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11-9.福慈様と未来の語らい(前編)

前話のあらすじ:雌竜の皆さんにはまだ内緒の「変化の術」の話。雲取様を交えて様々な意見が出たけど、召喚術を活用して、異種族化を試してみる事になりました。地の種族なら、いきなり即死級の魔術を放つような真似も無いだろうから、老竜の皆さんも喚べそうで楽しみです(アキ視点)

準備も整ったので、福慈様と話をする事になったんだけど、福慈様を小型召喚で招く事は止めて、心話だけに留める事になった。


というのも、福慈様のような老竜クラスになると、溜めなしで竜の吐息(ドラゴンブレス)を放てるし、魔術も瞬間発動するのは呼吸するように簡単な事だ。だから、妖精族と言えども、割り込みは難しく、掠るだけでも致命傷となる為、シャーリスさんから安全を保障できないと言われたのだった。


なので、少し手間だけど、福慈様でも読めるように大きく丈夫な厚紙に今回の話で関係する試みについて、読みやすいよう大きめの文字で書いて、試み同士の関係を様々な色の線で繋いだ大きな図を用意して、雲取様に持っていって貰う事になった。


福慈様の傍でミウラ折りの厚紙を開いて、読み方を説明して、概要を頭に入れて貰ってから心話をすると言う段取りだ。


場合によっては、心話を止めて図を見て確認して貰ったり、雲取様と話し合いをして貰う事で、理解を深めて貰う予定だ。


そんな訳で、雲取様が福慈様にも説明を終えて、心話をする事になったのは、四日後の事だった。





念の為、僕の体調不良時には強制切断する機能を追加した心話用魔法陣を起動して、先ずは雲取様に繋いでみた。


<雲取様、福慈様への説明はできました?>


<こちらの準備はできた。関係図も読めるようになり、施策同士の関係も理解して頂けた。やはり図があると話が捗っていい。それでは始めてくれ>


伝わってきた感情からすると、褒めて貰えたのか、自然と笑みが浮かぶくらい上機嫌な感じだった。勿論、それだけを頼りにはできないけどね。


さて。


それじゃ、始めよう。


スタッフさんに福慈様の所縁(ゆかり)の品に切り替えて貰い、心話スタート。


<福慈様、お久しぶりです>


<話は聞いたよ。苦労をかけたね。おかげでだいぶ全体が見えるようになった。それに異種族化を召喚で試せるというのも吉報だ>


頭を撫でてやろうかねってくらい喜んでくれていて何よりだ。それに以前より思考がハッキリしてて読み取りやすい。いいね。


<幸い、雲取様を始め、召喚に慣れている皆さんがいるので、異種族化の確認も捗るのではないかと期待してるところです。上手くいったら福慈様も是非、試してみて下さい。年齢層の違いとかも見てみたいですから>


<それは若竜と老竜では同じ異種族化でも効果に違いがあると考えているのかい?>


<新しい体に慣れるのはどちらの方が早いか興味はあります。目新しい物好きとか、性格の方が関連性は高い気もしますけど。統計的に処理できる為にも、若竜、成竜、老竜のそれぞれ男女ごとに百柱ずつくらいは試して貰いたいかなーって考えてます。試す種族は召喚体の妖精族は参照先として難度が高いと思うので、それ以外、人、鬼、小鬼、街エルフ、森エルフ、ドワーフの六種族を試して貰い、情報を集めれば、ある程度の傾向は見えると思うんですよね>


そう伝えると、福慈様は目を丸くした。


<随分と慎重だねぇ>


竜族の感性からすれば、何か悩み事があっても他の何頭かに相談する程度で、それでも丁寧な方っぽい。なんて大仰なって驚きすら伝わってきた。


<雲取様や雌竜の皆さんだけだと、竜族の平均的な姿とは言い難いとも伺ったので、それなら、ある程度の数を集めて平均的な竜族のイメージを取る手間は必要だろうと考えました。といっても竜族は年齢層の幅がとても広いので、先程の分け方だと大雑把過ぎるかもしれません。ですので、先ずは百柱ずつ。それくらい集めれば、尖った意見と大多数が感じる意見を分ける事はできるでしょう>


