第十章の施設、道具、魔術
十章でいろいろと施設や道具、魔術が登場したので整理してみました。
◆施設、機材、道具
【雪掻き車】
セイケン達が道路の除雪に使っていた八輪式排雪板付き手押し車で、大きさは軽自動車ほど。鬼族で武術に優れた者達が押していたから軽々進んでいたが、トウセイあたりが押していたらもっと進みは悪かった事だろう。低重心でかなりの重さがあり、馬車一台分程度の細い道の雪を掻き分けることが出来る。ドワーフのヨーゲルが主導して制作した品であり、冬季における運動不足解消と実益を兼ねようという事で用意された。因みに都市の中は除雪しても、都市間の道路を除雪するような事はなく、冬の間は街に篭っているのがこちらの定番だ。
【薪ストーブ】
薪が四、五本入る程度の大きさで、上に薬缶を乗せたりできそうな燃焼室を四本足で支えていて、細くて長い煙突が真上に伸びている本格的なアウトドアタイプ。正面の蓋にはガラス製の覗き窓も付いてて、中で薪が燃えてて炎の明かりが見えて雰囲気も抜群。煙突から出る煙ははほとんどなく完全燃焼するよう燃焼効率を計算し尽くされた逸品である。実はアキは気付いていないが、煙と一緒に捨てられる熱がかなり抑えられており、同じ薪の量でも普通の薪ストーブより五割増しで暖かい特徴があり、しかも魔術不要とあって、何年も先まで順番待ちが出るような街エルフの人気商品だったりする。ただし、空間鞄があるせいか、重量軽減の工夫はされておらず、安定性の為にわざと重厚に作っていたりする。
【秘文書運搬箱】
正しい手順で開けないと、中身の文書を焼き消してしまう複合式魔導具である。本編でも説明されている通り、割符、割符と対になった防犯、認証術式が施された外箱、燃焼術式が施された内箱、内と外を結ぶ経路で構成されている。秘文書のやり取りに使用される最上級の品であり、普通はここまでの品は使わない。解錠に使う割符も使い捨てであり、この魔導具は、三大勢力が帰国する際に、街エルフ達から各代表に渡したモノである。鬼族、小鬼族に渡したのは宣伝を兼ねて。自前で製造すれば、製造できても数十倍、数百倍と費用がかかり、しかも使う頻度も少ない、なので街エルフから購入しようという話になる、との定番の手口である。
◆魔術、技術
【妖精さん達の大規模天候操作魔術】
想定外の大雪への対応に飽きた妖精達が、雪は積もるが雨なら流れるから除雪もしなくていいと考えて、数百人規模の集団魔術をぶっ放したというモノ。これによって妖精の国だけでなく、その周囲の広大な緩衝地帯の森も含めて、気温が上昇し、雨が降り続く事になった。妖精達はこれで除雪しなくて済むと喜んだが、地に満ちた膨大な魔力が気象を捻じ曲げる事に費やされた結果、それから数年という長い期間、世界の魔力循環が乱れる事になった。地球で例えるなら、巨大火山の噴火による世界規模の激しい冷夏くらいのインパクトがあった出来事だった。
【宝珠から魔力を供給する位階調整魔法陣】
リアが大型宝珠に込めた魔力は位階が高すぎて、そのままでは竜族でも取り込むと毒になると言われる有様だった。そこで母竜が幼竜に位階を落として魔力を渡すのと同様、求める位階に合わせて魔力を調整する機能を付けた魔法陣である。放出される魔力はストーブで暖を取るように手を翳して取り込む形になる。位階を落とすと魔力量は増える。その為、位階調整の術式は召喚術式にも応用される事になった。
【圧縮整形の魔術】
一定量の雪を六方向から押し固めてブロック状にする魔術。当然だが、こんな限定的な用途に対応した呪文は存在せず、古典魔術だからこそ出来る技である。以前、小石を任意の方向に飛ばした魔術と同系統ではあるが、対になる方向の力を拮抗させる必要があったり、それを三対、六方向から同時に発動させるのだから、当然ながら難度は高い。翁は気軽に手本を見せていたが、実はケイティでもこんな技をポンポンと行使するのは無理だったりする。アキは五十個ほど連続して作る事で、安定して行使できるまで熟達したが、物体に対して力を加える術式行使という意味では、アキは世界でも指折りの力量を持つに至ったのは間違いない。まぁ、貴重な魔力をそんな曲芸習得のために何ヶ月も費やすような酔狂な古典魔術の使い手なんていないのも確かだが。
