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13-5.超音速巡航《スーパークルーズ》(後編)

前話のあらすじ:小型召喚の竜+妖精による観測飛行には、いろいろと問題があることが見えてきました。飛行機の操縦席に沢山の情報が表示されるのも意味あってのことと痛感させられましたね。(アキ視点)

次は、自然回復範囲内での最大巡航速度の計測だ。予め、どれくらいか把握しておかないといざという時危ないから、先に調べておく意識は大切だ。


「アキ、これからの試験について、確認しよう。私は雲取様に高度、方位の変更には力を割かず、加速することだけに専念するよう伝えるよ。加速に伴って、強化術式や障壁の展開もあるだろうけど、あくまでも高速飛行に付随する対応に留めるように、とね」


「僕はお爺ちゃんに、椅子ハーネス)を含めた風除けの障壁展開とか、高速飛行に付随する補助術式の使用のみとする事を伝えれば良しと」


互いに予め決めていた内容を復唱してから、青の旗を立てて、相手に内容を伝えて、認識のズレがないことが確認できた。


それから二十分程して、ちっちゃな雲取様は、高速飛行の予定空域に到着し、予定通り、ひたすら加速を始めた。


おっと赤旗。


<加速は順調、遊覧飛行時の速度を突破、風除けの障壁も問題なしじゃ>


<こちらも、魔力の減りはまだ感じられないよ>


すぐ返事をするから旗の上げ下げが忙しい。


「徐々にスピードを上げてくんだね」


「事前に急加速はしないように、とお願いしてるからじゃないかな。緊急時を考えると、最高巡航速度の把握も必要だけど、限界加速度も計測したほうが良さそうだ。そちらは今回の機器とは別に加速度だけ計測できる頑丈な魔導具だけにして、計測して貰おう」


そう話しながらも、リア姉か赤旗を挙げながら、そのまま雲取様の言葉を話した。


「早足程度の飛び方だが、胸元あたりの空気抵抗にだいぶ違和感がある。それに我の展開する障壁と、翁の展開する障壁にどうも強度や性質に違いがありそうだ」


ふむふむ。おっと、こちらもお爺ちゃんからだ。師匠とベリルさんにも伝わるように、僕も言葉をそのまま、話していく。


「以前の倍くらいの速さかのぉ。展開している障壁じゃが、形状のせいか、圧力のバラツキが大きくなってきておる。強化はしたが、これまでに経験したことのない風速じゃ」


そう伝えると、師匠が少し待つようにハンドサインを出し、暫くして考えを口にした。


「古典魔術はイメージが全てだ。竜族と妖精族ではどちらも空を飛ぶが、高度も速度も大きく違う。竜族の早足でも、妖精族からすれば全力飛行よりずっと速いんだろう。それに障壁も普通は球状なり、板状なり、簡単な形だ。今回は空気抵抗低減のために複雑な形状で展開してる。普段より複雑な形状と、経験したことのない風速、それが未知の問題を引き起こしてる、そんなところじゃないかね。ヤバそうなら中止するよう伝えておくれ」


ではっと、あれ? なんか魔力が減り始めてない? というか、こちらが考えてる間も加速し続けてたんだから、ある意味、予定通りだ。


「ミア姉、減ってない?」


「減ってるね」


僕とリア姉は青の旗を立てて、魔力が減り始めた旨を伝えた。直ぐに返事が返ってきたけど、結果は予想通りだった。


「駆け足程度まで加速したが、普段よりかなり加速が鈍い。胸元の椅子ハーネス)が大きな抵抗になっている。それに我が展開している障壁と、翁のそれの境界部分で風の流れが歪んで、時折、揚力が失せる感じで危ういな」


「圧力の高い部分に合わせて障壁全体を強化してたんじゃが、そのせいで魔力消費がだいぶ跳ね上がってしまった。すまんが、例の風洞実験をして、雲取様を含めた全体形状や障壁の強度設計をし直してから、仕切り直しじゃな。儂らには高速域に関する知識が足りず、このまま続けるのは危険じゃろう」


雲取様、お爺ちゃんのどちらからも懸念が出たから、師匠の合意も得て、高速度巡航試験は終了、その次の限界までの加速試験も延期の連絡をいれた。


おや、リア姉が赤の旗だ。


「まだ時間は余裕がある。今の状態を竜眼で観察した方が得るものが大きいのではないか?」


雲取様の言うのも尤もだ。


お爺ちゃんに聞いてみると、安全寄りに倒した判断で話してたから、別に何回か試しても問題はないとの事。


師匠も、仕方ないと頷いてくれたので、雲取様には一度戻るよう伝えて、僕はスタッフさんが用意してくれた心話用魔法陣に移動して、白竜さんに繋いでみた。


<白竜さん、お久しぶりです>


<ん、お久しぶり。何かあった?>


僕は、今回の高速度巡航試験の空域や、発生した問題点についてざっと話し、白竜さんに並走して竜眼で障壁の状態の観察をして欲しいと伝えた。久しぶりに触れた心は、猫の反応を伺う飼い主のようでもあり、触れた感触から、安心する温かい気持ちも一杯で嬉しい。


