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11-17.無知の知(後編)

前回のあらすじ:研究報告の④妖精の道の成立条件は、他に比べれば希望が持てるものでした。残りは一つです。

さて、最後か。誰が語るのか……って雲取様か。


<最後は、⑤アキとリアの二律背反だ。アキがこちらに来た事で、リアとの間に魔力共鳴に似た何かが起きて膨大な魔力を生み出し続けているのは間違いない。二人の間で生じる極めて高効率な魔力共鳴現象だが、二人の魔力属性が影響している可能性が高いと考えている>


「それは?」


僕の問いには師匠が答えてくれた。


「魔力共鳴は属性が近いほど高効率になる。それはこう考えられないかい? 属性が違う分だけ魔力が失われると。実際、属性が真逆の者同士だと、魔力は増えるどころか共鳴させようとした分だけ損する程だ。なら、アキとリアの間ならどうか。ロスなく共鳴し続けるなら、元手の魔力が少なくとも、得られる魔力は膨大だろうさ。雲取様が竜眼で観察した限り、完全にロスがない訳じゃないから、無限とは行かないようだがね」


<ソフィアの話した通り、魔力属性が完全同一である事が、二人の膨大な魔力を生み出している可能性が高い。二人を観察するとまるで合わせ鏡のように見える事からしても、そう外れた話ではないだろう>


成る程。


<その効果は、街エルフや妖精達の魔術を組み合わされた事で、飛躍的な成果を齎す事になった。妖精や竜族の召喚だけでなく、アキやリアが我々と負担なく心話を出来る事、緩和障壁なしに対峙できる事も全て、その恩恵と言えるだろう。無尽蔵とも言える魔力がなくてはいずれも不可能だった事だ。二人がいなければ何千年経過しようと、同じ成果を得られたか疑問に思う程だ>


手放しで褒めてるようで、それ自体は嬉しい。ただ、項目が二律背反だ。……副作用もまた大きい、という事だよね。


雲取様は僕が心を落ち着けるまで、話を中断して待ってくれた。このイケメン! 心遣いまで完璧なんて!


……アホな事を考えた事で、ちょっと緊張が解けた。


ふぅ。


「あ、続きをどうぞ」


僕を見た雲取様がゆっくり頷いた。


<だが、物事には良い面もあれば悪い面もある。それは二人の場合も例外ではない。今はアキの魂が不安定だが、安定したとしても、再びミアと魂を交換して元に戻す事はできまい>


……ちっ。最悪、元に戻せればと思ったのに、いきなりダメ出しか。


<人の使う磁石があるだろう? とても強い磁石がある事をイメージしてみると良い。それが一つだけなら持ち歩く事もできよう。だが、二つを近付ければ、強く引きつけあって、引き剥がすには並大抵ではない力が必要となろう。二人の場合、引き剥がそうとすれば、その負荷に耐えられぬかもしれん。いや、耐えられるとは到底思えぬ。そのような試みを我は必ず止めよう。二人を失いたくはないのだ>


う……ズルい。思念波一杯に僕やリア姉への温かい思いが満ちていて、その気持ちに偽りがない事も理解できた。


相手に何も求める事のない無償の愛、純粋な思いに満たされて、自然と涙が溢れていた。





僕が話を聞けるくらいにまで、落ち着くのを雲取様は静かに待ってくれた。おかげで暫くして、溢れていた感情も何とか溢れないくらいには落ち着いてきた。


「すみません、ありがとうございました。話を続けてください」


安定しない声だったけど、雲取様は静かに頷いた。


<アキがこちらに来る前には戻せぬ。そして、我らが地の種族と心話を行うのが難しいのと同様、ミアとの心話は困難を極めるだろう。強過ぎる心と触れれば、並の者ならば耐えられまい。信仰する神への祈りが通じるのは僅かな神官、巫女だけだ。そんな彼らですら、神からの神託を僅かに聞き取るだけでも負担が大きく、容易に行うことはできぬ。二人とも、竜族の魔力以外は感知できてないが、それでも二人が何とかせねばミアとの心話は望めない。……済まない。我らも知恵を絞ったが、良い案を思いつかなかった>


雲取様から伝わってきた思念波からは、本当に八方手を尽くして、限界まで考えて、考えて、それでも手が無かったことが感じ取れた。


そう語るしかない己への無力感、無敵に強い竜族なら長い生涯でもそうはないだろう思いに、雲取様は肩を落としていた。


つまり、こういう事だ。


強い魔力のおかげで多くの可能性に手が届くかもしれない。でも、地球(あちら)と繋ぐ唯一の命綱は、そのせいで千切れかけているのだと。


雲取様に大切に思って貰えた事はとても嬉しい。感極まって沢山泣いたから、もう涙も打ち止め。


だから。


何よりも優先して助けたいミア姉に手が届かない、それが理解できても、理解できてしまっても、もう涙が溢れる事はなかった。

ブックマークありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。

研究報告のラスト、⑤アキとリアの二律背反も聞き終えました。全てを聞いたアキに研究組が求める事は二つ。一つはマコト文書専門家としての意見、そしてもう一つは……

次回の投稿は、十一月四日(水)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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