11-3.アキとマコト
前話のあらすじ:地球での様々な失敗事例や成功事例を紹介して、ちょっとした思い付きで始めた事が酷い結果になったことを皆さんに紹介しました。あと、おまけで僕が地球ではマコトだったこともカミングアウトしました。(アキ視点)
小鬼族の研究者達も、マコト文書に絡む話を安易に導入する事の危険性は理解してくれたようで、勉強会もこれまで以上に熱が入っているらしい。同時に、マコト文書の伝える知識の範囲が余りに膨大で、とても研究者が片手間でできるモノではない事も理解が進んできたようで、本国からマコト文書の専門家とするに相応しい人材を呼び寄せる事に決めたそうだ。
そんな彼らの集中研修もまだ一週間あるので、僕は、実はマコトだ、とバラした件について、質問を受ける場を設ける事になった。
家族がいると話しにくい事もあるだろうと、リア姉達は辞退、同様に師匠やジョウ大使もいない。結局、セイケン、エリー、白竜さん、お爺ちゃん、後はケイティさんと女中三姉妹、護衛のジョージさんとトラ吉さんはいつものように。
天気の良い日に、庭先にテーブルセットを置いて、風や日差しを制御する魔導具を四方に配置して、歓談の会場とした。
白竜さんを第二演習場で小型召喚してから、僕は馬車で、白竜さんは飛んで別邸の庭先に降り立った。
庭先には事前に、お爺ちゃんが光の粒で、空に誘導路を描いておいたから、迷う事もなし。
皆が第二演習場に毎回行くのも手間なので、試しに会場を別邸に設定してみたんだけど、ロングヒル、街エルフの大使館のどちらも、魔力属性が完全無色透明な小型召喚の白竜さんの飛行を感知できず、悠々と侵入される事態を実際に体験して、真っ青になったらしい。聞くと見るでは大違い。やはり実際に経験してみないと、その厄介さは理解しにくかったようだ。
後で、魔力欺瞞を応用した識別用の魔力を纏えるようになるまで、妖精族、竜族の召喚体によるロングヒル領内の移動を禁ずる通達が届いたけど、仕方ない事と思う。飛び立った後、見つける手段が無いとなれば、注意しようがないのだから。それと空を飛ぶ彼らの活動範囲が広大なのでロングヒルだけの問題でなくなる事も大きかった。
幸い、街エルフの大使館領と、他種族の大使館領や駐留地は隣接している事もあり、妖精さん達の移動もその間ではこれまで通り、特例として許可された。これまでもお爺ちゃんや賢者さんが移動してたからね。
僕が会場に到着すると、既に皆は和やかに談笑しながら、何を話すか意見交換してたらしい。
僕はエリーが示す席、皆に半円状に囲まれる位置に座った。
「お待たせしました。何やら盛り上がってたようですけど、そんな話題ってありましたっけ?」
鬼族のセイケン、人族のエリー、竜族の白竜さんが共に興味を示す話題は想像できなかった。
<それは、連樹の神とは別に、異種族化の話を聞ける事に気付いたから。人族の男から街エルフの女に変わった事例は興味深い>
あぁ、なるほど、言われてみればその通り。
「種族差と言う点では、視力が格段に良くなったこと、少し暗い程度なら普通に見えること、その代わり、雪の反射光も眩しくてサングラスが欠かせないことかな。微かな音もよく聞こえるし、耳も動かせるから、注意して音を聞きやすいね。でも大きな音は苦手だから、銃の発砲音なんかはイヤープロテクターが必要不可欠だね。魔術が使えるようになったり、魔力感知できるようになったのも大きな違いかな」
「よく言われる種族差と同じね。それで性別が変わった方は? 随分、馴染んでいるように見えるけど」
エリーが、これが元男とか言われてもピンとこないわ、などと言って頰を突いてきた。
「野性味溢れるロングヒルの男性と比べられても困るよ。それでこの体になってだけど、まず髪が長くて、手入れも大変だし、重いから自然と姿勢も良くなったね。姿勢を崩すと首への負担が大きくてね。綺麗なストレートロングな髪が好みってミア姉に話したけど、申し訳なかったかなって反省してるとこ」
「体の可動域や骨格、筋肉のつき方などはどうだ?」
セイケンの着眼点が武術寄りなのは鬼族らしいね。
「体の線が細くて華奢な感じかな。上半身の筋肉量も男の時より少ない気がする。肌も弱いから雑な振る舞いはできないね。柔軟性はある方だと思う。胸も結構あるから肩が凝るかな。胸の重さとバランスを取るから、歩く時も腰から前に出る感じだったり、腰骨に当たらないように腕を少し開き気味にしたりと、男の時とは上半身の動かし方がまるで違う感じ。まぁ、体に染み付いた動きに逆らわないようにすれば、自然と体に沿った動きになってたけどね」
