11-18.予想外の飛び入り参加
前回のあらすじ:検討報告のラスト、⑤アキとリアの二律背反を聞いて、かなり気持ちが落ち込みました。(アキ視点)
もう感情がぐちゃぐちゃで、何をしたらいいか、何をしないといけないか、なんて事が少し浮かんでも、心が動いてくれなかった。
そんな中、騒つく皆を鎮めて、師匠はじっと僕が落ち着くのを待ち続けた。何か話しかけるでもなく、感情を露わにするでもなく。
待っていれば僕が落ち着くと、そう信じて疑ってない態度だった。
と言うか、アイリーンさんを呼び付けて、団子のお代わりを運ばせて、緑茶をすすって、寛ぎ始めた。
うわー。
それならばとぽつぽつと、メイドさん達に頼む声が出始めて、待っているから気にしないでおくれ、なんて心の声が聞こえてきそうなくらい、場の空気が緩み始めた。
……なんだろ、このシリアスな空気をポイ捨てする雰囲気は。
さっきまで世も終わりかと思えるほどだったのに、普段の空気が流れ込んできて、澱んだ意識が留まるのを邪魔し始めた感じだ。
「ニャー」
トラ吉さんが僕の肩に掴まって立ち上がると、肉球で僕の頬をふにゅーっと押してきた。
自分はここにいるんだから、こっちを見ろって感じ。
イエスと言われて当然といった顔に、なんだかおかしくなって笑ってしまった。
トラ吉さんは改めて座り直すと、尻尾で手を叩いて、撫でるよう催促してきた。
なんだかなぁって思いつつも、僕がいて、トラ吉さんがいて、なら、トラ吉さんに意識を向けるのが当たり前、なんて彼の態度が嬉しかった。
はいはい、撫でるからねー、なんて考えるあたり、すっかり下僕感情が染み付いているって気もするけど、可愛い動物を愛でる気持ちは、恥じる事もないと思う。
……そんな感じに、トラ吉さんが満足するまで撫でてから、ふと、皆の方に視線を戻すと、なんとも生温かい視線を向けられていることに気付いた。
「そろそろいいかい?」
「――お待たせしました。どうぞ」
僕は師匠の態度に合わせて、背筋を伸ばした。
◇
「話は聞いた通りだ。我々の旅の目的地は決まったが、そこに向かう道はわからないし、何日かかるかもわからないし、手荷物も全然揃ってない」
僕は黙って頷いた。
「だがね……周りを見てご覧。アキの呼び掛けにこうして集まった者達がいる。自分ならどこに手を付けられそうか、それぞれが手を尽くし、ちょっとやそっとじゃ、どうにもならない事は骨身に染みた。私達はスタート地点に集った。周りを眺めて、手持ちの荷物も確認した。だがね、今はまだ、それだけさ」
言われてみれば、確かにまだその程度だ。
「こうして、皆が集ったのはね、発起人たるアキの思いを知りたいからなんだよ。ここにいるメンバーの活動を支えているのは確かに財閥や三大勢力のお偉方だがね。それでも、計画の要はアキなんだよ」
そこまで話すと、師匠は僕の言葉を待った。
ここにいる皆が、街エルフも、人も、鬼も、小鬼も、森エルフやドワーフ、それに妖精や竜も、僕の発言を待っていた。
◇
師匠の告げた言葉を自問自答してみた。助けて、と泣いてるだけだったなら、きっと僕は今も街エルフの国の館に留まっていただろう。座して結果を待つのを良しとしなかったからこそ、誰もやらないなら自分がやると、動き続けたからこそ、今がある。
多くの幸運と、出会いに助けられたのは間違いない。それはとても恵まれた事だった。
では、今は? もうゴールか? そんな訳ない。今、手を引けば失速するだけだ。それじゃ辿り着けない。なら、選択肢は一つだけ。あと、僕の立ち位置を明確にしよう。
「――師匠の言う通り、わからない事は多く、たくさんの準備も必要ですね。それは理解しました。でも、幸いにして研究を始める前と後で違う事もあります。少なくとも、今、僕達は進むべき方向は理解した。これだけは間違いありません。今出ている課題のどれも、前に進むべきモノであって、足場を固めたり、行き止まりを確認したりはあっても、戻る道じゃない。なら、話は簡単です。目的地は前にある、歩き方も少しは見えてる、なら歩きましょう。僕達はそれに専念できるのだから」
