12-28.共和国の立ち位置
前回のあらすじ:様々な活動をしてますが、いざという時は皆に立ち止まって考えるよう、雲取様が注意を払うことになりました。雲取様なら安心です。(アキ視点)
「死の大地」について、公の場では鎮魂と望郷の念を忘れずに、か。
「えっと、そもそも、「死の大地」関連は共和国主導で話が進み、竜と地の種族の交流は、竜神子支援機構と三大勢力が主導、樹木の精霊達との協働は船団や探索者達が主導、統一国家に向けた三大勢力の協力、連携は財閥や共和国が支援する訳ですから、僕の出番はそうは無いですよね?」
現状からすれば、公の場での出番は減っていくと思うんだよね。……でも、雲取様やお爺ちゃんも含めて、全員からそんな訳あるか、と否定された。
「アキ様、確かに実務を担うのはそれらの勢力でしょう。しかし、代表となると、それらだけでは皆が納得しません。例えば、「死の大地」の件では、彼の地に深い縁を持つのは街エルフだけで無く、竜族もいます。なのに片側が主導となれば軋轢を生みます」
マサトさんがそう説明してくれた。うーん、確かに街エルフがあれこれ仕切って、竜にも配慮してますよ、とアピールしても、竜族、特に年配の老竜は反発しそうだ。
更にクロウさんが目を細めて嘲笑って補足してきた。
「つまりな、何処にも肩入れせず、思い入れも無く、その者なら、良くも悪くも公平に舵取りするだろう、と皆が納得する者をトップに据えられれば、場が治まるという事だ。そいつの名が売れてれば、人柄や経歴を説明する手間も省けていい。地位や名誉、金銭や物欲と言う権力者に付き物の欲と無縁で、国政レベルの話を理解し、竜の前にも平然と立ち、大勢を前にしても落ち着いて話ができれば最高だ」
まぁ普通はそんな奴はいないんだが、と底の見えない黒い穴のような目を僕に向けた。
あー、なんか言いたい事が見えてきた。そんな訳ないよなぁって、期待を込めてファウストさんを見たけど、その通りと頷かれてしまった。
なら、雲取様はどうかと見てみたけど。
<確かに「死の大地」の件もそうだが、我らもアキが全体を見て話をすれば、不満もそうはでまい>
う、そりゃ、竜族がいないと話が始まらないのに、そんな彼らが不満を抱える方針なんて絶対ださないけど。
最後の砦、お爺ちゃんを見たけど、やはり希望は打ち砕かれた。
「アキは我が国の名誉市民だからのぉ。今後も友好の架け橋として活躍して欲しいもんじゃ。儂もアキは、何処かに肩入れなんぞせんと思っとる。強いて言えば、ミア殿絡みじゃが、それは財閥とて同じじゃろう。いざと言う時に、皆が気前良く協力してくれるよう、どちらも皆の為に尽力してくれてきたし、これからもそうしていく事じゃろう」
ポンポンと僕の頭を撫でながら、和やかに話してたけど、その目は、宰相さんのようで、更に深みを感じさせるモノだった。
そして、すぐに満面の笑みを浮かべて、場の空気を砕いた。
「儂らは十分過ぎるほど、この半年で多くの恩を受けておるからのぉ。儂も妖精の国も、アキが助けを求めれば、必ず手を差し伸べよう。何よりこちらと繋がり続ける事は、儂の研究に欠かせん。女王陛下達がもし渋る事があっても、尻を蹴飛ばしてでも動かすわい」
我欲直結の締めに、場が笑いに包まれた。
「己の欲に素直で揺るがないコト、それは安心に繋がりマス。翁はこちらとの交流継続、アキ様や我々、財閥はミア様救出。そんな芯がある限り、皆は安心して代表を、要を任せるでショウ」
ロゼッタさんが話を纏めてくれた。
以前、ユリウス様にも言われた事だね。私欲がない奴なぞ気持ち悪くて信用できないと。
◇
「それでは、最後に共和国の活動について話そう。次元門構築の研究は、あくまでも理論段階の検討が多く、一部研究者の活動レベルに収まる。だから、そちらはこれまで通り財閥主導でいい。だが、「死の大地」関連の船団の組織改編、活動支援、列島全域での樹木の精霊探索や連絡網の構築、探査や浄化に関する魔導具の開発、運用は国家レベルでなければ実現は困難だ。共和国単独でも厳しく、三大勢力や竜族、妖精族との連携も不可欠、そう考えてくれ。雲取様は竜族、翁は妖精族、そしてアキは全体を束ねる要としての役目を担って欲しい」
ジロウさんが重々しく告げた。対応窓口としては雲取様、お爺ちゃんはそれでいいと思う。
