12-23.神々との契約と波及効果(後編)
前回のあらすじ:「マコトくん」のフットワークが軽いですね。神様も降臨したり、神託をくれたりと、結構、アクティブに動いてるイメージがあるけれど、ケイティさんに聞いたら、そんな訳がない、と否定されることに。今後は「死の大地」の浄化で、あちこちの神様にも参加して貰うことになると思うので、皆さん前向きに動いてくれるといいですね。(アキ視点)
休憩の合間に、エリーと話をしてみることにした。というか、エリーが手招きしていたからだ。
さすがにこの会場では、ケイティさん、ジョージさんは同行せず、足元にトラ吉さん、隣にお爺ちゃんと言う最小構成だ。
「エリー、お久しぶり」
「元気そうね。時間がないから手短に話すけど、竜神の神子達への様々な対応の窓口を一本化する事になったわ。竜神子支援機構、だそうよ。財閥のマサト、ロゼッタ両名が一晩で設立させたわ。寄付金を元に各地で活動する神子同士の交流促進や、能力向上を推進していく独立団体であり、政との資金的な繋がりを断つ事で、神子の自主独立性を維持するって話ね」
「え? 一晩?」
「昨日、アキが神子達と交流をして、かなり準備不足で、二週間程度の集中教育を行う、公費で支えるから安心してって話したわよね」
「うん。あのままだと不味そうだったし、それぞれが独自に動いたら活動全体としての纏まりが無くなりそうだったからね。公費だと不味かった?」
「あの程度の人数をケチる勢力なんていないわよ。ただ、各勢力が資金を出して個別対応すると、そのバランスとか額とか内容とかかなり揉めるのは確実だった。そこに、話を聞いた財閥がいきなり夜遅く、各勢力に対して、支援機構の素案を提示してきて、今朝までに代表達との合意を得たのよ」
「急ぎの話とは思ってたけど、一晩で合意するなんて凄いねー。即断即決のユリウス様もビックリな話じゃない?」
「……そんなところだと思ったわよ。話をして正解だったわ。いいかしら、アキ。今回、設立される支援機構は、最終的に竜の数だけ神子が付くならそれだけで何万人規模、神子を支えるスタッフは最低でもその数倍、つまり弧状列島全域を活動範囲とする十万人規模の巨大組織なの。そんな話が一晩で合意なんて常識的に有り得ない話よ。政に携わる人に百人聞けば百人が冗談と判断するわ」
あんたのとこのマサトとロゼッタ、二人は化け物よ、なんて言われてしまった。
「前々から検討はしてて、たまたま嵌っただけと思うけど。まぁでも、神子さん達が板挟みになって苦労するより、両者を繋ぐ役に徹する、と言うのは良い話だよね」
「結果だけ見ればそうでしょうね。でも、寄付は自由と言いつつ、影響力低下を避けたい各勢力は寄付せざるを得ず、これ以上の財閥の関与を避ける意味でも支援機構に多くの人材を派遣するしかなく、各勢力の法に従う範囲では、支援機構の活動に口も挟めない。財閥の総取りを防ぐ駆引きは熾烈を極めたそうよ。うちもオブザーバーとして参加していたから、ある程度は把握しているけど、善意にデコレーションされたえげつない手口だったと代表三人が話すほどだったって」
代表達のテーブルを見ると、確かに少しお疲れのご様子だ。
「纏まった組織は欲しいし、設立に助力したなら少しくらい美味しいとこがあってもいいんじゃない? それに竜族も横の繋がりはあるし、各勢力だって中立支援の姿勢が崩れないよう制する事はできるから、変に肥え太る事はないよ、きっと」
心配してたけど、これなら安心だ、と話したら、ジト目で睨まれてしまった。
「ロングヒルを窓口に少しずつ交流していく事で、流れを制御しようとしてたところに、神子同士の交流や支援を名目に一気に各勢力の奥地まで手を伸ばせる、それがどれだけの利権を生むか、少しは考えてちょうだい。国がそれぞれの地域を纏めている間に、人も資金も財閥持ちで快適さという口当たりのいい甘味に気を良くしているうちに、弧状列島全域の活動基盤全体を財閥に押さえられかねない、それを各勢力は実感したわ」
ふむ。
