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11-7.未来を想像する技能(中編)

前話のあらすじ:研究組が全員揃ってのアイデア出し(ブレインストーミング)が始まりました。宣伝相ゲッベルスの能力は評価してますが、人としては女癖が悪いので好きになれないですね。(アキ視点)

それから、「遠隔操作の術」では、様々な道具を利用したり、文字を使ったりするのに役立つといった話から始まり、人と同じ視点を持つ事で、歴史を積み重ねていく事の強みと、過去に縛られる弱みを竜族が理解していく事に触れると、竜族の歴史や文化を編纂する流れが生まれそう、なんて意見も出てきた。


「それは素敵ですね。雲取様、竜族の歴史、歩みに深い興味と編纂への熱意に溢れる方がいたら是非、教えて下さい。今後、地の種族の膨大な知と触れた際に、自らのルーツを理解していれば、他の種族との差異も気付きやすくなりますから」


各地の語り部たる竜の言葉を集めて比較すると、新たな発見があるかもしれない、とワクワクしながら話したら、雲取様だけでなく、他の雌竜達も不思議そうな顔をした。


<老竜達の昔話は若竜もよく聞かされるが、さほど代わり映えせず、なぜ、それ程の熱意を持てるのが不思議だ>


ふむ。


鬼族、街エルフ、森エルフ、ドワーフと、長命な種族は確かにさほど熱意が感じられないね。


「エリーやガイウスさんは、大昔を知る生き字引たる方から直接、昔話を聞ける事の価値を理解してくれてる感じだね」


「人族も歴史は編纂してるけれど、それは編纂者の意見が混ざり、時には情報も失われたり、意図して隠したりして、そのまま受け入れるのは危険だわ。その点、他の種族なら視点も異なるから、同じ出来事もより客観的に認識できるかもしれない」


「エリー殿の話された通り、小鬼族もまた世代交代のたびに情報は加工され、原典から離れていく事は避けられません。まして、竜族の方々の何世代か前となれば、それは我々からすれば神話の世界です。話を伺えるだけでも値千金でしょう」


ん、いいね。少し補足しよう。


「他にもそうですね、今ある湖も流れ込む土砂で少しずつ埋まり、数千年後には消えてしまう運命です。竜族の寿命からすれば、古い湖が消え、新しい湖が生まれた様子や、火山の爆発で地形が変化した様子なども聞けるかもしれません。大規模な旱魃や洪水など、歴史的な出来事も教えて貰えるかも。もし、何十世代か記憶を遡れるなら、大陸と弧状列島の距離の変化なんかも聞けるかもしれません」


なので、とっても期待していると竜の皆さんに伝えてみた。……んだけど、なんか微妙な表情をしてる。


<期待してくれているのは嬉しいが、地の種族のように昔の事を憶えている訳ではない点は留意してくれ。皆が気にしている事の多くは、我らに影響がなく、記憶に残り難いのだ>


言われてみれば確かに。毎年、数センチずつ陸地が動いているなんて言われても、そんな変化は目に見えないし、昔の風景との差も直接比較でもしなければ気付かないかも。


「まぁ、その辺りは話を集めてからのお楽しみという事で。僕は、竜族の神話とか、昔話を聞きたいところですね。何に重きを置くのか、教訓として伝えている事柄は何か、竜族の常識、風習への理解に繋がりますから」


各地の集まりから、話を聞いて集めるだけでも一柱の老竜が語る事の数百倍になるから、そこから共通事項や地域毎の違いなども見えてくるかも、と語ったら、なんか更に引かれてしまった。