<それは興味深い。例えば私が人族の体型になったなら、首がとても短くて、尻尾も羽もないから、歩くだけでも大変と考えていた。でもアキの話なら、体に合った動きに自然となるらしい。それなら、人のように指を器用に動かす事もそれ程苦労しないかもしれない>
白竜さんも良い話が聞けた、と満足そうだ。
「男が女に変わって違和感とかないの?」
「違和感と言うか、申し訳ない気持ちで一杯だったよ。盗み見てるような感じで、初めの頃は色々苦労したね。幸い、身嗜みを整える作業はケイティさんが支援してくれてるからだいぶマシになったと思う」
「身嗜みなんて式典の時でもなければ、鏡を見て自分で手早くやればいいでしょうに」
「ちょっと鏡に写る姿の違和感が凄くて。今はもうだいぶ慣れたんだけど」
手際が悪い事もあって、時間もないから結局、手伝って貰う事が多い、とも話した。
「違和感? 魂と体が馴染んでないから? 自分の体ではないように感じるとか?」
エリーが心配そうに聞いてきた。
「いや、そっちは特にないんだけど、鏡に写る姿って、魔力属性が変わった影響で、瞳と髪の色は変わったけど、ミア姉そのモノでしょう? なのに表情も振る舞いも僕のモノだから、出来の悪い偽物を見ているみたいで、違和感だらけだったんだ。今はもう、顔形が似てるのは妹だから、振る舞いが子供っぽいのは実際子供だからと、この姿がアキと言う子なんだ、って納得はできてるよ」
ミア姉は常に淑女然とした振る舞いを自然にしていて、いついかなる時でも絵になる感じだったからね、とも話した。
鏡に写る自分の姿を偽物と称した事に、エリーの表情が曇ったけど、今の姿に納得していると話すと、ホッとした表情を浮かべてくれた。
「――自身をそのまま受け入れてるならそれで良いわ。だいたい、式典の時だって、アキが頑張って厳かに振る舞ってるのはわかるけど、子供が背伸びして頑張ってる感がどうしても残ってたから。でも、それでいいと思う。街エルフ達の落ち着いた眼差しや振る舞いは、長い年月を生きてきた証だもの。そうそう真似る事なんてできないし、真似る必要もないわ」
ポンポンと頭を撫でながら、エリーはそう話してくれた。
「魂に性別はないと聞いてはいたが、アキを見ていると確かにそう思えるな。もっとも会った時から、アキは今の通りだったから、男の姿を想像できないが。それに男というが、「マコトくん」の姿から男と言っても、正直、想像できない」
セイケンがお手上げのジェスチャーをした。
「あー、ぼくもこちらに来て知ったんですけど、「マコトくん」、そもそも本来のマコトとはだいぶ違ってますからね? だいたい、地球でのマコトは十七歳の普通の男の子だった訳で、いくらなんでも女の子に間違われるような事はありませんでしたから」
「確かに人族なのに、いつまでも幼子の姿なんて訳は無いわよね」
その後も、僕が慎重に行動するのはミア姉の体なんだから丁寧に扱うのは当たり前と話したら、それにしたってやり過ぎ、女だってそこまで弱くないと言われたり、色の好みは変わったのかとか、嗅覚はどうかとか、思考も体の影響を受ける感じか、とかとか、異種族化、性別変化と言う視点から思いつく限り、色々と質問攻めが続いた。
会話内容はせっせとベリルさんが書き記していて、異種族化などの研究に役立てる情報という事で、研究組に展開する段取りとの事。
セイケンもそうだったけど、エリーも白竜さんも、マコトとしての僕なんて知らないから、話を聞いた後も、アキはアキだって認識に変わりはなかったわね、と言われた。
僕もミア姉の妹として恥ずかしくないよう、振る舞いや言動には気を付けてるから、と胸を張ったら、お爺ちゃんが「うむ、そうじゃのぉ」と意味深に頷いて、皆が微笑ましいモノをみたって感じの表情をしたのが気になった。
藪蛇っぽいから、そこはスルーしたけど。
感想、評価、ブックマークありがとうございました。執筆意欲が大幅にチャージされました。
誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。
強く興味を持ったメンバー相手に、今回はマコトがアキになった件について、いろいろと話をしました。アキも指摘されるまで気付きませんでしたが、アキ自身が異種族化の良いサンプルだったということで、白竜も興味深そうにあれこれ聞いてました。
あと、今回のメンバーはアキはアキだ、と納得してましたが、これはロングヒルに来るまでの一か月ちょい、振舞いをあれこれ教えて貰い、末妹として外に出しても問題ない、という行動が身についた後のアキしか知らないので、そもそも違和感を覚えにくいところもあるでしょう。
次回の投稿は、九月十六日(水)二十一時五分です。