「でも、そうしようと画策したんじゃなく、支援機構は皆で出資して独立性を保とうね、って提案したんでしょう? 素案を作ってくれてありがとう、良い提案だ、我々も協力は惜しまないとか、代表の皆さんなら言うと思うけど」
「笑顔で称賛してたって、内心はそうとは限らないって事。ニコラス様の件を忘れたの? 合意しかできない状況に追い込められれば、政を行う人達からすれば、面白くないでしょうね」
なる程。で、マサトさんやロゼッタさんがそれを理解しない筈はなく、それでも踏み込んだのは……うーん、今回はエリーが考え過ぎだと思うな。
「多分、今回の件はエリーの考え過ぎだと思うよ。ミア姉救出に繋がる神の助力、それに必要な依代の材料提供、その為に「死の台地」の浄化の話を推進してくれた件は、財閥でも手に余る難題だった訳だから、感謝のお礼に雑事は任せてってくらいの話だよ、きっと。損して得取れ、とも言うし、代表の皆さんには軍縮でもして貰って、浮いたマンパワーを回して貰うのも手かもしれないね。っと、そろそろ休憩も終わりみたいたから戻るね。忠告ありがと」
まだ色々と言いたそうだったけど、時間切れと言う事で、エリーは、とにかく、とにかく、感謝の気持ちを忘れないように、と念押しされた。雑事と告げた瞬間、すっごく呆れた顔をされたのはミスったかもしれない。支援機構の設立に携わる方々からすれば、大変なことだろうし。後で謝っておこう。
◇
皆が席に戻ったのを確認して、師匠が再開を告げた。
「さて、次は③「死の大地」浄化の話だよ。説明はユリウス様、お願いします」
ユリウス様が声を拾う魔導具を持ち話し始めた。
「大筋ではアキが示した流れで相違ない。ただ、小型召喚の竜、妖精、計測用魔導具の組み合わせで、とにかく一回、「死の大地」の試験探査をしてみなくては、話を具体的に詰めることはできないという結論になった。試験探査は雲取様と翁に、現在用意できる魔導具を持って、高高度を水平飛行する形で行う。全域を荒くカバーする事で、飛行時間の抑える予定だ」
大型幻影に映された飛行計画を見ると、「死の大地」を二回行き来して、異なる緯度4つのラインで調べて、計測した呪いの強度を高度として示すことで、間の地域は計測値で補間すれば、「死の大地」全域イメージが完成、と。
「経路が等間隔でないのは、位置確認しやすい地形を優先した感じですか?」
「そうだ。速度計、方位計と太陽の角度から大まかな現在位置を示す魔導具は用意できるそうだが、本来は船舶用の機器を流用する為、飛行の指針とするには精度に不安がある。実際、どの程度使えるのか確認する意味合いもあるそうだ」
そこで、雲取様が補足してくれた。
<普段は風の流れに合わせて、大まかに方向を決めて速度や高度が揺らごうと気にせず魔力を節約して飛ぶものだが、今回の探査では、高度、方位、速度を一定に保つ事を優先せねばならん。風の流れに逆らう分、魔力をかなり浪費するだろう。小型召喚でなければ試せん飛び方だ>
なる程。
「大まかでも最新地図と情報が手に入ったら、そこは竜族の流儀で飛べる運用にしたいですね。せっかく洗練された飛び方に変な癖が付いたら残念ですから」
<その通りだ>
地球の大気を切り裂いて飛ぶ飛行機と天空竜の飛び方は違う、と。でも違っていいと思う。その方が自然だからね。
「今回は試しと言う事で、飛び方はとにかく一定で安定したモノとする。じゃから、少し訓練すれば、試せる予定じゃよ」
そうお爺ちゃんも教えてくれた。
<計測する前に、「死の大地」を取り巻く海を一周する形で、長距離飛行も何度か試して見るつもりだ。それに急な加減速、旋回も計測機器に良くないそうだからな。許容される飛び方を把握しておかねばならん>
そう言いながらも、思念波から伝わる感情は、とても楽しそう。
「どうせなら、小型召喚で許容できる最高巡航速度とかも試してみたら良さそうですね。「死の大地」での滞在時間が伸ばせれば、探査にも色々と余裕が生まれていいですよね」
<アキとリアの魔力が回復する範囲で、できるだけ加速するのだな。それは面白そうだ>
