の親達から文句を言われる事も無くなったのだと。自身も幼い頃に、面倒を見て貰ったのだから、それを自身もできてこそ成竜だろう、と当たり前のことと思ってると教えてくれた。


くー、ただ歳を重ねるだけで大人になるのではない、大人に相応しい振る舞いをして、それが身に付くからこそ、周囲も大人と認めるって感じか。


雌竜達が惹かれるのもわかるね。そうするのが当たり前、と雲取様は言うけれど、独立独歩の気運が強い竜族で、ちゃんと他にも気を配り、良い大人の振る舞いを見て、学び、真似ていける竜は、それを自然にできる竜は多分、そう多くない。

勿論、長い下積み時代にある程度は身に付くんだろうけど、意識してやれるのと、自然にできる事の差は大きい。


……そして、竜社会は狭く、長命種なので、接点のある竜に対する評価は、それぞれが自然と行っていて、それが一生涯付いて回る訳だ。


顔触れの変わらない閉鎖集落なんかに近いかも。人に比べれば、竜同士の交流は少なくて、共同作業も不要だから何とかなってるけど、人族なら余りの息苦しさに逃げ出したくなりそう。


っと、今回は時間が無いから、要点だけ聞いていこう。


雌竜の皆さんから聞いた活動内容や、今回の呼びかけについて考えた事、試みた事などをざっと伝えると、雲取様も独りでは出てこない意見も多く面白いと、満足そうに頷いてくれた。


そのように楽しく取り組む雌竜達の事を、いい子達だろう?とちょっと自慢する気持ちが感じられて微笑ましかった。それと、僅かに垣間見えたのは、何で揃うとすぐ張り合ったり、衝突するのか、と嘆く悟ったような心。


自分の為に争う異性を前に、私の為に争わないで!って懇願するなんてのは、読み物ならよくある話だけど、当事者になりたいかと言えば、御免被りたい。雲取様を見てると、隣の芝は青い、とはよく言ったものと思う。


<我の活動は、翁との調査飛行以外は、成竜達への説明回り程度だが、例の障壁展開については、紅竜から持ち回りで担当する事とした>


ほぉ。


<紅竜さんから、と言う事は、ペナルティ期間はお終いですか?>


<うむ。アレから暫らく面倒事を率先して担当していたので、それで許す事としたそうだ。それと纏め役として動いてくれている労に報いると言う事で、初回を譲り、障壁改良の件の調整を一任すると話してた>


アレと言うのは、初冬の頃に行った宣誓の儀で、終わりの時に紅竜さんだけ集合写真を撮った件の事だ。アレで他の六柱の雌竜からブーイングを受けて、紅竜さんは担当以外にも、面倒事を片付ける事で詫びとしていたんだよね。

詫びにワンシーズン必要とする、と言うのはなかなかヘビィだ。紅竜さんの名に配慮はするとしても、この辺りの匙加減の話は、対竜施策のイロハとして流しておこう。


雌竜さん達はかなり仲が良くて、それでも、この対応だから。


<――あの、雲取様。この冬みたいにイベントが沢山ない時って、埋め合わせはどうされてるんです?>


そう問い掛けると、雲取様は猛烈な勢いで記憶を思い返して、プライバシーに配慮しつつ、名に傷が付かない程度の事例を素早くピックアップして、ちょっと考えた、という体で教えてくれた。


<何かあれば、そこで率先して動いて詫びる思いを行動として示すが、あまり間が空く場合は、それなりの獲物を持っていって、繋ぎとするな>


一緒に伝わってきた感触からすると、何年、何十年という単位が普通で、期間を置くほど拗れやすいので注意が必要らしい。


そりゃ、貸しがずっとあって、返す機会が得られなければ、時間経過と共に癒やされない不満も、複利計算で増えていきそうだ。


そう言う意味では、紅竜さんは素早く傷口を塞いだ訳で、多分、我儘で減った分を帳消しにして更に上積みできたんだろうね。好きに調整していいよ、って合意は、紅竜さんへの信頼が無ければあり得ないんだから。