それと、もう少し俗な話も混ぜる事にした。人は義務感だけで動くのは効率が悪いから。
「それに、シャーリスさん、妖精族の皆さん。安全を担保した上での異世界訪問、愉しんでますよね?」
いきなり話を振ったけど、シャーリスさんは意図を察して頷くと、優越感混じりの満面の笑みで皆に思いを話してくれた。
「こうして妾達が研究に赴いてるだけで、羨望の眼差しを向けられ、召喚枠を寄越せと言い寄られ、こちらの世界のことを聞かせてくれ、と懇願される有様じゃ。愉しいかとな? 無論、愉しいとも。あまりに愉しい故に、民が嵌りきってしまわぬよう苦慮する程じゃな」
そう言い放つと、他の妖精の皆さんも、その通りと嬉しそうに頷いた。その様子を見て、他のメンバーはといえば、予想通りかそれ以上に、羨ましそうな表情を浮かべていた。長老のヤスケさんですら、僅かだけど羨望の眼差しを向けていたのは驚いたけどね。
「皆さん、異世界訪問、自分達もしてみたくないですか? 安全性が確保できれば、妖精界やマコト文書で紹介されている地球の世界に行ってみたいですよね? 僕はやっぱりどうせなら行ってみたいし、色々と体験したいです。妖精達はできてる、なら僕達だってできます。やりましょう!――なので、次元門も一時的にとか、情報のやり取りだけ、なんてケチ臭いレベルは通過点として、ゴールはどーんと気軽な異世界訪問、その辺りにします。どうでしょうか?」
どーせ、理由なら後からいくらでも付いてくる、とも補足して、身振り手振りを加えて、皆が楽しめそうな目標を遠慮なく、バーンと掲げてみた。
自分を鼓舞する気持ちもあるけど、八割くらいは本気で。
真面目な話もいいけど、欲に繋がる話もあった方がやる気がでるよねって思いを込めて、精一杯笑顔も浮かべてみた。もう大盤振る舞いだ!
パチパチと拍手が響いた。なんと、小鬼族のガイウスさんだ。胸元の緩和障壁の護符を握り締めながらも、彼は立ち上がった。
「素晴らしい!アキ様、それならば、私もぜひ目標に加えて欲しい条件があります。アキ様の望みにも合致しますが、是非、五年以内に我々のような魔力の少ない種族も異世界訪問を実現していきたい! 皆さんも知っての通り、小鬼族は短命です。次元門構築が例え成ったとしても、それは孫子の代と半ば諦めてました。しかし! 私だって行けるのなら行ってみたい! 海を渡るのすら夢物語と思っていたのに、それが異世界なら尚更です! 低い目標を据えては、高いところになどとても辿り着けません。研究組の目標は高く掲げるべきでしょう!」
ガイウスさんは少し眩しそうに目を細めながらも、自らの思いを強く語った。その後で、勿論、そこまで行けば、ミア様の救出も、あちらからの情報入手もできるので、問題とはなりません、と恥ずかしそうに補足した。
うん、うん。
やっぱり、そうでないとね。
他の皆も、そりゃそうだと頷いていた。研究者特権で先に体験できるくらいの役得は寄越せと顔に書いてある。
皆が胸元の護符を操作しているのが気になるけど、動機がなんであろうと、未知へと果敢に挑む姿勢は素晴らしいし、仲間として誇らしい。
僕の決意も上手く伝わったようで何よりと自己満足していたら、セイケンが武術を使うときのような雰囲気のまま、手を挙げた。
「この場にいる誰もが、召喚の可能性を知り、異世界が絵空事でない事も承知している。そんな連中に、行きたいかと問えば、当然、行きたいと答えるだろう。詳しく知らない者だってそうだ。しかし、前向きなのは心強いが、先程まで世の終わりかのように嘆いていたのに、気持ちの切り替えが良過ぎだ! アキの心の内を思って、胃が痛くなっていた者達の気持ちも考えてくれ。……それとな、決意を強く示してくれるのはわかるが、その目で、言葉に意思を乗せて話すのはよせ。竜族とは別の意味でキツい」
どう言う事?
