12-12.異文化交流の難しさ(後編)
前回のあらすじ:神様達の啓示に対する皆の反応が、余りの予想外だったことに取り乱しちゃったけど、ユリウス様が手を取って落ち着かせてくれたおかげで、ヴィオさんも交えて啓示に対する認識合わせに入る事ができました。ただ、ユリウス様の装備していた護符が壊れてしまい、危ない真似はやめて欲しかったです。(アキ視点)
新年明けましておめでとうございます。今年も週二回定期更新していきますので、のんびりお付き合い下さい。
僕は、皆が、連樹の神様からの啓示に、否定的な回答をするだろうと何故考えたか説明を始めた。
「えっとですね、日本での話なんですけど、面と向かって門前払いすると、後の関係が悪くなる事を懸念して、その場は「前向きに検討します」とか言って、話を持ち帰るけど、その時点で多分ダメだろうなぁという予想は付いてて、実際、社内で予算とか納期とか難度とか色々考えると話は受けられないって結論になって、検討しましたが今回はご縁がなかったという事で、と伝えるらしいんです。皆さんが啓示を聞いた後の対応が正にそれだなーと」
そこまで話したところで、ユリウス様が額に手を当てて、オーバーアクションで、ダメ出ししてきた。
「アキ、それは人族ならまだしも、小鬼族ではあり得ない対応だ。だいたい、問題があればその場で話が通るように話し合えばいいだろう? それに決断できない権限の者が対応に出る事自体がおかしい。断るしかないとしても、そんな時間をかけては相手に礼を欠くぞ?」
小鬼族にとって時間は何より貴重なのだから、と話を締めくくった。
すると、ニコラスさんも、それなら私も伝えておきたい、と話し始めた。
「我々、人族もそんな迂遠な真似はしない。それに連邦や帝国と違い、連合は多くの種族の寄り合い所帯だ。そんな阿吽の呼吸のような、言葉にしない気遣いなど誤解を生むだけで百害あって一利なしだ。それと、アキ、そもそも前提がおかしい。神の啓示に対して、受諾以外の返答などあり得ない、それが常識だ。街エルフは確かに竜族と争ったが、それは例外中の例外、相手は生ける天災なんだ。話が受け難いとしても、この条件なら受けられる、そんな形での返答となる。今回も難度は非常に高いが、幸い、制限は驚くほど少ない。その点は高い知性を持つ連樹の神様が配慮されたのだろう」
えっと? イエスと答えるのが基本? そんなモノなのかと、リア姉の方を見たら、説明してくれた。
「昔、街エルフが争った頃の天空竜は暴虐で死と破壊を撒き散らす許容できない天災だった。座して死を待つくらいならば、抗ってやる、それが街エルフの出した結論だった。今のように、皆と共存する竜、神や魔獣、精霊ならば、ニコラス殿の話したように、互いの落とし所を決めて、話を受けるという判断になると思う。一般化できる程、事例は多くはないけれど」
ふむふむ。
そこで、ヤスケさんが割り込んできた。
「誤解されぬよう予め言っておくが、我々、街エルフは不倶戴天の敵たる天空竜達相手でも、相互不干渉の約定を取り決めた後は、それをしっかり遵守しておる。アキの言う、穏やかな竜達、そんな彼ら相手に無用に波風を立てたりはしておらん」
災いとなるなら神とて滅ぼそう、そんな風に思われては堪らない、と主張し、自分達は商人であり、多くの存在を繋ぎ、支え、共に栄える事を良しとしているのだ、とアピールも忘れなかった。
雲取様も、そんなヤスケさんの主張に興味深そうに耳を傾けていた。否定しないあたり、昔、暴れていた竜達にはそうされるだけの理由があった、そう上の世代からも教えられているんだろう。
そして、レイゼン様もそれなら言っておくか、と話し出した。
「確かに、話をもってきた相手との関係を考えると断りにくい事はあるかと言えば、ある。そんな時は、機が熟しておらぬ様だ、と言ったように、話を先送りにする事はあるな。だが、断る理由を他人任せにして、保身を図るような真似は、鬼族では好かれん。それくらいなら、スッパリその場で断った方が後腐れが無くていい。あとな、ニコラスも話していたが、我ら鬼族とて、そうそう対峙の道は選ばんからな? 急いては事を仕損じるとも言う。先送りにできるなら、無理にその場で決めようとはしないモノだ」
<それは、我ら竜族にも通じる考えだ。時間を掛けても、合意できるならそちらを選ぶ、争えば癒えぬ傷を負うかもしれんが、そんな危うい真似を我らは選ばない>
あー、成る程、長命種らしい考え方という奴だね。ユリウス様も、時間をかけられるとは何とも贅沢な話だ、と苦笑していた。
どうせなら、残りの種族も聞いておくかな。
「ドワーフ族と森エルフ族も、神様からの啓示があれば、否定はあり得ないです?」
「それは無い。何より我々ドワーフにとって、庇護してくださっている雲取様こそが神であり、雲取様から何か求められたなら、望まれた事に喜び、何としても話を受けて力の限りを尽くすじゃろうて」
「私達、森エルフもまた、雲取様や世界樹の精霊から話があれば、その意に沿うよう動くだろう。アキの認識は、その点では竜族や妖精族にかなり近いようだ。その差を心に留めておいてくれれば幸いだ」
ヨーゲルさんもイズレンディアさんも、神を信仰しているだけあって、信心深い回答だ。
結論としては、日本的商習慣、露骨に口にしない迂遠な対応は、こちらでは合わないと。
「あまりに想定と違う反応に、少し混乱していたようです。早合点してすみませんでした」
そう謝ると、皆も、今後も違和感を感じたら、その場ですぐ話すように、と念押ししてきたものの、許して貰えた。
ヴィオさんも、神の言葉と、信仰する者の視点という固定観念以外に触れて衝撃を受けているようだ。
