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12-26.探索者達の立ち位置

前回のあらすじ:雲取様に運んで貰い、お爺ちゃんと一緒に共和国の港町ショートウッドで、財閥、船団、長老のそれぞれの代表の皆さんとお話することになりました。天空竜や妖精族が船団の船員や探索者達に大人気という話も聞いて嬉しかったです。やっぱり交流に熱意のある人が増えて欲しいですからね。(アキ視点)

さて、誰から話をするのかと思ったら、ファウストさんからのようだ。


「財閥、船団、政府、この中では船団の話がシンプルなので、私から話をしていきます。①所縁(ゆかり)の品の入手、②海外派遣比率の低減、③船団の人員増強、の三点で、アキと雲取様には概要を押さえていただきたい」


ふむ。僕と同じくらい、雲取様にも比重を置いて話す感じだね。より深く地の種族の内情を把握して貰い、手を貸して貰いたいってとこかな。


「船団で所縁(ゆかり)の品と言う事は、海外の高位存在ということですね? その品に絡んだ情報は多めですか?」


体の一部とかだと、相手が鳥か獣か魚かなんてのも理解できるか怪しいし、生息域とか、性格とかも知っておきたい。


「入手した経緯、対象に関する生息域、生態、性格も含めて、手に入るだけの情報は根刮ぎ集めてきたから、先ず、情報だけをロングヒルに送る予定だ」


所縁(ゆかり)の品とセットじゃないんですね」


どうせなら、一緒に送るほうが手間が減ると思うんだけど。


そう思ったら、やはりとロゼッタさんが溜息をつきつつ教えてくれた。


「此方から接触をする必要があるか見極めて、必要があれば、改めて所縁(ゆかり)の品を送るのが安全デス。ロングヒルの大使館領も保安レベルは高めですが、本国ほどではありまセン」


まぁ、必要な品だけ貸し出すのは、博物館とか美術館と同じ感じかな。貸出品は必要最小限にしたいというのも当然だろう。


「品の真偽も見極める必要がある。一応、同行している魔導師や学者達が分析はしているが、やはり持ち歩ける品では分析精度にも限りがあって、稀にだがハズレを引くこともあるんだ」


「贋作とか?」


「それもある。面倒なパターンでは、詳しい由来を直接知る者がなく、伝承が歪んでいる場合だ。例えば、竜の鱗であっても、持ち主に関する話と違う個体のモノなんて事もあり得る」


ふむふむ。


「別の個体に繫がっちゃうのは、ちょっと不味いかも。ねぇ、お爺ちゃん。所縁(ゆかり)の品だけど、相手がどんな存在か、繋ぐ前に調べる方法はないかな?」


「そこは街エルフの得意分野じゃろう。魔術的な話で言えば――賢者に聞いてみたが、認識され難い術式で相手が存在するか否か確認する事はできるかもしれん、ということじゃ。じゃが、相手のいる事、認識されないとは言い切れんぞ」


お爺ちゃん経由で召喚しているから、賢者さんへの問い合わせが簡単にできて良かった。


「残念。じゃ、そこは心話の際に工夫して乗り切る事にしましよう」


所縁(ゆかり)の品を用いた心話だが、我らも試せるだろうか?>


雲取様の問いに、マサトさんが少し考えてから答えた。


「相手の魔力属性との相性問題を起こさずに繋げるのは、今の所、アキ様とリア様しかできないので、竜同士で行う程度の難度となるでしょう」


<それは厳しいな。……仕方ない。今後の課題としよう>


おや、結構やる気だね。


「海外との交流は興味あります?」


<あるとも。今は難しくとも、諦めるには惜しい話だ。海外の竜達は荒々しいかもしれない、という話だが、我々が直接見に行く訳にもいかん。心を触れ合わせれば、どんな相手か知ることもできよう。地竜や海竜も話ができるならしてみたいものだ>


「海竜は接点が欲しいですね。海は最後のフロンティア、なんて言葉もあるくらいで、星の観測より難度が高いから」


そう話すとお爺ちゃんが驚いた。


「星々より難しいじゃと!?」


「海は少し潜ると光が届かない世界だからね。周囲を知るのは音や水温、水に含まれる匂い、こちらだと魔力あたりで把握するしかない。でもそれらは光に比べると範囲が狭いから。それに深海は物凄い水圧が掛かるから、それに合わせた体付きや装備でないとそもそも潜るのも無理なんだよ」


「うーむ、そう聞くと大変そうじゃ」


<海の底に何があるのか、我々は何も知らない。だから、先ずはそこに住む者達に話を聞くのだな>


「はい。陸地の方はあと十年もすれば、ある程度は調べ終えるでしょうけど、海の方は百年後だって、大して進んでなくても不思議じゃありません。幸い、こちらには、海に話のできる種族もいるようですから、交流を進めていきたいですよね」


