第十一章の登場人物
今回は、十一章で登場した人物や、活動してても、アキが認識しないせいで登場シーンがなかった人の紹介ページです。十一章に絞った記述にしているので、各人物の一般的な情報(立場や外見、これまでの活動)については、九章の登場人物紹介をご覧ください。
◆主人公
【アキ】
福慈様への説明を行うために、次元門構築で集まったメンバーで共同検討を行い、結果として、説明は大成功となった。それだけに本筋たる次元門構築のほうも、ある程度は希望が見えてくるんじゃないか、と期待も膨らんだが、やはり、街エルフが理論が作れないと匙を投げた案件は手強かった。
多方面から検討をしてみたものの、いくつかの点で検討を始められる、という程度で、まだ殆ど明かりが見えない有様で、それにはアキも精神的に凹むことになった。
それでも、師匠に励まされ、皆のやる気溢れる眼差しにも後押しされ、まずは前に歩いてみよう、と宣言するくらいには、精神的に持ち直すことができた。また、雲取様に誘われて空の旅を体験することにもなり、地球でも経験していないことだっただけに、とても楽しむことができた。
多くの種族からの共同の贈り物ということもあって、アキの中でもこちらの人々への思いに少し変化が生まれたようだ。
トラ吉さんとの言葉を介さない交流にはとても癒されており、雲取様との初飛行の頃には、もう、何もないのにいきなり涙が零れるようなこともなくなってきた。
◆アキのサポートメンバー
【ケイティ】
アキの生活全般を支えつつ、マコト文書の専門チームとしても活動していることもあって、家政婦長としての仕事の多くをシャンタールに支えて貰っている状況である。そんな忙しい中でもアキとの心話の準備を進めており、春先には試せるところまできた。
しかし、肝心のアキが心話禁止という状況に陥ったため、アキとの心話を試すことは少し延期になりそうだ。また、精神的に落ち込んだアキを癒したのが雲取様とトラ吉と、身近にいる自分達でなかったことに少し歯痒さを感じている。勿論、実際には毎日の生活を支えているスタッフの存在もまた、アキの心を支えているのは間違いなく、それはわかってはいる。それでも、もっと何かしたい、と考えることが多い日々である。
【ジョージ】
心話禁止となったこともあって、アキの第二演習場に行く頻度も少し減った。そのため、空き時間を活かして春先の三大勢力の代表を迎えるための準備も前倒しで進めることができた。別邸の周囲で、トラ吉と共に遊んだり訓練したりしているアキを見ていると、護衛としては仕事は楽だが、内心は複雑だ。
そんな中、雲取様の発案で実現した空の旅は、皆の気分を明るくするイベントとなった。緊急着陸した際の救助班の派遣など、あれこれ調整するのは大変だったが、旅を終えて戻ってきたアキの満面の笑みと皆への感謝の言葉を聞けば、苦労など吹き飛んでしまった。
また、アキが竜と共に空を旅した出来事は、ジョージの心にも衝撃を与えた。それは彼が書き続けている小説へも影響を与えることになり、隔絶された場所で奮闘する子供達というコンセプトは同じだが、彼らを助けようとやってくる救助班の一つとして、天空竜も登場させる気になったのだ。
この件では、ベリルとかなり衝突したが、最終的には互いに納得できる内容とすることができた。
【ウォルコット】
アキの正体がマコトであると知り、「マコトくん」を信仰する魔導人形であるダニエルが活動するとなれば、きっと面白いことが起きるに違いないと、思っていた彼は、ダニエルの活動をできるだけ邪魔しないよう、手を貸してきた。
それだけに神の側からの神託といった形での関与があったことは、望外の出来事で小躍りするくらい嬉しかったようだ。「最弱の依代」を創るとなれば、「マコトくん」を信仰する司祭達の協力は欠かせない。しかし、ダニエル自身は助手であって、あまり組織運営的なところは得意ではない。なので、ウォルコットが精力的に動くことで、ダニエルの足りないところは補われることだろう。
全ては、観察者として、物事が滞るなどという退屈な状況を回避するために。
【翁】
妖精達の一割省エネ召喚が安定運用されて、多くの一般市民が物質界を訪問する頻度があがると、彼以外にも物質界を語ることのできる妖精が増えてきたこともあり、十一話ラスト、春先頃になってくると、彼の立ち位置も微妙に変化してきた。物質界研究の第一人者という認識に変わりはないが、アキと共に様々な種族との交流の最先端にいる活動家、そんな認識も加わったのだ。
妖精界においても、竜族と共に大空を飛ぶなどということを達成した者は誰もいなかった。竜族についても翁ほど詳しい者はおらず、そういった意味では冒険家のような意味合いも含んでいそうだ。
アキが精神的に落ち込んでいた際には、どうすれば癒せるか悩んだだけに、雲取様からの空の旅行の申し出は大変喜んだ。同じ空を飛ぶ種族として、空を飛ぶ素晴らしさはよく理解していたからだ。そのため、アキの飛行服に専用のポケットを用意させたりと、意欲的に動いた。
【トラ吉さん】
アキが情緒不安定になって、心話も禁止される中、彼は自らの役割を理解して、寒くて少し億劫な気分になりながらも、常にアキの傍にあって、一緒に遊び、毛繕いをさせたりと、他の誰にもできない癒しをアキに齎してきた。彼からすれば、アキは目が離せない子なのだろう。そんな彼の行動をリアも過保護過ぎ、とか言ったりもしたが、そんなリアに向けて、彼はどの口が言うか、と言ったように呆れた表情を見せた。彼からすれば、姉妹揃って手間がかかるよなぁ、と言いたいに違いない。
【マサト】
