第十章の各勢力について
十章では各勢力に色々と動きがあったので整理してみました。
各勢力の基本説明は八章の「第八章の各勢力について」をご覧ください。このページでは、十章での状況を中心に記載してます。
【ミアの財閥】
急拡大する業務に人員確保が間に合わないという事態は、大使ジョウが人類連合の大会議場で、財閥が他種族向けの業務でロングヒルでの勤務を行う為の人材募集をする事、人事権は大統領ニコラスに一任する事を発表し、ロングヒルに人を派遣したくとも財政的に困難だった中小国から、参加表明が殺到する事になり、何とか解消した。今は鬼族連邦、小鬼帝国向けの販路の確立、共通の郵便網構築に向けて邁進中だ。また、財閥の伝手を使い、妖精の道に関する文献を集めておくよう各地の協力者達に依頼も送った。人類連合領だけではあるが、それだけの地域で横断的に過去文献を調べた事はないだけに何かの助けになるかもしれない、とマサト&ロゼッタが判断したからである。因みに中小国から集めた人員に対しては国元との手紙のやり取りを一日一通、発送料を無料にする大盤振る舞いをしている。これは生の声を直接届ける事で、地方との情報格差を埋める意味合いがある。それくらいのテコ入れをしないと、鬼族連邦や小鬼帝国の意思決定速度についていけないと判断したからであり、国策として必要と説き伏せて、国からの支援金もがっつり確保している。その為、使う封筒には、街エルフの支援である事、応援する旨の宣伝が記述されていたりする。
【共和国(街エルフの国)】
三大勢力の交流、活動を支援し、統一国家樹立に向けて表で見える活動をしていくよう方針変更を行った。これは裏方で活動するなどという消極的な姿勢では、意思決定に関与できず、或いはタイミングを逃す恐れがあり、それは国益に反すると考えた為である。
だが、これまでは人類連合に所属するロングヒルとだけ同盟関係にあり、人類連合自体とは距離を置き、財閥の商業活動を通じて間接的に交流してきた為に、国としての外交能力が大きく劣る状況である。何せ、人類連合の所属国だけでも数十倍だ。これに鬼族連邦、小鬼帝国、妖精の国、竜族まで加わってくるのだから、単に外交官を派遣して国交を樹立するだけでも人材がまるで足りない。おまけに人材獲得しようにも既に財閥に大きく差をつけられているのが実情だ。当面は財閥の協力を得つつ、魔導人形達を動員してロングヒルを窓口として、鬼族連邦、小鬼帝国との定期的な交流の場を設けるところから始めるしかないだろう。そういった外向けの話以外にも、激変する国家バランス、竜族の立ち位置の変化、妖精族との交流増加などをどう義務教育に組み込んでいくか、議論が紛糾している。今年の成人の儀の候補者達については、三大勢力が統一国家樹立に向けて協力する事を宣言した辺りまで学ばせてはどうか、などと意見が出たかと思えば、竜族と各地域で緩やかな情報提供を行う取り組みを始めるところまでは学ばせるべきとか、アキが交流して得られた竜族の内面に関する知識は学ばせるべきとか、そもそもそれらは次の成人資格更新などと悠長な事をせず、全員に学ばせるべきだろうとか、様々な意見が飛び交う有様だ。
【各地に派遣されている探索船団】
街エルフが運用している交易・探索の為の大型帆船の船団であり、必ず二隻を一つの単位として運用されている。空間鞄を活用している為に、運搬される交易品の量は帆船の数の十倍とも言われており、船団の齎す恩恵は莫大なものになっている。そんな船団がなぜ勢力扱いされているかというと、本国から遠く離れた船団において、提督は国主代行にも匹敵する自主裁量権限を与えられており、大型帆船自体の戦力、搭載されている大勢の魔導人形達、高い実力を持つ探索者達を考慮すると、その影響力は中規模の都市国家にも匹敵する為である。提督達は高い能力を持つが癖のある性格の者が多く、曲がった事には相手が誰だろうとNOを叩きつける気質があるだけに、その動向には注意が必要だろう。
【ロングヒル】