「雲取様、試験探査では翁と計測用魔導具を吊り下げて行くのを忘れないで欲しい。翁が風を防ぐ障壁を展開するにせよ、その魔力とて、経路から供給されるという意味では、供給元は同じなのだから」
前向きなのはありがたいが、と言いながらもユリウス様は釘を刺すのを忘れなかった。
<最高巡航速度を試す時は、ちゃんと本番に合わせるとしよう>
雲取様は当然だ、と頷いた。けど、思念波からは、最後のタイミングでは合わせるけど、それまでは色々試す気満々と感じられた。と言うか、言葉は頷きつつ、別の方法で探りを入れてくるとはなんて器用なんだろう。
「お爺ちゃん、前に一緒に飛んだ時との違いとか教えてね。どう違うか興味があるから」
「うむ。その時は興味のある者達を集めて話すとしよう」
前回のように観光飛行ではないからのぉ、とお爺ちゃんの返事は慎重だった。
……確かに。訓練時はともかく、本番の時は安全第一とするよう念押しを忘れないようにしよう。
◇
「最後は④竜神の神子対応だ。皆も昨晩から今朝にかけての騒ぎを知っての通り、竜神子支援機構という新組織を立ち上げて、神子同士の交流や活動支援、教育を任せる事になった。寄付金で独立運営を行い、政治的にも中立とする。今、決まってあるのはそれくらいだが、神子達への短期集中教育を終える頃までには、組織の枠組みと連絡網の構築くらいまではやると聞いてる。そこで、アキには神子達と短い時間だが接してみて、感じた事を話しておくれ」
おっと。感じた事か。
「そうですね、今回の「死の大地」の件をもそうですけど、竜族達の間では噂話は数日で弧状列島全域に広がるので、神子の皆さんは竜族のホットな話題をある程度把握して、世間話ができた方がいいと思います。孫と仲良くなりたい祖父母が、子供達の流行りを調べるようなモノですね。話が通じると、竜も好印象を持ってくれるでしょう」
ですよねー、と雲取様に話を降ると、静かに頷いてくれた。
<我らは地の種族達の事に疎く、それほど強く興味を持つ訳でもない。だから自然と話題は竜達の間の活動がメインとなるだろう。その時、いちいちゼロから説明をするようだと面倒と感じる者も出てこよう。話が通じれば、対話もうまく行くというものだ>
うん、まぁそうだよね。
「それと、竜と話をする場合、ある程度は竜の視点で考えられる柔軟性が神子には求められるでしょう。何か話をするなら、相手に通じるよう言い換えたり、例えたりする必要も出てきます。できれば、月刊誌とかで、竜とこんな話をしてみたとか、注意事項とか、今話題の○○なんて感じで情報提供しあえるといいと思います。自分が困った事なら、他の人も困るだろうし、失敗談とかはどれだけあっても困りません。といっても初めからそんなに深い話になるとも思えませんし、想定問答集を用意してあげれば、神子さん達の負担も軽減できるでしょう」
そう話すと、代表達のテーブルから重苦しい空気が流れてきた。高い代金を支払って手に入れている竜の情報をホイホイ流すことに抵抗があるのかな? でも、別に市井の人達にばら撒く訳じゃなく、神子は当事者なんだから誰よりも知る権利と義務があると思うんだよね。
<アキ、そんなに手間をかけずとも良いのではないか? あまり神子ばかりやる気を見せても疲れてしまうだろう?>
竜も緩く付き合うのだから、人も同じくらいの感覚でいけばってとこかな。甘いなぁ。……いや、そうじゃなく、雲取様の普通のレベルが高いだけかも。確認してみよう。
「えっと雲取様、雄竜が、好意を寄せる雌竜にアプローチするなら、相手の好みとか、興味のある話題とかを調べたり、眺めの良い場所を探したり、邪魔が入らないよう工夫したり、自身も貧弱に見えないように、運動不足でだらしない印象を与えないように体を鍛えたり、飲食を工夫したりと、色々やりますよね?」
<それはするが当然の話だろう? いくら羽を広げても体の貧相さは補えない。自分が想うのと同じくらい、相手にも好意を持って欲しいのだからな。それにその程度の手間も惜しむようでは、雌竜にもそんな性根を見透かされて、近付くなと威嚇されるだけだ>