人類連合から大勢の人材を確保することに成功し、冬の間に何とか、ロングヒルでの他種族を対象とした各種活動を安定化させることができた。これは彼の粘り強い調整と働きかけによるところが大きいのだが、やはり裏方。どうしても、賑やかなロングヒルに比べると、離れたところで置いて行かれている感がある。そこでロゼッタの発案に悪乗りして、アキに日帰りではあるが、街エルフの国の館への里帰りをして貰うことにしたのだ。勿論、雲取様に運んで貰うこと前提で。
そのため、街エルフの国が天空竜の来訪に揺れることになるのだが、目的のために手段は選ばないのが財閥の流儀。ミアが積極的に働きかけていた頃を懐かしく思いつつ、マサトはその手腕を全力で振るうことになるのだった。
あと、甲冑を瞬間装着する研究のほうは、翁が大規模出資者に加わってくれたこともあり、研究に弾みがつき始めた。また賢者も面白い取り組みだ、として、オブザーバーとしてだが参加してくれることになったことも大きい。
おかげで、次の会報では特別付録として、新しい研究成果を報告できそうだ。
◆魔導人形枠
【アイリーン】
料理人特化な仕事も安定し、マコト文書の専門家チームの一員としても働きながらも、アキが精神的に凹んだこともあって、それを癒すよう、ハヤト(父)やアヤ(母)とも相談して、できるだけ家族皆で食事をするように、配慮することとなった。季節感を感じさせる料理、様々な食感を味わえる料理、そして家庭的な料理を心掛けたこともあって、アキにはとても好評だったようだ。
鬼族の女衆を迎えるための準備もできてきたが、その交流にはアキも参加させることで、アキの沈みがちな心を癒そうと画策しているようだ。
【ベリル】
マネジメントを任せる秘書人形のおかげで、ベリルの仕事も順調となり、余暇時間に天体観測や執筆も行えるようになった。冬は空気が澄んでいることもあって、天体観測には打ってつけなのだ。アキが夜に起きてられないこともあって、星空を撮影してアキに写真を見せる、といったこともしており、アキの心を癒すことに繋がっている。
また、小説も少しずつ書き溜めていたが、雲取様とアキが一緒に空を飛んだことに刺激を受けて、書いていた小説に天空竜も出したい、などとジョージが言いだし、かなり揉めることになった。なにせ、天空竜が出たなら、妖精も出したい、鬼族も出したい、小鬼族も出したい、と登場人物が増えることになり、話が煩雑になってしまう、とベリルは難色を示したのだ。
結局、どの種族も救助班のメンバーとして活躍シーンは用意するものの、チーム全体として活躍する形で纏めることで、ボリュームの増大を抑える方向とした。
【シャンタール】
ケイティの仕事の半分はシャンタールが担っているが、部下達に仕事を任せるのが得意な彼女は、常に余力を残しており、アキの飛行服作成も、他の者に任せず、自ら製作したように、アキの服飾については拘りがあるようだ。仕事を任せる関係もあり、ウォルコットと相談することも多く、そのおかげで、ウォルコットの役割の重要さも理解している。それでも彼の活動にブレーキをかけるかどうかはケイティに報告して任せている。シャンタールからすれば、たいがいのことなら何とかなるので、好きに動いて貰ったほうが面白そう、といったところだったりする。
【ダニエル】
「マコトくん」を信仰する司祭として、各地から呼び寄せた司祭達にも仕事を分担して貰い、熱心に布教活動を行っていた彼女だったが、「マコトくん」からの神託を得るという稀有な経験をしたことで、更に信仰を深めたようだ。
司祭と言っても、教えを深く理解する者、神聖魔法を使える者、神託を得た者では信仰上の役割が違う。その点、ダニエルはそれら全てに精通しているということもあって、魔導人形としてただ一人の司祭という珍しさだけでなく、他の司祭達を導く存在として、急速にその地位を高めているようだ。
とはいえ、ダニエルからすれば、やるべきことはこれまでと変わらず、それに「最弱の依代」を創る、という神から与えられた難事に向けて全力を尽くすことが加わったに過ぎない。彼女が疎い世事についてはきっとウォルコットが手を貸すことだろう。些細なところで足踏みされては楽しくないので。
【護衛人形達】
アキの活動が別邸付近に限定されるようになったため、護衛としての役割は少し手が空いてきた。勿論、アキが回復すれば、以前と同様、活動範囲が広がることから、彼らも日夜の訓練は欠かさないのだ。
【農民人形達】
彼らの庭を整備する様子は、季節を感じさせるものがあり、アキも少し時間があると窓から外を眺めたりして、彼らの仕事っぷりを見ていたりする。そんな当たり前の淡々とした日常の風景もまた、アキを支えるモノの一つであり、彼らはそれを理解するからこそ、殊更、自然に普段の仕事をこなしていくのだ。
【ロゼッタ】
研究チームの活動成果を権利化して、利益に結び付ける作業はお手の物。出資者として反感を買わない程度に、権利化して利益回収する作業も今のところは順調そのものだが、アキが大変な時に近くに行けなかったことがロゼッタは不満で、何とかしてロングヒルに行こうと調整していたが、財閥の根幹を支えるロゼッタの外遊はあまりにも影響が大きいと判断され頓挫した。しかし、転んでもただでは起きない粘り強さがなければ、財閥の権利管理なんてやってられない。そこで発想の逆転を行うことにしたのだ。自分が行けないなら、アキに来てもらえばいいと。そのため、十二章では、ロゼッタの熱い要望により、アキの里帰り(日帰りコース)が実現することになる。
【タロー】
この冬は、小鬼族の研究者やその付き人達との交流に明け暮れて、一部からは出来損ないの紛い物として白い目を向けられながらも、嫌な顔一つせず、穏やかな表情で接してくる彼の態度に、小鬼族の者達も警戒を解いてきたようだ。タローからすれば、嫌な顔をする彼らの行動すらも、学ぶべき小鬼族の姿であり、少しでも小鬼族を理解しようと彼は熱心に足を運んでいるのだ。
