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2-21.新生活四日目④

前話のあらすじ:ケイティ、トラ吉がそれぞれ大規模な古典魔術を使って、アキの魔力感知訓練を支援するお話でした。

午後の訓練は、遠距離武器ということで、長弓、短弓、クロスボウガンといった射撃系と、投槍、スリングといった投擲系を扱った。どれも始めて使うものだったけど、使い方を教わって何度か繰り返すと、体に染み付いた動きがわかったおかげで、時間はかかったけど、それなりに使えるようになった。


一通りの訓練が済んだところで、女中人形のベリルさんが鞄を持ってきた。


「さて、今回は街エルフが誇る護衛人形を見せる。今後、外出することがあれば、万一の時には彼らの力が頼りになるから、そのつもりでいてくれ。ただし、許可するまでは触れないように」


「わかりました」


僕を下がらせると、ジョージさんが、鞄から籠手と軍帽を取り出して身に付けた。


「それは?」


「どちらも魔導具で、帽子の方は部隊指揮用、籠手の方は護衛人形への指示の補助用だ」


ジョージさんが、僕を下がらせると手を振った。


地面の上に魔法陣が輝いて、舞台のせり上がり装置のように、甲冑を纏い、左手に小型の盾を、右手にショートソードを装備した戦士が現れた。

背丈はジョージさんより少し低くて、スピードタイプって感じの印象だ。


「思ったより背が低いんですね。もちろん、僕よりは大きいですけど」


昨日見た見上げるような巨体の鬼族を見た後だったので、同じように大きな人形が現れると思っていた。


「こいつらは、護衛対象の近くで身を守るために、敢えて小柄に作られている。狭い場所で動きが阻害されないためだ。それに俊敏な小鬼達を阻止するためには長い武器は邪魔だ」


「なるほど」


「そして、この体格だが、力は強く、疲れ知らずの動きは素早く、防御に徹した彼らの護りを突破するのは至難だ。それを見せよう」


ジョージさんが手を振ると、新たに魔法陣が三つ現れて、護衛人形が合計四体に増えた。


「ベリルはそちらに。護衛人形達はベリルを守護せよ」


ベリルさんの四方に護衛人形達が立ち、周囲の警戒を始めた。


「では、襲撃開始だ」


ジョージさんが手を振った途端、防竜林や茂みから投げナイフが投げつけられて、同時に素早く小鬼人形達が走り寄る。


護衛人形達は小型の盾とショートソードを巧みに動かして、投げナイフをはたき落とし、接近する小鬼には踏み込んで薙ぎ払うことで接近を阻止し、その際の隙は他の護衛人形がカバーすることで、中央にいるベリルさんに、小鬼人形達が接近することも、投擲武器が当たることも防ぎ続ける。

武器や盾が当たるたびに激しい音が響く。小鬼人形達の防御が巧みだから、戦闘が続いているけど、護衛人形達の防ぐ動きは攻撃も兼ねているのがわかる。


「そこまで」


ジョージさんが制止すると、小鬼人形達が距離をとって武器を収めた。護衛人形達も警戒姿勢に戻る。


ベリルさんがくるりと一回転して、どこも傷がないことを示した。


その様子を見て、やっと息を吐く事が、できた。あまりにも襲撃が激しかったせいで、見ている間、ずっと息を止めて見てた事に気付いた。


「凄いです、ジョージさん」


「彼らの実力はこれで理解できたと思う。アキは彼らの動きを理解して、邪魔をしない行動をすることが求められる」


確かに。いくら、彼らが鉄壁に守ろうとしても、守られる側がちゃんと動かないと意味がない。


「努力します。ちなみに地球あちらでは、ボディガードを付けるようことは、一般人には縁遠い話だったんですけど、こちらでもそうですよね?」


当たり前のように護衛を付けると言われているけど、そこのまでするのは少し過剰な気もする。


「この国では、国外での活動を許可されているのは成人であり、街エルフの成人は当然だが人形遣いでもある。四体程度の護衛人形を展開するのは、街エルフにとっては普通なことだ」


