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12-34. アキと帝王学

前回のあらすじ:連樹の神様(と世界樹の精霊)との間で、様々な約束を取り交わして、これで、「マコトくん」を降ろす依代創りと、どこに出現するかわからない「妖精の道」探しは手を付けられそうです。先は長いですがまずまずの第一歩でしょう(アキ視点)

ヴィオさんや神官の皆さんが退席し、一時間後まで休憩となり、同行している従者の方々から飲み物を貰ったり、ユリウス様やレイゼン様は、きちんと手順を踏んで、参拝したりと、約束の時間まで、それぞれが、のんびりと過ごしていた。


この後の打合せは実務的な話、調整がメインとなるので、僕はここまでで、帰宅する手筈に。


次元門構築関連を最優先とする事を、連樹の神様、世界樹に対して明言して貰えた事について、皆さんにお礼を言って回ったら、全員を代表してヤスケさんが、困ったような、微笑ましいような表情を浮かべて、勿体つけた言い方をしてきた。


「そうして素直に感動できる心は微笑ましいが、お前も曲がりなりにも代表として仕事を任される身となった。だから、今後は言葉の裏も読まねばならん。戻ったら此度の件を師に話し、教えを受けるがいい」


ふむ。


この場では教えてくれないのか、と思い、見回してみたけど、帰りの馬車で良く考えるがいい、と皆さん、僕への課題と考えているようだ。


「えっと、わかりました。師匠はこの件は把握してるんでしょうか?」


「無論だ。弟子を導くのは師の努めであり、権利でもあると快諾してくれたとも」


ヤスケさんが好々爺の笑みを浮かべた。


めっちゃ怪しい。……怪しいんだけど、ここで真意を聞いても仕方ないし、取り敢えず、課題という事だし、考えてみよう。





急勾配の階段は、相変わらず、遥か彼方、山の裾野にある鳥居や、その手前に停まっている馬車もよく見えて、高層ビルから眼下を見下ろすようで、相変わらず慣れない。


と言うか、高いところを怖いと思うのは自然な反応だ、とか、街エルフになって、視力がよくなった事で、下で僕達を待つウォルコットさんやダニエルさん達の様子まで、よく見えてしまい、余計に不安を強く感じるのだ、とかとか、そんな事を考えながら降りていたので、最後まで心臓がバクバクしっぱなしだった。


「神々との約束を無事に終えられたようで何よりです」


ウォルコットさんが笑顔で迎えてくれた。彼の性格からして、その場に立ち会いたかったと言うかと思ったんだけど、後日、神官の皆さんから詳しく話を伺うのでそれで十分とのこと。


「神官さん達ですか。従者の方々ではなく?」


「従者の方々は、少し慣れてますからな。それよりは、一般目線に近い彼らから聞いた方が面白いのです」


ふむふむ、そんなモノなのか。


ウォルコットさんに促されて、馬車に乗り、課題について考えてみたけど、裏と言っても、優先するから代わりに何かして、と期待されてるとかなら、今と何も変わらないし、うーん。



ちなみにケイティさんもお爺ちゃんも、答えは分かっているようだけど、ヒントも含めて手助け無しとのことで、何も教えてはくれず、結局、これと言う事は思いつかなかった。





普段着に着替え直してから、師匠の家に行き、ざっと経緯を話し、自分の考えを伝えてみた。


「次元門構築に関する研究を最優先にしてくれる、その代わり、これまでと同様、様々な取り組みに前向きに取り組む事を期待する、つまり好意の先払い、って事と考えましたけど、どうでしょう?」


師匠は僕の答えを聞いて、呆れた表情を浮かべた。


「それじゃ五十点だよ。いいかい? それぞれが重視している事柄が違ってて落とし所が見つからない、そんな中で、次元門構築だけは理論すら手探りで誰からもすぐ手が届かない研究、つまりそいつを選べば、どこにも角が立たないのさ。それにアキの希望にも沿い、恩も売れる。すぐに動くだろう人、モノ、金も無さそうなのも都合がいい。そう言う事さ」


師匠が示したのは、彼ら同士という視点。僕は、僕と彼らと言う視点しか考えてなかったけど、僕を取り巻く人々同士の関係や考え、という視点も持て、と。


なるほど。


師匠は自然な仕草で、僕の額に手を伸ばすと、強烈なデコピンを放った。


「痛っ! 何するんですか?!」


「バカ弟子が、面倒臭い、その辺りは皆さんでご自由に調整してくれれば、なんて考えていたからさ」


うわー。



「師匠、心が読めるんですか!?」


「表情に出過ぎなんだ。いいかい、アキにとっては興味が湧かない事でも、当事者たる彼らからすれば、話は重い。いつも当人同士が話し合って合意に至るとは限らない。そんな時に、代表が自分達に意識をキチンと向けて無ければ不満が溜まり、不信に繋がる。そうなってから、取り返すのは容易じゃない。だから、話す相手の視点に立って考える、そんな習慣を身に着けるんだよ」