三大勢力の代表達も帰国し、この冬は頻繁に来訪する竜達を巡って、周辺国との話し合いの場を頻繁に持つことになったこと以外では、落ち着いていたほうだったと言えるだろう。実際はどの種族もロングヒル常駐の人数を増やしてきているため、感覚が麻痺してきているだけかもしれない。それでも身の丈を超えた部分は、各種族と作業を分担することでオーバーワークを避けているのは見事だ。雇い主は財閥だが、人類連合から続々と他種族対応の要員が派遣されてきたため、ロングヒルは場所を提供しているだけということで一歩下がり、人類連合関係者を前面に出すことで負担を減らしているのだ。未来を考えた場合、狂気を身に宿すと言われるロングヒル男子の生き様も変えていかざるを得ない。幸い、各種族から様々な名目で資金が集まっているため、財政的には問題はない。それだけに豊かな財源を使い、国の未来に向けて何を準備していくか、ロングヒル王家は難しい舵取りを迫られることになる。
【人類連合】
財閥がロングヒル勤務の他種族相手の業務で、人材募集を行い、その人事権を大統領ニコラスが持つ事になり、大統領の権力基盤は大きく強化される事になった。また、鬼族連邦、小鬼帝国と直接交流し、代表として活動するニコラスに比べて、二大国は人類連合の中で勢力を二分しているに過ぎない。他の勢力も合わせて弧状列島全域で見れば、有力な勢力とすら言いにくいのが実情だ。二大国もそんな自分達の立場は重々承知しているため、表立って大統領ニコラスと対立するような真似はしないだろう。何かと対立しがちな鬼族連邦と小鬼帝国の間をうまく取り持つ立ち位置をキープできるかどうかが鍵となる。ロングヒルという要衝の地を抑えている以上、鬼族連邦や小鬼帝国より優位な筈なのだが、二大国はなかなかそうは考えられないようだ。まぁ、無理もない。ゲーム盤の上で陣取りがどう変化しようと、盤面自体をひっくり返せる竜族がそれを否と言えば、そこまでだからだ。そんな生ける天災たる天空竜との交流を貪欲に進めているアキの振舞いは、直接、会って話をしたことがない者達からすれば、理解の範疇を超えているに違いない。ロングヒルから地方へ続々と情報が流れ出すことで、人類連合もまた変わっていくだろう。
【鬼族連邦】
鬼王レイゼン、武闘派代表ライキ、穏健派シセンの三人が持ち帰り話したロングヒルでの他勢力との会合結果や、セイケンが毎日のように送ってくる研究組が生み出す成果、竜族に向けて行おうとしている様々な試みを知り、福慈様の魔力爆発という強烈な体験をした結果、鬼族連邦に所属する国々の長達は悟った。歴史が変わったのだと。ほんの半年前までは、このまま続くだろうと思った世界は、消えてしまったのだと。お土産として齎された世界儀、周辺地図を見て、人々は世界の広さを実感し、そして広大であるものの、限りある閉じた世界であり、未知の地域はもう数十年程度で消えてしまうことも痛感した。街エルフのように海外との交易を行うことは、薄い魔力地域を苦手とする鬼族は真似できない、それもわかった。そして安定している弧状列島の一部に閉じ籠っていれば、取り残されることも理解した。それだけに、人類連合との全面衝突戦争時すら超えるほどの熱気で、政治に関わる鬼族達は寝る間も惜しんで議論をぶつけ合い、未来への不安を払拭しようと懸命なのだ。これほど彼らが焦るのは、小鬼帝国の代表達がどういった者達か知ったことが大きい。長命種らしく鬼族がのんびり考えている間に、小鬼族はきっと膨大な失敗の山を築きながらも鬼族より先に果実を手に入れるに違いない。そう確信するほど、寸暇を惜しんで精力的に活動する小鬼族達、特にユリウス帝の振舞いはインパクトがあった。……実は今回の小鬼族の使節は、ユリウス帝とその幕僚達、というある意味、小鬼族の総力戦、精鋭中の精鋭であり、小鬼族の全てが彼らほど有能で素早く思考し、行動できる訳ではなく、誤解な訳だが、それを鬼族達が知るのは、かなり先の話である。
【小鬼帝国】
ユリウス帝は帰国するのと同時に、多くの懸案事項の解決に向けて着手し、その全てにある程度の道筋を立てるに至った。それほどの熱意を持って動けたのは、危機意識が高まったことが大きい。内心の動揺を見せることはなかったものの、街エルフ達が当たり前のように貸し出してきた護符にしても、小鬼帝国基準でいえば、国宝級の品であり、そんなものを竜の前に立つ者達全員に気前よく貸し出し、女中人形達が完璧な振舞いで持て成し、会場自体に数多くの警戒用魔導具を配置して陽光や風を操って快適な場を提供し、差し出される料理も軽い軽食ですら、思わず唸るほど品が良く旨い。