13-7.雌竜達との心話(前編)
前話のあらすじ:連樹&世界樹の呼びかけが弧状列島全域に響きました。なんでも一時間ほどずっと揺れ続けてたそうで、船酔いのような感じでダウンしている人も随分多く出たようです。連樹の神様は「人に影響はない」と言ってたけど、そのあたりの認識のズレは今後も気を付けていかないと不味そうです。(アキ視点)
白竜さんとのちょっとした心話だったけど、白竜さんからも、心を触れても問題ない、それに以前より少し心から焦りが減った感じがして良い傾向、と認めて貰えた。
そこで、雲取様と相談した結果、雌竜の皆さん、雲取様、福慈様の順に心話を行い、情報交換と、僕の心を多面的に捉えて評価する流れとなった。
白岩様は直接話すのを好むので除外、他に心話をした成竜さん達は比較できる程、交流してないので、やはり除外となった。
心話の順番は、雌竜の皆さんの取り組みの状況を把握した上で話したいという雲取様の意向と、難度の高い福慈様はラストという判断で決まった。
あと、ケイティさんとの心話は竜の皆さんの後となったけど、それは僕の心が平穏である事が前提となる為。竜達から一通り問題なしと判断されてからの方が確実、と安全側に倒した判断によるものだった。……魔力差があるとそこまで気をつける必要があるのかと驚いたけど、それでも多くの魔導具による保全機構があるから試せるようになったそうだ。僕やミア姉のように、相手との心の距離を調整する技は、その道に特化した魔導師でも無ければできない秘儀レベルで、それができる事を前提とはできないと諭された。何とも大変だ。
◇
別邸に増築された心話魔方陣を設置された部屋に行き、ケイティさんに、所縁の品をセットして貰い、久しぶりに心話スタート。
最初は紅竜さんだ。
<紅竜様、お久しぶりです>
<うむ。だいぶ良くなったようだ、どれ……>
心を触れ合わせた紅竜さんは、スキンシップをするように、心を触れ合わせながら、いろんな感情を送ってきて、それに対する僕の反応を観察してて、満足そうに頷いた。
<以前に比べると、焦りが少し減ったか。落ち着きも出てきたかな? 良い傾向だ>
目の前にいたなら、膝の上に乗せて、抱きしめて、頭まで撫でてやるー、って感じに、言葉にしないで、敢えて僕の反応を見ながら愛でる、そんなことを紅竜さんは続けていた。
あー、嬉しいんだけど、気恥ずかしさも大きい。
<あ、あのぉ、紅竜様? 何か心境の変化とかありました?>
<ん、白竜が以前、アキのことを幼い子のようだ、と話していただろう? それで、母や身近な成竜達に、話を聞いてみたのだ。すると、幼竜が悲しんだり、沈んだりしている時は、言葉で諭すのではなく、寄り添って、落ち着くまで一緒にいてあげるのがよい、と教えて貰ったのだ。それで、どんなものか試してみた>
なるほど。
それなら、猫を構い過ぎて怒られる飼い主のイメージも渡しておこう。構って、と寄ってきた猫が満足したのに、満足したよ、もういいよ、というメッセージに気付かないで、構い続けた結果、引っかかれたり、噛みつかれたりするパターンだ。
<ほぉ、サインを見逃すな、か>
紅竜さんがもっと小さい頃、幼竜達の面倒を見ていた時に、途中からウザがられたことがあって、なんでか疑問だったけど、その謎が解けた、って感じの記憶にも触れることができた。
紅竜さん、真面目に対応してたけど、やり過ぎて、反発されたと。
うん、なんか、その光景が目に浮かぶようだ。
<はい。今日はスケジュールが詰まっているので、手短に近況を伝え合う形とさせてください>
<わかった、わかった。私もどうもやり過ぎて、幼竜に嫌がられることも多かったから、少しずつ触れていくようにしよう。ところで近況だったか>
<確か、白竜様と一緒に、召喚術式の改良をするために連樹の社に通い始めたんですよね>
連樹の社で、召喚体を診て貰ったり、術式の確認をすることで、改良ポイントが見えてくるんじゃないか、と期待していたんだよね。
<まだ、新たな発見と呼べるほどのことはないが、興味深い事はあったぞ。連樹の神が普通の召喚体を観たいと言ってな>
<あれ? でも、社は皆さんが降りるには狭いから、小型召喚体で訪問してたんでしょう?>
<そうなるがな、言葉で伝えるより、その時の記憶に触れたほうが早いだろう>
そう言って、紅竜さんが渡してくれた記憶は驚くべきものだった。降りるのに狭いのなら、社の敷地を広げればいいと、連樹の樹々が地面に術式で働きかけて、液体のようにして、社を囲んでいた樹々全体が波打つように動き出して、社の敷地を拡げちゃったんだ。
映画みたいに、根が手足のように動いてって感じじゃないけど、地面がプリンみたいに波打って、樹々が少しずつ動いていく様はかなり面白かった。
<凄いですね。それじゃ、今後は通常サイズの召喚体でも訪問するんですか?>
<その予定だ。通常の召喚体と、小型召喚体、それに妖精族の召喚体を見比べることで、改良点も見えてくるのではないか、とのことだった>