【仮想敵部隊の小鬼人形達】
タローが示す態度もあって、彼らもまた、小鬼族達と穏やかに向き合い、学び、意見を交わすことに価値を見出していた。次の仕事に繋がるかもしれない、小鬼族の領土に行っても違和感なく溶け込めるにはどうするべきか、など考えることはいくらでもあるのだから。そんなプロフェッショナルな姿勢は小鬼族達からも、ある種の尊敬を得ているようだ。それと同じくらい恐怖も感じさせてしまっているのだが……。
【仮想敵部隊の鬼人形さん】
彼もまた、武術だけでなく、文化や風習、一般的な視点などを得ようと時には、鬼族と共に書類と格闘したり、一緒に飲み食いしたりと、熱心に交流している。鬼人形の数が少ないが、いずれ、本土から残りの鬼人形達も合流することになるだろう。鬼族を理解することはそれだけ重要視されていると言える。あらゆることを貪欲に学ぼうとする鬼人形の姿勢は、鬼族にも好感を与えているようだ。というか、少しは息を抜け、と言われるくらいである。
【大使館や別館の女中人形達】
ロングヒルで働く彼女達の姿もこの冬で当たり前の光景となった。もうどこを見ても女中人形がいない場所などないといった程に、彼女たちの姿はあちこちで見かけるようになったのだ。勿論、彼女達が戦闘用の魔導人形と違い、女中としての姿をしていることも大きい。人畜無害そうに見えるし、実際、彼女たちの服装も、好感を与えるよう入念に設計された新作だったりする。また、働けばそれだけ評価されるという職場環境もまた、彼女たちの高いモチベーションの維持に役立っているのだろう。
なにせ、上の役職を担う人材は常に不足しているのだから。高みを目指す彼女達にとって、ロングヒルはやりがいに満ちていると言えよう。
【館(本国)のマコト文書の司書達】
膨大なマコト文書の管理のため、三名の専属司書を割り当てて管理していたが、研究が本格化して、非公開部分に関する問い合わせ、確認が急増し、僅か三名の司書では処理が追い付かない事態に陥った。書物の内容を魔導具に入れて検索するような仕組みもそうそう用意はできない。そのため、まずは写本を作って、図書の量をとりあえず三倍にまで増やし、司書もそれに合わせて増員して対応することになった。写本を行うための専用の魔導具も開発され、原本を傷めず、写本を行うための技術もいくつか開発されるほどだった。ただ、そのまま読んでもベースが違い過ぎて理解が困難、というマコト文書の内容を考えると、司書達の苦労は当面、無くなることはないだろう。
◆家族枠
【ハヤト】
ロングヒルでの議員としての活動も落ち着いてきて、次元門構築の検討にも顔を出すことができるようになってきた。本来なら研究組に任せる部分だが、ミアやリアの心話などが絡むとなれば、当事者として、家族の長として、話に加わるのが筋と考えたからだ。実際、ハヤトが当時の事を語った際にもリアが表情を険しくするなど、まだ傷が完全に癒えたとは言えない状況だ。
望みが微かにしかない状況にあって、アキが精神的に追い詰められていることに、今度こそなんとかしたいと意気込んではみたものの、結局、アキの心を支えたのは雲取様やトラ吉といった存在であって、少し無力さを感じていたりもしている。それでも共に食事をしたり、一緒に話をしたりと交流することにも意味があると信じて、内心の揺らぎなど微塵も表に出さず、頼れる一家の大黒柱として、彼は今日も落ち着いた振舞いをして見せるのだった。
【アヤ】
リアとミアの心話の下りでは、アヤも落ち着いて話ができる自信がなかったため同席しなかった。それくらい、ハヤトとアヤは苦悩し、心が擦り減っていった時期だったのだ。ミアが異常なまでの努力を重ねて、世界が否定するなら、世界そのものを変えてやる、というミアの態度に心強さを感じたのと同時に、流石にやり過ぎではないか、と母として頭を悩ませてもいた。そしてリアの問題が解決したと思ったら、今度は誰も検証できない異世界の子供との交流をミアが始めてしまった。今でこそアヤも落ち着いて当時のことを語れるようになったが、ミアの常識外の行動連発は、アヤにとって苦悩の種だったのは間違いないだろう。
【リア】
次元門構築の検討結果は、やはりアキにはショックが大きかったようで、リアも少しでも衝撃が減るよう努力はしたが、十分とは言えなかった。こういう時は言葉よりも、態度で示す存在のほうがいい、とリアは経験上知っている。なので、トラ吉にアキの対応をするようお願いし、トラ吉もまたそれを快諾したのだった。
【ミア】
地球に行ってしまったミアは、魔力もないので手の打ちようがない。幸い、地球の政情は安定しているので、急に危険に巻き込まれるということはなさそうではある。
現状のままでは打つ手なしということで、ミアも手を付けていた精霊や魔獣、神といった存在との接触を行うことが検討されているが、当然ながらそれはかなりハイリスクで、しかもノーリターンならまだマシなほう、という狂気の技。それだけに、十二章ではミアからの手紙がアキに渡されることになる。普通は止めておけ、という話なのだから。
◆妖精枠
【シャーリス(妖精女王)】
妖精の国と、こちら側の交流は、召喚技術の進歩により順風満帆と言える。アキを妖精界に異種族召喚して、異界の旅行を楽しんでもらおう、という話もそう遠くなく実現できるだろう。しかし、アキ自身が求める次元門は遠く、手が届かない。賢者にもそのための研究に専念して貰うなど、手は打っているが成果はすぐに出る見込みがなく歯痒く思っているところだ。
【賢者】