色々と記憶に触れる中で、雲取様から、雌竜の皆さんが上手く落とし所を決めた事への安堵と、それぞれが個性的に動くからこそ生じる騒動への期待と諦観が入り混じった複雑な感情も垣間見えてしまったけど、そこには触れないのがエチケットだろう。雲取様も先日、白竜さんと好き勝手、飛び回って結構楽しんで、心も活力に満ちていて、お疲れな印象は減っていたから。


それから、僕が伝えた話について、ざっと雲取様のコメントを聞いて心話を切り上げた。時間もないので言葉にせず、思いに直接触れる形としたけど、大方、問題なしってとこだった。





雲取様との心話を終えて、雲取様と雌竜さん達との違いとして、雲取様は爽やかな好青年、雌竜さん達は面倒見のいいお姉さん達って感じで、僕との触れ合い方にも違いがあると思ったのと、竜族が若い頃から、幼竜達の面倒を見ることで、成竜となって伴侶を得た後の子育てを行うための前準備をちゃんとしているのが偉いと褒めてみた。


……褒めてみたんだけど、全員が不思議そうな顔をした。


「ソレができないのに成人なんてあり得ないだろう?」


父さんは、なんでそんな発想が出てくるのか、と不思議そうに話した。


「貴方、それはアキがあちらの世界のことを基準に話したからじゃないかしら。えっと何だったかしら――」


「核家族化だったね。確か親と子だけで暮らして、学校も同じ年代同士で学年を組んで学ばせていた筈。学業だけ学ばせるなら効率はいいけど、年の離れた層との交流が足りなければ、自分が社会のどの位置にいるのかも自覚できず歪に育つと――あ、この議論はミア姉としたことあったよ」


母さんとリア姉の話を聞いて、そういえば、と父さんも思い出したようだ。……というか、人は単独では生きられず、自分達が作り上げた社会に護られることで生きていける、だから自らの所属する社会について学び、立ち位置を理解し、自分達が親の世代になった時に、自分達を護る社会を次の世代に引き継げるようにしていく、それが人の生き方だと。


そんな風に、裏手に住んでるお爺ちゃん達が教えてくれたんだよね。ミア姉からの質問が、幼い頃の僕にはよくわからなくて、それでも、何とかしたくて、よく相談に乗って貰ってた。今から思えば、上手く答えに辿り着くように導いてくれていたんだとわかるけど、当時は知恵熱を出すくらい一生懸命考えて、答えに辿り着けたと大喜びしたものだった。


「街エルフはそのあたりは徹底してますが、同じように長命な竜族も同様の方針で教育しているというのは、興味深いお話でした。社会が分業体制で構成されるという点では、人族か、それよりずっと寿命の短い小鬼族であれば、アキ様の住んでいたあちらの世界に近いかもしれません」


ケイティさんの言う通り、社会が複雑化、高度化していく中、限られた時間で結果を出していくためには、分業化はどうしても避けて通れない話と思う。でも、社会が与えてくれるものを当たり前と思い、皆が権利ばかり主張し始めたら、皆で支え合う社会は、その基盤が崩れ去ってしまう。


まず自分で立つ自助があり、そして単独では行えない作業を共同で行うことで達成する共助があり、そして、それでも手が届かない巨大事業や仕組みは公助が担う。また、怪我や病気で自力で立てない時には他が助ける、という仕組みも公助でないと難しい。


あー、そっか、僕もそういえば、このあたりの話はミア姉と色々と話したことがあったんだった。


「それ以外には何を話したんだい? 雲取様は雌竜達の取り組みに何と話していた?」


「紅竜さんが、初冬に行った宣誓の儀で、最後の集合写真を自分だけ撮影して、他の子達から顰蹙を買った話がありましたよね。それで――」


僕は、ワンシーズンかけて、紅竜さんが色々と面倒なことを率先して引き受けることで、他の雌竜達への借りを返したという話をした。とりあえず現時点では貸し借りなしということで、障壁研究の件は紅竜さんが最初に参加して、以降の話の進め方は彼女に一任する、と決まったことも。