「そうなんですか。あ、そう言えば、ジョージさんはどうなんですか?」


ケイティさんもそうだけど、確か二人はハーフであり、街エルフではないとのことだったけど。


「俺やケイティは探索者の資格があるから、人形を使うことは勿論出来る。ただ、人形遣いではないから、俺達は使うだけだ」


「人形遣いは違うんですか?」


「彼らは人形を作り、修理し、使うこともできる。人形の専門家だからな」


「凄いですね」


「アキもそうならないと、成人できないぞ」


「大変そうです」


「大丈夫だ。どんなに素質がなかろうとも、苦手だろうと、百年も学べば人形遣いの初級資格くらいは習得できるものだ」


「……それはまた、気の長い話で」


ジョージさんは安心させようと言ってくれているんだろうけど、理解するまで指導します、という学習塾に老人達が通う姿をイメージして、気が滅入る。


生涯学習とかの話もあるから、学ぶことは良いと思うけど、街エルフのそれは病的なレベルのような気がしてきた。


もっとも、老いと無縁となれば、それくらい意欲的じゃないと張りを持って生きていけないのかもしれない。





今日のおやつは、茶色い揚げ菓子サーターアンダギーだ。ほんと、無国籍というか、貪欲というか、食べ物に賭ける情熱は半端ない。

珍しく女中人形のアイリーンさんも控えていて、皆が食べる様子をじっと見ていた。


甘くてずっしりと食べ応えがあって、素朴な感じで、さんぴん茶がよく合う。

外はカリッと、中はしっとりと。味も何種類も用意されていて、ついつい手が伸びる。

なんだが懐かしい味だ。日本あちらの母が、混ぜ過ぎて空気が入るのは失敗なのだと力説して、作るのが簡単でいいと喜んでいたことを思い出した。

もっとも揚げ物だから、結構手間はかかっていると思う。


僕が黙々と食べている様子を満足そうに、アイリーンさんが見ている。


「もしかして、これはアイリーンさんが作ったの?」


「はい。料理長から許可を頂けたので今回は私が作りまシタ」


「ありがとう。美味しかった。また作って欲しいな」


「はい。今後、私が料理を担当する事も増えると思いますのでご期待くだサイ」


「よろしく」


料理を頑張る女中人形というのは普通なんだろうか。流石、異世界。凄いなぁ。


「アキ、午前中に海外との交易や探索について講義を受けてみて、どうだった?」


リア姉が、またサーターアンダギーを食べてる。中の色からすると紅芋の奴かな。太らないのか心配だ。


「そうですね。規模もそうですが、頻度とか艦隊の数、それに動員される探索者が大勢いそうなので、その選出や募集をどうしているのか気になりました」


「なるほど。それでアキはどれくらいの船が、どれくらいの頻度で出航していると考えた?」


「目的地が決まっていて最短ルートを動力船で移動するのとは訳が違うので、帆船の航行速度と、寄港地が複数、そして、探索者を送り出したり、拠点を作る手間とか、相手国との折衝とかを考えると一回の航海は短くて一年、長くて三年といったところでしょうか」


「続けて」


「単艦運用は危険なので艦隊は最低でも二隻がペアで運用する感じで、えっと船乗りは魔導人形ですか?」


「船員の大半は魔道人形だね」


「であれば、探索者はあの船体の大きさからすると百人から二百人程度でしょうか。水や食料のスペースを考えないで済むのは有難いですね。それで、後は国力とのバランスですが、海外交易はかなりの富を稼ぎ出しているようなので、艦隊は複数、毎年のように帰港すると仮定すると、二、三艦隊程度、それに訓練用に一隻、ドック入りして修理してる船が二隻、全部で十隻くらいでしょうか。そうなると探索者が何千人規模。何か教育機関とか運用されてます?」


「ああ、各国に孤児院を立てて、探索者とは限らないが、教育には力を入れているよ」


「となると、かなり大規模に運用されているようですね。もしかして、宥和政策とか、人材確保とか、影響力拡大とか兼ねているでしょうか?」


「長年にわたって継続しているから卒業生がある程度、要職に就いているのは確かだ」


 父さんが苦笑している。なんでだろ?