次元門構築においては、不明点だらけ、知識不足だらけという状況下でも、今の手札で何ができるか、自分達には無理でも、他に手札を持つモノはいないか、といったように思考を進めることで、研究組の検討を大きく進めることとなった。召喚に関する研究は他の者にも任せられるので、彼自身は次元門構築の難問を少しでも片付けようと考えている。これほど多くの利を得ながら、アキ自身が切望している次元門にはまるで手が届かない、これはやはりフェアではないと思ったからである。
【宰相】
次元門構築関連で、アキが語った様々な対策は、目的に沿って大規模な地域を対象に活動するものであり、妖精の国の側でもほぼ全域で対応が必要とあって、彼も多くの課題を抱えることとなった。それでも弧状列島側に比べれば、対策範囲は狭いので、妖精の道を見つける体制作りも早めに構築することができるだろう。
【彫刻家】
アキが飛行する際に用いた椅子を固定するフレームに、妖精の三次元生成技術が導入された。軽く丈夫で繋ぎ目がない工法のおかげで、初期の試作品に比べると重さを半分ほどに削減することができ、雲取様からも負担が少ない、と好評を得た。雲取様とアキの飛行では他にも様々な材料が持ち寄られ、それは彫刻家も驚く特徴を持つモノばかりであり、彼も得るものが多かったようだ。
【近衛】
一割召喚している一般妖精達に、管制官として睨みを効かせる日々だが、参加枠の年齢層が広がってきたこともあって、なかなか対応に苦慮しているようだ。老人達が言うことを聞かず、強権を発動することもしばしばだ。別の魔力属性を疑似的に纏わせる魔術も研究は行っているがまだ確立されてはおらず、完全無色透明の魔力に一般妖精達が混乱する様子はしばらく続きそうだ。
【一割召喚された一般妖精達】
厳選な賽子による抽選を勝ち取った者達であり、抽選を繰り返すと、当初は好奇心溢れる若者達が主体であったが、徐々に年配層にも参加者が広がり、十一章ラスト、春先時点では、高齢な層まで含めて国民全体への物質界熱が高まっている状態となった。なにせ、リスクがなく異世界に行けるのだ。羽目を外し過ぎなければ、誰でも気軽に異世界旅行♪ ……それで人気が出ない訳がない。おかげで、市民達が物質界から持ち帰った情報も日々、蓄積されており、それが妖精の国の活動にも活かされ始めている。近衛が締め付けていることもあって、今のところ、妖精なりの品行方正さで行動もできている。抽選倍率数百倍という状況がずっと続いており、この召喚騒ぎはまだまだ続くだろう。
◆鬼族枠
【セイケン】
調整組に属していながらも、研究組の活動にはほぼ参加しており、研究組からも一目置かれる存在となっている。といっても研究組が彼に求める役割の半分は弾避け、つまり竜族からの理不尽な魔術行使なども、鬼族がいれば、まず鬼族に向けて放たれると理解しているが故である。
実力的にも、確かにセイケンのような実力者であれば、対応できるのだが、どうにも納得し難いところがあるのも事実である。春先にやってくる一団には、妻子も参加するらしいと聞いて、ウキウキしていたりする。
【レイハ】
セイケンの補佐として、常に同行しているのだが、やはり後ろに控えているために、影が薄い。もっとも影に徹して、その代わりにセイケンの足りないところを補佐することに徹しているからこそ、セイケンが研究組の活動に常に顔を出すような真似ができていると言えるだろう。彼の役割は重要である。
【トウセイ】
鬼族の魔術専門家として、癖の強い研究組の中にあっても、強い存在感を保てているのは、やはり高い力量故か。アキは彼のことを小市民っぽいと見ているが、それはアキの感性がアレなだけで、やはり鬼族の存在感は強いと言えるだろう。体が大きいだけではないのだ。
トウセイの一族は、国元での扱いも変わり、重用されるようになってきたようで、送られてくる文を見て嬉しそうな顔をしている彼の様子を見ることも増えてきた。
【レイゼン】
思った以上に統一国家に向けた動きに、連邦所属の国々の王達も乗り気であったことから、彼が帰国前に考えていたよりも、多くの人々を巻き込んで、統一国家に向けた国内改革が進んでいきそうだ。
一度、腹が決まってしまえば、鬼族の動きは早く力強い。そして、ロングヒルから次々とやってくる情報に、多くの文人を派遣して理解を深めるべき、との機運も高まった。
また、アキが人類初の竜と共に空を飛ぶ快挙を遂げたことに、レイゼンは本心から悔しがったらしい。
【ライキ】
彼女を女扱いして弄り倒したアキの姿勢に興味を持った女衆が春先に大勢、ロングヒルにやってくることになった。一般的な鬼族の女は、ライキほどではないとは言うものの、それでも人族などに比べられるほど穏やかとも思えない。きっと女衆との交流は賑やかなものとなるだろう。
【シセン】
文官達の手配に加えて、ライキと仲のいい女衆も春先に行くことになり、その算段も付けることができた。しかし、やる気を見せた各国の王から、こいつも連れて行ってくれ、と次々と推薦が届き、その対応に追われることになった。厳選したものの、当初予定していた倍の人数を派遣することになり頭が痛い状況だ。
【鬼族のロングヒル居残り組メンバー】
武器の代わりにペンを持って文官として働きつつ、森エルフやドワーフの料理人達と、素人料理と言いながらも、経験年数にものを言わせてそれなりの交流もこなしたりと、彼らの活動もなかなかに忙しいようだ。
【鬼族の職人達】
春先にやってくる女衆のために、なんとか台所を完成させることができた。勿論、玄関からの動線に当たる部分も抜かりはない。ある程度加工された材料が次々と届くため、彼らの仕事のペースは速いのだが、やはり体の大きさに合わせて、建物も大きいため、どうしても時間がかかる。残りは荷物置き場など、後回しにしているところだけなので、なんとか女衆が来る前には大使館も完成させることができるだろう。
◆ドワーフ族枠