<わかった。これから第二演習場に行く>


ちょっと待ってて、といった軽いノリで、白竜さんは快諾してくれた。


と言うか、呼ばれるかもしれないからと、近くでスタンバってたね、これは。楽しそうな気配も隠さず、真っ直ぐ飛んでくる白竜さんがすぐに見えてきた。


「白竜さん、もう少しで到着します。小型召喚の準備をお願いします」


スタッフさん達に合図すると、皆が慌てて動き始めた。ちっちゃな雲取様と、白竜さんの到着タイミングが被りそうだからね。


いずれは空母への着艦のように、竜達の交通整理が必要になってきそうだった。





白竜さんが手慣れた手順で着陸すると、すぐに暗闇で覆って、小型召喚を実施。ちっちゃな白竜さんが識別用の宝珠を身に付ける頃には、ちっちゃな雲取様も戻ってきた。


着陸すると、スタッフが駆け寄って、座席ハーネスや、計測機器などの確認を始めた。またすぐに離陸するから、あくまでも現状把握に努める感じだね。


白竜さんが、雲取様の近くに位置を変えると、お爺ちゃんは体を固定していたベルトを外し、ヘルメットを脱いで、羽を展開し、こちらにふわりと飛んできた。さすが年の功、気の使い方も自然だ。


「初めての試みじゃが、上手くいかんもんじゃのぉ。速度を上げていくと、常に台風の時のような突風に晒され続けるようで、障壁の強度も今までにないレベルで引き上げざるを得なかった」


ふむ。


妖精界あちらだと、台風が来たらどうしてたの?」


「儂らの家は、枝の内側、葉に覆われた部分にあるから、普通は家に閉じ籠って、過ぎ去るのを待つのぉ。風があまりに強い時は、皆で協力して街全体を障壁で覆うこともあるが、そうしたのは年に一回あるかないか、といった程度じゃよ」


なるほど。


「個人で強い風に耐えるような障壁を展開することはない、と」


っと、雲取様と白竜さんのお話も区切りが良くなったようなので、リア姉と一緒にざっと話すことにした。


「雲取様お疲れ様です。白竜様、この後、よろしくお願いします。お二人から聞いた感じだと、雲取様とお爺ちゃんの展開する障壁がどうも合ってないようなので、白竜様の竜眼で、何が問題か調べて貰えるようお願いします」


<聞いた限りでは、普通の速度での飛行だから作業自体は問題ないと思う>


<揚力が不安定になる時がある。急に体勢が崩れるかもしれないから注意してくれ>


<わかった>


雲取様と白竜さんは問題なし、と。


「計測機器や座席ハーネスの方はどうですか?」


「しっかり動いておる。これまでと同じように飛ぶならこのまま着けておいても問題ないだろう」


技師さん達はこのままで良し、と太鼓判を押してくれた。


「お爺ちゃんは、さっきと同じように障壁を展開するだけなら問題ないと思うけど、改良点とか気になったことがあったら、上で白竜様と相談して、一緒に確認しちゃってね」


「うむ。さっきは障壁の強度のほうに気を取られたが、雲取様も話しておった通り、障壁同士の隙間が生じるのが一番の問題と思えるから、そこを重点的に見て貰おうと思っとる。もっとも隙間は護符を用いねば、塞ぐのは難しいと思うがのぉ」


ほー。


「護符というと、耐弾障壁の護符みたいなやつ?」


「そうじゃ。雲取様が展開しとる障壁は体の表面を覆うタイプじゃ。当然、体を動かせば骨格や筋肉の動きに応じて、体表面も動き、それに合わせて障壁も動く。じゃが、儂が展開しておる障壁はあくまでも、座席ハーネスを覆い、雲取様の胸元との接合面を滑らかにするよう角度は工夫しておるが、あくまでも形状は固定じゃ。片や形が変わり、片や変わらず。それでは隙間もできるじゃろう」


「雲取様の動きに合わせて障壁の形を変えるのは難しい?」


「座っておると視界は当然じゃが固定される。それに常に障壁同士の接点を注視していては、観測の仕事に手が回らんよ。あくまでも今回の目的は呪いの観測じゃ。余計なことは魔導具に任せたほうがいいじゃろ」