そんな話をすると、ジロウさんが渋い顔をした。


「長期的に見ればそうだろうが、我々の使える資源リソースには限りがある。優先順位は下げざるを得ないぞ」


そこで資源リソースときたか。……って事は財閥や政府の話もそのあたりなんだろうか。


「いずれにせよ、船団の持ち帰ってくる所縁(ゆかり)の品は、情報を吟味してからでないと貸し出せない、そう考えてくれ。ロングヒルへの輸送は一日あれば届くから問題はない」


「それもそうですね」





「次は②海外派遣比率の低減、の話だ。船員、探索者のどちらもローテーションで国内で活動するよう配慮してきたが、今後は国内活動の比率を高める方針に舵を切った」


「何かありましたっけ?」


そう聞くと、皆に呆れた顔をされた。


あ、あれぇ?


<アキ、それは我でもわかるぞ。実力のある樹木の精霊(ドライアド)達の位置を特定し、「死の大地」の浄化では、我らが空から調べるだけでなく、「死の大地」の周囲に広がる海からも調べる事で情報の精度を高める、その為に探索者達や帆船を使うのだろう?>


雲取様の話に、ファウストさんは深く頷いた。


「御推察の通り、探索者達は探しモノが得意で精霊使いもそれなりにいるから、樹木の精霊(ドライアド)探しには最適だ。それに「死の大地」は海によって隔てられているから、調べるなら空か海からとなる。帆船なら、その場に留まって定点観測するのも容易だ。小型の探索用帆船を複数、運用しようと考えている。まだ調整中だが、連邦や帝国の帆船にも参加して貰う事になるだろう」


ほー。確かに空中で停止し続けるのは大変だけど、海で留まるのは熟練の船乗り達なら何とでもなりそう。


「海外に派遣するよりは、国内の方が慣熟訓練も兼ねられていいでしょうね。もうレイゼン様やユリウス様とは話してるんですか?」


「先日、打診して、どちらからも前向きに検討して貰える事になった。それと、連合なんだが、二大国がそれぞれ探索用の小型帆船の建造と参加を捩じ込んできてる。大統領もそれぞれの国で船を運用した方が連携も上手く行くだろうと話してた。だから、暫くは共和国から二隻、連邦と帝国からそれぞれ一隻の合計四隻体制で運用していく事になる。連合の二隻も追加して最終的には六隻体制だ」


「死の大地」の周囲を分担すれば定期的な観測網も運用できるだろう、とファウストさんも鼻息が荒い。


「街エルフが出すのは海外向けの探索帆船ですか?」


専門家が使うなら普段乗り慣れてるほうがいい気もするけど。


「船団の探索帆船は、海外の未探査海域の調査に回す予定だ。「死の大地」の周辺海域は探査自体はそれなりに終わっていて、我々の船では性能的にも過剰過ぎる。見知った海域ならそれに合わせた船の方が使い勝手もいいんだ。我々の船は頑丈だがその分船体がでかくて重く、動きの鈍さは否めない。だから近海用の小型帆船を回すつもりだ」


ふむふむ。徒歩で行ける距離なのに、自動車を使ったりはしない、ってとこか。

それに重装備で機敏に動くというと全備重量六十トンという米軍のM1エイブラムス戦車みたいなモノかな。強いけど、重い物を無理に動かすから物凄く燃料が必要で、道や橋、兵站にも負担が酷くてまともに運用できるのは米軍だけなどとも言われてるくらいだ。一リットルあたり四百二十五メートルなんて燃費で、それを補うために千九百リットルの巨大燃料タンクを付けてるのに、それでも一日三回の燃料補給を求めたと言うんだから、兵站部門の人達は大変だった事だろう。


「国内に回して減った船員や探索者は、③船団の人員増強で対応ですね」


そう話を振ると、ファウストさんは溜息をついた。


「船団の運用に支障が出ない程度に、熟練者達を引き抜いて、その分は短期集中教育で鍛えた新人達で補う事になる。言うのは簡単だが、当面は気が抜けないだろう。国内向けの小型帆船や探索者チームも同様で、新人の占める割合はかなり増えるだろう」


ふむふむ。


「あくまでも船団に所属するのだと意識して一体化して動けるようになるのは結構大変?」


「大変さ。長年いがみ合ってきた国同士の出身だったりすると、ちょっとした事でも衝突が絶えない。お前らは幼稚園児か!と睨みつけて、場合によっては腕力に物を言わせてでも意識を変えるんだぞ? しかも、船団にくるのは、腕に自信のある鼻息の荒い連中だ。大人しく従うようなタマじゃない」