「キツい?」
「翁、鏡を出して見せておやり」
師匠に言われて、お爺ちゃんが頷くと杖を一振り。僕の隣に大きな鏡が現れた。
「ほれ、アキ。ちと、鏡に映る自分の目を見てみるといい」
お爺ちゃんに言われて、鏡に映る僕の姿を、赤い目を眺めてみた。
薄暗い泥沼のような目だ。
泣き腫らして、無理をしてるせいか、淀んだ強い意思が伝わってくる目付きの悪さもある。
うわ……これは酷い。
「それと、アキ。暫く前から皆に向けて話す時に、言葉に意識を乗せて話してるね。翁あたりから習ったのかい?」
「あ、はい。妖精さん達、体が小さいのに近衛さんが大勢に意識を伝えたりしてたから、便利だねって聞いたら、コツを教えてくれたんです。それからは強く伝えたい時は言葉に意識を乗せるように心掛けてます。それが何か?」
僕の話を聞いて、師匠が額に手を当てて深く、深く溜息をついた。
「何かじゃないよ。アキの魔力は感知できないから、具体的な測定値では語れないがね、意思を乗せたアキの言葉は、到達距離こそ短いが、心への圧力は間違いなく思念波かそれに類する物のそれだ。……まったく、ロクでもないもんを教えてくれたもんだ。師として命ずるよ。アキ、取り敢えず、その長老連中のような目が治るまでは心話も、言葉に意思を乗せるのも禁止だ。いいね」
「あの、師匠。確かに自分で見ても酷いとは思いましたけど、心話も駄目なんですか?」
「当たり前だよ。なんなら雲取様でも白竜様でもいいから聞いてご覧」
む。なら聞いてみようとしたら、二柱とも目を逸らされた。ショックだ。
「……そんなに酷いです?」
「アキは、例えばそこのヤスケ殿と心話をしたいかい?」
「いえ、まったく。そんな危険な事は頼まれても駄目です、逃げます」
躊躇なく答えたら、ヤスケさんは、嫌われたものだ、などと薄く笑い、すぐに鋭い視線を向けてきた。
「それが普通よ。そしてな、アキ、今のお前は剥き出しの刃そのモノだ。相手の心を気遣う余裕もない。例え、福慈であろうと触れぬ方が良い」
ヤスケさんが底の見えない泥沼のような目を向けて、自虐的に笑った。
「お前もわかっておろう。望みはか細いが失われてはおらぬ。そのように全てに絶望した目をするのは、希望が全て失われてからでいい。儂らのようにはなりたくあるまい?」
素直に頷くと、ヤスケさんは一転、真顔になった。
「……少し効き過ぎたようだ。ミアへの思いと裏腹に、他のあらゆることへの思いが薄い事を危惧していたが、ミアへの思いへ更に傾けば、こうなるか」
人並みに興味は向いていると思うんだけど。そう反論するだけの気力もないし、鏡に映る姿は確かに酷いし、コレは何とかしないと。
いかなる時でも絵になるミア姉と同じ姿の筈なのに、中身が違うとこうも残念な感じになるモノかぁ。
自分が子供だな、と痛感させられて悔しい。
「さて、アキ。決意は聞けた。寄り掛かるには不安だが、それは私らが支えればいいだけさ。後は、一通り聞いてみて、何か思い浮かんだなら、忘れないうちに話しておくれ」
師匠は、まぁ合格、と話してくれた。失望させなかっただけでも良かったと思っておこう。
◇
さて。
それで、思いついた事か。
「――いくつか思いついた事があります。①転移門を妖精の道に放り込む際の準備、②魔力差が大きい者同士の心話での配慮、それと、③ミア姉との心話ができるだろう三人目あたりです」
僕の発言をベリルさんがホワイトボードに書いてくれた。僕ができるのは新たな視点の提供、実例を基にした具体的な方針の提示だからね。
「時間もあまりないから、細かい話は後でいい。概略だけ話しておくれ」
まぁ、それもそうか。
