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12-1.神への対価(前編)

前話のあらすじ:十一章では福慈様へのプレゼンをしたり、次元門の研究が始まったり、雲取様と空を飛んだりと、色々ありました。希望がほんの僅かしかない事がわかって、薄々予想してた事だけど、改めて突き付けられると、とてもショックでした。そのせいでかなりマシにはなったけど、また心話は禁止されてます。(アキ視点)

という訳で、第十二章スタートです。今後も週二回ペースの更新していきますので、のんびりお付き合いください。

投稿は真冬ですが、作品内の季節は初春となります。季節感がズレてきますが、まぁ、仕方ありませんね。

雲取様と空から眺めたら、春の兆しが感じられてきたけど、まだちょっと肌寒い日が続いている。だいぶマシになってきたけど、まだ師匠からは心話の許可は下りていない。心話をしない分だけ、空き時間があるので、街エルフらしく、遠い地の人との手紙のやり取りが増えることになった。


「アキ様、今日は手紙が少し多めです」


ケイティさんがずらりと出してくれた手紙の数は、全部で六つ。


「連樹の巫女のヴィオさん、鬼族の女傑ライキさんはいつも通りだけど、こっちは船長のファウストさんで、残り三つは三大勢力の代表の皆さんからですか。そろそろロングヒルにやってくる日が近いからでしょうか?」


「それもありますが、アキ様が研究組の見解を聞き、心話をできないほどショックを受けた件の報告が届いたからでしょう。アキ様のことを心配される気持ちも勿論ありますが、巫女候補の選抜もされているので、そちらに影響が出るかどうかも気になるのかと」


「ふむふむ。ファウスト船長のほうは?」


「研究組の報告を受けて、世界樹や魔獣、神といった存在についても情報を集めたい、という話がありましたよね? それを受けて現在、派遣中の船団に対して、可能な範囲で情報を集めるよう指示を飛ばしたのです。今、返事が来たということは、何か進展があったのでしょう」


それは嬉しい。ミア姉が接触した精霊や魔獣、神との交流をすることも考えてはいるけど、高位存在というなら、弧状列島という狭い範囲に限定せず、世界全体に視界を広げて、相手を探したほうが、いろいろと選択肢が増えそうだもんね。


「船団が何か持ち帰ってくるんじゃろうか? 儂も見てみたいのぉ」


お爺ちゃんが、手紙の周りをふわふわ飛んで興味津々、覗き込む仕草をした。


「帰港したら、詳細な報告も届くでしょう。それで、アキ様。今日は手紙を読まれる前に、イズレンディア様との会談をお願いします」


「ん? 珍しいですね。どんなお話でしょうか」


「世界樹の精霊から、接触があったそうです。「マコトくん」からの指示で用意することになった最弱の依代について、素材として世界樹の枝を得られないか打診していたので、その件も含めて話があったのでしょう」


「心話ができれば、良かったんですけどね」


「アキ様から聞いた印象から考えると、アキ様が穏やかな心境になってからでないと、心話は難しいのではないでしょうか。親の後ろからそっと覗き見るような印象だったのでしょう?」


そう。世界樹は三百メートルを超える巨大さなんだけど、その全体から向けられた沢山の視線から感じたのは、遠慮がちに覗き見る幼子って印象だった。竜族のように強靭な心を持つ種族や、連樹の神様のような深い存在感とも違う感じ。確かに今はまだ、ちょっと無理かも。


「そうでした。では、手紙も気になりますけど、まずはイズレンディアさんとお話しましょう」


ケイティさんが差し出してきたのは、シンプルなデザインのブラウスに、ネイビーカラーのストライブ地なスカートがセットになったドッキングワンピース。ブラウスの色合いに合わせたふんだんにあしらわれたレースの裾を見せるペチコートと重ねて履いて、全体を二色で纏めた学生チックな装いだ。スカートの色合いと合わせた胸元のリボンがアクセントになっていて、清楚で御洒落な雰囲気で纏められる装いだ。


「……これまた気合の入った服装ですね」


「春に合わせて、少し気分も軽くなる装いとしてみました」


まぁ、確かに薄手で滑らかな布地だから、着心地もいいし、夏用ほど薄手じゃないから、今の季節にも合ってる。肌寒く感じたらカーディガンを羽織ってもいいからね。


夏、秋、冬と三つのシーズンを乗り越えたおかげで、こうして着るのも自然になって抵抗感もなくなってきたのは良いことなんだろうね。まぁ、ケイティさんやシャンタールさんが僕が着やすいように大人しい装いを選んでくれている、というのも大きいと思う。


