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12-3.神への対価(後編)

前回のあらすじ:死の台地への植樹、それが連樹、世界樹が求めた対価でした。幸い、現在の手札で何とかなりそうなので、良かったです。五%の呪いに囚われた国土が、豊かな命育む国土に戻れば、往来が阻まれることもなくなり、周辺の海域でも魚介類が獲れるようになるから、弧状列島全体で見れば採算は合う話でしょう。(アキ視点)

イズレンディアさんの問いには答えたけれど、色々と疑問があるので、ケイティさんに質疑応答の時間を設けてもらった。


ベリルさんが筆記係として控えてくれて、準備万端。給仕役でアイリーンさん、更にホワイトボード対応でシャンタールさんまでスタンバイしたままだ。流石に過剰な布陣に思えたけど、直接聞いて把握しておく事が必要だからとのこと。


「それでアキ様、聞きたいこととは何でしょうか?」


「さっき、イズレンディアさんに話した策ってかなり雑なんですけど、あれくらいなら誰でも思い付くんじゃないかと疑問を持ちました」


そう話すと、お爺ちゃんも「儂も、高価な魔導具を使い捨てると聞いて驚いたが、後はそう変わった話ではないと思ったのぉ」と話した。


けれど、ケイティさんは、そこが違うと教えてくれた。


「アキ様、まず、翁の感覚も我々の常識からかけ離れたモノだということを思い出してください。我々にとって、空は未知の領域であり、使い魔の鳥を飛ばすか、飛行杖で空の魔物を攻撃する、あちらでいう地対空戦闘しか経験がありません。私はマコト文書の非公開部分も読んでいるので、話にはついて行けますが、先程のアキ様の提案は、こちらには形のない技術が複数組み合わされた内容なのです」


そう言って、ホワイトボードに書いてくれた。①高高度からの目標位置の詳細な観察、②空の遠い位置から地上に正確に杭を落とす、③飛行距離を稼ぐため杭は滑空させる、④杭には方向舵もつけて、任意の方向に落下方向を制御する、⑤目標地点までなんらかの方法で杭を誘導する、⑥杭が深く刺さり過ぎたり、衝突時の衝撃で壊れないよう落下速度の調整、⑦高価な誘導用の魔導具を使い捨てる判断、とつらつらと書いていく。


「これらを組み合わせて、初めて先程の策は成立します。どれも先例がなく、組み合わせる前に単体でも困難な内容ばかりです。そして、これが一番、重要ですが、アキ様はこれらを組み合わせれば確実に成功する、成功した、運用している歴史を知っていて、必要とあれば、完成したイメージを明確に伝えることができます。何処が困難で、苦労する所はどこかも伝えられます。他の案より何が有利か話せます。それらは希有な才能を持つ非凡な天才がどれだけ策の成功する可能性を語っても、言葉の重みが違い過ぎます。アキ様の知識は、言葉は、言うなれば、預言なのです。あやふやな想像や希望、予想ではなく、必ず起こる、到達しうる、それを示す言葉。あちらの知識を伝える「マコトくん」から授かった真実、それと同義です。その価値は計り知れないものがあります。思い付く者はいるかも知れません。しかし、アキ様ほどの説得力を持って語る事は誰にもできないのです」


ケイティさんは淡々と説明してくれたけど、女中三姉妹の様子を見ても、皆がそう考えているのは確かっぽい。マコト文書に精通している四人がそう思うなら、きっとそうなのだろうね。


しかし、預言とはね。本来なら単なる歴史書、技術書の知識なのに、地球(あちら)の知識を伝えるのは「マコトくん」、なので、僕が話すマコト文書の知識もまた神の言葉、預言となる訳だ。


