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12-25.一時帰省(後編)

前回のあらすじ:急遽、共和国に一時帰省することになりました。百聞は一見に如かず、とは言うけれど、意識改革をするなら、天空竜と街エルフの子供が共に降り立つのを見せればいい、って言うのは、少し荒っぽい対応ですよね。しっかりした医療体制やシェルターを用意できるからこその選択でしょうけど。(アキ視点)

ズラリと並んだディスプレイ用マネキン達に圧倒されたけれど、ロゼッタさんはそれらを素通りして、一着の学生チックなドッキングワンピースを取り出した。


「着飾るアキ様を愛でたい気持ちはありマスガ、スケジュールが厳しいノデ、それはまたの機会にしまショウ。こちらをお召くだサイ」


あぁ残念、と芝居がかった態度をしながらも、飛行服フライトスーツからの着替えや、まとめていた髪をポニーテールに変えたりとテキパキと手伝ってくれた。


セーラーカラーと絞った腰回り、それにスカートの柔らかなラインが可愛らしい魅せるデザインだね。ポニテと合わせると凄く学生チックだ。


「なんか余所行きの若い年齢向けの服装ですね」


「ハイ。アキ様は三姉妹の末っ子ですカラ、それらしい装いとしまシタ」


つまり、そう振る舞え、と。と言うか、ミア姉にソックリだけど別人と見せよう、というコンセプトか。


「それで、お話は三回に分けて? それとも全員纏めて?」


「全員、纏めてデス。本来は私も給仕したいのデスガ、財閥の知財関連で話す為、それは叶いまセン、残念デス」


オーバーなアクションを交えて、残念と表現しつつ、慌てず、急かさず、ロゼッタさんはテーブル席に僕をエスコートしてくれた。





雲取様の周りに、ドクターフィッシュのように近付いて椅子ハーネス)を取り外していたスタッフさん達も足場と共に離れて、雲取様も直立していた姿勢から四足で座り込んだ。


とはいえ、ロングヒルで見せる姿勢とは少し違う。何かあれば即応できる、完全には緊張を解かない、そんな姿勢だ。


<長老達以外の三人は初めて見るが、アキから話を聞いて、ある程度は知っている。マサト、ロゼッタ、ファウストだな。三人の事は覚えた。難しいかもしれないが、気を楽にしてくれ>


雲取様が僕に焦点を合わせた思念波で挨拶してくれた。太陽の光を受けて、黒く輝く鱗がとても綺麗で、話す姿も絵になって格好いい。


あぁ、なるほど。雲取様も魅せる振る舞いをしているのか。そう思ったら、無言の思念波が届いた。観客の期待に応える為だ、とか、少し堅苦しいが仕方ないとか、僕にもそのつもりで合わせよ、とか、いろんな思いの詰め合わせだった。


はい、無駄口は辞めときます。


「ミア様の家令、マサトです。アキ様の関わる活動全般を統括してますので、何かありましたら気軽にお話ください」


「ミア様の秘書、ロゼッタです。知財管理だけでなく、別邸にいる者達の支援をしてマス。用事がなくとも時折お話の場を設けマスネ」


距離は離れていても心は側に居マス、とアピールまでして、雲取様も、ロングヒルにやってくる竜達に話をするよう伝えておく、と承諾してくれた。


「こうして天空竜と話す機会を得られ感無量です。探索船団のファウストです。船団の関係者達から、皆さんと話したいと要望が殺到してます。別途、対面の機会を設けさせていただけませんか?」


ファウストさんがまるで国王と謁見するように敬意を払った態度で挨拶し、対面の相談をしてきた。というか、何が何でも約束を勝ち取る、という熱意がこちらにも伝わってきた。


<船団の関係者となると、ロングヒルで、とはならぬか。我らは構わんが、対面時には間に立つ者もいた方が良かろう。アキ、構わぬか?>


え、僕?