【ヨーゲル】
困った時のヨーゲル頼みといった感じで、雲取様に大きな砂時計を作ったり、アキを連れて飛行するための座席や会話道具を作ったりと、ドワーフ族の存在感は、ロングヒルに集う種族の中でも頭一つ抜き出ている。それを可能とするのは、ヨーゲルが専門分野以外にも幅広い造詣を持つ老練な技術者であるところが大きい。一次窓口としてまずヨーゲルが話を聞き、そして必要と思われる者達に声をかけて、全体を一つのプロジェクトとして纏めて完成まで導いているのだから、見事なものだ。ヨーゲル自身もドワーフの国にいて、これまでの延長線上の話だけ手を付けていた頃にはなかった新しい取り組みに挑める状況を楽しんでいるようだ。
【常駐するドワーフ技術者達】
アキが頻繁に移動に使っている馬車も、冬季の運用を経ていろいろと改良点が見つかってきた。防御用の装甲などもあってやはり重量があり、どうしてもぬかるんだ道を移動する際には、慎重な運用が求められてしまうからだ。大使館領や第二演習場までの道は全て舗装されているので今のところ、実害は殆どないのだが、今後、移動する範囲が広がることも考慮して、改良のための設計を始めたようだ。また、彼らはヨーゲルが引き受けた様々な品の作成にも関わっており、予算を気にせず制作に没頭できる環境に大いに満足しているようだ。
【施設建設で派遣されてきた百人のドワーフ技術者達】
彼らの施設建設もかなり進んできて、外から見える変化はそろそろ終わりそうだ。しかし、それはあくまでも入れ物ができただけ。施設全体の設計は、妖精族との技術交流が主だったが、次々とやってくる依頼を受けて試作品を作る工房としての役割まで担うようになってきて、全体設計の見直しまで始まっている。
【ドワーフの職人さん達】
アキが心話禁止となった期間を活かして、別邸裏の心話用施設の建設を一気に進めることができた。森エルフの木工職人達との共同作業も新鮮な経験であり、彼らも自らの技を存分に振るうことができたようだ。同じ職人同士ということで、彼らは鬼族や小鬼族の職人達とも交流を深めており、当面、国元に帰るつもりはないらしい。
◆森エルフ族枠
【イズレンディア】
研究組の活動に頭を悩ませつつも、本国から森エルフの料理人達を少数ではあるが招くことに成功し、今は他種族の料理人達との交流を促している。一度交流が始まれば、受ける刺激も多いようで、料理人達はかなり精力的に交流を始めていたりする。また、アキの提案で、各地の樹木の精霊との交流増に伴い、精霊使いの出番が増えそうということもあって、本国にも広範囲の情報を素早く手に入れるための方法について検討を打診したところだ。ケイティと共に行っている心話の研究も、森エルフが魔術や魔方陣を理解することに繋がってきた。その結果、少しずつではあるが、森エルフの働く場所も見えてきたと言えるだろう。
【森エルフの職人さん達】
冬の間に彼らも黙々と仕事を続けて、別邸裏の建物もとりあえずの完成となった。ただ、凝り性な彼らは森エルフらしく、あちこちに飾りを付けようとしているため、まだしばらくはロングヒルにいるらしい。アキからはメンテが大変だから掃除が大変そうな飾りとかはいらない、なんて意見も聞いているので寄せ木細工のように精細でありながら掃除はしやすいといった形となるよう工夫するようだ。
【ロングヒルに常駐している森エルフ狙撃部隊の皆さん】
雲取様がちょっとアキに暴風を見せてあげようかな、なんて軽い気持ちで亜音速の暴風をぶっ放したせいで、突然の空中飛翔をする羽目になり、かなり怖い思いをしたようだ。それでも一人の怪我人も出さず、勢いをうまく受け流して風の精霊の力を借りて降り立つことができたのは、彼らの実力の高さを示す事例と言えるだろう。竜神と崇める雲取様だが、魔術を考えなしにぶっ放して怒られて謝る姿や、アキを連れてお気に入りの空を見せようと張り切る様子などを見て、崇拝の念は少し目減りしたものの、親近感は大きく増したようだ。
【森エルフ&ドワーフの心話研究者達】
冬の間、研究を続けたことで、やっとケイティとアキの心話を行う試作魔方陣を作ることができた。後は試運転だけというところまできたが、アキの心話禁止もあって、試行できずにいる。といっても禁止されているのはアキだけで、リアのほうは問題ないので、まずはそちらでやってみようという話も出てきている。
◆天空竜枠
【雲取様】
福慈様への説明も、皆の協力で問題なく乗り切ることができて一安心できた。また、次元門構築の話し合いでも、多くの知見に触れることができて、自分達にどんな影響が出そうか、何を協力できそうか、など多くを考える機会となった。精神的に追い詰められたアキとの心話ができないことを残念に思い、なんとかしてあげたい、と考えていた。そこで、雲取様が発起人となって、アキを気分転換の空の旅行に連れていくことを提案し、多くの種族を巻き込んだ一大イベントを発動させることになった。結果は大成功となり、アキの心が少し穏やかになったことに安堵したのだった。
ちなみに、暴風をまき散らした件では、アキの心話中止も含めて、あちこちに説明して回る羽目に陥り、地の種族に精通している雲取様にしては珍しい失敗だ、と竜族の間でも話題になった。
【雲取様に想いを寄せる雌竜達】
それぞれが担当分野を決めて研究を分担したことで、彼女達の生活にも活気が出てきた。普段の冬であれば寒いこともあって、外出も滞りがちだが、今年は頻繁にロングヒルに訪問したり、他の竜のところに通って相談したりと、活発な活動となった。雲取様が彼女達に内緒で、何やら地の種族達と話をしていることについては、色々と思うところはあるようだが、後で話すから待ってくれ、と言われれば、そこを追求したりしないでおくのが伴侶としての心構えだろう、と紅竜が皆を納得させた。