「妖精族が竜族を同格と見ていると聞いてはいた。高位存在は互いを尊重はするが、上下はない、か。神社に閉じこもっていたら、理解できなかった事だろう。我が神の話された通りだった」
「連樹の神様はなんと?」
「世界樹、竜、妖精、信仰に支えられた神、それに連樹。それぞれに考えがあり、生きる場が異なる。優劣はなく、上下もない。そう考え、礼を持って接するように、と話されていた」
成る程。どの神様もそう考えてくれるなら、宗教戦争も起きないんだろうけどね。
それにしても、連樹の神様は多弁だね。啓示の文字数制限がある「マコトくん」とはえらい差だ。
多弁というより過保護かも。孫みたいとか言ってたし。
そんな事を考えていたら、ユリウス様が新たな話をぶち込んできた。
「ところで、アキ。我々の助力が得られないと誤解した時、それなら自分で何とかするしかない、などと考えたりしてなかったか?」
「え⁉︎ ユリウス様、心が読めたりするんですか?」
「そんな技は使えん。だが、余は皇帝として多くの者を見てきたからな。国の助力を得ようと陳情に来て、望みが果たせなかった時、人が見せる態度は二つある。諦めるか、それでも何とかしようと足搔くか、だ。先程、アキが見せた目は、足搔く者のそれだった」
「確かに、時間制限もあるから、助力が得られないなら自分のできる範囲で何とかしないと、とは考えましたけど、松竹梅で言えば、梅コース相当の話ですから。国の援助が得られるならそれが最上ですよ」
そう話すと、やはりな、とユリウス様は全員、長丁場に備えるように、と言い出した。スタッフさん達もそれが当然のように一斉に動き始める。
あ、あれ?
「街エルフの共和国の二十倍もの広さを持つ「死の大地」。長い年月を経ても未だに草木も生えぬ呪いに閉ざされた、竜すら近寄らぬ地だ。かの地を覆う呪いを解消し、地脈の歪みを正し、更に連樹の植樹までする。余には三勢力の統一などより余程難事と思えた。それだけに、実入りが良いとするアキの視点をまず理解せねば、判断などできぬ。――皆も同じ思いのようだ。アキが何故、実入りが良いと考えたか、手札だけで対処できるとしたか、まずは説明してくれ。それと、松と梅の違いも後で話すように」
ユリウス様の指示で、僕の補助をするよう、ケイティさんや女中三姉妹も呼ばれた。「死の大地」やその周辺まで含めた立体地図や、ホワイトボードも用意されて準備万端。
ケイティさんが懐中時計も見せてくれて、残り時間も頭に入った。
――気持ちを切り替えよう。
いずれにせよ、協力を得ないと手に余る大きな策だからね。それでも、連樹の神様、世界樹の精霊、「マコトくん」、それに弧状列島全域の樹木の精霊達、それらの協力を得られる絶好の機会だ。
成功すれば次元門構築の大きな後押しにもなる。
なら、全力を尽くさないと!
やっぱり立って話した方がやり易いので、ホワイトボードの前に立って、皆に一礼した。特にこういった場では初めてのヴィオさんにも視線を向けて、これから話をするよ、と認識してもらって準備OK。
「それでは、この場を借りまして、「死の大地」開放手順の私案をお話しします。神々を含めた全関係勢力による初めての共同作業となるでしょうか。弧状列島の統一に華を添える、そんな話となれば幸いです。それでは――」
仲良くなるには一緒に協力して何かを成し遂げるのは良い事だから、と気持ちを切り替えて、笑顔で説明を始めた。
いきなりだけど、ある程度話せるよう準備はしてきた。ここからが僕の主戦場だ。総取り目指して勝ちに行こう!
ブックマークありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。
アキは本で読んだだけのジャパニーズサラリーマンの交渉術ベースで判断した事を話し、案の定、誰からも共感して貰えずフルボッコになりました。前回の後書きにも書きましたが、アキとシャーリスは異なる世界から来ている事もあり、その認識はズレる事が多く、特にアキは率先して自分の意見を表明して牽引していく分、違いが露呈しやすい特徴があります。それにまだ高校生、社会人経験ゼロなので、今回のような対外組織との交渉や調整は経験がありません。
まぁ、日本企業は動きが鈍く、話が全然進まない、決まらないと海外からも不評だらけなので、ニコラスも話したように同一文化圏で、変化が緩やかな時代だからこそ通じる慣習なのでしょう。
これまでにアキが頻繁にやってるのは、プレゼンテーション、自分の提案を皆に示して心を掴む部分であって、その後必要な実務的な部分とか調整とか検討は全部、他の人にぶん投げてるので、そういった事の経験も増えてませんでした。
次回からはアキの得意分野、主戦場たるプレゼンテーション、叩き台となる素案の説明になります。
次の投稿は一月六日(水)二十一時五分です。
<雑記>
必要で急な話ということで、献血に行ってきました。献血ルームは結構満員って感じでしたが、やはり、年末のコミケ(献血人数1500人!)が抜けた穴は結構あるんじゃないかなぁ、と思っています。
現在は、コラボイベントということで、ソードアート・オンラインとのコラボをやってます。
01/01~02/28が第一弾(画像左)、03/01~05/07が第二弾(画像右)ということで、
2つ合わせると一つの絵になるというクリアファイル配布をやってます。
また、Twitterの「みんなの献血」アカウントをフォローして、リツイートすると、
抽選で100名様にB2版オリジナルポスターをプレゼントもしているようです。
※応募受付期間は01/01~01/31の期間限定です。
人気作品とコラボで献血する人が増えてくれるなら、どんどんやって欲しいですね。