他には、雲取様とざっと意見交換した感じだと、彼女達の研究への取り組みには好感を持っていて、特に懸念事項とかは無さそうだった、と話した。


雲取様が彼女達を誇りに思いつつも、仲良くして欲しいと思い、それが見果てぬ夢と達観し、しかも、何故か、妙に全員が結託して、逃げ道を塞いでくる時もあって、異性は永遠の謎だ、などと青年っぽく悩んでる、なんてところは秘密にしておいた。一般化する話でもないし、雲取様のプライベートだから。


「ここに来ている竜達の間で貸し借りが無くなったのは嬉しいけれど、共同で作業をする習慣がない竜族、上の世代になればなるほど、ドロドロした貸し借りが絡まってそうね」


母さんが、なんとも面倒臭そうな予想を話した。


雲取様が教えてくれたように、獲物を見繕って繋ぎとする件を伝えたけど、リア姉がそれだ、と顔を顰めた。


「アキ、それって物々交換の弊害と同じだよ。何にでも交換できる貨幣という仕組みがないから、誰かとの貸し借りを他の何かで代替することができない。それに自前でやるのが基本だから、借りを返すタイミングも少ない。きっと、貸し借りの不良在庫が積みあがってる。次、福慈様だったね。そのあたりも聞いておいて」


リア姉がなんとも聞きにくい話を振ってきた。うーん、他人の貸し借りに首を突っ込むのは面倒臭いだけで良いことないと思うんだけど。


そう思ったら、ケイティさんが僕の内心を読んだようで、別の切り口を教えてくれた。


「アキ様、こう考えてみては如何でしょうか? 今後の交流は彼ら竜族にとってもチャンスなのです。新たな取り組み、これまでにない手間がかかり、時間も取られる、娯楽として楽しめる事ばかりでもないでしょう。でも、それを率先してこなせば、他の竜への借りも返せる、そう考えられませんか? 聡い竜なら、きっと興味のある話に率先して手を挙げて、興味と実益を兼ねようと動き出すでしょう。きっと福慈様であっても同じです。確か、怒った福慈様を止める者も殆どいない、と話されていたので、感情が抑えられずに後から詫びた、そんな事もあったのではないでしょうか?」


おー、なるほど。上手く伝えれば、能動的に活動してくれる竜達も増えそう。そして、そんな風に貸し借りを解消していく先行組を見れば、気乗りのしなかった他の竜達も釣られて動きだすと思う。


それならば、と話の流れをざっくり考えて、皆の意見やこれまでの話題も再確認して、福慈様との心話に備えることにした。コロっとやる気を見せた僕の様子に苦笑いしながらも、皆も色々と考えを話してくれた。


さて、これで準備は良し。時間はちょっと遅れたけど、残り時間は十分にある。

僕は、スタッフさんに、福慈様の所縁ゆかりの品をセットして貰い、心話を始めた。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。

雲取様から、竜族の子育てについて一部を垣間見ることができました。また、彼らの貸し借りに関する風習についても。紅竜もちょっとしたことのつもりが、思ったより他の雌竜達の反発が大きかったようで、借りを返すのに苦労してました。まぁ、アキはちょっと話題に出てて聞きかじった程度なんですけどね。今後、竜族との交流が増えれば、こういった彼らの俗な部分も見えてきて、親近感を増す人も増えるかもしれません。竜神子達からすれば頭の痛い話でしょうけど。

それと、今回の一連の心話ですが、フォロー要員がハヤト、アヤ、リア、ケイティと揃って街エルフか、そこで育った人なんですよね(笑) 後日、エリーあたりが文句を言ってくることでしょう。

次回の投稿は、五月九日(日)二十一時五分です。


<雑記>

アメリカでは、七月末までに全人口の七割にワクチン接種を終えるという目標を立てたようです。ワクチン接種者の割合が五割を超えると、大幅な感染減少効果が期待できる、とのことですから、上手く行ってくれるといいですね。その結果を見れば、日本もワクチン接種の流れが加速するでしょう。

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