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12-5.竜神の巫女候補達(後編)

前回のあらすじ:周辺から竜神の巫女候補を集めて、洗礼の儀で選別する事になりました。ここから各地の竜に正、副、予備の三人の巫女が採用されれば、一気に十万人近い雇用創出ですからね。きっと世間の雰囲気も大きく変わる事でしょう。(アキ視点)

それから三日ほどして、大急ぎで製本まで終えた竜神の巫女候補に向けた説明の冊子も揃い、ギリギリ、周辺国から訪れた候補者達を迎える事ができた。


勿論、冊子だけ作ってた訳ではなく、事前説明の内容や段取りの把握、質疑応答の為の想定問答集なんかも使って頭の中を整理した。


時間はないけど、巫女候補達の数日後には三代勢力の代表、人類連合のニコラス大統領、鬼族連邦のレイゼン王、小鬼帝国のユリウス帝もやってくる。彼らの為のわかりやすい説明資料作成の監修もやったりしていたから、大変だった。幸い、ケイティさん達が予め、指導していたから大筋では問題なし。あと、ホワイトボードに書いて説明できる話は端折る事にした。全部を用意するのは無理だったから仕方ない。


候補の皆さんには冊子を配って事前に目を通してもらい、第二演習場で、洗礼の儀に参加して貰う事に。僕は起きたらすぐ会場に向かう段取りで時間も調整した。


白岩様に協力をお願いしたところ、そのような役を任されるとは嬉しいものだ、と喜んでくれた。沢山いる竜族の中で、最初に担うというのがまず楽しい、それに自ら候補を選別できるというのも納得できていい、そして、竜の前に立とうという多くの者達と会える事も嬉しいのだ、との事。

天空竜らしく登場するなら、どうするべきか、なんて感じに演出まであれこれ考えたりして、かなり乗り気だった。

怒気については、幼竜に軽く睨みをつける、若竜に軽く睨みをつける、成竜に軽く睨みををつける、の三段階で試して貰った。結果として、どうせなら本番も同様に三段階でやろうという事に。

ただ、成竜相手の場合、かなり怖かったので、候補の皆さんがそこまで求めるかは微妙だけどね。


懸念していた、恐れられ、怖がられる事については、成竜という事もあり、それが普通で何とも思わないそうで助かった。そうなるのが当然なのに、敢えてそれでも竜の前に立とうという意志の輝きは何度見ても良いものだ、などとも語り出すほどだった。





洗礼の儀の日は、幸いにして雲は少し多めだけど、晴れ間も見えるまずまずの天候となった。風も少し吹いているけど、肌寒くはない。花の香りが混ざってて、春の雰囲気が感じられる良い日だ。


時間がないから、起きたらすぐに身嗜みを整えて、他所行きの赤銅色のワンピとセットのボレロを着て、雲取様の装身具(ブローチ)を付けた。


今日は代表がくるような公式行事ではないので、長衣は着ないそうだ。予選的な印象を前面に出して、候補の皆さんが過度に緊張するのを避ける意味もあると。あと、白岩様の鱗の色に合わせた、と。


赤銅色の布地は、金属的な輝きもあって、落ち着いた色合いに気品を与えてくれる感じ。


白のシャツ部分やフリルとの色の対比で、お出掛け用のお洒落な感じと、女性らしい柔らかな雰囲気が両立されていて、着てても嬉しい。


シャンタールさんが、フォーマルに近付けつつもカジュアルな雰囲気も残すよう配慮した渾身の作と、ケイティさんが教えてくれた。後でお礼を言っておこう。素敵な装いは気分も引き締めてくれるからね。ありがたい。


移動中の馬車の中で、サンドイッチをいただきながら、段取りを打ち合わせをしていく。


「朝、第二演習場に向かう巫女候補の者達を見たが、かなりの人数がいたのぉ。小鬼も人も鬼もおった。数は少ないがドワーフや森エルフ、それに街エルフもちらほら見かけたが、魔導人形達も同行しとるから、護衛と区別がつかんかった」