「はい。では、①転移門を妖精の道に放り込む際の準備ですね。妖精の道で繋がった先がとこかは行ってみないと分からないですよね。なので、無線標識と、信号を捉える受信機を用意する必要があると考えました」
無線標識が内蔵電源が尽きるまで放ち続ける信号を、受信機で捉えれば、その位置に到達できる、といった感じに、図を書いて説明してみた。こちらと妖精界の間の連絡はお爺ちゃん経由でできるから、受信機での信号捜索は、連絡を受けてから、信号発信が切れるまで行えばいい。信号が強ければ遠くでも信号を拾えるし、受信機の感度が高ければ、信号が弱くても信号を捉えられるだろうと。
妖精界とこちらでどれくらい位置がズレるかわからないので、妖精界の方は周辺の緩衝地帯を含めたエリア、こちらは弧状列島全体をエリアとすれば、それなりにカバーできるのではないかとも。
「後は、召喚体の誰かに向こう側に行ってもらって、周辺の様子を教えて貰うというのも良いでしょう。お爺ちゃんも試した方法ですから、上手くいけば、場所を大きく絞り込めると思います」
って説明したんだけど、いまいち皆の反応が鈍い。鈍いというか、唖然としてる感じ?
おや、イズレンディアさんが手を上げた。
「提案内容はわかる。だが、いきなり規模が大き過ぎて実現性が乏しいだろう」
言葉を選んで発言してくれた感じだ。竜族の二柱は少し頑張ればできそう、くらいの表情だから、大丈夫そうかな。
あちらの事例紹介をして、現実的な話と理解して貰おう。
「広さと探すモノの小ささなら、地球の話ですけど、良い事例があります。打ち上げたロケットが原因不明の故障で大洋に墜落した話です。何せ音の何倍も速く飛翔し、雲よりも遥か彼方の高空で故障して制御不能で落ちたので、落下予想海域は色々と条件を絞ったものの、幅と深さはここから第二演習場までくらい、長さは街エルフの島と本島の間くらいの範囲と広大なモノになりました。落ちたロケットのエンジンは馬車程度の小ささで、エンジンは光もまるで届かない超水圧の深海の底です。それは池に落とした指輪を手探りで探すような難事でしたが、地球の技術者は、故障原因を突き止めるためには何としても現物の確保が必要と考え、何ヶ月もの苦闘の末に、広大な海域から壊れたエンジンを発見し、引き揚げる事に成功しました。だから困難ではあっても不可能じゃありません」
本にもなったくらいの偉業だからね。同じ日本人としても誇らしく思う。
<妖精の道が現れたら、その場所を発見して、無線標識なり、召喚体なりを放り込む。向こう側では得られた情報を元に、自分たちの側の妖精の道に辿り着く。妖精の道の入り口と出口が確保でき次第、転移門を送り込む、か。筋道は通っている。飛んで探せるなら我らも力になれるだろう>
雲取様が前向きな発言をしてくれた。嬉しいね。
「出来るだけ長時間、信号を出す魔導具と、できるだけ遠距離でも信号を捉えられる魔導具、しかもそれぞれはなるべく小さい方がいい、悩ましい話だけど、ある程度のモノは作れると思う。運用の方は各国に頑張って貰う必要はあるけどね。妖精の道を見つけてからの方はその方針で何とかなりそうだ」
リア姉が話すと、ヤスケさんや父さんが渋い顔をした。だけどまぁ、否定するほどではない。
「妖精の道を見つける方は、連樹の神様と、森エルフの国の世界樹の精霊さんに相談したら、何かいい案が出るかもしれませんね。幸い、弧状列島の殆どは植物に覆われてる訳ですから、樹木の精霊達の助力が得られれば、色々と進展すると思うんです」
「四つ目か」
セイケンが呆れた声をあげた。まぁ、策というほどでもない気もするけど。それを言えば、次の話も同レベルか。