というか、雲取様が秘密を抱えている、ということ自体が、あれこれ考える話題ともなり、彼女達の間であれこれ想像して話をする楽しみともなっており、雲取様が話すまではゆったり待つ気でいるようだ。アキが心話を控えるほど心が追い詰められた件では、彼女達を驚かせることにもなり、アキは繊細、という認識が深まることにもなった。
【福慈様】
アキや雲取様との話も終わり、疑問点などもあらかた解消できた。書類や図なども併用したことも理解を深めることに寄与したことから、竜族の間でも、文字や図形といったものを使っていくのはどうか、と考えたりしている。とはいえ、寿命の長い竜族ということもあって、その歩みはあまり早くはない。皆に周知徹底して、理解を深めて、試してみて、それで次を考えて、といった具合にその歩みはゆったりしたものだ。この冬も、地の種族との交流に対する心構えや、注意点などを周知徹底するのがせいぜいだった。いくら行動範囲が広く、移動速度が速いと言っても、結局は竜から竜への伝言なので、やはり時間はかかるようだ。
【白岩様】
前回の訪問時には、寒い日だったこともあり、お菓子の提供がなかったのを残念に思っていた。そこにふらりと雲取様とアキが近場に現れたものだから、少し立ち話をしてみた。彼からすれば、アキの飛行時に話しかけたのはその程度のことだった。それに心話よりも直接対峙して話をすることを好む彼のこと。春先、暖かくなれば、アイリーンの提供する料理に惹かれてロングヒルにやってくることだろう。
【黒姫様】
見た目は、一回り大きくなった雲取様といった感じの成竜であり、雲取様の実姉である。雲取様が小さな幼竜だった頃から面倒を見て貰ったりしていたので、頭が上がらない。彼女も雲取様のことは年の離れた弟ということで、可愛がっている。自分が前に出ると雌竜達に影響を与え過ぎて面白くないと、これまでは一歩引いたところから眺めていた。しかし、雲取様がアキをお気に入りの場所に最初に連れてきたことから、アキに興味を持ち、ロングヒルに足を伸ばしてみる気になったようだ。
【アキと心話をしている竜達】
アキが精神的に追い詰められて心話をするのを控えることになって、ちょっとがっかりしている。といっても、何か月か待つというのは竜族からすれば、数日待つ程度の感覚に過ぎない。なので、まぁちょっと間を空けるくらいいいか、と軽い認識である。また、直接、ロングヒルに訪問して話をする分には問題ないということもあって、直接対話を望む竜からすれば、気にする話でもないようだ。
◆人類連合枠
【ニコラス】
財閥が求める人材募集の人事権を持ったことで、彼の人類連合内での権力基盤も安定するに至った。といっても、まだ人材派遣の第一陣、第二陣が出ていった程度であり、彼自身の幕僚も薄いことから、体制固めにはまだまだ時間がかかることだろう。二大国も表立った動きといえば、大量のマコト文書を購入したことくらいで、まだ力を溜めている時期なのだろう。
【トレバ―】
ディーアランドのエージェントである彼は、ロングヒルに続々と集まってきている中小国から選出された派遣者達との交流の場を設けて、コミュニケーションを活性化させていた。人類連合として纏まった動きをすることも重要なことから、派遣者達の反応もよく、彼の活動はそれなりの成果を出していると言えよう。
【ナタリー】
二大国の一つ、テイルペーストのエージェントである彼女は、調整組や小鬼族の研究者達との接点を増やそうと奮闘している。幸い、生理的な嫌悪感を齎すような粗野な部分は、研究者からは感じられないため、穏やかな交流を増やすことに成功している。ただ、団長のガイウスは忙しくてなかなか時間が設けられず、かといって技術者達となれば、二人、三人と誘うことになるため、結構、支出が痛い。それでも母国は必要経費として、援助を続けてくれているので、彼女の活動はある程度認められているのだろう。
【エリー】
アキが空の旅行をするにあたっては、飛行経路に該当する国々に、兄の王子達と共に働きかけて、飛行を認めさせるなど、苦労が絶えない。それでも、地道な活動の結果として、調整組に話をするならまずエリーに、という流れも確立されてきており、エリーも増えた仲間に積極的に仕事を割り振ることで、共に働く仲間としての意識を持たせることに成功しており、エリーを推す勢力は着実に増えてきていると言えよう。
【ロングヒルの王様ヘンリー】
冬の間に、春先にやってくる最大勢力の代表を向かい入れるための準備を進めて、何とかそれは間に合わせることができた。また、日々、増えていく財閥関係者や、各勢力の常駐者達を支えるため、物流網の拡充も彼が進めてきた施策であり、おかげで秋の頃は突貫工事であれこれ不足気味だったのに比べれば、だいぶマシな状況になったと言えるだろう。
【ロングヒルの御妃様】
王子達とアキは会わせず、エリーと共に周辺諸国との対応に当たらせる、という彼女の策は今のところ、成功しているようだ。エリーに心酔する者達が増えていることは心強いが危うさも孕んでいる。それだけに、一般的な感性を持つ王子達には、国を安定させる役割を担うことを期待している。上手くいけばよいのだが……。
【ロングヒルの王子様達】
アキの空の旅を実現するため、エリーと分担して飛行経路の国々を行脚することになった。苦労した甲斐あって、各国の了承も得ることができ、王子達の外交手腕もある程度評価されることになった。竜と共に人が飛ぶ、その衝撃は実際に各国の首脳と話をしたからこそ、王子達も理解することができた。
ロングヒルにいると、感覚がだんだん麻痺してきてしまうが、アキが竜と共に空を飛ぶ、というのは本来は天地がひっくり返るような驚愕の出来事なのである。そういう意味で、一般的な感性を持つ王子達の意見も、今後、ロングヒルでは重視されていくことになるだろう。