鏡の前で、少し動いてみて最終チェック。


問題なし、と。


それじゃ、イズレンディアさんとの会談に臨もう。





「これはまた可愛らしい装いだ。華やいで良いな」


「そう言っていただけて良かったです。明るい色合いだと気分も少し軽くなります」


応接室で寛いでいたイズレンディアさんが軽く笑みを浮かべて、出迎えてくれた。僕も彼の態度に合わせて、あまり堅苦しくないよう挨拶をして席についた。


アイリーンさんが用意してくれたのは、春摘みの紅茶(ファーストフラッシュ)だね。新緑の色合いが春って感じ。良い香りだ。


足元にはトラ吉さん、肩にはお爺ちゃん、隣にはケイティさん、壁際にはジョージさん。少し離れて給仕のためにアイリーンさんがスタンバイ。


体制はバッチリ。イズレンディアさんもいつもの配置なので、気にしたそぶりを見せずに口を開いた。


「話を聞いていると思うが、世界樹から接触があった。詳しい話は、各勢力の代表が来た際に、連樹の巫女のヴィオ殿が伝える予定だ」


あれ?


「世界樹からのお話なのに、ヴィオさんですか?」


僕の疑問に、イズレンディアさんも苦笑した。


「ヴィオ殿が世界樹の声を聞いた訳ではないぞ。これまでに我々が連樹や世界樹に協力を色々と求めたが、連樹と世界樹の間でその事について話し合いがあり、二柱が合同で対応する事になったのだ」


なんと! 同じ樹木の精霊(ドライアド)系と言っても、竜族と違って別種だから、協力とかしないイメージがあったから驚きだ。


「合同と言うと、弧状列島全域の樹木の精霊(ドライアド)に協力を仰ぐ件でしょうか?」


「そうだ。世界樹も、連樹もどちらか一方だけでは、全域に働き掛けるのは難しい。だが、二柱が共鳴すれば、それも可能となるそうだ」


「それをして貰えるのはありがたいですけど、かなり距離があるのに、共鳴とかできるものなんですね」


イズレンディアさんは、そうじゃないと否定した。


「世界樹はあの通り、他の木より遥かに大きく、連樹も山一つが全て繋がる存在だ。そんな彼女達からすれば、御近所と言っていい距離らしい」


体が大きければ距離感も変わる、と。イメージはできるけど、二百キロ近い距離を近所とは思えないなぁ。あ、でも、竜族も似たような感覚か。空軍思考でいけば、それくらいなら二十分とかからない近場だからね。


「ちょっと気になったんですけど、福慈様の魔力爆発は弧状列島の半分を覆ったんでしたよね。全域となると、物凄い出力で意識を飛ばす感じでしょうか? それだと近場にいる人達が大変な事になりそうですけど」


「それは私も確認した。膨大な魔力を用いるが、長い時間を掛けてゆっくり送るから、さほど影響はないらしい。()()()()()そう話しているから、感覚のズレと言った問題もないと見て良いだろう。それと依代の為に枝を提供する件は、世界樹の要望を叶えるよう尽力してくれるなら、いくつか提供するそうだ」


イズレンディアさんが、連樹の神と強調したって事は、世界樹の精霊は、その辺り、人の感覚には疎いのかもしれない。要注意だね。


良い話を聞けたけど、それだけならイズレンディアさんがわざわざ僕と話す必要は薄い。用件は何かな?


「色々と便宜を図って貰えて、だいぶ持ち出しが増えちゃいましたね。世界樹の精霊さんからの要望ってどんなお話でしょうか?」


そう話すと、イズレンディアさんは目元を揉んで、溜息をつくと話してくれた。


「その件で今日は相談に来た。言葉にすれば短いものだ。①妖精の道の探索に協力する樹木の精霊(ドライアド)達の要望に便宜を図って欲しい、②連樹の成木を植樹して欲しい、③世界樹への地脈の流れを直して欲しい、の三つだ」


えっと前二つはともかく、最後は地脈?