な、なるほど。


「過程がどうあれ、結論が満額回答ならそれでいいかと思ったんですけど、それだと不味いと」


「途中をすっ飛ばして、気にしないのはアキや話に聞くミア殿の得難い資質だがね。常にそれでは問題になる。事が財閥や共和国だけに閉じた話なら、ミア殿のように、面倒な話は全部、家令任せでも良かったさ。だが、アキのこれからの立ち位置は、家令の手には余る話だ。実務は家令やスタッフ達に任せればいい。それでも、何をするか、どの方向でどれくらいのペースで進むか、大まかなところは、アキが示すんだよ」


むむむ。


面倒だけど、確かに下に着く人からすれば、上の向く姿勢が分からないと動きにくそうだ。


「理解しました。御指導ありがとうございました」


お礼を言うと、なんか師匠がブスッとした顔をした。


「私はアキの魔術の師匠なんだがねぇ。余計な仕事まで押し付けて、ヤスケ殿も嫌味な御仁だよ」


あ、あれ?


「えっと、弟子を導くのは師の役目であり権利だと聞きましたけど」


「子を導くのは親、ただ、親だけじゃ手が回らないから、祖父母や周りの者達も手を貸す、そんな話だよ。大体、さっきの話なら、エリーが受けている帝王学辺りの領分だろうさ」


なんか、体よく押し付けられた、と。


んー。


「でも、師匠、さっきのお話、とても良く分かりましたし、手慣れた印象を受けましたよ」


「そりゃ、支援者パトロンが気持ちよく頷けるように、あれこれ考えるさ。例えば、ロングヒルの王家だ。そこを城に例えて考えてみればいい。正面から力押しで攻略するなんてのは愚策さ。それよりはできるだけ小さな働き掛けで、可能なら相手から城門を開けて、招待されるように手を回すのが上策って奴だよ」


あー、なるほど。結束させて総力戦でガチでぶつかるより、内通させるなり、外交でそもそも戦う選択肢を奪ったりした方がいい、と。


そうなると、今回の件もそのまま利用するのは下策か。


「言質は取った、と今回の件をそのまま掲げて、僕達の研究にあれこれ引っ張るのは、辞めたほうがいい感じですか」


そう話すと、師匠は満面の笑みを浮かべて、ポンポンと僕の頭を撫でながら囁いた。


「そうさ。できれば、相手から、その件を進めましょう、と自発的に言い出して貰いたいもんだね。お前は研究組を束ねる要、そこは上手く立ち回って、気持ち良く、資源リソースを確保するんだよ。アキならできると、私は信じてるよ」


いっひっひ、と何とも腹黒く笑い、師匠は、良い時代になったねぇ、予算確保に苛め抜かれたのが嘘のようだよ、なんて話して楽しそうだった。





後日、エリーに相談したら、真顔で、師匠の話を真に受けるな、と諭され、特例として、エリーが帝王学を学んだという、ザッカリーさんの特別講義をガッツリ受けさせられた。

ヘンリー王よりずっと年上の老齢と言っていい方だけど、背筋もピンとしていて、そこにいるだけで場が引き締まる空気を纏っていた。

話を伺ったところ、ロングヒルの宰相をされているそうで、お忙しい立場だろうに、懇切丁寧に、帝王学のなんたるかを教えてくれた。


ついでに、師匠がこれまでに行った悪行三昧、多くの予算を奪って破綻した研究の数々についても、その手練手管まで含めてガッツリと教えてくれた、というか聞かされた。


そして、万策尽きぬ限り、竜や妖精、大精霊達の力押しを頼んだりしないよう、念押しされた。それらは禁じ手であり、大き過ぎる力は予期せぬ副作用を招く、と重ね重ね、伝えられた。


……師匠が予算の縛りなしとは最高だと小躍りしていた、と話したら、キ○ガイに刃物だ、と目を覆って嘆いていたのが印象的だった。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字、脱字の指摘ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないので助かります。

話のキリがいいので、十二章は今回で終了です。

「マコトくん」を降ろすための依代創り、その材料提供のための「「死の大地」」の浄化。

あれをやる前提で、これをやってぇ、の連鎖だらけですが、それらも関係者の合意を得られたので、次章からは本格スタートです。それと、やっと、ロングヒルの宰相ザッカリーを出すことができました。彼もまた、今後に欠かすことのできないキーパーソンなんですけど、当初予定よりずいぶんと登場が遅れました。エリーの二人の兄王子も、名前付きで登場できるでしょう。

樹木の精霊(ドライアド)達への協力要請もばーんと始まりますし、あちこちで物事が動き出します。やっと起承転結の「転」らしくなりそうです。


次回から三回(三月二十四日(水)、二十八日(日)、三十一日(水))は十二章の設定公開です。人物、施設や道具、勢力の順です。


十三章の投稿は、四月四日(日)二十一時五分ですので、ご注意ください。


<雑記>

献血に行ってきたんですが、今日は採血の針を刺しても始め、血の出が悪く、針を刺したままぐりぐりと動かされる、という経験をしまして、ちょっとドキドキしました。結局、後から呼ばれた腕のよい看護師さんがえいっと深く差し込むと血が流れ出してくれて、後は無事に終えることができましたけど、少し心臓に悪かったです。まぁ特に痛みが強くなるとかはなかったんですけどね。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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