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10-35.代表達からの手紙(後編)

前話のあらすじ:二通目の手紙は鬼族連邦の王レイゼンさんと、武闘派代表ライキさんからの手紙でした。議論は紛糾しているものの春先までには結論は出るだろうとの事。それと鬼族の女衆が料理を学びにやってくるという事で今から楽しみです。(アキ視点)

そして、最後の箱、小鬼皇帝ユリウス様からの手紙が取り出された。


あー、なんか、緊張しちゃうな。でも読みたいし、何が書いてあるのか、早く見てみたい。


手紙はなんと、紅葉の葉を漉き込んである綺麗な紙で、風情があって素敵だ。


書いてある内容は――!


「小鬼の研究者団を中心に、職人の皆さんや大使館関係者も含めて、来週にはロングヒルに到着するって!」


お爺ちゃんはほぉ、と驚いてるけど、他の人はあぁ、それかって感じだ。


「小鬼達が大勢で来るから、事前に彼らの大使館の敷地確保や、移動経路の安全確認、市民への周知徹底をする為の事前調整をしていて、それで知っていたんだ」


リア姉がネタばらしをしてくれた。

まぁ、言われてみれば当然か。


「それなら、準備万端、小鬼さん達を迎える準備は完了ですか。それは何よりです。――あ、そう言えば、研究者団って書いてあるけど、何人来るんでしょう? 二人や三人だと団とか書かないですよね?」


「それなんだけど、十人以上、二十人以下だってさ。小鬼達は人生の短さを、特定分野の専門家になり、専門家達を束ねたチームを作る事で補って、研究を行なっているそうなんだ」


おー、なんか凄そう。


「なんか期待できそうですね。それで人数が増えてるのは、次元門以外の研究にもしっかり参加していくつもりだから?」


「そういう事。ユリウス陛下の麾下でも能力を最優先に人選したそうだ。研究者達には助手や、身の回りをする者も同行してくるそうで、アキ程ではないにせよ、研究に専念させる体制作りはかなり気合が入ったもののようだ。おかげで、彼らの為に用意された敷地面積は鬼族に匹敵する広さで、彼らの大使館も先ずは仮住まいを作って、春先までにはまともな建物に仕上げると言ってる」


秀吉の一夜城もかくやというプレハブ工法で建設するらしい。小鬼族達は体重が軽いから、人が住む家ほどの強度は不要なのかもしれない。


「それにしても、小鬼達は手が早いのぉ。帰国してから準備を始めたにせよ、よく間に合わせてきたものじゃ」


「ユリウス様を頂点とした体制がとても良く機能しているんだろうね。となると、こちらの体制強化をした方がいいかもしれませんね。ほら、ユリウス様達と話をした時も、父さん達、対応に苦戦してたでしょう? それが十人以上くるなら、手が追いつかないかも」


僕の提案に、父さん達は頷いた。


「流石に、研究者が団体で来ると一報が来た時点で、人員確保に動いたさ。思想教育も含めて、一団が到着する迄には、最低限の体制は用意できる。……後は、場合によっては、頭数の増えた妖精達にでも頼る事にするよ。いくら小鬼の研究者と言っても、妖精達とのコミュニケーションには難儀する筈だ。そこで時間を稼いでいる間に、まぁ、なんとかしよう」


父さんがぶっちゃけた話を教えてくれた。まぁ、それゃ、そうだね。そもそも小鬼達と穏便に交流できる人という段階でハードルが高そうだし。





二枚目には、公衆衛生を改善するモデル計画のイメージが描かれていた。比較的、水の豊かな地域を選んで、上水道や水の浄化設備、下水処理に伴うバイオガス生成設備などを用意するとある。リサイクル率は元々高く、治水事業で暴れ川の流れを変える事で、穀倉地帯の創出と街の水害防止を行うとも。遊水池も作るみたい。


「こうしてみると、やっぱり計画能力は高いですね。身の丈に合った技術と規模で成果を出そうとする知恵は見事。小鬼族の苦手な大規模土木工事を鬼族に、大きな初期投資が必要な上水道と浄水設備を街エルフに支援して貰う事で、短期間での成果を狙う、と。とても良い話です」


それにちゃんと、設備は自分達で維持管理できるレベルの内容に敢えて抑えていて、水害対策もある程度の割り切りも見える。


流石、ユリウス様と手放しで褒めると、皆が苦笑した。


「アキは本当にユリウス様に好意的なのね」


皆に見えるように置いた二枚目の手紙に目を通しながら、母さんは内容を確認していた。その感じからして、助力に見合う成果は出そうと判断したっぽい。


「国営の病院も建てて、感染症対策に力を入れて、乳幼児の死亡率改善を目指す、ね。十年間、手厚い対応をして、成人までの医療を改善した場合の成果を確認する、と。かなりの持ち出しになるけど、この地域の成果は間違いなく小鬼達の意識を変えるわね。――ユリウス様もかなり本気かしら」