◆小鬼帝国枠
【ユリウス】
冬の間に何かあるだろうとは思っていた彼だったが、アキが精神的に落ち込んで心話が禁じられたり、かと思えば、次元門構築のために、弧状列島全域の樹木の精霊を巻き込む話を打ち出したり、雲取様と一緒に空を旅したりと、そんな話が次々と舞い込んできて、唖然としたようだ。
それでもすぐ気を取り直して、とにかく他の代表達と共にロングヒルに行って話を聞くことが第一と判断したのは見事だろう。
ちなみに、小鬼族の生き方の根幹に関わる部分に見直しを行う施策を打ち出しただけに、不満分子の暴発や鎮圧もあり得る、と覚悟を決めていたが、幸いにしてそのようなことは起きなかった。そこで、春先のロングヒル行きを活かそうと考えている。
なお、小鬼族の各地の王達はロングヒルに派遣する人物の選定を済ませて、ユリウスに同行の許可を求めたのだった。まぁ、即位してから各地の反乱分子の暴発を促して叩き潰してきたユリウス帝の手口は彼らもよく理解しているようだ。
【ルキウス】
「成人の儀」の縮小に伴う混乱、反乱の鎮圧準備も着々を済ませて、いくつかの国には暴発させるための誘いまで仕掛けたが不発。いくらこれまでの歴史があろうとも、竜達が頻繁に飛び交い、鬼族達がロングヒルとの間を行き来する状況で、内乱をするほど、生き残った国主達も馬鹿ではないということだろう。だが、これは嵐の前の静けさに過ぎず、このまま軟着陸することだけはありえない。
その騒ぎを小鬼帝国の中だけで収めることができなければ、人類連合や鬼族連邦、そして竜族の介入を招きかねない。今、一番の危険は暗殺者の存在である。春先のロングヒル行きは緊張感を伴うものになるだろう。
【速記係の人達=ユリウス帝の幕僚達】
ユリウス帝の幕僚達は、本国に戻ると次々に策を打ち出し、各地の王たちの動きをけん制していった。今は暴発を抑え、そして、公衆衛生改善のモデル都市を十年間運用して成果を出すこと、その成果をもとに小鬼帝国全体の改革へと繋げる、というのが彼らのプランだ。街エルフも含めて多くの援助を受けることで、成果を出せることは間違いない。しかし、自力ではないだけに歪みも生じるのは避けられない。彼らはそれでも帝国を安定させるため日夜、頭を悩ませているのだ。
【ガイウス】
小鬼族研究者達の団長として、常に研究に参加していることもあって、小鬼族の代表としての立ち位置もかなり安定してきた。小鬼族に話があればまず彼を通して、といった具合だ。彼が一次窓口にならないと、専門分けされ過ぎている小鬼研究者達と、話が合わないといったことも起こるだけに、彼の立場は重要である。そんな彼も、アキに触発されてか、異世界に自分だって行きたい、と本音を吐露した。また、言葉に意思を乗せてくるアキに何かを感じ取ったようで、「アキ様」と呼称を変えた。部下達の統率とは別に、団長としての彼の姿勢が小鬼研究者達にいろいろと影響を与えそうである。
【小鬼の研究者達】
十一章では、小鬼達研究者も次元門構築の研究で様々な意見を出し、検討を行い、存在感を十分にアピールすることができた。……できたのだが、ガイウスが窓口ということもあって、他種族からは全体で一グループ的な扱いを受けてたりする。多少、不満に思うところもないではないが、他種族の研究者達が異様に守備範囲の広い万能研究者といった変人達ばかりであることも理解できたため、表立って不満を言うことはないようだ。緩和障壁なしに竜族の前に立てる女性研究者は、慣れるためと称してアキが話をする前後の空き時間を使って竜族とちょっとした雑談をさせられている。かなりのストレスなようだが、それでも場数を踏むことで、当初に比べればだいぶ落ち着いてきたようだ。災難である。
◆街エルフ枠
【ジョウ】
冬の間に、一割召喚の妖精達、小型召喚の竜達、連樹の神様との交流の準備をしていたところに、アキが新たに、世界樹の精霊との交流、弧状列島全域の樹木の精霊達との交流の話をぶち込んできて、思わず聞き返してしまった程だった。世界樹の精霊はまだいい。相手は巨大とはいえ1つの存在だから、森エルフのイズレンディアを通じて交流するといった方法も思いつく。
しかし、弧状列島全域の樹木の精霊となれば、一体、全部で何十万体いるのかもわからず、しかも彼らはきっと全体を統括するような組織、活動も持っていない。竜族より更に個人主義が徹底しているであろう存在相手に、どう交流していけばいいのか。頼みの綱は精霊使いを多く要する森エルフ達だが、彼らも勢力としては弱小なだけに、ジョウの悩みは尽きない。
【街エルフの長老達】
ヤスケだけが残り、ロングヒルでの活動を注視している日々だが、政治面ではハヤトやアヤもいるため、彼の主な役割は長期的な視点からの影響の見極め、といった部分に限定されている。近い時期であれば、若い二人に任せておけば問題ない、と判断したこともあるが、それ以上に、そんな些事に思考を割く時間が勿体ないからだ。実際、アキが福慈様と話した内容や、次元門構築の検討結果を受けてアキが提案した話はいずれも長期的な視点で考えると、影響が大きいものだらけで頭が痛い。
思考が追い詰められたアキが、予想以上に脆く危ういことも理解したため、そこまで追い込まないよう、時折行っているアキとの歓談の場でも会話には気を付けていたりする。
【船団の皆さん】