「それは構いませんけど、我らと言う事は雌竜の皆さんも?」


<うむ。彼女達だけではないが。直接、向かう事のできぬ海外の話を当事者から聞ける機会となれば、興味を持つ者も多いだろう>


「のぉ、ファウスト殿。儂ら妖精族と話をしたい連中はおらんかのぉ?」


お爺ちゃんが期待混じりに話を振ると、ファウストさんは大きく頷いた。


「そちらも是非お願いしたい。今回も妖精族と会いたい者達が多過ぎて抽選で絞った程だった。船団の連中も出航前に会わせろと、優先権を主張する有様でな」


そう話すと、ジロウさんが話を引き継いだ。


「アキがこちらにいた半年前には、妖精族が召喚できても翁の他に数人、どうしても専門家を優先せざるを得なかった。しかし、ロングヒルで多人数召喚に成功し、毎日のように何十人と喚べるとなれば、話は別だと世論が沸騰しておる。雲取様、本来ならばこちらから出向くのが筋と思うが、人数が多過ぎて現実的ではない。無理のない範囲で宜しくお願いします」


そう話してるけど、表情からしてかなり内心は複雑なようだ。んー、ここはハッキリ聞いておくべきだね。


「ジロウさん、それにクロウさん。もしかして、共和国内でかなり温度差があって対立ムードとか出たりしてます? 抑えが効かないか、ちょっとだけ心配なんですけど」


長老の二人は、竜族を不倶戴天の敵として、殲滅できるならそうしたいという、拭い難い憎悪を抱いている。それでも政治家として、自国への来訪をお願いしたい、などというのは断腸の思いだったりしないだろうか。


クロウさんは虚ろな穴のように底の見えない眼を向けて、内心の葛藤を隠さず、話し始めた。


「雲取様は我らの事を良く知るので、包み隠さず話すが、相互不干渉の約定を取り決めた前の世代と後の世代の対立が激しくなってきている。我々のように、古い世代の竜達を知る者は心良く思わぬ。しかし、後の世代は竜族の暴威を知らず、アキや財閥の伝える情報の大波を浴びて、感化されてきている。こうして、穏やかな竜であれば来訪を歓迎する、そう宣言せざるを得ない状況だ」


竜の襲来に備えて防竜林を整備し、城塞都市を緑で覆い、大型帆船を山に偽装した防空施設バンカーに隠して、と対竜姿勢を貫いてきた街エルフ達。


その長い年月を思えば、簡単に路線変更とは行かないのだろうね。


<我らも上の世代は、心の整理が難しい。ここは急がず、少しずつ進めるとしよう。我らは、今日と同様、ベイハーバーからショートウッドに降り立ち、それより奥地には向かわぬ、それで良いか?>


雲取様はそう問い掛け、クロウさんはそれに静かに頷いた。


「ファウストさん、やっぱり船団の皆さんは他とは熱意が違います?」


「そりゃそうだ。危険に満ちた未知の大海原に乗り出そうという連中なんだ。それが世界のどこを探したって見つからない、話のできる穏やかな天空竜に、異世界の住人たる妖精族となれば、どれだけ圧があろうと、前に出ない訳がない。実際、緩和障壁なしでいいから会わせてくれ、なんて連中も多かったくらいだ」


勿論、対面した相手がバタバタと倒れたら心象が悪いからと、そんな申請は却下した、とも教えてくれた。


つまり、ファウストさんは若い世代の代表みたいなモノで、長老の二人は古い世代の代表、マサトさんとロゼッタさんは異なる論理で動く別勢力と。


全員同時に、というのは、こう言う調整も含んでいたからなんだね。そう考えたら、ロゼッタさんがハンドサインで正解と教えてくれた。

ブックマークありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。自分ではなかなか気付かないので助かります。

さて、半年ぶりのショートウッド到着となりました。未知を求めて海外に乗り出す船乗りや探索者達が、天空竜や妖精達に手を伸ばさない訳がなく、間に立つアキやリアと共に、日帰りでの訪問が今後は増えていきそうです。個人用飛行機で移動するVIPみたいで派手ですね。

次の投稿は二月二十一日(日)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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