国土は広いものの貧しい自分達とのあまりの格差を痛感したからだ。また、街エルフですら御することができないアキの知識、マコト文書の奥深さにも衝撃を受けていた。身の丈に合った創意工夫をしている自負はあるが、それは費用対効果が良いというだけで、未知を切り開く力強さとは異なる。真面目に考えるのが馬鹿らしくなるほどの貧富差、技術差であり、そこで存在感を示すには、小鬼族の数少ない強さである犠牲を厭わず前に進む心、短い人生を燃やし尽くすように走り抜ける生き方を最大限に活かすしかない……そう判断したのである。そして、ロングヒルで彼らが経験したアキを含む街エルフ達の体制、行動は、それ自体が街エルフの国の基準から考えても異常そのもの、例外中の例外、他に類を見ないものだったのだが、それを彼らが知るのはやはりかなり先の話になる。
【森エルフの国】
第二演習場の周囲を警戒する精鋭達を派遣しており、保安体制の維持に欠くことのできない彼らだが、別邸に魔法陣設置用の家屋を追加する為に職人を派遣したり、雲取様との心話を行う為の研究者たちもやってきており、当初に比べると、人材の幅が広がってきた。しかし、ドワーフ程には存在感を示せているとも言い難いのが事実。今は他の種族に倣って料理人を派遣したり、世界樹の精霊と研究組の交流を進める事で、存在感を高めようと画策している。
【ドワーフの国】
複合工業施設を建設していたり、第二演習場や別邸に魔法陣を構築したり、竜達の分析をしたり、雲取様と心話を行う為の研究を森エルフと共同で行っていたり、アキの利用している馬車のメンテに専門の技師達を派遣していたりと、実はロングヒルに来ている他種族の中では、その活動規模は最も大きく多岐に渡っている。縁の下の力持ちといったところで、彼らの助力がなければ、こうも物事が進む事はなかった事だろう。ドワーフ達も他種族との交流で得るモノは多く、新たな知識、文化はドワーフの国にも多くの影響を与えている。
【妖精の国】
上層部の妖精達が召喚先から持ち帰った様々な知識(例:賽子、飛行船、ハンググライダー)により、市民層の「物質界がある事」への理解が急速に進んでいる。その為、召喚枠が空いているなら、それを使わせて欲しいという陳情が殺到する有様で、女王シャーリスも過剰な熱気を抑えようと苦慮している。また、物の理に関する知識も、魔力という視点に立脚した既存の体系とは異なる為、知識欲旺盛な人々に一大ブームを巻き起こしている。そのような中で行われた「魔力を一割に落とした大規模召喚」だった為、選ばれた者達はプラチナチケットを手に入れた者のように皆から羨ましがられたらしい。メンバーを入れ替えて一割召喚は暫く試験運用が続くので、召喚経験者達が吟遊詩人のように持て囃される熱狂ぶりは当面続くだろう。
【竜族達】
この冬は、アキとの心話を体験した竜族達が増えた事以外には竜族全体としては変化はなかった。しかし、それはジャンプする前にしゃがんで力を貯めているような様相であり、宝珠式+魔力の位階調整+簡易型召喚体+小型召喚という複合技によって、竜の魔導人形製作を待たずとも、五対五の模擬集団戦程度なら手が届くところまで来てしまった。しかし、やれるからやろう、では無策過ぎる。幸い、召喚術の大量導入事例は妖精族が蓄積しつつあるので、その経験を分析する事で、竜族はよりソフトな導入を行える筈。……ただし、竜族と妖精族の在り方、思考、文化に違いがあるので、懸念事項は多い。福慈様は雲取様から様々な取り組みを聞き、それについてかなり先まで思索している。弧状列島における竜達の穏やかな在り方は持続性があり様々な問題はあるが安定している。竜は強大な力を持つからこそ、在り方が変化したとしても、それはやはり持続性があり安定したものでなくてはならない。その為、福慈様との会談はかなり手強いものとなるのは確実だ。
ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。
次回から、第十一章スタートです。遂に予定メンバーが揃った研究組。それなら予定通り次元門構築に研究開始だ!と気が逸るアキですが、十章ラストでアキ自身が告げたように、先に片付ける話が出てきた、その辺りから始まります。
次回、11-1の投稿は九月六日(日)二十一時五分の予定です。




