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2-20.新生活四日目③

前話のあらすじ:街エルフが海外交易で使っている帆船に関する講義のお話でした。

今日の魔力感知訓練は、トラ吉さんがこちらをじっと見た後、近寄ってきて、僕の足に顎を擦り付けきた。


「ありがとう、トラ吉さん」


気にかけて貰えているようで良かった。そっと背中を撫でると、尻尾を振って返事をしてくれる。


やっぱりこういうの、いいなぁ。


「そうだ、ケイティさん、派手に魔力が動く魔術ってありませんか? 激しい音とか光は不要で、ただ、魔力が沢山動くようなモノです」


「それは何とも現代の潮流に逆行するお願いですね。現代魔術は高効率、高速を目指していて、必要とされる魔力は極限まで節約され、発動も瞬きするより早く終わるものですから」


「それだと気づきにくくて困るんです。自然の魔力を感知する場合は感度を引き上げることになると思うんですけど、逆に魔力の方を気付きやすいレベルに高めるのも作戦としてはありじゃないでしょうか?」


「――わかりました。得意ではないんですが、ちょっと古典魔術を使ってみましょう」


ケイティさんが、指揮杖でさっと空中に何か書き記した。


「広範囲に影響のある魔術になるので、敷地内に通知を出しました。いきなり使うと、何事かと騒ぎになりますからね」


「便利ですね。望む相手に連絡を取る魔術って一般的なんでしょうか?」


「先程のは、敷地全体に施された警報の術式に指示を行ったもので、普及してますが、アキ様が言われているのは、もっと遠距離であったり、特定個人との連絡という意味でしょうか?」


「はい。地球あちらでの携帯電話のように、他国にいても、簡単に連絡を取り合えるなら便利だと思ったんですが、どうでしょう?」


「距離が離れると連絡は難しいですね。それが簡単なら、わざわざ微細な時刻指定型転移門を用意しなくても良かったでしょう。先程のように、予め、連絡の取り合える術式で覆われた区域であれば可能ですが」


「考えてみれば、地球あちらでも携帯電話は近くの基地局に繋げているだけで、遠隔地にいる相手と直接繋がる訳ではありませんでした」


「その基地局同士が連絡を中継しているのであれば、仕組みは似ていますね。こちらは狭い敷地の範囲ですけど」


地球あちらも一つの基地局のカバーする範囲はさほど広くないので、どこでも連絡が繋がるように国中に漏れなく基地局を設置していたんでした。考えてみればかなり大規模な仕組みに支えられていたんですね」


「国中、それも自国だけでなく他の国々も、ですか。あちらの話は規模がおかし過ぎて、原理的には可能とは理解できますが、それを成し遂げたというのが信じ難いです。一つの都市国家規模でも驚きなのに」


地球あちらでも、どこでも連絡が取れる携帯電話が普及したのはここ三十年くらいですからね」


「こちらでも敷地内、屋敷内であれば連絡はできますが、あと何十年かで、国中どこでも連絡を取り合えるようになるかと言えば、難しいでしょう」


「悩ましいですね。……ところで、長話になってしまいましたが、そろそろ、試して貰えますか?」


「そうですね。では始めます」


ケイティさんが杖を構えると、トラ吉さんが少し距離を置いた。僕がその様子を見ていると、何故か盛大な溜息をついて、近づいて来た。


「みゃう」


こっちだ、と言わんばかりに鳴くと、少し離れた場所で、立ち止まり、前足で地面をポンポンと叩いた。


呼ばれているようなので近づくと、前足で隣を指してきたので、そこまで近付いた。


トラ吉さんが、視線をケイティさんのほうに戻したので、僕も見てみる。


杖を構えて、杖の先に意識を集中しているようだけど、何も変化はない。


『水よ、集え』


ケイティさんが唱えると、杖の先に頭くらいの大きさの水球が現れた。器に入っていない水が球のような形状をしているせいか、キラキラと光を反射してとても綺麗だ。

それになんだか空気が乾燥して、湿気が無くなった気がする。


そして、水球はそのまま落ちて水溜りを作った。


「どうでしたか?」


結構、魔力を使ったんだろうか。長時間、計算問題と格闘し続けたように、精神的にかなり疲労したように見えた。


「空気中の水分を集めたんでしょうか。綺麗でした。喉が渇いた時とか便利そうですね」


「いえ、魔力の杖先への集中や、術式発動で、防竜林の三区画分くらいまで魔力の変化が起きて、かなり大きな動きをしたのですが、それらを感じ取れたか、というほうです」


「そちらは何も。魔力感知って難しいですね……」


うーん、それだけ広範囲に影響を与える魔術なら、魔力は大きく動いたと思うんだけど、残念。


「みゃおん」


トラ吉さんが仕方ないといった顔をすると、一声鳴いて、軽やかに大岩の上に飛び乗った。


その様子を見ていたケイティさんが慌てて止める。


「トラ吉、駄目です、やめなさい!」


「みゃうーん」


知ったことかと目を細めると、トラ吉さんが間延びした声を発しながら、大きく頭を振り下ろした。


波紋のように角の先端から霧が生まれて、瞬く間に周囲を埋め尽くし、ほんの少し先にあるはずの館すら覆い隠してしまう。昼間のはずなのに薄暗いほどの濃霧。


「何やってるんですか!? こんな戦術級魔術を発動するなんて。ちっ、この馬鹿猫! 短距離指揮まで無効にして、あー、もう!!」


離れたところにいるケイティさんが珍しく感情も露わに、トラ吉さんを罵倒してる。


そのトラ吉さんはと言えば、これならどうだと言わんばかりのドヤ顔をしている。


うーん、霧が広がる様は凄かったけど、他の感覚が伴う感じはなかったなぁ。これがトラ吉さんの意思による現実の書き換えなら、もっと強い意志とか感情のようなものが混ざっても良さそうだけど。