なんと。


「でも、僕を送ってくれた皆さんはとても紳士的でスマートな感じでしたよ?」


あれなら、他国でもモテモテだろうなぁ、とか思いました、とも話すと、目を細めて笑われた。


「高評価なのは嬉しいが、奴らは外交官免許も持ってるような熟練者達ばかりだから、アレを船乗りや探索者の平均とは思わない方がいいぞ。それとな、確かに海外の港町では船乗りはモテる。その中でも俺達は羽振りがいい上客ってところだ。だが、寄ってくる蝶は大概は紐付きか、ヤバい経歴だったりするんだよ」


下手に触れば大火傷だ、と顔を顰める始末だ。

それに竜族もそうだけど、関わってきた人達は、かなり選別された上澄みと考えた方が良さそうだね。


「ベイハーバーで古民家を利用させて貰いましたけど、あの普通っぽい皆さんももしかして、かなりの方々?」


そう問うと、ロゼッタさんが教えてくれた。


「あそこは昔ながらの暮らしを体験したいという上流階級向けのサービスを提供している老舗で、外交官や貴族、王族も利用する一流処デス」


うわー、身元検査も質も手抜かり無しか。確かにあちこち魔導具が置かれてて「魅せる」事を前提にしてる感はあったけど。


庶民サンプルを見てみたい、などと話せば、ラノベ的な展開間違いなしだろうけど、優先度はずっと下がるし、神子の皆さんと交流してれば、ある程度は見えてくるだろう。


「船団は組織の性格上、独立独歩の機運は強い。ただ、種族的に子鬼族や鬼族の領土、領海での活動は難しいだろう。船団に三大勢力の選抜チームが加わって活動していくが、統制が効くのは船団直属まで、そう考えておくことだ」


なるほど。樹木の精霊(ドライアド)さん達の対応では、少し揉める事があるかもしれないね。


そう話したファウストさんに長老の二人は苦々しい視線を隠さなかった。と言うか、僕にわかる様に、視線を見せてくれた。


更にクロウさんがわざわざ説明してくれた。


「出港してしまえば、万事を独力で解決する事が求められる船団には、独立領主に匹敵する権限、財力、軍事力が与えられている。指示待ちに徹するような連中とは気質が違う。そんな連中に新たに、弧状列島探索部門と、「死の大地」探査船団が増える。まつりごとに関わる者達からすれば、頭の痛い話と覚えておけ」


ふむ。


「そこはほら、皆さんの高い徳で制するという事で」


そう話すと、雲取様が不思議そうに割り込んできた。


<クロウ殿、新たな役割を担う者達が増える、それは作業の成果が増えるだけではないのか? 終われば解散するだけの話だろう?>


雲取様の認識は短期間で仕事を終えるプロジェクトチームのイメージだね。目的があって結成され、終われば解散、シンプルな組織だ。


クロウさんは少し考えてから話し始めた。


「短期的なチームならそれでいいが、長期的な組織となると、組織は別の面を持ち始める。組織の存続、拡大が生じ、個人の集まりだが、個人とは異なる生き物のように振る舞い始めるのだ。竜族も今はそれぞれの試みは小さいから衝突もないが、それぞれが資源リソースを求めて動き続ければ必ず利害が衝突する。自分たちの方が大切だから資源リソースを寄越せ、となる。そうなると各組織のリーダーが個人的にどう思おうと、組織全体の思惑が方針を示して動くのは止められなくなる。雌竜達の活動と、それに加わる者達の振る舞い、求めには良く気を配る事だ。誰もが自分の活動に愛着を持ち、推進する事の正当性を主張する。互いに納得できる落し所を見つけるようにせねば、最後には大きな衝突が起きる。それは避けねばならん」


クロウさんの話に、雲取様は神妙な表情で耳を傾けていた。街エルフだから、竜だから、そんな枠を越えた両者の振る舞いはとても尊い、そう思えた。

評価、ブックマークありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。自分ではなかなか気付けないので助かります。

三者のうち、まずは船団から話を行いました。ファウストはさらりと話してますが、長命種である街エルフが運用する船団ですから、計画は長期的なスパンに立ったものが多く、今回のように短期間で大幅に組織の見直し、拡充を行い、世界規模での活動自体も変更していくというのは前代未聞です。

それにこれまでと違い、心話で海外と直接、接触できるなどという、これまでにない運用が示されたために、持ち帰ってきた所縁ゆかりの品の扱いも、大きな波紋を生むことになりました。

いずれにせよ、船員や探索者からすれば、それらの試みやアキの振舞いは「最高にクールで面白い」のは間違いなく、ファウストとて、全体の統括ができる訳ではないので、提督達の振舞いは多くの変化を生じさせていくことでしょう。

次の投稿は二月二十四日(水)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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