アキと翁が実際に世界樹を観察して、その在り方が、単なる樹木の枠に収まらないかもしれない、と考えた結果、海外で活動している船団の皆さんに、もし伝手があれば、世界樹の枝や葉といった所縁の品を持ち帰るよう依頼が飛んだ。これ自体は単なるお遣いイベントだが、その意味するところは大きい。何せ、所縁の品を用いた心話で、何千キロも離れた相手と意思疎通できることを意味するからだ。相手が竜神、魔獣、世界樹の精霊といった域の存在ということも、船団の探索者達を熱くさせることになった。彼らの奮闘結果が得られるのは早ければ夏の頃となるだろう。
◆その他
【ソフィア】
事あるごとに、次元門構築は大変だ、難事だ、と話してきたが、その甲斐あって、アキも泣き叫んだりして取り乱すようなことは避けることができた。ただ、ソフィアから見たアキはやはり不安定で、支える者を多く必要とする子供だ、という認識だ。そんな危うい時期なのに、アキに、言葉に意思を乗せる方法なんぞ伝えた妖精族には、アキの知らないところでかなり文句を言ったらしい。
考えうる最高の研究環境を手に入れながらも、次元門構築はまだ目処が立たない。それでも、しばらく研究してれば、何かしら確実に成果を掴んで見せる、と意気込む姿は心強い。これは自らを鼓舞するためでもあり、仲間に刺激を与えるためでもあり、そして、アキを励ますためでもある。
師匠としての彼女の苦労は当面続くことだろう。
【街エルフの人形遣い達】
女中人形達の整備に人形工房が大忙し、実働系の人形遣い達もあちこちに派遣されて活躍している。魔導人形の姿を見ることも稀、と言われたのも遠い昔のようだ。ただ、やはり年配者は魔導人形の姿に恐怖を覚える者も多いため、見た目が威圧的にならないように、フレンドリーな雰囲気を感じさせるように、装いなども気を付けている状況だ。
【連樹の神様】
異種族化の研究に大いに力を発揮してくれそうな樹木の精霊の集合体。そして、妖精の道を見つけるには、弧状列島全域の樹木の精霊の助力が必要との話も出てきた。まだ連樹の神様から、対価についての話はないが、そろそろ、具体的な提案があるだろう。好意には好意で対応したいものだが、一体、何を求められることやら……。
【ヴィオ(ヴァイオレット)】
神降ろしの影響も冬の間に癒されて、今では普通に生活することができるようになった。アキとの手紙のやり取りも週一回程度のペースで安定して行われている。本編でも十二章で紹介されるだろう。
竜族がそのまま訪問することは微妙なので、小型召喚で、という話になっていたが、まだ小型召喚の改良が続いている状態であり、まだ、小型召喚の竜が訪れる事態にはなっていない。とはいえ、それはもういずれ確実に起こる未来でもあるため、竜族が訪問して、連樹の神様と話をした内容についていけない、ということがないように、神官達と共に、魔導具や魔術について勉学に励む日々だ。
【連樹の神官達】
アキと竜達の親密な関係に衝撃を受けた彼らは、ロングヒルで起きている変化を正しく理解するため、三人の若者を選出して、ロングヒルに送り出した。手紙のやり取りは全部、財閥が持ってくれることもあり、はじめは遠慮していたものの、出してくれないと困る、と何度も説明されて、今では若者達との手紙も数日おきにやり取りするように変わった。ただ、これまでは連樹の神様に寄りそう生活だけで完結していただけに、津波のように押し寄せてくる情報に圧倒されているのが実情だ。
【連樹の若者達】
一族の期待を受けて、ロングヒルにやってきた若者達。そんな彼らは、多くの種族が当たり前のように闊歩し、交流する様に衝撃を受けた。また、竜族が頻繁に訪れて、そんな竜達と親しげに話をするアキの姿勢にも、信じ難い光景に思えた。連樹の神と、彼らとの関係とあまりに違い過ぎて、現実味が薄く感じられたほどだった。そんな風に始めは思えたものの、それも一か月、二か月と続けば慣れてくるもので、春先になる頃には、彼らの出す報告も地に足のついた内容に推移してきたようだ。
【世界樹の精霊】
イズレンディアから、雲取様がアキを連れてくると聞いて、上空をゆっくり旋回していたアキ達のことを観察していた。アキが感知できるほど強く見ることになったのは、魔力が完全無色透明ということもあって、これまでに見てきたどんな生き物とも違うように感じられたため。なので、もし同じ勢いで森エルフが凝視されたなら、障壁を全開にしなくては耐えられなかったことだろう。凝視されていたのが雲取様やアキだから問題なかった訳で、このあたりの経験値の無さは今後もいろいろと影響が出そうだ。妖精の道を探すために弧状列島全域の樹木の精霊に協力を仰ぎたい件、一般的な樹々と世界樹の大きさの違いが示す「何か」が次元門構築に役立つかもしれないと思われている件の二つの情報を得て、重要性が増した状況であれば、有益な話もできそうと考えたようだ。春先になれば世界樹の精霊との交流も始まるだろう。
【マコトくん】
誰もが予想していなかった「マコトくん」からの神託という形での働きかけにより、次元門構築に弾みがつくことになりそうだ。ちなみに、切っ掛けは「マコトくん」からではなく、太い経路を経由してアキが不平不満を山盛りにした呪詛を送り付けたから。何せ、出力制御できず常に全力なアキが、ドロドロした感情を上乗せして放ってきたのだから、彼がウザいと言ったのも当然だろう。彼が指示した「最弱の依代」は言葉にすればシンプルだが、実際は極限とも言える難度だったりする。(詳細は来週の道具説明で)
彼が最弱依代に降りて活動できるようになるのはしばらく先のことになるだろう。
それぞれの近況を書いただけなのに普段の四、五倍は書く手間が掛かりました。今回はアキが見聞きしてない、或いは興味がない部分など、本編で語られていない内容も書くようにしてみましたがどうでしょう?
次回は、「第十一章の施設、道具、魔術」になります。
投稿は十一月十八日(水)二十一時五分の予定です。
<補足>
慌てて書いたので、ちょっと明日、見直します……。




