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12-13.「死の大地」開放策(前編)

前回のあらすじ:ジャパニーズビジネスマンの日本式交渉術は、こちらの世界、種族には合わずフルボッコにされました。常識の違いって難しいですね。(アキ視点)

僕は、ベリルさんに手伝って貰い、先ずは「死の大地」の浄化の流れについて箇条書きにして貰った。


「こちらに書いたように、①呪いの循環を崩すポイントを明らかにする、②浄化術式の魔導具をポイントに設置して浄化開始、③呪いが薄まったら、呪いの基点を突き止めて浄化する事で浄化ペースを加速、④植物が生育できるまで呪いが薄まった地域から緑化開始、⑤植樹していき森を再生、といった流れになります。昆虫や動物を入れるタイミングは工夫が必要でしょう。そして地の種族が移住しても影響がないと判断されれば、晴れて、「死の台地」の呼称は過去のものとなります」


「アキ、連樹の成木を植えるのはどの段階か? ⑤だとかなり先の話となりそうだが」


ヴィオさんが懸念を口にした。


「イズレンディアさんと話をした時は、②のタイミングで、浄化と植樹を一緒にやる事をイメージしてたんですけど、浄化に効果的なポイントと、連樹の好む土地が重なるとは限らないので、そこは連樹の神様と相談ですね。先行で植えて連樹が根付き育つ事で浄化を後押ししてくれそうなら、同じタイミングで。そうでないなら、もっと後のタイミングになるでしょう。ところで、不勉強で申し訳ないのですが、呪われた土地と言うと、薄暗く、空気が淀み、死の気配に満ちた、って感じですか?」


そう質問すると、ニコラスさんが眉を顰めた。


「確かにそうだが、それも知らずに、浄化できると考えていたのか?」


「浄化自体は、浄化の術式頼みですから。呪いで日差しが遮られるかどうかは、植樹のタイミングに影響するだけなので。その話だと、植樹は後回しですね。狭い範囲を浄化して、その中を生育可能な環境に整えても、周りが呪いで薄暗いと、連樹の生育には適さないでしょう?」


「そうだ。我らが連樹には豊かな日差しが欠かせない。だが、一旦根付けば本数が増えるほどに力を増していき、呪いも跳ね除けていくだろう」


ヴィオさんも頷いてくれた。


「では、連樹の成木を植えるのは、呪いがある程度薄まってくる③のタイミングとしておきましょう。浄化術式、呪いの基点潰し、連樹の成長、この三本立てになればペースアップ間違いなしです」


そう話すと、ユリウス様が手を挙げた。


「アキ、そもそも、近付くのも厳しい状況では①のポイント選定や、②浄化術式の魔導具設置も困難ではないか?」


「①は、小型召喚の竜と妖精、それと計測用の魔導具を組み合わせて、高空から呪いの計測を行えば、呪いの循環状況の把握はできるでしょう。小型召喚にするのは、「死の大地」全域を網羅するように長時間飛ぶ必要があるからです。魔力の残量を気にしながらでは、計測作業に集中できませんから」


ホワイトボードに簡単な「死の大地」の図を書いて、各地の呪いの強度を計測、それを繋げていけば、呪いの循環経路が見えてくる、そんな流れを示した。


<確かに、そのように飛ぶとなると、小型召喚でなければ、何度も巣で休まねば魔力が足りぬ。それに調査はできるだけ短期間に行った方が良いのだろう?>


「そうですね。可能であれば、何柱か同時に飛んで貰い、一度で計測した方がより正確に把握できるでしょう。一番効率の良い計測の仕方は、街エルフが持つ「死の大地」の呪いに関する情報から割り出せると思います。えっと、ヤスケさん。「死の大地」の呪いが輪のように循環している状態は把握できてるんですよね?」


「……確かに情報は持っておる。だが、精度は悪く情報も古い。細い線のように循環経路を描ける程ではないから、過度な期待はしないでくれ」


「いえいえ、これだけの広さですから、全域を面として詳細に計測するのと、ある程度、ルートを絞り込んで計測するのでは、手間は雲泥の差です。それなら、例えば雲取様と雌竜の皆さんに一定間隔で横に展開して飛んで貰いながら計測して行けば、経路の特定や以前との違いも判断できそうですね」