「ケイティさん、地脈って何か教えて下さい。それと、はい、直しましょうって言える話なのかも」


ケイティさんはイズレンディアさんの了解を得ると説明をしてくれた。


「大地には人の血管のように、魔力の流れがあり、それが地脈と呼ばれています。街は基本的に地脈の流れが交わるような、魔力豊富な地が選ばれます。それと、これまで、歴史上、地脈の流れを人が意識して変えた事はありません」


う、世界樹というだけあって、依頼もビッグだ。


「それ、実際に可能なんでしょうか? 基礎研究から始めるとなると、かなり息の長い話になっちゃいますけど」


「それは、連樹の依頼を果たす事で、自然と解消されるらしい」


「木を植えるだけで? もしかして沢山植えるとか?」


「いや、八本、八箇所でいいそうだ。ただ、植える場所が問題なんだ」


弧状列島は緑豊かだから、どこに植樹しても問題にはなるだろうけど。


「……竜族の巣とかち合ってるとか?」


「それなら、連樹の神も諦めるだろう。植えるのは、街エルフと竜族の因縁の場所、死の大地だ」


死の大地。それは街エルフと天空竜が殺し、殺されと、延々と果てなく殺し合った結果、大地の全てが竜の吐息(ドラゴンブレス)で焼き尽くされて、未だに草も生えない、死に支配された土地だ。かなり大きな島で広さは関東平野並み。焼き尽くされる前は、豊かな土地で多くの種族が暮らしていたと聞いた。


「……まさか、その土地の名が出てくるとは思いませんでしたけど、そこへの植樹が、地脈の回復にも繋がると?」


「そういう算段らしい。死の大地の地脈は循環していて、呪いがいつまでも浄化されないせいで、世界樹の方面に流れる地脈を圧迫して、流れが滞っているそうだ。循環を断ち切る位置に、ある程度の範囲を浄化した上で植樹すれば、後は連樹が山となる頃には呪いの循環は過去のものとなり、地脈も正常化するだろう、とな」


「何とも遠大な話ですね。流石、樹木系の神様、時間感覚が長いです」


僕の感想に、その通りと頷いてくれた。ただ、それは普通の場合の話と告げた。


「普通、つまり我々の常識の範囲ならば、浄化には何千年か掛かるそうだ。だが、今の我々には普通ではない手段がある。アキとリア様の膨大な魔力を込めた杭を五芒星の形に打ち込んで、魔法陣を展開し、範囲内を浄化すれば、連樹が森となる程度の広さは確保できる見込みらしい」


ふむふむ、聞くと簡単そうだけど。おや、ケイティさんはそうは思わないようだ。


「死の大地に満ちた呪いは衰える事なく、全ての生き物は死に囚われると言います。杭は魔法陣の要、しかも地脈の循環を断ち切るとなれば、かなりの負荷に耐えられる強さが必要でしょう。並行して、呪いを繋ぎ止める基点も潰すことで負荷をできるだけ減らさないと、杭の製造だけで国が傾きかねない、そう思えます」


だいたい、お二人の全力の魔力を込められる杭などとなれば、それは国宝級の魔導具となり、そうそう簡単には創れません、とも言われた。


さて。


大方の話は理解できた。それで何を相談したいんだろう?


「趣旨は理解できましたが、話が大き過ぎて、僕が相談に乗れそうなところがなさそうに思えます」


だけど、イズレンディアさんは自信を持って、それを否定した。


「そんな事はない。それに我が問いに答えられるのは、竜神の巫女であり、マコト文書の専門家たるアキ、君だけだ。だから問いたい。死の大地に我ら、地の種族だけでは近付くことも厳しいだろう。死の大地の浄化には竜族の協力は不可欠だ。……だが、彼らは賛同するだろうか?」


イズレンディアさんの問いが重く響いた。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

アキが凹んでいる間も、周りはそれぞれの思惑で動き、止まってはくれません。そして、今回は顔見せも終わり、暖かい季節にもなったという事で、世界樹の精霊が動きを見せました。連樹の神様はそれに便乗した感じです。地の種族がどこまでできそうか、その見極めは連樹の神様がやってるので、そうズレた事にはなりませんが、そこは神様。可能な範囲ではあっても、それがどれくらいのインパクトがあるか、なんてとこまで配慮はしないし、気が付きません。三大勢力の代表達の苦労する様が目に浮かぶようです。

イズレンディアがアキに感触を聞きに来たのは、その前提のある、なしで、そのあとの話が大きく変わるから。悩ましい話です。

次回の投稿は、十一月二十九日(日)二十一時五分です。

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