「僕は全体の方針や方向性、進めるペースについて把握して、必要があれば意見を出して、それと公式行事では挨拶や司会をする感じでしょうか?」
「それでいい。普通なら正気と思えん人選だが、アキを直接知る者なら文句も出まい。コレでもマコト文書の専門家にして、竜神の巫女だからな」
まぁ、知らない人達がアレコレ言うのは、代表の皆さん達に頑張って貰おう。接点のない人達まで面倒なんて見てられない。
取り敢えず、感謝の気持ちは伝えておこう。
「そのような役を任せても良いと判断して頂けた事に感謝します。それと今後ともご指導ご鞭撻を宜しくお願いします。組織運営とか、妖精の国とか、竜族の常識とか知らない事だらけですから」
一人一人を見てしっかりお願いすると、皆さん、ちゃんと頷いてくれた。
<我が地の種族の事を知らぬ様に、アキもまた竜族の事を知らぬ事を忘れぬようにしよう>
「儂も妖精の国や妖精の事を伝え、理解が進むよう尽力しよう。この半年で、だいぶ違いも見えてきたが、それでも毎日のように、新たな気付きがあるからのぉ」
雲取様、それにお爺ちゃんが約束してくれた事に、ジロウさん達も安堵していた。自分達の組織運営や、他の組織の話なら知ってても、竜族は外から観察した情報しか無く、妖精の国は異世界だからね。どちらも手探り状態で進めるしかないけど、協力者がいれば難度は大きく緩和できる。
「我々もこれまで通り、支えていくから安心するがいい。いくらアキが多芸でも、興味の薄い政まで背負わせる気は無い」
クロウさんが五人を代表して答え、他の四人もその通りと賛同してくれた。良かった。
◇
アレコレ、盛り沢山の話をしていたら、滞在リミットが近づいてきたので、慌てて、飛行服に着替えて帰路につく事に。
そんな中、雲取様がショートウッドの人々に今後の事を踏まえて、直接、言葉を伝えたいと言い出した。対面の場を設けたいのかと思ったら、思念波を拡散状態で放てば、建物の中にも届くと言う。
長老の二人が難色を示したけど、竜の咆哮と違い、弱い魔力圧であり、自身の縄張りでも森エルフやドワーフの皆さんに対して話し掛けるのに使っているから問題もないと言われ、渋々だけど了承してくれた。
「アキ様、今回はお構いできませんでシタガ、次からは余裕のあるスケジュールとシテ、寛げるようしマスネ」
ロゼッタさんは僕をぎゅーっと抱き締めて、名残惜しいデス、と全身で表現してくれた。
暖かくて、心がポカポカしてきて心地良い。
言葉よりも一つの抱擁のほうが思いが伝わる事もある、そう思えた。
雲取様に手伝って貰い、椅子に座ってベルトで固定して、挨拶もそこそこ、飛び立つ。
雲取様はゆっくりと旋回しつつ、ショートウッド市街の上空に行くと、思念波を飛ばし始めた。
<ショートウッドに住む民よ、我の訪問を受け入れてくれた事に感謝する。我ら竜族や妖精族との交流を求める声がある限り、巫女と共に今後も訪れる事を約束しよう。竜と妖精と地の種族が手を取り合う新たな時代の幕開けに幸あれ>
一人一人に話しかけるような穏やかな思念波が静かに遠くまで響いていった。
雲取様はいつもよりゆっくり旋回しながら高度を上げていき、進路をベイハーバーへと向ける。
午後の穏やかな日差しが心地良くて、今後の交流も上手く行く、そう思えた。
ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
人は見たいものだけ見ると言いますが、アキを直接知らない人は、アキの事を想像しても、イメージできない異質な存在、あるいは変に決めつけて軽く見たり、逆に高く考え過ぎて神だ、と言い出したりと混乱すること間違いなしでしょう。それでも七章の頃に、アキが竜神の巫女として、情報を独占して街エルフが更に富を得るだろう、みたいに懸念されていた頃と比べると、かなり変遷してきたと思います。
アキの振舞いはなんだかんだと言っても、雑なところも多いですからね。注意深く装っているとかじゃなく、素でそういう奴なんだ、と理解した人もだいぶ増えてきたことでしょう。
何にせよ、街エルフの海外活動拠点中枢の一つである港町ショートウッドへの緊急訪問はこうして終わりました。それがどんなインパクトを齎したのかは次パートから明らかにしていきます。
次の投稿は三月三日(水)二十一時五分です。