ホワイトボードに、竜が一キロずつ等間隔に空けて横一列になれば、七キロ幅の計測ができるから、常に互いの呪いの強度を比較する事で、一番強い位置を把握しながら経路を辿れる、と図で示した。


考え方はシンプルだけど、互いに常に情報を共有してやり取りして、これだけの幅で、高空を整然と飛行し続けるのは、かなりの技量が必要となるので、そこは頑張って貰うところと話すと、雲取様がかなり興味を示してくれた。


安全策として、呪いの影響を受けないように、呪いの強度に応じて高度を変えるか、高高度を維持して水平に飛ぶかは、呪いを計測する魔導具の感度、精度によると補足した。


皆は深く考えているようで静けさが場を包んでいるけど、こういう緊張感のある真面目な雰囲気はいいね。


暫くして雲取様が口を開いた。


<かなりの訓練が必要だな。アキの考えでは、先日、我が共に飛行したように、小型召喚の竜が妖精と共に飛び、妖精は魔導具を使い、計測や情報交換を行うのだろう? 計測しつつ、整然と皆で高度や進路を揃えて飛ぶというのは、簡単ではない。それに揃えつつ、できるだけ速度も維持せねばならん。以前、話していた団体戦よりもずっと高度な取り組みだ。今の想定なら竜八頭、妖精八人、それに様々な魔導具が一体となって動くのだから>


「でも、挑戦しがいはあるし、頑張ればできそうでしょう?」


<うむ。アキのいう「少し大変」という奴だ>


雲取様が楽しげに笑った。シャーリスさんやお爺ちゃんも、自分達でないとできない任務と聞いて、かなりやる気を見せてくれている。いいね。


皆さんも話は理解してくれているけど、徒歩ベースの移動で地形に影響されるのが基本の社会に、移動速度百倍、活動範囲数十倍、それに地形無視の空軍思考を入れるというのは、やはりインパクトが大きかったらしい。

地形無視は妖精さん達もそうだけど、彼らにしても高空を飛翔する竜族の活動域とは速度と範囲の桁が違うからね。シャーリスさんもお爺ちゃんも、「死の大地」全域を俯瞰する話に興奮気味だ。


「②浄化術式の魔導具設置の方は、近付くのが難しいなら呪いの範囲外から投下するなり、滑空着陸させるなりすれば、問題は解決です」


イズレンディアさんに説明したのと同様、設置地点を対空車両に、呪いの範囲を迎撃範囲に見立てて、設置する浄化術式の魔導具は、迎撃範囲の外から投入する誘導爆弾や滑空爆弾に見立てて、説明して行った。

一定の高度になったらパラシュートを開いて減速すれば、壊れない程度に速度調整もできる、と。

そして、この程度の誘導制御なら地球(あちら)では、第二次世界大戦の頃でもやってる話なので十分可能だと補足した。


「浄化の魔導具を、呪いを回避して設置する事はできるとしよう。しかし、あれほど広大な大地の呪いを、魔導具が侵食される事なく浄化出来るものなのか?」


ユリウス様の問いに、リア姉が返答する。


「ユリウス様、それは質と量の問題です。草木を燃やすのには松明の火でも可能ですが、松明の火を見渡す範囲全てに敷き詰めても鉄は溶かせません。「死の大地」の呪いの量は確かに膨大です。しかし、その質、位階は竜や魔導師の守りを上回る事は殆ど無いでしょう」


「一理ある。だが、それなら面倒な手間などかけずに、竜族に設置して貰えば良いのではないか? 彼らならば呪いの外から目的地に近付き、設置して戻るにせよ、さほど時間は掛からないのだろう?」