お爺ちゃんが身振り手振りで教えてくれた感じだと、何十人って規模じゃない。もっとずっと多そう。


「魔力に鈍い、今の世では不遇な方を求める異例の条件ですから、自腹を切って参加した者も多いと聞きます」


「医療スタッフは足りてます?」


「そちらは各種族から増援を得てますのでご安心ください」


なら、問題ないね。


「それで、今日は相手も大勢いるから、発言に意思を乗せてもいいんでしたよね?」


昨日、研究組や調整組のメンバーを集めて、リハーサルをやったんだけど、決を取った結果、発言に意思を乗せる許可を貰えたんだよね。エリーだけは条件付き賛成だったけど。


「はい。エリザベス様の注意されたように、あくまでも穏やかな気持ちで、皆を支援しよう、支えようという心算でお願いします」


「そこは注意します」


心からのスマイル、スマイル。


「脅すほうは白岩様が担うのじゃから、アキは優しく、寄り添う態度を全面に出さんとな」


お爺ちゃんが少し意地の悪そうな笑みを浮かべた。あくまでも間を取り持つだけで、肩を持つつもりはないんだけどなぁ。


「アキ様、候補の者達は未来の同僚です。頼れる先達としての立ち位置をお忘れなきように」


ケイティさんが、今、変な事を考えましたね、って顔をして、注意してきた。


「勿論です、大丈夫、忘れてません」


「にゃ〜」


トラ吉さんが嘘つけって感じに呆れた声を上げた。


むむむ。


「アキも()()覚えておるから問題ないじゃろ。それで妖精族は、儂はアキの子守妖精、他の者達は場の争いが起きぬよう同席する仲裁役で良いのじゃったな?」


お爺ちゃんが念押ししてきた。


「妖精族に竜の洗礼は意味がありませんから。本日は仲裁役の立ち位置でお願いします。白岩様も、了承して頂いてますから問題はありません」


うん、まぁ、そうだよね。でも、シャーリスさん達の投槍連射の精度、射程、速度、威力を見て、何かあっても障壁しか出さないから、こっちには撃つなよ、と何度も念押ししていたのを了承って言っていいものかなぁ。


「うむ。儂らも無駄に傷付けるつもりなどないから安心して良いぞ」


お爺ちゃんは好好爺の笑みを浮かべて満足そうに頷いたけど、いやー、怖い、怖い。


「どうかしたかのぉ?」


お爺ちゃんが細い目で僕に問い掛けた。


「何も。頼もしい子守妖精さんで良かったなーって」


うむうむ、と頷いてくれて、腹の探り合いは終わった。





第二演習場に到着して、演習エリアに降りていくと、いつもと違って、大勢、五百人くらいの多様な種族の人達が整列していた。

立つ位置が交互に配置されているから、密集って感じではない。上から眺めたら、妖精さん達からは誰でも視線が通る塩梅だ。

性別は九割が女性だね。でも一割は男性だから、今後の名称は巫女から神子に変えた方が良さそう。


皆から離れた位置に描かれた円は、白岩様の着陸ポイント、そして皆の整列している位置との中間にあるのが、僕のための演壇だ。


これまでと違うのは、僕の後方に、正装のケイティさんとジョージさんが控えていて、演壇の四方を固めるように、お洒落な揃いの服装に身を固めた護衛人形の皆さんが控えている事。


こうして並んでいる人達を見ると、種族も性別も年齢も多様で、同じ種族でも服装に違いがあって面白い。


候補の皆さんの注目が集まるけど、浮かぶ表情はなかなか多彩だ。興味津々な者、胡散臭そうなモノを見るような者、緊張している者、不安げな者、尊大な姿勢の者、値踏みするような者といったように。


ほぉ。


なかなか興味深い層の人もいる……って、少し視線を向けた瞬間、ケイティさんから、小声で「スマイルです、アキ様」と注意が届いた。


いけない、いけない。


今日は日本海のように広い心で臨むんだった。


壇上に上がって、トラ吉さんが足元に座るまでに軽く深呼吸して意識を切り替えた。


隣にふわりと移動したお爺ちゃんが上方を一瞥して頷いた。皆さん、見えないけど、配置についているみたいだ。


さて、それじゃ、始めよう。

ブックマークありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。

洗礼の儀の準備も整い、次回から本番開始です。ある程度の事前審査はしているものの、これまでよりも人選基準が緩く、大勢が集まっているので、これまでで最も厳しい警備体制が敷かれています。警備の人達も大変です。

次の投稿は、十二月十三日(日)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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