僕の説明に福慈様は、本心からそれが必要と理解してくれて、ふむふむと取り敢えず頷いてくれた。


<それは多くの者が賛同する竜人像を見出すと言う意味かい?>


口調は穏やかだけど、大を活かすために小を殺すのか、そういった見極めようとする強い意志も伝わってきた。怖い、怖い。


<先ずはその前段階と言ったところですね。意見を集めてみたら、一つの大きなグループができるかもしれないし、二つ、三つと分かれるかもしれない。それに少数意見の中にも検討が必要なキラリと光る話が含まれているかもしれません。グループが分かれるなら、その理由を明らかにする必要が出てくるでしょう。あとは、標準的な竜人像とは別に、少し尖った特徴を持たせるカスタマイズがあってもいいかもしれませんね>


分け方の本質を理解せずに、無理に分けると軋轢を生むので、得られた意見の分析はとても重要です、とも伝えた。


<話が具体的だけど、あちらで何か先例でもある話なら、少し話しておくれ>


事例がある方が理解は進む、確かにその通り。


<では、あちらの事例ですけど、アフリカの植民地を独立させた際、国境線を雑に決めたせいで、後々まで民族問題や内乱などの多くの原因を生む事になった事例を紹介しましょう。世界には植民地主義が蔓延り――>


僕はそれから、色々あって、地形や部族の勢力範囲などを無視して、地図上の緯度経度とかで国境線を決めた結果、民族の分断や、元々は同じ勢力圏だった地域を併合しようと、国同士が争う事になった話をしたんだけど、福慈様は植民地という概念に強く興味を持った。


<植民地、言葉からすれば、誰もいない地域に村を作って国を広げる話に思えるけれど、同じ国ではない。なぜ、わざわざ国を分けるんだい?>


ふむ、確かに。


<アフリカの例だと、元々、その地域には人々が住んでいて、部族単位で纏まっていたり、或いは国と呼べるほどの規模を勢力圏としていたりしました。ただ、列強の国々に比べると弱く、一部の例外を除いて、全て列強諸国に負けました。そして、列強は相手国の政府を解体して国として纏まれないようにして、自分達の国が欲しいモノだけ生産するような歪な体制に作り替えました。そして、その地域は植民地と呼ばれ、本国と違い、その地域の住民の権利は制限され、義務が大きく増えました。植民地の人々はその地域だけでは生活出来なくなり、本国に依存させられるようになりました。本国は植民地から富や欲しいモノを手に入れて大いに栄え、植民地は貧しくなりました>


福慈様は竜族ならどうかと考えていたっぽい。だんだん心が冷えていくのがわかった。


<それは奴隷とはどう違う?>


それは良い質問だ。


<奴隷は同じ地域に住んでいますが、植民地は国自体が分かれています。本国の人達は、植民地から遠く離れているので、奴隷を使っている意識はありません。植民地に来ている本国人は、植民地の人々と接しますが、彼らを権利を制限された二等国民と認識してました。奴隷制度もあったりして国によって違うけれど、ある程度、教育を受けさせたりもして、一方的に搾取するだけ、とはしませんでした>


<それは何故だい?>


<奴隷は買い物をしませんから。植民地の人々には本国が生産した安くて高品質な様々な製品を買ってもらう、その売り先としての役割が求められたんです>


<安くて高品質、それだけ聞けばいい話のようだね>


<はい。でも、本国と植民地の関係はとても歪でした。例えば植民地では普通の食べ物を作る量すら減らして、嗜好品のお茶ばかり作らせるなんて事がありました。価格は本国が決めるので、植民地の人々の手にはあまりお金は残りません。そこから生きていく為の食べ物や衣服などを買ったらお終いです。植民地の人達はいつまでも貧乏なまま。本国の人達はいつまでも裕福なまま。地の種族は弱いので、群れて、学んで、道具を使って強みを発揮します。でも植民地の人達は、群れる事を制限され、教育も制限され、モノも制限され、発言すら制限されました。独立できないように雁字搦めにしていたんです>


福慈様は深く考えていたけど、鋭い意識を向けてきた。


<我々、竜族は社会の仕組みだけで考えれば、部族単位で纏まる程度、地の種族の国にあたる組織もないし、そんな概念も持ってない。必要としてこなかったからね。地の種族と我ら竜族は違う点も大きいから、同じ道を辿るとは言えない。だけどね。これから人の文化を取り入れて、竜人としても生きていくなら、可能性は低いけれど、今のような話に流れていくかもしれない>


