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2-22.新生活五日目①

前話のあらすじ:街エルフ達が誇る護衛人形達のお披露目回でした。


いつも通り、血圧を測定して、鏡に映る私と室内の様子を見た。

見慣れた室内で、塵一つ落ちてない。窓のガラスも透き通っていて庭の景色が良く見える。

鏡に映る銀髪少女の寝起きで、ぼーっとしている間の抜けた顔も見慣れたものだ。


「アキ様、どうされたのですか?」


ケイティさんが僕の様子に、声をかけてきた。


「いえ、こうして身支度を整えて貰う生活もだいぶ慣れてきたな、と思ったんです」


「そうですね。アキ様がこちらで生活をされてから、意識がなかった初日を含めると、六日間が過ぎましたから」


「もう、そんなに過ぎてたんですね」


「まだ、ですよ」


「……そうですね。でも、夏休みなんて始まる前は沢山あると思っても、終わってしまえばあっという間ですし。もう少し進んでいる手応えが欲しいところです」


 ミア姉に喚ばれたのが一学期の終業式の日の晩だったから、今日はもう七月二十七日。起きていられる時間が短いせいか、余計に時間が過ぎてくのが早く感じられてしまう。なんとか夏休みの間に何か成果が欲しいところだ。


「焦りは禁物ですよ、アキ様」


「そうですね」


 気を取り直して、籠の中に用意されている服を取り出してみた。

 今朝、用意されていた服は、薄手のペチコートと、ウェスト部分に取り付けた一対の幅広い肩紐のついたサロペットスカート、それにレースで透けるため、インナーとセットで着ること前提の白いブラウスという組み合わせだった。スカートはマキシ丈、色は濃紺(ネイビー)でベロア風の少し厚めで柔らかな手触りの生地が高級感たっぷりだ。

サイド寄りの幅広な肩紐と、スカートのウェスト位置が高めということもあって、囲まれた白地の胸の膨らみが強調されるという、清楚な中にも女の子らしさを強調したようなデザインである。

ブラウスもレース生地で花等の精緻な模様が可愛らしいが当然だがスケスケで、透過率五十%といったところだろうか。下に着ている白のキャミソールがよく見える。


「ケイティさん、服の選択にかなりの悪意を感じます」


 どう見ても、気合百二十%といった勝負服としか思えない。


「シンプルなマキシ丈の濃い色のスカートで落ち着いた自然な感じを演出し、トップスの体の線を生かした繊細なブラウスを組み合わせることで、女の子らしさをアピールするという服装です。姿勢が悪いと途端に印象が悪くなるため、振る舞いを訓練中のアキ様にはちょうどよい選択なのです」


 ケイティさんに指示されるままに少し猫背気味にしてみると、確かに肩から胸、腰にかけてのラインが崩れて台無しだ。姿勢を気をつけようという気にもなる。


「また、レース生地のブラウスも透けることで、肌を見せることを意識することになり、緊張感を持てます」


 言われるままに体を少し動かしてみると、確かに肌が隠れてないから、ボディケアは怠れない。


「確かにそうかもしれませんが」


 なんとも気恥ずかしい。


「他人の目があるからこそ、女性としての振る舞いをするんですよ。男性のいない状態だと気楽ですが、どんどん堕落しますからね」


「なんて夢のない」


 女子高なんかでは、男の目がないせいか、かなりいい加減な様子だったりすると話には聞くけど、そういうのを見たら百年の恋も冷めそうだから、見えないところだけにして欲しい。


「女の子初心者なアキ様には、ボロが出ないように緊張感を持って貰おうという意見が大勢を占めまして」


 ケイティさんは溢れるような善意一杯の笑顔を見せてくれた。ちらちらと垣間見える悪戯心が隠れてない。


「父さんも同意見でした?」


「ハヤト様は早々に戦略的撤退をなされたので、棄権といったところでしょうか」


 思い浮かべてみるけど、三人寄れば姦しいというくらいで、父さん一人で抗うのは無茶だろう。

 長い髪をとかしつつ、女の子も大変だ、と溜息が零れた。





今朝は、ツナキュウリサンドにゆで卵、ヨーグルト、サラダ、スープといったセットにミルクたっぷりな珈琲といったメニューだ。キュウリのさっぱりした感じとツナが良く合い美味しい。卵も茹で加減がちょうどよく殻が簡単に取れて、真ん中の鮮やかな黄色の黄身も少ししっとり感が残っていて、軽く振った塩味とのバランスもいい。味付けが全体的に控えめになっているせいか、珈琲の香りや味が際立つ感じだ。