【分析の魔眼】
エリーが圧縮整形された雪の分析に使った魔術。発動後、効果を維持するためには精神集中が必要だが、維持に魔力は使わない。その効果は竜眼の劣化版といったところ。透視、強度、密度、魔力量や属性、位階なども認識できるようになるが、それらを判断するのは術者自身であり、膨大な知識、分析の魔眼で様々な物を観察した経験などから、見えた事象を把握する訳だ。なので唱える事はできても、そこから意味のある結果を得るためには膨大な訓練が必要になるという、そんな魔術である。因みにエリーもさほど負担なく小一時間ほど魔眼を維持していたが、実は魔導師級でなければ、其処までは使いこなせなかったりする。王族は物事を見極める目が必要なのよ、などとエリーなら答えるだろうが、それなら彼女の兄弟達がそこまでできるかと言えば、それは無理というもの。エリーも古典魔術を学びにきていて、ソフィアが目をかけているだけの事はあるのだ。
【浮遊、移動の魔術】
翁がサクサクと簡単に行使していて、物を運ぶのに便利そうだなぁとか、アキは簡単に眺めていたが、「分析の魔眼」と同様、発動は簡単でも、使いこなすまでにはかなりの修練が必要な技だ。軽い物から重い物まで、重心を見極めて持ち上げないとバランスを崩す事になるし、重さに合わせて加減をしないと吹っ飛ばす事にもなりかねない。翁は複数の圧縮雪ブロックを持ち上げてアーチを作ったが、同時操作、精密制御なだけあって翁でも苦労する難度だった。アキがやれば壊れたブロックの山が出来上がっていたに違いない。
【スノーシューの創造】
翁が行使した魔術。創造系だが、望む結果を得る古典魔術系統の技だ。普通は盾のようにシンプルな構成のモノを創造するのが精々だが、熟達した術者であれば、スノーシューのような複雑な形状でも創ることができる。探索者達がよく使う呪文では、定番の物しか創造できない。汎用性を捨てた代わりに安定性を得ているからだ。簡単に行使していて、ジョージも特に驚いたりしていないが、それは、妖精だから、という達観から、常識を投げ捨てているだけだったりする。
【宝珠式召喚陣】
本文でも語られていたように、普通、召喚陣といえばこちらのことを指す。そもそも召喚に必要な膨大な魔力は術者個人が供給できる量を遥かに超えている為、長い時間を掛けて宝珠に魔力を蓄えて、それを用いる事になるのだ。そもそもそれだけの魔力を貯められる宝珠を用意するだけでも大変で、更に魔力を貯めるのにも長い年月が掛かる。過去に召喚は数える程度しか行使されておらず、そのいずれも国家事業で実現したものであり、いずれも宝珠式だっただけで、一般化する程の事例に乏しいというのが実情だ。
因みに翁を召喚した際に宝珠式を採用しなかったのは、魔力が足りている事も大きいが、何より安定性を重視した為である。通常、召喚は数分で終えるだけに、何ヶ月と継続するような運用に宝珠式が耐えられるか懸念が示された事が大きかった。十章の時点でも、宝珠式で毎日のように召喚しているが、日を跨いだ運用はせず、毎晩、問題が起きていないか検査を重ねて、運用のノウハウを蓄積している段階だったりする。
【宝珠式召喚陣(魔力位階調整付)】
宝珠式召喚陣に、宝珠から供給される位階を調整する機能をつけたモノ。召喚する対象に合わせて位階の調整をする必要がある為、運用はなかなか面倒臭いが、過剰な位階を適切な魔力の量に変換できる為、その恩恵は絶大である。そもそもこちらの世界では魔力が乏しいため、掻き集めた魔力の位階を高める技術は熱心に研究されてきたが、逆のノウハウは殆どなかった。幸い、位階を落とす技は竜族、妖精族のどちらも行使できたので、その術式を応用する事ができた。なお、妖精達の一割召喚では平均的な妖精に合わせて位階を落としているので、竜族の個体別調整ほどの効率は出ていない。
【宝珠式小型召喚陣(魔力位階調整付)】
召喚陣に更に小型召喚機能を追加したもの。十章時点では簡易召喚体に対してしか小型化はできず、その倍率も六分の一に固定されている。しかも召喚時には妖精を一人、簡易召喚体で喚ぶ必要もあり、まだまだ改良の余地は大きい。それでも竜の小型召喚を五体同時に行うなど、利便性は高く、今後はこの召喚陣が使われる頻度も増える事だろう。