それはそうだね。好きで植民地にされたりは誰もされたくない。


<だから、アキの意見を聞かせておくれ。我らが皆と対等な地位にあり続けるには何に気をつけるべきなのか>


……凄いね。これだけ自力に差があるのに、触れ合う心からは、本気で対等な関係、どちらが上でも下でもなく、と考えているのがわかった。


それにどんな心変わりがあったのか、以前のように内に沸るマグマのような激しい熱さがだいぶ穏やかに感じられる。熱量は変わらないけど、とても安定してる感じだ。


さてさて。


何処まで踏み込むか。やり過ぎると不味い、でも浅く話せば、信を得られない。此処からが本番だ。

ブックマークありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。

福慈様との話が始まりました。前準備をしっかり行い、説明用に竜用の大きな資料も渡して、詳しく全容を把握している雲取様が丁寧に説明したおかげで、スムーズな出だしとなりました。ただ、福慈様の求めた話は、なかなかに難しい。それでもアキは平然と、さも用意してましたといったように、偽らず、誠意を持って対応しなくてはなりません。

大まかにはあれこれ準備をしていても、それだけで全て受け答えができるなら、対話も簡単ですが、実際は用意してないところを聞かれたりするモノです。そんな時、単なる子供の使いなら、話を持ち帰るのが精一杯ですけど、アキに求められるのはそんな低レベルではありません。そんな訳で、福慈様が「対等に」と話した事に心底、感嘆しつつも、思考をフル回転させて、次の発言までの僅かな時間、不自然にならない程度の間に、何手か先まで話の流れをシミュレートしてます。なかなか器用なものです(笑)

次回の投稿は、十月七日(水)二十一時五分です。


<雑記1>

新型コロナで世界中が疲弊する中、ヨーロッパの火薬庫、バルカン半島でアゼルバイジャンとアルメニアがガチの戦争を始めています。アゼルバイジャン軍は爆薬搭載のドローンを積極的に投入して、かなり優位に戦闘を進めているようです。時速二百キロ程度の速度とは言え、鳥より少し大きい程度のドローンなので、対空車両でも無ければ、迎撃は困難。そして航続距離も最大千キロもあるそうで、アルメニアの機甲戦力はドローンに突撃されてかなり潰されたようです。(具体的に何機が投入されてどれだけの戦果を挙げたのかは双方とも情報戦で盛ってる感じなので、戦後に双方から検証しないと明らかにはなりませんけど)初手は無人機の群れを突撃させて敵戦力を漸減、その後で主力をもって敵を蹴散らす……SFで語られたような話にもう手が届いてしまいました。

数百万程度の自爆ドローンに何千万、何億の装甲車両や戦車をばんばん潰されたら洒落になりません。今後は歩兵も対ドローン用に、鳥撃ち用のショットガンを持ち歩くようになるかもしれません。鳥程度の相手に、普通の小銃での対空射撃なんてまず当たりませんから。

偵察用のドローンなんて掌サイズです。それでも放置すれば、自分達の情報が送られて、次にやってくるのは自爆ドローン、航空爆弾、ミサイルですから、洒落になりません。

いずれは迎撃用のドローンを展開して、敵のドローンを潰す、なんて話にもなるでしょうけど、自爆ドローンと違い、必要な能力が跳ね上がるので、暫くは偵察ドローン&自爆ドローンを双方が飛ばし合う戦場となるでしょう。……米軍も思わぬ苦戦をするかもしれません。圧倒的な航空戦力があるせいで、対空車両の開発はおざなりでしたから。


<雑記2>

ホワイトハウスで、新型コロナの集団感染が発生し、トランプ大統領も病院で緊急治療を受ける事になりましたね。国の中枢で感染者が出た、はまぁ仕方ないですけど、集団感染は、何とかならなかったのか、と思います。

大統領が動けないなら、副大統領が動く訳だけど、ホワイトハウスに副大統領はいなかったのか心配になります。

中国が全方位に攻勢をかけていたり、ヨーロッパの火薬庫でガチな戦争が始まってる状況ですから。アメリカの動きが鈍い、などと思われたら、動き出す輩がゾロゾロいそうで心配です。

……韓国なんて、アメリカとの軍事同盟破棄と取れるような発言を国連でやったりしてますからね。

今年もあと三ヶ月ですが、これ以上の波乱が起きない事を祈るばかりです。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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