第十二章の施設、道具、魔術
十二章でいろいろと施設や道具、魔術が登場したので整理してみました。
<訂正>
あと、「第十二章の登場人物」について、鬼族の女衆(王妃達)、セイケンの妻と娘、ロングヒル宰相ザッカリー、樹木の精霊達の項目追加、アヤの記述修正をしました。
◆施設、機材、道具
【防空施設】
大切な大型帆船を守るため、巨大な船体全てを覆い、更に山に偽装することで攻撃対象と認識されないようにする、そんな狙いで建造された施設だった。ただ、そんな街エルフの思惑とは裏腹に、竜眼を使って観察した雲取様は「山に穴を掘って暮らすドワーフみたい」と評されるなど、隠蔽効果があったかというと微妙であることが判明した。本物と書割くらいには明確に認識されたと言える。膨大な手間と費用をかけて建造したが、維持派はこれで大きく劣勢に立たされることになるのは間違いないだろう。
【街エルフの城塞都市】
建物の屋上には樹木を植えて、城壁部分にも樹々を植えることで、山に偽装した城塞都市は、街エルフが天空竜に襲われる可能性を少しでも低くしようと工夫した結果だった。ただ、雲取様も竜眼で見て、面白い都市だ、と言ったように、欺瞞効果があったかというと微妙だった。まぁ、ほんの僅かであっても低減させる、という趣旨なのだから、効果ゼロだったということはないだろうが……。
【新兵訓練施設】
広大な敷地を持ち、周囲と隔離されたまるで収容所のような作りの施設である。毎年、新兵達がここに放り込まれて、必ず一人前になって出てくる場所であり、街エルフの精神「できるまでやらせる」が形になった施設と言えよう。訓練が完了して出てくるまでの期間は人によってまちまちだが、訓練期間は数年といったところが定番のようだ。腕利きの人形遣い達の警戒訓練施設も兼ねており、脱走者が出ると、人形遣い達はレアイベント発生を喜び、脱走者が精魂尽き果てるまで追い掛け回してから、捕縛しているらしい。新兵以外にも放り込まれる者はいるが、そういった者が放り込まれるのはそれなりの理由があるからで、そういった者達はなかなか訓練完了とならないようである。
【「死の大地」浄化杭】
当初は五本一組で五芒星を形成するように打ち込んで、範囲内を浄化し、そこに連樹を植えて、連樹が森を形成することで浄化完了という想定だった。しかし、連樹は大量の陽光を必要とするため、呪いで日が遮られる状態では、植樹しても育たない。そのため、ある程度浄化して、呪いが薄らいできてから、植樹という流れになった。
【滑空翼+誘導機構+軟着陸用機構】
浄化杭に取り付けて、高高度から投下すると、滑空することで飛行距離を稼ぐ翼である。「死の大地」の呪いの外から滑空翼付の浄化杭を投下することで、呪いに触れることなく、目的地点に浄化杭を投入する目論見だ。目的地点に何らかの方法で誘導する機構を搭載、更に着陸時の衝撃を和らげて軟着陸を可能とする機構も搭載、と複雑なシステムとなる。しかも、呪いに汚染されるので基本、使い捨て。そして、呪いの領域内でも想定通り動作する頑健さが求められる。求められた仕組みは明確だが、確実に動作するようかなり念入りな試験が必要となるだろう。
【「マコトくん」の依代】
世界樹の枝を素材として作る依代であり、最高の人形遣い達の手によって作られる木人形の形となる。神が降りるのに耐えうる強度を期待されており、実際、使われている素材からすれば、普通は十分に耐えられる、と認定されるレベルなのだが、今回は短期ではなく、長期の使用を目指しているだけに、その質がどれだけ必要なのか、誰も判断できていないのが実情だ。その見極めには「マコトくん」自身はもちろん、竜族や連樹の神も加わることで、慎重に判断されることとなるだろう。
【声を拾う魔導具】
言葉を遠くに届ける術式もあるが、この道具は、拾った声を全方位の広い範囲に等しい強さで放つところに特徴がある。地球のマイクなら、スピーカーが必要となるところだが、この術式はあくまでも、声を届ける術式を全方位かつ、一定範囲に行う、というものだ。なので近くの人が耳を塞ぐような事態にはならない。便利なものである。ただ、アキやリアが触れば当然壊れるので使えない。
【海外から持ち帰った所縁の品】
高位存在と思われる者の所縁の品を、船団はそれなりの数、持ち帰ることに成功した。渡した側からすれば、貴重でありがたい品をそれなりの対価を払って渡した、といったところだろうが、それを元に、直接、接触が図られるだろう、などとはあまり考えていないに違いない。神器級は当然、入手できておらず、それより一段、二段落ちた品だからだ。ただ、対象となる存在については事前調査を念入りに行ってからでないと、とてもじゃないが怖くて使えないのも確か。なので、高位存在との接触に使われるのはしばらく先のことになるだろう。
【妖精用識別宝珠】