【黒夜の術式】
数十メートル規模の球状の完全な闇を作り出す戦術級魔術であり、魔術の維持には魔導具の補助を用いるのが一般的だ。一般的と言えるほど、行使できる術者は多くないが。
この術式は光を遮るドームを生成しているのではなく、光の生成、活動を阻害するよう物理法則に介入するという高難度術式である。その為、効果範囲外から光を照らしても、中で松明を燃やそうとも、光は存在することができない。法則が歪んでいる為、竜眼であっても中を見通す事は困難になる。
なお、こちらでも、視界を阻害するだけなら、ガスマスクを付けて、煙幕を展開すればよく、こんな高難度な戦術級魔術を使うような事態があるとすれば、それは魔獣退治くらいなものだろう。
【遠隔操作の術式】
街エルフだけが用いる人形遣いの技であり、予め用意しておいた魔導人形を己が体のように自在に操作するというモノで、人形遣いと言っても街エルフであれば誰でも使えるようなモノではない高難度術式である。量産型魔導人形と異なり、術者の魔力属性に合うよう調整した宝珠を用意し、その宝珠との経路を長い時間を掛けて確立するなど、とても手間が掛かる。また、遠隔操作中、術者は制御で手一杯であり、夢を見ているような状態になる為、座禅を組んで、安全の確保された部屋に篭るのが常だ。魔導人形の遠隔操作はどれ程優れた術者でも一体が限界である。
この術式は、極めて危険な状況下、命を落とす危険性が高いようなところに、どうしても赴く必要がある際に使用するというモノで、そうそう気軽に使えるモノではないし、長時間使うのも難しいのが実情である。
【使い魔との感覚共有】
これは使い魔を用いる術者が使える中難度の技である。使い魔との意思疎通ができる、遠く離れた使い魔と意思疎通できる、の次にくる技で、普通は使い魔の五感の一つを共有するといった使い方になる。異なる種族の感覚故に、受け手である術者の感覚に変換する際に感覚がある程度劣化してしまう。また、術者への負担も大きく、時間を区切って、短期間用いるのが一般的だ。使い魔との経路を確立し、ある程度の太さが確保できてからでないと、この技は使えない。
【竜族の重力偏向】
竜族は自身にかかる重力を任意の方向に偏向することによって飛翔する事は知られていたが、雪の降る日に、成竜の白岩様が飛行してきた事で、重力偏向の様子を詳細に観察する事に成功した。研究者達も雪が降る中、護符で身を守りつつ撮影用の魔導具を動かし続けて、記録できた事に小躍りする程だった。体の部位毎に偏向の度合いは異なり、翼の部分での偏向が最も強かった。翼は揚力を得るだけでなく、重力偏向操作にも重要な部位のようである。
【ケイティとの心話】
なかなか準備が整わないが、それもその筈、心話は心を直接触れ合わせる技、それ故に互いの心の強さが違うと、そもそも相手の心を感知することができない問題が解決できていないからだ。ミアがその道の第一人者であり、色々とメモも残しているのだが、感性全振りなところがあり、なかなかノウハウを身につけられていないのが実情である。それでも、雲取様と心話をしたい森エルフのイズレンディアやドワーフのヨーゲルとも情報交換したり、アキと心話を重ねている竜族にも相談する事で、かなり研究も進んできた。春先頃には試す事もできそうである。
【神降ろし】
信仰する神との相性の良い限られた巫女だけに行う事ができる御業であり、巫女は単なる受け手である。巫女の身に降りた神は、神の意思で自在に動き、その振る舞いに巫女が干渉する余地はない。異質な存在を身に宿す弊害として、巫女はある程度の期間、魔力が減少し回復しない状態に陥ってしまう。ただ、その程度の弊害で済むのは巫女だからであり、そうでなければ命を落としてもおかしくない大変危険な行為でもある。連樹の神様だからこそ、弊害を最低限に抑える事ができていると言える。
他の神の場合、神託を齎すのが精々であり、神降ろしを行った数少ない事例では、神の助力を得た後、全員亡くなっている。