「具体的な提案ではありませんけどね。次は、②魔力差が大きい者同士の心話での配慮、です。こちらはシンプルです。ミア姉の手記を手掛かりに、ミア姉が接触した魔獣、精霊、神々と心話をして、少しノウハウを聞いてみるだけです」
そう話すと、父さんが懸念を示した。
「いくらミアという前例があっても、アキとミアでは技量に差もあるだろう。それに所縁の品も手に入るとは限らない。聞く価値はあると思うが、実行は慎重に判断しないと駄目だ」
「まぁ、そこは注意します。所縁の品は一時的に借りるだけなら、何とかなるかなーって思うんですよね。信仰心のある信者の誰かから聖印を借りれば、試すくらいはできるでしょうから」
そう話すと、おずおずとダニエルさんが手を挙げた。
「アキ様、どの宗教に問い合わせテモ、神器を貸し出す事が前提になると思いマス。信者でないアキ様が、特別ではない聖印で神と交流したら、神官達の立場がありまセン」
む、それはそうかも。
「……そうなると、貸し出しもこっそりやる感じがいいかな?」
「貸し出しは極秘、交信結果の発表も控えるよう話がくるでショウ」
神官のダニエルさんがそう言うなら、そうなんだろうね。なかなか面倒臭いけど仕方ない。
「アキ、竜族以外と心話を試みる話は絶対、対象地域の政治関係者に話を通しなさいよ! 特に神様の方は信者がいる全域に影響が出るくらいの気でいかないと不味いわ」
エリーが絶対勝手にやるな、と告げた。他の皆さんも同意見のようだ。何とも信用がない。
「僕が心話をするには、所縁の品が必要ですから、こっそり試すような話にはなりません。なので安心してください。あ、でも、妖精さんの例みたいに、魔獣と交流がある竜族の方に協力して貰えれば、所縁の品が無くても、心話はできるかも」
ふと、思い付いた事だったけど、それには師匠が駄目出ししてきた。
「雲取様、白竜様、アキがこんな事を言ってるが、黙って協力しないよう頼みます。魔獣が皆さんのように話が合うとは限りませんから」
<安心して。それを試すくらいなら、私達が直接話をする>
白竜さんがそう約束してくれた。師匠もその際は争いにならないようにだけお願いしたい、とだけ話した。
まぁ、この話題はこれくらいかな。
「それで、最後は、③ミア姉との心話ができるだろう三人目、ですね。僕とリア姉以外で、ミア姉と心話ができそうな存在に心当たりがあります」
「まさか……」
ヨーゲルさんが、驚きの声を上げた。まぁ、気付くか。さっき、魔獣や精霊、それに神々に話を聞いて回ると言った内容と被るから。
「家族や友人より親密な存在「マコトくん」です。彼が参加すれば、ミア姉との径路の問題は解決すると思うんですよ」
「そこらの知人程度みたいに軽く言うわね」
エリーが呆れた口調で茶化した。
「ミア姉との径路の太さで、僕、リア姉ときて、その次は誰かと言えば、あちらでのマコトと関わりの深い「マコトくん」でしょう。上から数えて三番目、それに彼もマコトなのだから、ミア姉の危機なら何を置いても真っ先に対応しなきゃ嘘ってモノです。と言うか、マコトなのに、これ迄に自ら動いてない事自体がおかしいんです。神様にも事情はあるのかもしれませんが――」
説明しているうちに、だんだん腹が立ってきて、発言にも苛立ちががっつり乗り始めて、皆の前の緩和障壁が激しく稼働し始めた。
「っと、すみません、つい、苛立ってしまいました」
荒れた気持ちを抑えて、皆に頭を下げていると、そこで、慌てて手元にメモを書いていたダニエルさんが、何やら興奮した面持ちで手を挙げた。
「ダニエルさん、どうしました?」
そう問うと、彼女は殊更、神妙な声で話した。
「今、「マコトくん」から神託がありまシタ!」
なんと!