一割召喚された妖精達が互いを識別し、周囲の人々にも感知されるために魔力を込めた宝珠である。妖精自身は妖精界にいるので、魔力を込めることができないため、特徴的な魔力を持つ術者達が魔力を込めることで、識別できるようにした。そのため、竜用のそれとは違い、他との区別には使えるが、妖精自身の魔力を感知する、といった用途には使えない代物だ。妖精界にいる本体の情報をもとに、こちらで欺瞞用の魔力を疑似生成する話が運用できるようになるのは当分先になるだろう。
【小型召喚竜用識別宝珠】
連樹の森を覆う空の結界、そこを通過するための識別宝珠である。識別が正しく行われれば、予め登録した相手の訪問を告げる通報が放たれ、そうでない対象と認識されれば、警報が放たれることになる。皆で使いまわしても良いのだが、それだと個体識別が面倒なので、訪問する竜については、全員がそれぞれ、識別宝珠に魔力を込めて、それを身に付けて飛ぶ決まりである。そのため、魔力は変動しないものの、本体と同じ魔力を帯びた宝珠なので、遠くからでも識別できるようにもなった。
【連珠の参拝用の宝珠】
境内に入ってくる者の個体識別に使っており、参拝者は必ず奉納する決まりだが、参拝者が増えていけば、そのような運用はいずれ限界を迎えるだろう、とユリウス帝から指摘があった。ただ、どの程度、増えていくのかも見えていないので、代替案検討は、増加率が見えてきてから考えることになるだろう。
◆魔術、技術
【浄化の魔方陣】
範囲内の呪いを浄化する術式である。通常は、五芒星状に発動用の杭を設置して、囲まれた範囲を浄化する、といった使い方をする。あるいは杭の周囲を浄化する、といったパターンでもよい。いずれにせよ、呪いの起点を潰している訳ではないので、浄化しても、呪われた空気や水、人や物が流れ込んでくれば、浄化された土地もまた汚染されてしまう。なので、呪いの起点を潰すのと、地域の浄化はセットで行わなくてはならない。
【浄化術式】
対象に対して、何らかの変化を施す術式である。今回は、「死の大地」の浄化に向けて、地脈から汲み上げる魔力に対して、呪いによる汚染を除去する、といった専用術式が用意される予定だ。地脈に対する汚染は、呪いの強度としては薄いので、浄化自体は簡単にできる。ただ量が多いので弱い呪いを延々と浄化し続ける、そんな工夫が必要となる。
【呪いの起点潰し】
呪いの起点となる品(あるいは建築物)を破壊することで、呪いを崩壊させるというもの。例えば、呪われた宝石なら、宝石そのものを粉砕すれば、呪いは効果を失う。砕く場合、砕き方によっては少し残るかもしれない。建物なら、建物として成立しないレベルで破壊すればよい。丁寧に解体して、他の場所で組み立て直したりすると、呪いが持続することもあるので要注意。起点が生物、例えば術者自身の場合なら、術者を殺害することで呪いを崩すことができる。……ただ、高位の術者の場合、自らの死を発動条件として、自らの死体自体を呪いの起点とする、といった悪あがきをしたりするので、単に殺害すればいい、とは思いこまないほうがいい。呪い自体を感知し、その分析を行える高位の魔導師や神官が呪いの状態を確認するよう、慎重に対処したほうがいいだろう。
【熱線の術式】
神子候補達の前で実演行動をして見せたように、高温の熱線は対象を焼き貫く効果を持ち、その速度は矢などよりも圧倒的に速い。その速度は対弾障壁の展開よりも速いため、障壁が展開される前に対象を貫通することになる。妖精達は通常は、投槍のほうを使っているが、それはこちらの術式は手加減が難しいため。弱くしたら対象を少し温めるだけ、照らすだけとなり意味がないからだ。
【召喚体の服飾】
基本的に召喚体は、召喚した際のイメージから変わることはない。翁は服を着てない状態で召喚されたので、こちらでシャンタールが用意した衣服を着ているが、他の召喚されている妖精達は、情報量節約のために服も含めた簡易召喚体として構成されているので服を重ね着することはできても、脱ぐことはできない(し、その必要もない)。しかし、今回、鬼族の女衆テルからの依頼で、妖精族の服飾を見たい、と要望があったので、簡易召喚体を改良して、服飾を変更できるよう工夫してくるだろう。
【真冬の北風】
厳冬期の数分で体温を奪って死を齎す北方からの突風を模した戦術級術式。あっという間に凍りついて、寒さ対策をしていなければ体がまともに動かなくなってしまう。今回のように表面に霜が降りる程度で解除されれば、歯の根が合わなず身が凍るような経験だけで済むだろう。
【真夏の熱風】
真夏の肌をジリジリと焼くような日差し、それによって加熱されて陽炎が浮かぶほどの熱風を模した戦術級術式。熱さ対策をしっかりしていなければ、すぐに火傷の症状に見舞われることになる。金属鎧などを着ていたら、手酷い火傷を負うのは確実だ。今回のように短時間であれば、肌が焼かれる感覚と体表面の火照り程度で済むだろう。
【アキの意思を載せた発言】