地域で完結しているこちらの国の在り方だと、入りと出さえしっかり管理すれば、前提条件を変えた後の国の姿を、問題点も含めてしっかり確認できる事だろう。しかし、やる事が壮大で、しかも徹底してて凄い。


「この話、ニコラスさんとレイゼン様にもキチンと伝えておきましょう。物事に対する姿勢や考え方、時間感覚が違い過ぎて、このまま放置してたら、ずっと小鬼族に先手を打たれ続ける事になり兼ねません」


独裁国家のフットワークの軽さと、思い切りの良さは、民主主義国家では到底、太刀打ちできないし。短命種のリスクを取る生き方にも、長命種はついていけない。


「アキ、ただ伝えるだけでは意味がない。我々が小鬼族の真似事をしても疲労困憊するだけだ。何か助言はないか?」


父さんが期待に満ちた眼差しで話を振ってきた。


むむむ。


できれば期待に応えたいところだけど。


「具体的な話は、やってくる研修者の方々の技量や得意分野によりますが、次元門研究組は、既存理論の洗い直しと、未知の分野への探究を続けて行かなくてはなりません。ですから、理論分野や検証作業にどんどん取り組んで貰いましょう。後追い分野でなければ、彼らの歩みはこちらとそうは変わりませんから。あと、そうですね……連樹の神様も巻き込みましょうか。あの方の集合知性は、理論面の探究に大いに力になってくれる筈です。竜族への異種族化に関する経験、知識の提供で接点も増えますし、実験はこちらでやるとしても理論面での思考は――」


おっと、リア姉がそこまで、と手を振った。


「小鬼の研究者対策は、アキも言うようにやってくるメンバーの技量、性格にもよるモノが大きいから、その辺りまでで止めておこう。仮定の上に仮定を重ねると、誤差が増えるから」


まぁ、それもそうか。





さて、三枚目。おっ、ユリウス様も家族写真と説明まで書いてきてくれた。前皇帝、皇后夫婦の二人とユリウス様、お嫁さんが二人、お子さんが五人か。


「お爺ちゃん、ほら、ユリウスさんも家族の写真を送ってきてくれたよ。ロイヤルファミリーって感じで、威厳とか高貴さとかが感じられるね。それにお子さん達も結構大きいし、利発そうだし、可愛いね」


撮影した部屋は、日本の皇室みたいで、シンプルで品のある内装って感じ。皇帝というから、西洋のお城みたいに金色だらけの豪華絢爛風かと想像してたから意外だった。

皆さんの服装もあくまでもプライベートであることを前提としたもので、シンプルだけど清潔感が感じられて素敵だ。


「ほぉ。小鬼族は若い者と、老いた者がわかりやすいのぉ。話に聞いた通り、先代もまだまだ元気そうで何よりじゃ」


皆にも見せたけど、まぁ、そんなものかって感じでお爺ちゃん以外は反応が薄い。


「何で、皆さん、家族写真を送ってくれたのかな? 僕は身近に感じられて嬉しいけど」


「アキが肩書とか立場に興味が無くて、相手の性格や家族といった内面を知りたがっていたからね。あれだけハッキリと興味を示せば、写真を贈ろうという気にもなるさ」


リア姉がそう教えてくれた。


「そうなると、僕達も写真を送った方がいいかな?」


そう話すと、父さん達は嬉しそうに同意してくれた。


「なら、撮影して私達も送る事にしよう。あくまでもプライベートというスタンスだがね」


その後、誰を写すか話し合った。僕はお世話になってるし、ケイティさん達も入れるべきか提案してみたけど、家族写真だからという事で、サポートメンバーからは辞退された。

それでもトラ吉さんとお爺ちゃんには入って貰い、欄外に不在者枠としてミア姉も入れて貰う事にした。


交流記録は残しておくようにと、ミア姉からの伝言もあったからね。こちらからの返信も、過剰にならない程度に文を送る事になった。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

三通目の手紙は小鬼皇帝ユリウスからでした。相変わらず仕事が早く、研究者団やそのサポートチーム、仮建屋一式、大量の物資、公衆衛生改善都市計画案、それに家族情報まで揃えて出してきました。ある程度できたらすぐ動く、試してから考える、という小鬼族の特徴がよく現れていると言えるでしょう。

アキは、小鬼族って動きが早いなーと感心してますが、彼らからすれば、僅か三ヶ月で三大勢力の協力を勝ち取ったアキの行動の方が早過ぎる、と文句を言いたいに違いありません。知らぬは本人ばかりなりです。

次回の更新は、2020年08月23日(日)21:05です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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