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12-15.鬼族の女衆(前編)

前回のあらすじ:「死の大地」の開放策についてざっと説明してみましたが、感触としてはいい感じですね。(アキ視点)

お爺ちゃんに聞いたところ、あの後、研究組のメンバーや、ケイティさんや女中三姉妹、それに妖精族からも賢者さんや宰相さんが呼ばれて、夜遅くまで皆で熱い議論を戦わせていたそうだ。


珍しく、今朝はケイティさんも女中三姉妹もいない。代表の皆さんや同行してきた文官の皆さん達からの質問攻めに四人総出で対応しているそうだ。


そんな訳で、今朝は母さんが僕の対応をしてくれていた。


今朝の食事は、春キャベツとベーコンのペペロンチーノ。キャベツの鮮やかな緑と、ベーコンの色彩が映える逸品だ。パスタの茹で加減もちょうどよく、少し少なめの盛り付けだった事もあり、ペロリと食べ切ることができた。


「ご馳走様でした。軽めでしたけど、今日は何か予定がありましたっけ?」


煎茶を飲みつつ聞いてみると、予想外の話になっていた。


「秋に向けて、竜達を各地で迎える準備の話をする程度で組んでいた予定が完全に破綻して、代表達は連樹や世界樹との契約に向けて、合意案を最優先で作り上げようとしているわ。まだアキが呼ばれるほど話が煮詰まっていないから、そちらへの参加はしないでいい。それで、手が空いたと聞き付けた鬼族の女衆から、茶会の誘いが届いたの」


茶会? う、なんか作法とか面倒くさそう。


「作法とか知らないですよ?」


「安心なさい。公式行事ではなく、軽く菓子でも摘みながら話をしたいだけと言われているわ。彼女達は代表達と違い、他種族と食文化を通じて交流する為に来たから、暫くロングヒルにいるそうよ。だから、今回は挨拶を兼ねて顔合わせをしよう、という趣旨との事よ」


そっか。


「それなら、参加するのは問題ありません。場所は鬼族のお屋敷ですか?」


「そうなるわね。ジョージを同行させるけど、護衛に徹するからそのつもりでね。勿論、翁とトラ吉は同行するわ」


「にゃー」


「儂らがいるから安心せい」


「二人とも宜しくね」


予め、シャンタールさんが着替えのワンピを用意してくれていたので、それに着替えて早速、ウォルコットさんの操る馬車で、鬼族の屋敷へ。





屋敷に到着すると、待ってましたと言わんばかりに、恰幅の良い鬼族の女衆、つまりオバちゃん達がズバパーン!っと出迎えてくれた。身長二メートル近いから、雰囲気はオバちゃんなんだけど、三人並ぶと仁王像とかそっちの様な大迫力って感じだ。

真ん中の人が少し年上で緩く着た和服がお似合いだ。左右の二人はシャツにスカートと洋風のサッパリした装いで、スタイルもいいんだけど、背丈が大きいから、胸なんて西瓜みたいな大きさで、自分が幼稚園児に戻ったような気にさせられた。


「よく来たね。話に聞いていたようにお人形さんみたいだよ。立ち話もなんだからね、上がっておくれ」


お、おぅ。


「はじめまして。えっと――」


「あぁ、子供だから子守妖精と角猫、それと護衛が同行するのは聞いているさ。一緒に来ていいけれど、私らはか弱いからね、お手柔らかに頼むよ」


などと笑い出して、レイゼン様とは方向性の違う圧を放って、のしのしと歩きだしたから、慌てて後に続いた。


昨日、到着した筈なのに、オバちゃん達はまるで自宅のような気軽さで、当然とばかりに堂々と進んでいくけど、その歩みにはまるで迷いがない。


途中、セイケンと一緒によく見かける文官の方もいたけど、会釈した彼に対して、彼女達も当然とばかりに軽く返礼しただけでお終い。なんか力関係が分かるやり取りだった。





いつもの人族用の椅子によじ登って座り、テーブルの少し離れた位置にトラ吉さんが飛び乗って丸くなると、テーブルの向かいに二人が座り、一人が鬼族サイズの寿司湯呑みに緑茶をたっぷりと煎れて、山盛りの菓子入れと一緒に出してくれた。置いてから、僕にとって湯呑みが大きすぎる事に気付いて、鬼族サイズのお猪口も置いてくれた。人族の普通の湯呑みサイズだ。


「小さい碗だといちいち注ぐのが面倒だからね。こうして初めに纏めて出すのが鬼族スタイルって奴さ」


「いえ、お気遣いありがとうございます。お爺ちゃん、ちょっと注いでくれる?」


「ほれ。これで良かろう」


お爺ちゃんが仮初の器を創って、寿司湯飲みから、お猪口に緑茶を注いでくれた。仮初の器はすぐ虚空に消えるけど、お爺ちゃんは手に妖精サイズのカップを創り、お猪口からお茶をすくって一飲みして、満足そうに笑みを浮かべた。


「美味い茶じゃ。こうしてアキの分を分けて貰うが、気にせんでくれると嬉しいのぉ」


儂らはこの通り小さいからな、とお爺ちゃんが身振りを加えて説明すると、オバちゃん達は、体を揺らして笑って頷いた。


「話には聞いていたが、本当に魔術を手足のように使うんだねぇ。好きにしておくれ。給仕役を置くなんて面倒だからね」


僕もお茶を一飲みして、少し渋めで茶菓子に合わせるとちょうど良い味付けで良いですね、などと話した。


茶菓子は黒糖蜜を塗した細長い揚げ物、花林糖だ。太めだけど、噛みきれないほどじゃない。パキンッと音を立てて折って食べるとなかなか美味しい。お爺ちゃんも魔法の槍でスライスして、ポリポリと食べて、茶と合うのぉ、なんで話してた。


「さて、軽く自己紹介しとくよ。私がウタ、二人がテルとハナだよ。お嬢ちゃんがアキで、隣にいるのが翁、そっちの角猫がトラ吉だと言うのは知ってるから挨拶は抜きでいい。面倒なだけだからね」


「はい。ウタさん、テルさん、ハナさん、宜しくです」


「うむ、宜しくのぉ」


頭数だけなら三対三のお茶会がこうして始まった。

ブックマークありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。

待ち時間を利用して、アキと鬼族女衆との顔合わせが始まりました。これまでとは方向性の違う存在感にちょっと気圧されているようです。と言っても、萎縮するような性格はしてないですけどね。

次の投稿は一月十七日(日)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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