周りも一気にざわつき始めたけど無理もない。今、話題にして、あれこれ言い出した途端に神託とは、まるで様子を伺っていたかのようだ。
何にせよ、あちらから接触してきたのはありがたい。
「それで、彼は何と言ってきました?」
ダニエルさんは皆に断って、ホワイトボードの前に立ち、手元のメモを書き写した。
若輩者の指導に感謝。マコトと僕とアキは違う。僕を降ろせる最弱依代を創れ。直通厳禁、ストレスの捌け口にするな、ウザい。あと頑張れ。
……特にウザいって部分は強調するように太字になってた。
◇
ダニエルさんの話によると、神託は受け手の負担があるので、短い言葉にされる傾向があるそうだ。連樹の巫女のヴィオさんみたいに神降ろしができるような方は例外らしい。
「何とも意味深だが、最弱依代の件は、心話をするなら、できるだけ負担のない状態にすべきという事だろう。直通厳禁ってのは、アキと「マコトくん」の関係の深さからすれば、太い経路があるのと同じって事なのかもしれないねぇ。――アキ、不満を口にする時は、「マコトくん」への責任転嫁は止めておきな。神が具体的な方法まで助言するなんて、サービスし過ぎってなもんさ」
師匠がそう説明してくれた。
むむむ、仕方ない。
「彼は、彼なりに動いてくれた、そう思うことにします。ところで、ダニエルさん、この言葉って記録に残すんですか?」
一応、こんなのでも神託だからね。
「勿論デス。マコトくんとミア様の深い愛を示す素晴らしい神託デス。ただ、内容が内容なので、暫くは秘匿せざるを得ないのが残念デス」
ダニエルさんがそう熱弁した。
「私信部分は削ってくれます?」
駄目元で聞いてみた。けれど、ダニエルさんはオーバーアクションで、それを拒んだ。
「神託を削るなんてとんでもありまセン!」
「あ、はい。ソウデスネ」
ダニエルさんの熱意に満ちた迷いのない目が怖いし、ここはスルーしておこう。秘匿してくれるという話だからね。
援護射撃がないか、皆に視線を向けてみたけど、誰もがコッチに話を振るな、って顔をしてた。
その後も、神託の際、言葉に込められたマコトくんの思いや口調がどうだったかをダニエルさんは、それはもう熱心に教えてくれた。
感動に打ち震えながらも、悦びを皆と分かち合いたいという混じり気なしの善意。それは妖精族や竜族ですら、神妙な態度で拝聴してたくらい、有無を言わさない力強さに満ちていた。
――かくして、次元門の検討結果発表は、「マコトくん」という新たな神の参加という予想外の出来事で幕を閉じた。
ブックマークありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。
誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。
研究組が求めたもう一つ、それは発起人であるアキの意志を確認する事でした。
結果は、まぁ合格。可能にする方法の理論構築すら目処が立たない中でも、数少ない希望を捉え、目的に向かうことを諦めない意志。
不屈とは言えないし、強いかというと不安もありますが、アキも頑張ったと言えるでしょう。
次パートで11章もラスト、アキの落ち込んだ気持ちを何とかしようと、雲取様が動きます。
次の投稿は、十一月八日(日)二十一時五分です。