【神との心話】
アキはミアができていたのだから、と軽く話しているが、そもそも高位存在との交流をできていたのがミア以外、数える程しかいない時点で、常識的なレベルから大きく逸脱した話である。異質な心と触れるだけでも負担は大きく、相性を気にせずどの竜神とも心話できているアキが異常過ぎるだけであり、同じ特性を持つ筈のリアですら、竜達との心話は負担が大きいと洩らす程だ。なので、連樹の神官達が驚愕したのも無理はない。
普通は神官から神へは祈願という形で、神から神官には神託という形で短く、一方的に意思を伝えるというのが一般的だが、それは、その方法が最も神官の負担が少ないからに他ならない。
ただ、アキが行なっている膨大な量の交流によって知見が広がっているのも確かであり、いずれはブレイクスルーが起きそうである。
因みに、竜達は在り方が近い為、心の負担は少ない方であり、神と言っても在り方が遠くなる程、交流の負担は大きくなるので注意が必要である。
【妖精さん達の思念波】
妖精達は体が小さいこともあり、意思疎通に思念波を併用している。竜族が距離と表情筋を補うのが目的で対象は単数なのに対して、妖精のそれは距離と声量を補うことが目的で対象は多数と違いがある。短く明確な意思を言葉に乗せる形で思念波を方位を絞って放つのが特徴だ。使い方としては、竜の咆哮に近い。近衛が「全員、傾注!」と放った技は、妖精さんが全員参加する軍事訓練時の定番の思念波であり、部下は必ず、発声者に意識を向けて聞く姿勢を取らなくてはならず、取れない者は意識せずに反応できるまで、体に叩き込まれる事になる。
【アキの演説、多人数に向けた発声】
少し離れた大勢に向けて発言する為、腹式呼吸で、大きく安定し響く声で話をする、地球でも良くやる発声法である。ただ、次章で説明シーンが入る(予定)だが、声が小さい妖精さん達は大勢と話す時どーするのか、なんて話を翁に教えて貰い、その技法も使ってたりする。つまり、アキが「演説チックに」と意識して話す時、実は妖精さんの思念波と同様の効果が上乗せされている。おかげで対抗に失敗すると、心が大きく揺さぶられて影響を受ける事になる。激しい闘争の心を乗せれば、やってる事は竜の咆哮と同じ、という技なのだが、魔力がガンガン自然回復するアキにとっては、使用回数制限のない通常技である。妖精も竜も、思念波を放てば魔力をその分、消費する訳で、そうそう使う事もなく、アキのように魔力消費を気にせず普段使いするのは予想外だったに違いない。
【世界間通信】
妖精さん達が召喚体と本体の間の経路を利用して、こちらと妖精界間の通信を行おうという仕組みである。召喚体が見た資料の情報をデジタル式に変換して送り、妖精界側の魔導具に蓄積する事で、本人が覚えて、あちらで書き写すよりも大量に正確な情報を持ち帰ろうとしている。春先くらいまでには試験を実施できそうである。
◆その他
【管制官】
近衛が発した役職名だが、これは空戦仕様の妖精族において、戦場で最優先で従うべき指示を行う役職であり、全体を俯瞰し、各部隊を効果的に導く戦場の目を担う者である。それだけに大人の妖精は無意識レベルで管制官の指示に耳を傾けて、最優先で理解するよう訓練されている。妖精が一割召喚時にこのように、戦場を想定した指揮命令系統を予め用意したのは、戦場並みの混乱が生じるであろう事を見越した為であり、実際、召喚された者達を部隊編成しておき、管制官を据える事で、混乱は速やかに終息した。今後も一割召喚組はメンバーを入れ替えた確認が行われるので、近衛も全体統制の立場で同伴する事が暫くは続くだろう。
評価、ブックマークありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。
誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。
本文での説明と重複して同じ内容を書いても意味がないので、内容は少し別の視点から書いてみました。
次回は、「第十章に登場した各勢力について」になります。
投稿は九月二日(水)二十一時五分の予定です。