アキが言葉に意思を載せて話すと、それは力を持った効果を持つようになる。師匠のソフィア曰く、思念波に近い、と言っており、受け手の心、魔力に直接働きかける効果が出る。神子候補達に対して使用を許可されたのは、アキの魔力を感知できないこともあり、そこにいると認識しにくい問題に対処するためだった。アキがそこにいるか疑問を生じても、自分に直接働きかける言葉を受ければ、そこにいる、あるいはそこから放たれた、とは認識できるからである。ただ、その効果は、英雄の演説の如く、心を揺さぶる効果があるので、半端な気持ちでいれば、アキの意思に強く感化されていってしまうだろう。
【呪い/祝福】
一定の地域、生物、道具、建物、血筋など、その内容は多岐に渡る。地域の場合、本編でも触れられた通り、薄暗く、空気が淀み、死の気配に満ちた気配に持たされる、といった感じになる。生物の場合、永続的に体力や精神力が削られ続ける、といったパターンが多い。道具なら負の効果、影響が出る、建物なら、そこに住む者達への不運が続く、といった具合だ。血筋への呪いは特殊で、呪いを受けた本人はもとより、その子や孫、血筋の続く子孫にも呪いが続いていくことが多い。
いずれにせよ、呪いは誰かが何らかの意図で、何かに対して負の効果を及ぼす点では共通している。これが正の効果の場合は、祝福と呼ばれる。
どんな呪いであろうと、どれだけ強力なものであろうとも、年月経過によりその効果は薄れていく。祝福の場合も同様で、何らかの作用、方法によって外から効果を保つだけの魔力供給がなければ、例え神罰であろうと同じだ。
「死の大地」の場合、地脈が歪んで、循環する形となり、外から流れ込んだ魔力が外に出ていかないという特殊な状況になったからこそ、長期間、呪いが保たれてきたのである。
なお、呪いは、相手との経路が確立することで効果が発動する。例えば相手との接触、呪いの刻まれた本を読む、呪いの使い手に見られる、心話で心を振れ合わせるなど。物理的な接触のほうが効果は高いが、何らかの方法で繋がりさえすれば、呪いは例え世界を超えてでも効果を発動する。妖精女王のシャーリスが懸念したように、召喚体経由であろうとも、認識するということは繋がる、ということなのだ。
また、呪いの発動には必ず起点が必要であり、これは魔術と変わらない。そして起点が潰されれば、呪いは効果を失う。なので、呪いそのものを浄化するよりは、呪いの発動起点を潰すのが定番の対処方法となる。もっとも、呪う者とてそれは理解しているので、呪う者がいる場合、起点となる品は見つからないよう隠蔽したり、複数に分けたり、と対策することになる。
なお、高位存在の場合、そもそも低位の呪いや祝福は自動で無効化してしまい効果がない。竜族が低位の魔術を何もせずとも無効化するのと同じだ。「死の大地」は、そんな竜族をして、気持ち悪く、近付きたくない、というレベルなので、生半可な対処では呪われてしまい、ミイラ取りがミイラになるのは確実だろう。
【世界樹の祝福】
世界樹は、森エルフの求めに応じて、草木に対して祝福を与えることがある。祝福を与えられた草木は病気に強くなり、よく生育し、実りが豊かになるという恩恵がある。そのため、森エルフはそれを求める訳だが、あくまでも一時的な措置であり、次の世代にまで恩恵は継続しない。また、祝福され続けると、形質が歪み、祝福なしではまともに育たない、といった弊害もでるので乱発はできない。世界樹もそのことは理解しているので、「死の大地」向けの草木についても、呪いに対抗して根付くまでの一時支援用、と認識している。
【神々による呪いの起点浄化】
アキは、伝手のある神々に対して、浄化すれば、その地域への影響力も増すから頑張ってはいかが?と煽るつもりだが、事はそれほど簡単ではない。十三章でそのあたりは明らかになるが、浄化自体が成功すればいい、しかし、失敗すれば、神の権威が落ちる。神自身が落ちずとも、浄化を試みた神官の権威は落ちる。そのリスクを負って、どれだけの宗派が手を挙げるか。まだ具体的な状況もわからないだけに、初手は様子見とせざるを得ないだろう。
◆その他
【竜の神子に関する紹介冊子】
簡単な説明文とイラストを交えて、わかりやすく紹介するよう作成した冊子。ベリルとジョージを中心に短期間で作成された。わかりやすい内容ではあったが、後に研究者のユスタが指摘したように、この冊子を読んでも、竜族の基本的な生態、社会構造や様々な感性、能力を把握していないと、理解が身に付くとは言い難いものだった。
【竜に関する特集記事】
街エルフ、特に財閥系が定期出版している雑誌に特集ページを載せる方向で調整中。ご当地竜というアイデアがリアから出たが、秋の交流に参加する若竜や、それを受ける神子の選定がまだ終わっていないので、実際に掲載されるのはまだしばらく先となる。
誤字、脱字の報告ありがとうございます。五回、十回と読んでいても気付かないものなのでほんと助かります。
本文での説明と重複して同じ内容を書いても意味がないので、内容は少し別の視点から書いてみました。
次回は、「第十二章に登場した各勢力について」になります。
投稿は三月三十一日(水)二十一時五分の予定です。