流石、リターンがあるならリスクを取ることを厭わないユリウス様だ。そして、予想通り、長命種のレイゼン様や、雲取様は難色を示した。


「短期的に影響はなくとも、必要がないならそんなリスクは負うべきではないぞ」


<呪いの地は、近付くだけでも不快になるくらいだ。どうしても必要ならば考えるが、他の方法で設置できるなら、そちらで行きたい>


まぁ、そうだろうね。高濃度放射線に満ちた危険地域で、放射線測定器(ガイガーカウンター)を睨みながら、時間に追われて作業なんてのは、誰だってやりたくはない。


あ、そう言えば気になった事がある。


「シャーリスさん、召喚の場合、呪いの影響って、本体には関係ない気がするんですけど、どうですか?」


「アキ、本体と召喚体は経路(パス)で繋がっている。だから、影響が完全にないとは言い切れない。それに呪いは体だけでなく心にも影響が出る。召喚体ならリスクゼロと言うほど都合の良いものではないと考えよ」


ふむふむ。


<召喚体が怪我を負っても本体は無傷。そうかもしれないが怪我を負ったという記憶は心に残る。結果として問題がないはずの本体でも不調が続く、そうなるかもしれない。召喚体であればリスクを取れる、その考えは良くないぞ>


残念。


「となると、安全側に倒した判断が必要ですね。幸い、近付かなくとも設置する手段はあるので、しっかり事前準備をして、本番成功といきましょう」


「リア殿、設置の算段がつきそうな事はわかった。だが、呪いの浄化術式、その魔導具もまた竜のように呪いの影響を受けないモノを用意できるのだろうか? 長期間、安定して動作し続ける事が求められるだけに、目処が立っているようであれば知っておきたい」


それを聞いて、リア姉はケイティさんに指示して、僕の長杖を持って来させた。


「皆様もご存知と思いますが、これは元はロングヒルの国宝だった戦略級長杖です。しかし、今ではアキや私以外は魔力を通せず、アキの魔術学習専用杖と化しています」


魔力を通せるかお試しください、と告げると、ユリウス様、ニコラスさん、レイゼン様の順に実際に手に持ち、魔力を通そうとしてみた。


特にレイゼン様は周りが驚くほど、魔力を活性化させて奮闘してたようだけど、結局、だれも通せなかった。まぁ、師匠やケイティさんが通せない時点で、無理な話なんだろうね。


「話には聞いていたが、本当に全く通らんな。つまり、アレか。浄化術式の魔導具はアキかリアが魔法陣に魔力を通しておくことで、呪いの影響を排除する、そう言うことか」


「その方法なら、長期間、呪いの影響を跳ね除けつつ、地脈から呪いを除去した魔力を吸い上げて、浄化術式を発動し続けられる、そう判断しています」


「リア姉、僕達が宝珠に魔力を詰めておいて、それで広域の浄化術式を発動するんじゃないの?」


「アキや私が詰め込む魔力は位階は高いけれど、広範囲向きじゃないし、そんな事に使ったら宝珠の魔力はすぐ尽きる。それより、宝珠の魔力は地脈から吸い上げる魔力の浄化専用として、広範囲の浄化自体は地脈からの魔力を使う方がいい。それなら、地脈から抽出して使う分の魔力から呪いを除去するだけだから宝珠に込めた魔力の損耗は僅かで済む」


「水を浄化するフィルターみたいなモノって事だね」


「そう言う事。もっとも今話した内容も、私やアキの魔力がなければ絵空事だった。連樹の神様も、私達が参加する事を前提で考えたのだろう」


「それは我が神も話されていた。二人の存在がなければ、「死の大地」の浄化などと言う話は持ち掛けないと」


やっぱり、と全員が納得した。

ブックマークありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。

こちらの人々の世界観、距離感は、街エルフ達のチート国家は第一次世界大戦あたり+衛星探査情報保有といったところですが、他の種族はせいぜい明治初期といったところ、陸蒸気も走っておらず、自前の大型帆船で多少、遠洋航海できる程度なので、アキの視点はやはりインパクトがあったようです。

自前で長距離、高速飛行できる竜族が混ざっていて、自前でやはり飛行できて高度な魔術も使い放題な妖精族がいるから、話に現実味がありますが、彼らがいなければ、空軍思考は飛躍し過ぎてついていけなかったことでしょう。

あと、雲取様は「死の台地」に近づくだけで不快になると言ってますが、普通の種族なら対策をしなければ死んでしまう(※)ので、感覚のズレはやはり大きいと言えます。

 ※護符の類で防御をがちがちに固めておく必要があり、時間制限もあり大変です。

次の投稿は一月十日(日)二十一時五分です。

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