「どうかしました?」


「アキは簡単そうに話しているが、今の内容をそのまま納得して聞ける人は各国でも一握りなんだよ」


何でだろう? 長命種なら、世代を超えた浸透策とか、気長にやるのは普通と思うけど。


「数が劣勢で長命となれば、気長に世代を超えた施策とかやるのは定番じゃないですか? 誰でも小さい頃から、あるいは親の代、祖父母の代からお世話になったりしてれば、親近感は湧くでしょうし、それくらい気長に教育すれば、街エルフに親しみを持つ人々も増えて安心と思いますが」


「まぁ、断片的には思い付く者もいるだろう。だが、海外に送る人材への教育こそが重要と気付く者は多くない」


「彼らの行動は国の代表と見られるのですし、長期的な影響まで配慮して行動できる外交官的な能力、認識は必要不可欠ではないですか?」


「それだ。アキ、君の、あちらの人々の感覚、それこそが特異なんだ。こちらでは、特に他国では、危険な海外渡航にはなかなか人は集まらない。鬼族連邦では、罪人達に航海を終えたら恩赦を与えるなどと飴を用意してまで、水夫を集める始末と聞く。それだけ、死を覚悟するもの、まともな人は選ばない仕事と思われている」


あぁ、大航海時代前の雰囲気なのかな。


「まさに、黎明期。未知であるからこそ、一部の無謀な冒険家でもなければ、あるいは国家として必要として強引に推進でもされなければ、乗り出す者のいない、そんな時代なのですね」


「そうだ。だからこそ、帰港できることが当たり前と人々に浸透し、広大な新天地で一旗揚げようという感覚を先取りし、それを前提に話をできるアキの感性は異質なんだ」


「何か注意した方がいいとか?」


「いや。分からない人には単なる夢想にしか聞こえないし、わかる人ならそもそも無碍には扱うまい。ただ、異様にアキを誘う者がいたら、取り入ろうとする者がいたら注意するんだ。だいたいロクな奴じゃない」


うーん、あんまり想像できないけど、変な感じがしたら気をつけよう。


「はい」


どうも、僕の適当に言った推論はそこそこ当たっていたっぽい。街エルフの人数に比べて活動が大規模なのは膨大な数の魔導人形がいるからだけじゃなく、他の人種、ケイティさんやジョージさんみたいな人がかなりいるからなのは確定か。

この分だと先祖代々、街エルフに仕えているなんて人もゴロゴロいそう。

彼らの視点で考えてると感覚が麻痺してきそうだ。注意しないと。





今日は時間に余裕があったので、お風呂で少し考え事をしてりして、まったりできた。

ケイティさんが同じ浴室にいるのに、人間、状況には慣れるものだ。


朝の話で出た妖精さんは、やっぱり最優先かな。物質界の研究者という話だし、妖精界の住人で、高魔力域での活動が基本の種族となれば、こちらとも違う視点や感覚、技術があるに違いない。

何か、助けになる技術や知識があればいいなぁ。

そういう打算を抜きにしても、御伽噺の住人たる妖精なのだから、会うのが楽しみだ。

やっぱり可愛いのかな、気まぐれだったりしなければいいんだけど。

子守妖精の役目を担当してくれるという話だから、知的な子とは思うけど、人の感覚とは色々違いそうだ。

身の回りの品とか、全部、妖精サイズで用意するのかな。その辺りも明日聞いてみよう。

次回の投稿は、六月十三日(水)二十一時五分です。

ブックマークどうもありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


街エルフと言えば魔導人形。護衛も人形なら訓練相手の小鬼も魔導人形なので、人形だらけですね。

四日目が終わりました。色々考えることはあるけど、知らないことも多くてなかなか行動には移せない。アキの暗中模索は続きます。


前回ちょっと紹介したエッセイ『小説家になろう』の全作品の週別ユニークユーザ数を集計して分析してみた(2018年05月29日時点)」ですが、僅かな期間ではありますが、日刊ランキング4位に入ることができました。興味の持てる内容だったようで、予想外の盛況ぶりに驚きました。皆さん、興味がある数字ですよね。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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