「残念だけど、やっぱり魔力っぽい何かは感じられなかった。難しいね」


僕の言葉を聞いて、トラ吉さんは、溜息をつくと、少し毛繕いをしてから、体を丸めて欠伸をして、目を閉じた。


「ありがとうね。明日、お礼にブラッシングをしてもいいかな?」


大規模な魔術を使ってくれたのだし、僕も何かして報いたい。


トラ吉さんは、尻尾を振って返事をしてくれた。うまくいけば、明日は撫でたりブラッシングをしたりできそうだ。


「アキ様、トラ吉が図に乗るので、あまり甘やかさないようにしてください」


ケイティさんが、いつのまにか現れたジョージさんと話をしていたのを中断してまで、釘を刺してきた。


「こんなに賢くて、僕のために手を貸してくれたのだから、感謝は形にしないと」


リア姉の猫なのだし、打算抜きでも仲良くなりたい。それに人より魔力を多く持つ魔獣という話だから、人とはまた何か違う感覚を与えてくれるかもしれないし。


「それはそうですが」


ケイティさんと二言三言話したジョージさんは、離れて霧の中に消えていった。

これだけの濃霧だと、確かにあちこちで混乱が起きているかもしれない。

そこまで考えて気付いた。ケイティさんは僕が見える位置に控えて、周囲をそれとなく警戒してくれている。

僕はお世話になりっぱなしだ。これは良くない。


「ケイティさんも、先程はありがとうございました。何かお礼をしたいのですが、何か聞きたい話題とかありますか?」


「いえ、講義は私の仕事ですので、礼は不要です」


絶妙な声の加減で、やんわりと遠慮する手際は見事だ。


「僕が何かしたいので。どうでしょう?」


僕のために、と切り口を変えてみた。


「……では、はやぶさの書について、お話を伺ってもよろしいでしょうか?」


「はい。スケジュールはお任せします」


与えられるだけというのは歪な関係だから、少しずつ何か返していこう。





今日の昼食は、麻婆豆腐定食だ。杏仁豆腐までついている。食べてみると甘めの味付けで少しだけ辛い感じで、ちょうどいい感じだ。日本あちらでは中辛くらいが好みだったんだけど、体が変わって味覚もミア姉寄りになったんだろう。豆腐はかなりしっかりと詰まった感じで、とても食べ応えがある。中華スープの淡い味付けも、舌を休めるのにぴったりだ。最後に杏仁豆腐のつるんとした食感を楽しんだ。


「ご馳走様でした。とても美味しかったです」


「それは良かったわ。味は私たちの方に合わせたけど、ハヤトのほうに合わせて、辛い方にすることもできるわよ」


見てみると、父さんの食べた皿の色はもっと赤みが強い。辛い味付けっぽい。やはり男は辛めでパンチの効いた味付けの方が好みなんだろう。


「いえ、ちょうど良い辛さだったので、次も同じで。父さんは辛いのが好きなんですか?」


「そちらの味付けは私には甘く感じられてね。やはりマーボは汗を掻きながら辛みを楽しんでこその料理だと思うんだ」


「それは確かに。本場の麻婆豆腐は、山椒の痺れるような辛さと、唐辛子のヒリヒリするような辛さを味わうそうですから」


「……それは何とも舌がおかしくなりそうな料理だね。でも、マコトくんの話だと、そこまで辛さを追求した料理ではなかったはずだが」


日本あちらでも、麻婆豆腐は甘口、中辛、辛口、激辛みたいに種類が多かったから、僕が伝えた頃だと小学生の頃だと思うので、甘口だったはずです」


「なるほど。マコトくん情報は子供向けの味付けに偏っているという説が当たりだったか」


「まぁ、小さい子はあまり辛かったり、苦かったりしたら、食べませんからね」


思えば、ミア姉には和洋中何でもありな感じで、新しい料理が話題になるたびに、材料の産地、形や色、味や食感、栽培方法とか色々話をしたものだ。


日本あちらで、ミア姉はちゃんと食べているだろうか。味覚が変わって苦戦してるかな。まぁ、きっと変化自体を楽しんでいることだろう。

早く話がしたいなぁ。

次回の投稿は、六月十日(日)二十一時五分です。

やっと、ケイティが声を荒げるシーンを書くことができました。こういうやり取りもいいですよね。


あと、ちょっとエッセイを書いてみました。

「『小説家になろう』の全作品の週別ユニークユーザ数を集計して分析してみた(2018年05月29日時点)」

頑張って、投稿されている全57万作品について調べてみました。

よろしかったら、読んでみてください。

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