俗な事も話してるんだけど、その辺りどうなってるのか気になるところ――っと思考が逸れた。


「えっと、お爺ちゃんなら、一定範囲の呪いの浄化、今回の例ならどう対処する感じ?」


僕の問いに、お爺ちゃんはふわふわと漂いながら考えていたけど、答えに辿り着いたようだ。


「儂らなら、集団で回廊のように対象地点まで術式で浄化して、障壁を展開した者が浄化の魔導具を持って回廊を突破、急いで設置して、回廊が呪いに浸食され切る前に脱出するじゃろうな。ただ、ケイティが示した、高高度からの分析はやったことが無いから、実際は対象地点を特定する部分でかなり手古摺るじゃろう。それにいくら集団術式でも開けられる回廊の長さには限りがある。呪いの範囲によっては、この方法では駄目かも知れん」


おー、さすが、空を自在に飛ぶ種族。


「魔力が沢山使えて、自在に空を飛べる種族ならではの発想だね。それが使えるシチュエーションなら、魔導具もそっと置けるし、いい策と思うよ」


「うむ。じゃが、儂らのサイズで作った魔導具ではそう広い範囲は浄化できんし、長い時間、浄化し続けるのも難しかろう。じゃから、死の大地の浄化には多分、使えん策じゃ」


なるほど。妖精が俊敏に動けるのは小さな体というのが大きいもんね。


「それでも予備調査で使えるかも知れません。浄化の検討には妖精族の皆様も参加をお願いします」


「うむ。その時は皆で参加するとしよう。きっと儂らも得るものは大きいじゃろうからのぉ」


お爺ちゃんが任せろ、とポーズを決めた。





次は浄化について。


「外からの呪いに負けない強度で一定範囲を浄化して、清浄な状態を維持するとして、そこまで強く浄化され続ける土地で、連樹は根付くものでしょうか?」


強い力に晒され続けて平気か気になるんだよね。


「浄化とは、何らかの方法で残り続ける呪いを無くす事を意味しますが、それは呪いが呪いとして存在し続けられないよう変質させたり、砕いて散らしたり、別の力で上書きして潰す事に他なりません。浄化し続けるとしたら、それは方向性の異なる呪いと言っても良いでしょう。力の弱い存在は、自己を保てずやはり死んでしまうでしょう」


むむむ、やっぱりそんな話か。


「となると、一定範囲をまず浄化し、その後はその範囲を囲う部分だけ、殻のように浄化効果を持つ障壁で隔離する工夫が必要ってとこですか?」


「循環を断つだけでも効果は大きいので、単に隔離し続ける障壁で良いとは思いますが、呪いへの攻勢要素を付与して呪いの力を削ぎ落としていくのもアリでしょう。手順としてはまず対象範囲を障壁で隔離してから、内部を浄化となりますね」


ふむふむ。


「単に循環を断つだけでは、呪いが力を無くして失せるまで待つ事になるじゃろうが、死の大地ほどの広さとなると、消えるまでかなりの時間が必要となりそうじゃ」


確かに。維持する力が無くなっても、後は自然回復を待つだけ、ではかなり遅いだろう。


「循環を絶って、呪いの起点をできるだけ潰して、更に地脈の流れに浄化する力強さがあると、どんどん呪いを削ってくれそうですよね。そうなると、浄化する地点や、順番もかなり重要そう」


そう話すと、ケイティさんが正解です、と褒めてくれた。


「呪いが呪いとしてあり続けるには、必ず起点が必要です。それらを潰せば、呪いは方向性を維持できなくなります。循環を断ち切れば、呪いを維持し続ける事もできなくなります。更に残った呪いを浄化していけば、放置するよりも遥かに早く、消し去る事はできるでしょう。死の大地の大きささえ考えなければ、理屈は小さな地域の浄化と変わりません」


「うむ。儂らの国の周辺地域を合わせたよりも更に広い大地の呪い、その浄化は儂らも経験がない。微風は葉を揺らすだけじゃが、竜巻は木々をへし折り、倒し、場合によっては引き抜いて飛ばしてしまう。手順はそれでいいが、規模の違いの意味を見極めねばならん」