そう話していると、白竜さんが意見を口にした。


<隙間は注意してみる。それと場所毎の圧力にも注意するのよね?>


「そうじゃ。形状の問題とは思うが、圧力の高いところとたいして変わらんところがある。高いところだけ障壁の強度を高めるようにせんと、魔力消費が跳ね上がっていかん」


<ならそっちも観てみる>


事前の意見調整もだいたい終わったので、お爺ちゃんもヘルメットを被って、座席に座り直し、僕達もテーブルに戻った。


戻る間際、リア姉が雲取様とちょっと内緒話をしていたので、何を話していたか聞いてみよう。


「リア姉、雲取様に何を話してたの?」


「ストレスが溜まってるだろうから、試験飛行が終わったら、座席ハーネスを取り外して、白竜と一緒に自由飛行の時間を設けるということでいいか聞いたんだよ」


ほぉ。


「それは喜んでくれそうだね」


「加速度計だけ付けて、色々と限界を試してみたいってさ。技師達の了承も得られたから、ついでに白竜様にも付けて貰って、飛んでもらうことにした」


ふむふむ。白竜さんとただ遊んで、だと、残りの六柱が五月蠅いだろうからね。……さらりとそんな気遣いができてしまう雲取様の未来に幸あれ、そう思った。





ちっちゃな雲取様と白竜さんは、綺麗に揃った動きで上昇していき、しばらくして、お爺ちゃんから、準備できたので試験開始する旨の連絡が入った。


ちなみに白竜さんの小型召喚の経路(パス)は、今回は僕に繋がった。さてさて、竜眼で見ると、どんな風に観えるのかなぁ。


む、旗が1組しかないから、どっちの発言か旗だけでは表現できない。

まぁ、口調が全然違うから区別はつくと思うけどね。


それから、十五分ほど、何回か並行飛行しながら観察したところで、白竜さんからの連絡がきた。


<速度を上げると、隙間が風を巻き込んでおかしな空気の渦が生まれて、翼に対する空気の流れがかなり乱れてる。左右に違いあり。圧力は前方中心が高い。隙間のせいで座席ハーネスを支えるフレームにもおかしな力がかかっている。そろそろ止めたほうがいい>


結構内容が多いから、途中から、赤旗を立てたまま、白竜さんの言葉をそのまま、話して皆に伝えた。


師匠も、フレームの強度実験はまた別の機会だよ、と中止を決めたので、リア姉もそれに頷いて雲取様に中止を伝え、僕もお爺ちゃんに連絡を入れた。


「次に繋がる貴重な情報が多く得られたね」


座席ハーネスの記録機器で確認するだけじゃなく、並行飛行してる竜が、竜眼で障壁やフレームの歪みまで確認してくれるなんてことまでしてくれたんだ。普通の開発ならあり得ない極上な試験体制、なら、技術者達もそれに見合った成果を出さないとね」


リア姉は、ドワーフ技師達に聞いた話を伝え、試験は終わって戻ってくるから、受け入れ準備をしつつ、質問したい内容はできるだけ簡潔に纏めておくよう指示した。


「簡潔に?」


「観察した内容はできるだけ白竜様から聞いておきたいけど、二人の時間を邪魔したくないだろう? 馬に蹴られたくないし。翁から聞ける話は後で聞けばいいからね」


などと話すと、ドワーフさん達もそりゃそうだ、と大笑いした。


それからしばらくして、ちっちゃな雲取様と白竜さんが降り立つと、座席ハーネスの取り外しと、加速度計の入った背負い鞄を付けて、その作業の間に、白竜さんに聞き取り作業を行っていた。


時間短縮したい両者の思惑は合致し、今すぐ聞き取りたい内容を書き留めると、ドワーフ技師さん達は笑顔で、二柱を加速限界計測と言う名の自由飛行へと送り出したのだった。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。

さて、そんな訳で小型召喚の竜による巡行飛行は、魔力制限なしで加速し続けられるんだから、超音速巡航スーパークルーズくらい余裕だろう、という大方の予想に反して、亜音速までも届かず実験中止となりました。

天空竜の身体形状からして、そもそも超音速飛行に向いてない、というのもあったり、彼らが獲物を吊り下げて飛ぶ時は別に速度は気にしないし、といったように、今回の取り組みは、過去に経験のない新たなものでした。

まぁ、本編でも語っている通り、試験機を飛行させつつ、超精密分析を並行飛行しながらリアルタイムに行うなどという、航空機開発の歴史からすれば、チートだよ、としか言いようのない突き抜けた分析体制・能力のおかげで、改善も劇的に進むことでしょう。

それと、多人数を同時召喚する場合の問題点も浮かび上がってきました。経路(パス)は召喚者たるリア、アキとしか繋がってないためにどうしても二人がボトルネックになってしまいます。まぁ距離を無視して通信できる利点を考えれば、それくらいの問題は仕方ないとこではありますが。

次回の投稿は、四月二十一日(水)二十一時五分です。

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