「んー、皆さん、淡白ですねぇ。弧状列島に棲まう竜族全体で把握すれば、大陸に棲まう竜達との比較もできるようになるから、先々を考えれば、必要となる先行投資ですよ?」


<我らの常識と、大陸の竜達のそれは異なるだろう、という話だったか>


「その通りです。こちらは相手の流儀を知っていて、相手がこちらの事を知らないなら、それだけでも大きなアドバンテージになります」


そう話すと、竜族だけでなく、小鬼族や鬼族まで、気まずそうな表情を浮かべた。そんな彼らの様子をお爺ちゃんは不思議そうに見ていた。


「ん、お爺ちゃん、何か疑問がある?」


「皆が居心地悪そうなのが何故か気になったんじゃ。そもそも、他の種族と姿が違えば、外から観察して推測するのが関の山じゃろう?」


「まぁ、それはそうなんだけど。そこを何とかできるかどうかで、かなりの差が生まれるからね。ヤスケさん、その辺り、街エルフの方で勉強会とか開けます? あまりスタンスが違い過ぎると、話が食い違いそうですから」


話を振ると、ヤスケさんは嫌そうな顔をしながらも頷いてくれた。


「僅かな情報から隠れた部分を推測する基本的な考え方だけでも伝えるとしよう。我らの流儀が役立てば幸いだ」


僅かな情報から、相手を分析するのは街エルフの十八番(おはこ)だからね。





使い魔との感覚共有は、魔導人形として用意する小型竜の遠隔操作時に応用できそうだ、なんて話も出た。そもそも、同じ体格の人形竜ではなく、六分の一スケールという時点で、召喚と遠隔操作と感覚共有の合わせ技みたいなモノ、との見解も出て、魔力消費は抑えられても、導入できるまでにはまだまだ紆余曲折がありそうだった。


また、竜族も提供される様々な技術を理解するだけでなく、自分たちに合わせて調整していく努力はすべき、なんて意見も白竜さんから出た。


「誰かに頼んでやるより、自分でできたら手っ取り早いですからね。その辺りは手先が器用な方がいずれ先陣を切るでしょう。遠隔操作とどちらが先になるか分かりませんけど」


<特に異種族化を併用した召喚では、感覚の細かい調整が必要と思う。小型召喚でも言葉にし難い事が多かったから、自分でできた方がいい>


白竜さんの意見には肯く人が多かった。確かに召喚体のモデル構築に一ヶ月近く掛かったからね。あんな面倒な話はそうそうやりたくない。





その後も色々と意見は出たけど、それぞれの試みが影響を与えるであろう事柄もかなり洗い出せたと思う。意見も大体出尽くした辺りで、話し合いは一旦終了と言うことに。


<皆は、参加できなかった三頭に今日の話を伝えて、認識を揃えておいてくれ>


雲取様の物言いに、紅竜さんが何か気付いたようだ。


<雲取様はまだ帰られないのですか?>


<うむ。皆には済まないが内緒の話があるのだ。話せる時期が来たら必ず伝える故、今は何も聞かないで欲しい>


おー、直球だ。何やら雌竜達の間でアイコンタクトが交わされたけど、紅竜さんは柔らかな表情で同意してくれた。


<殿方が後で話すと言われるのなら、それまで待つとしましょう。では、私達は一足先に>


雌竜の皆さんは、小型召喚を解除して、その場から掻き消えた。第二演習場の方では本体が動き出している事だろう。手首に付けていた識別用の宝珠を入れた鞄が芝生の上に落ちて、スタッフさん達が慌てて回収した。装備品を忘れないよう今度、注意しないと。


さて。


「雲取様、内緒の話と言うと、「変化の術」ですね?」


<うむ。彼女達に気付かれぬよう、話を進めるのは無理だ。だから、敢えて内緒の話と明らかにした。それに何れは話す事にもなるからな>


聞き分けが良くて助かった、などと話して溜息をつく辺り、雲取様も苦労が多そうだ。

評価、ブックマークありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。

アイデア出しも順調に進みましたが、雌竜達にわかる形で、内緒話があると雲取様が話を切り出しました。幸い、雌竜達の聞き分けが良かったので、問題とはなりませんでしたが、毎回こうなら、雲取様も安堵したりはしないでしょうね。次回は「変化の術」に関するアイデア出しになります。

次回の投稿は、九月三十日(水)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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