「今朝はアイリーンさんが作ったのでしょうか?」


 ケイティさんの隣で、皆の反応を伺っている様子からして間違いないとは思うけど。


「シンプルなメニューですが、一通り、私が作りまシタ」


「とても美味しかったです。またお願いします」


「ハイ、お任せくだサイ」


 そう答えた表情は、やはり誇らしげである。


 食器を片付けて、口直しの緑茶を配り終えるとアイリーンさんは厨房に戻っていった。甘い珈琲もいいけど、やっぱり口の中に甘さが残るので、緑茶を飲むとさっぱりしていい感じだ。


「僕が学ぶ予定の教育過程ですけど、どんな感じなんでしょう? やっぱり初等教育が長めですか?」


 とりあえず話題として、教育のことなので、父さんに聞いてみる。


「そうだね。教育は大きく分けて、初等、中等、高等、専門の四段階に分けられる。時間配分は六、三、三、四で、成人になる為の必須技能である人形遣いは、専門教育まで進まないと修得はできない」


うわー、成人になるためには大学卒業必須か。まぁ、長寿なんだから、教育を手厚くするのは当然か。


「先は長そうですね」


「子供の頃は皆、そう思うが、過ぎてしまえば、いい思い出だよ。もっとも、成人資格は更新制だから、不勉強だと未成人に格下げされたりもする。流石に恥ずかしいから、格下げを二回経験した奴はいないな」


「恥ずかしいもの何ですか?」


老いと無縁ということなら、そう浮くこともない気はするけど。


「未成年になると、子守妖精が付いて、休みなく見守られるんだぞ? アキも男の子の気持ちになって考えて見てくれ。彼女といい雰囲気になった時に、ふわふわと妖精が飛びながら、『どうぞ、お気になさらずに』などと言いつつ、チラチラ見られたりしてみろ」


 父さんが、身振りを交えて、飛んでいる妖精の様子を表現してくれた。


「あー、雰囲気ぶち壊しですね」


「同意して貰えて幸いだ。だから、街エルフは他人の目が気になってくるお年頃になると、はやく子守妖精に付き纏われる生活からおさらばしたい、と思うのさ」


「それは切実そうです」


「彼女から、『私、妖精に観られるのは趣味じゃないの』とか言われた――」


「ハヤト、子供に何を言っているんですか」


 母さんが口調こそ穏やかだけど、有無を言わさない感じで遮ってきた。さっきの台詞は母さんが言ったんだろうか。


「いや、アキはあちらでは高等課程にいたという話だから、興味があるだろうと――」


「こちらではまだ、初等教育もこれからです」


うー、小学生に混ざって授業を受けるのはキツイなぁ。体格差もあるから、小学校に通うことはないと聞いてなければショックで寝込むかも。


「アキ様、ある程度はスキップできますので、課程の短縮は可能です。ご安心ください」


「そう願いたいです。流石に小学生扱いはさっさと卒業したいです」


「まぁ、燃え尽きない程度に頑張れ。短距離走じゃないんだ。ペース配分を間違えないようにな」


 リア姉の言う通りだ。いくら嫌でも無理は良くない。


「はい」


こちらの初等教育は実技中心という話だから、そうそう飛び級とはいかないかも。憂鬱だ。

今回はキリがいいので、少し短いですがここまで。

次回の投稿は、六月十七日(日)ですが時間は十七時五分です。


短編ということで以下の作品を投稿しました。

興味がありましたら、読んでみてください。


『小説家になろう』の全作品の週別ユニークユーザ数を集計して分析してみた(2018年06月12日時点)【省エネ版】

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