なるほど。というか、いくら連樹の神様だって、召喚体なんて見たこともなかっただろうから、研究組の誰かが一緒に行って説明したりしながら、理解を深めていって貰うことになりそうだ。
他には、今日の呼びかけでは心が揺さぶられ続ける経験をしたけど、どんな影響が出ているのか、白竜さんと互いを竜眼で観察なんかもしたそうだ。衝突することもあるみたいだけど、仲がいいね。
時間がないから、そのあたりは白竜さんに教えて貰うことになった。
心話を終えて、話した内容をざっと伝えたところ、連樹の社の敷地拡張の件について、補足情報を教えて貰えた。
何でも、敷地は確かに広がったものの、敷地が波打ってしまい、参道の石畳が歪んでしまったそうだ。それをたまたま、学ぶために来ていた鬼族の研究者が見て、均す作業をすることを申し出てくれた。
そして、翌日には鬼族の職人達がやってきて、石畳の敷石を丁寧に取り外すと、空間鞄から取り出した大きなローラーを使って、転圧して平らに均して、石畳を敷き直して体裁を整えてくれたそうだ。
しかも、その際に地盤の確認もして、今後は鬼族も頻繁に詣でることになるから、と、重量を考慮した地盤改良や参道の拡張まで話が広がって、今は改良計画を練っているところだとも。これからの互いの交流が進むことを願い、工事費用は連邦が出すと大判振舞い。それに、手は貸すがあくまでも設計、意匠といったところは連樹の民が主導だ、とも。これには連樹の神官達も感服して、鬼族への苦手意識もだいぶ薄らいだらしい。
◇
さて、次は白竜さん。
どうも、幼竜向け対応の話は白竜さんも聞いてたようで、紅竜さんと同様、白竜さんが満足するまで、じっくりと心の触れ合いを満喫することになった。
<ん、穏やか>
白竜さんは、手慣れた感じで、白竜さんと触れ合う、という点に僕が満足したタイミングで、さっと会話する状態に戻してくれた。見事な手際で、ちょっと驚いて、そろそろ終わりにしよう、と僕から切り上げた紅竜さんとのやり取りの記憶を渡すと、彼女はふぅ、と溜息をついた。
<紅竜は不器用だから、よく幼竜に蹴られてた>
離せーって、感じかな。白竜さんはそのあたりの加減が絶妙だ。
<白竜さんは慣れてますね>
<私は生まれた時期の関係で、幼竜達の面倒を見ることが多かったから>
ふむふむ。白竜さんは他の雌竜達より体が小さいとは思ったけど、生まれたタイミングも少し遅い感じっぽいね。
僕は、紅竜さんに聞いた、呼びかけの時に観察し合った件について聞いてみた。
<えっと、今日の呼びかけで紅竜さんと竜眼で観察し合ったと聞きましたけど、どうでした?>
<精神体が小さく揺れ続けて面白い経験だった。私より紅竜のほうが揺れてた。巣の周囲の樹々も観たけど、紅竜に近い大きさの木のほうが揺れてて、小さな樹々は揺れが小さかった>
ふむ。
<呼びかける対象の大きさを絞ってる感じでしょうか。地震の波みたいですね>
僕は、地震の揺れの周期に合った建物は揺れが大きく、そこから外れた建物は揺れが小さい例についてざっと説明してみた。台の上に長さの違うビルの模型を置いて、台を揺らして揺れの周期に合うと大きく揺れる実験の様子も伝えると、白竜さんは興味深そうにそれを観察してた。
<似た話と思う。その周期というのが今回は長かったけれど、それが遠くまで呼びかけが届いた理由かもしれない>
他にも色々と試したそうで聞いてみたけど、早く飛ぶ時のように全身に意思を通せば、気にならない程度の揺れだったそうだ。僕が体術を学んだ時もそうだけど、漫然と体を動かすのではなく、指の先に至るまでしっかり意識して動かすと、動きの質が良くなるんだよね。ただ、竜族の場合、そうすると耐性も上がるっぽいから、それは種族差なんだろう。
他にも、竜の咆哮とは声の出し方がかなり違うけれど、工夫すれば似たような形で遠くまで届かせることができるかもしれない、とも話してた。ただ、その場合、声というよりは、直接心に響く思い、意思といった感じになりそうとも。
そんな感じで、白竜さんとの心話もとても楽しく行うことができた。
心話を終えて、皆に話した内容を伝えたら、竜の呼びかけを試す際には、広範囲に届くことを想定して、根回ししておかないと、五月蠅いと言われかねない、と懸念が出てきた。銃弾の雨の時代だって、銃撃の音にカチンときた母竜達が怒りのままに多くの都市を灰燼と化して終わらせたくらいだし、騒音問題は確かに気を付けないと不味そうだ。
ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。
竜達との心話が再開となりました。心話の特徴でもある、言葉を介さない意思疎通、その利点が大きく出た交流でアキも大満足といった感じです。
今回は全雌竜との交流をしますが、これまでの話をチェックしてて気付いたのが、緑竜だけ、まともに会話したシーンがなかった、ということ。こんな話をしたよ、という記述はあったんですけどね。
今回の呼びかけでは、緑竜の趣味とも会う昔話にも触れられるので、ちょうどよかったです。
やはり七柱もいると手が回らないですね。
次回の投稿は、四月二十八日(水)二十一時五分です。