あー、やっぱり、相手の為に何かするのは当たり前、自らを律するのも当然、という高い意識を持ってるタイプだ。竜族でも期待の好青年だもんね。イケメンは考え方の基礎からして違うと。
「先程の話も同じです。予め、色々と想定しておけば、慌てず落ち着いて行動できますからね。神子にとって、竜との交流は好きな相手との逢引みたいなモノ。そう考えれば、準備不足でその日を迎えるなんて有り得ません! あ、雲取様は立場上、色々とこちらの話を知る事になるけど、若竜達には、神子は交流できる事を楽しみにしているようだ、くらいに話す程度に留めてくださいね」
<勿論、そんな無粋な真似はしないとも>
雲取様もそう約束してくれた。ふぅ。
「……竜族が大好きなアキを基準にすると、それはそれで大変な事になるから、アキもそこは加減するんだよ。神子と言っても年一回程度の交流だ。本業の傍らで対応せざるを得ないんだからね」
確かに師匠の言う通りだ。これまでの話からすれば、毎日のように竜族とお話している僕の方が異端だってのはわかる。
<ところで、その神子だが、秋には人数は限られるにせよ、どの地域でも交流は行えると言う認識で合っているだろうか?>
おっと、どの地域でも、と来たか。
「まだ、半年はあるので、今回の神子さん達に教育して、その結果を踏まえて全国展開するのは十分間に合うと思いますけど、遠隔地でも熱意のある若竜がいる感じです?」
<若竜の住む地域に偏りはない分、ロングヒルまで飛んでこれない遠い地では、秋の交流に期待する者が多いようなのだ。身近な者が誰か実際に交流できれば、自分が当事者でなくとも、彼らもある程度満足し、熱意ある者も自分の番が来るまで何年か待つ事になってもさほど不満は持たないだろう。だが、周りでも誰も交流できてないとなると、不満が出るだろう>
むむむ。なる程ね。いくら時間感覚が鶴亀でも、先が見えて待つのと、見えずに待つのでは感情の持ち方が違う、と。
お、代表テーブルからレイゼン様が声を拾う魔導具を持った。
「雲取様、ロングヒル近辺の地図で構わないので、一般的な竜族の行動範囲と身近と感じられる相手について教えて欲しい。それが分かれば、最低限、必要な神子の人数も割り出せる筈だ」
ふむ。今回の神子では鬼族は三人だったからね。連邦全域で三人じゃ足りないとしても、なら何人いればいいのかは知っておきたいところだ。
そこはニコラスさんやユリウス様も同意見のようだね。
ベリルさんが大型幻影にロングヒルの周辺国まで含めた地図を表示すると、雲取様は自分の縄張りを基準に、ざっと範囲を示してくれた。
百キロなら近所、三百キロなら同じ地区内、五百キロだと遠出ってとこか。
うーん、思ったより狭い気がする。
<ここに頻繁に来ている竜は上手く飛べる者達ばかりだから、あまり参考にはしない方がいいだろう>
地の種族の居住地には偏りがあるし、条件を満たすように神子を確保するとなるとなかなか大変かもしれない。実際、代表達の表情は晴れやかとは言い難かった。
ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
財閥のマサト&ロゼッタの二人が一晩でやってくれました。って訳で、竜族の神子達もまた新たな勢力として確立されていくことが決まった瞬間でしたね。以前の話で、三大勢力(人類連合、鬼族連邦、小鬼帝国)、共和国、竜族、財閥、それに今回、更に竜神子達、と。
アキ(マコト文書専門家)と研究組、調整組、妖精族は実力は突出しているものの、勢力として数える場合、頭数の少なさ、という点で、ワンランク落ちる感じでしょうか。
アキは本編でも語られているように、これだけ多様な勢力が纏まる要となってます。本人はあんまりその気はないんですけどね。
この混沌な状況に、更に樹木の精霊達が参加し、連樹の神、世界樹、「マコトくん」という神々まで参加ですから、全体が纏まって一方向に動くこと自体が、後世の歴史家達からすれば、奇跡のように思えるんじゃないでしょうか。
次の投稿は二月十四日(日)二十一時五分です。