規模か。確かに。


「小さな竃の火は簡単に制御できるけど、家が一軒燃えるような火事だと、消すのも大変、飛び火も注意しないといけない、って話ですね」


そう話すと、二人とも頷いてくれた。





さて、他に気になるのは三点ほど。


「死の大地ほど大きな対象なら、呪いに季節性の変化があったり、一定周期で変動したり、変化に伴う現象があったり、そんな経年観察のデータはあるんでしょうか?」


「太陽の黒点の変動、活動周期のような話があるか、と言えば、あります。死の大地は、街エルフにとって特別な意味を持つ場所ですから。呪いの範囲や強さもある程度、変化します。ヴィオ様がお話しする時までにグラフを用意しておきましょう」


「それは助かります。浄化の魔法陣を設置しても、例年との比較ができないと、効果を測りにくいですからね。変化量が見えれば、先の予定も立てやすくなりますし」


「そうじゃのぉ。地味な作業じゃが、日々の記録をつける事は重要じゃ。儂らの場合は風の記録を小まめに付けておるぞ。空の状態は万事に影響するからのぉ」


成る程、妖精さんはやっぱり空軍思考だね。


「作業の順番ですけど、①循環を断つように浄化魔法陣を設置、それと合わせて連樹の成木を移植、②呪いの範囲、強度を弱める効果の評価、③呪いの起点を調査、④呪いの起点の浄化、で合ってますか?」


そもそも近付くのすら困難だと、呪いの起点を調べるのも大変と思うけど、どうかな。あと、それだけ広いと起点も一つ、二つじゃ無さそう。


ケイティさんは少し思案していたけど、考えが纏ったようだ。


「――そうなると思います。できれば、浄化魔法陣への負荷軽減の為にも、起点潰しは並行して行いたいところですが、竜族の協力を得たとしても、呪いをある程度減らさないと、起点の捜索、調査、分析は難しいでしょう」


いくら竜眼が凄いと言っても、離れればそれだけ精度も落ちるだろうから仕方なし、と。


さて、ラスト。


「呪いの循環を断ち切ると、留まった地点で呪いの量や強さが高まると思うんですけど、それって、逸らして大洋の方に流すとか、散らすとか、できるものなんでしょうか? こちらでは環境汚染の対策も気を付けていると聞きますし、雑に扱うと、水竜達の殴り込みを受けたりしそうで怖いかなぁ、と」


福島原発のトリチウムの残った通称「汚染水」も今は溜めてるけど、海外の原発だって除去できずに、毎日、膨大な量を海に捨てているくらいで、いずれは日本もそうする筈。ラジウム温泉なんて放射能があっても体に良いとされてたりするように、結局は量の問題だ。

多ければ毒となり、上手く量を制御すれば薬にもなる。


呪いを弱めると薬になるかはわからないけど、生き物が簡単に弾ける程度に弱くすれば無害と言っていいと思うんだよね。


「地脈の流れを遮るわけではなく、呪いが強度を保ったまま循環するのを防ぐ訳ですが、完全に止めるのではなく、弱めるようにすれば、一部に偏って悪化する事態は避けられると思います。治水対策のようなものですね」


「受け流すにしても、今の循環の範囲内なら、そうそう文句も出ないで済みそうですね。だいぶ疑問も解消できてスッキリしました。ありがとうございました」


お爺ちゃんも、色々考える事があるのぉ、と唸ってはいるものの、特に追加質問はなし。

という訳で、この分なら揉める事は少なそうだ。


今は、「マコトくん」の為の最弱依代を作るのが最優先だけど、それに注力していけそうで良かった。

アキは誰でも思いつく話かなー、とか考えましたが、それは我々、二十一世紀の人だからそう考えるだけで、気球もない時代の人がどれだけ聡明で才に恵まれてても、複数の未知を組み合わせた空からの解決方法の提示はできない、というお話でした。最も、アキの言葉が説得力を持つのは、受け手がそれを理解できるだけの知識を持つからです。両者に差があり過ぎれば、どれだけアキが説明しても、相手は絵空事としか思えないことでしょう。

次の投稿は、十二月六日(日)二十一時五分です。

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