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10-32.妖精さん団体召喚

前話のあらすじ:色々と改善の余地は残ってますが、竜族の小型召喚ができるようになりました。この術式は、妖精界に召喚して貰える話にも繋がるだけに誰もが今後の進展を楽しみにしています。

小型召喚の方は、構成ズレ問題、本体との感覚ズレ問題を調整する必要があって、まだ暫くは改良、調整の期間が必要との事だった。


それでも、竜の召喚、小型召喚自体は行える様になったので、賢者さんからの強い要望もあり、魔力を一割に落とした妖精さん達の団体召喚を行う事になった。


魔力位階を調整する術式も連日の紅竜さん達の召喚で、だいぶ安定してきたので、そちらも併用する事に。


魔力負担が減るのは嬉しい。


第二演習場にいつものメンバーに加えて、エリーや、ジョウ大使、イズレンディアさんやヨーゲルさんまでやってきた。


「珍しいですね、皆さんが来るなんて」


そう聞いてみたけど、ジョウさんは肩を竦めて苦笑した。


「あの妖精達がいつもの十倍も召喚されると聞けば、それは確認しに来たくもなるものだよ」


「そう言えば、人類連合の大会議場での人材募集の発表はどうでした?」


確か、財閥が人材募集を行い、人材選別を大統領のニコラスさんに一任する件について、各国の関係者を集めて、ジョウさんが話をしてきたんだったよね。


「事前の予測通り、二大国はいい顔をせず、中小国は熱狂的に我々の提案に賛同の意を示してくれたよ。先日から早速、第一陣が到着して研修を受けているところだ」


ふむふむ。


「いい感じですね。妖精さん達の受け入れ態勢もギリギリ間に合った感じでしょうか」


僕の感想に、エリーがそうじゃない、と首を横に振った。


「そんな訳ないでしょ。私達ですら、三ヶ月の奮闘で何とか対応してきたのに、いきなりぽっとやってきた新人達に軽い説明をしただけで実務対応できるほど甘い話じゃない。研修はどれだけ詰め込んでも二週間はかかるわ」


うわー、大変そうだ。


「それなりに優秀な人達と聞いてるけど、それでも結構かかるものなんだね」


僕の感想に、イズレンディアさんやヨーゲルさんが、僕らしいと笑顔を浮かべた。


「能力以前の問題で、魔力が完全無色透明な相手を恐れず、侮らず、自然体で対応できなくてはいけない。それに遥かに大きな鬼族や、掌サイズの妖精族、不倶戴天の敵であった小鬼族、そして存在するだけで恐ろしい竜族、コミュニケーションが不得手な我々、森エルフ族や、頑固なところのあるドワーフ族、それらと分け隔てなく、接することができるよう、心構えから変えなくてはならない。これがなかなか厄介で、頭で理解していても、身に染み付いた感覚がついていかない。だからどうしても時間がかかるのだ」


なんと。


「まぁ、どんな奴らも第二演習場で竜の洗礼を受ければ、自分達の存在の小ささを理解するがな。残念だがその時点で何人かは怖気づいてしまい、裏方に回る事になっとる」


向き不向きがあるから仕方ない事じゃ、とヨーゲルさんは話した。


「あれ? そんな方々、いましたっけ?」


「演習場を囲う土手の向こう側にいて、希望者だけが、短い時間、演習場内が見える位置に行って竜達を覗き見ただけだったから気付かなくても不思議ではない」


なるほど。


「先入観がなくて、分け隔てなく対応してくれて、相手を尊重する方なら安心ですね。新たな妖精さん達も落ち着いた感じならいいんですけど」


「同感だよ」


ジョウさんも期待に満ちた目で、賢者さんを見ていた。





賢者さんも話が終わったのを確認すると、お爺ちゃんと近衛さんに最終確認を行い、二人からも同意を得た。


「それでは、魔力を一割に抑えた団体召喚を行う」


宝珠をセットされた魔力位階調整術式を起動してからの積層型立体魔法陣の展開、同時に合計二十にも及ぶ召喚魔法陣が展開されて、目がチカチカするような派手な光景が展開された。


それぞれの魔法陣から妖精さん達が出現して、彼らが状況を把握するまでの刹那、静けさが通り過ぎたけど、次の瞬間、妖精さん達が一斉に騒ぎ始めた。


「これが物質界!」「うわっ、魔力が全然わからないぞ!」「なんか魔力が希薄過ぎ!」「羽を出せ、羽を!」「おー、人族に鬼だ、鬼族もいる!」「おい、あれ、アキ様じゃないか⁉︎」「なんか大っきいな」「って言うか子供っぽくないか?」「おい、こっち、森エルフだ!」「ドワーフ見つけたー!」「魔力少なっ!」「召喚体しょぼくないか?」「でもこの人数召喚って凄いぞ」「寒い!」「冬らしいぜ」「空に島が浮いてないぞ」「空が広いな」「おい、ヤバい、近衛様だ」


もう、皆が一斉に好き勝手話し始めて、羽を展開して動き始めて、興味の向くままにあちこちに近寄って仲間に話をして驚きを分かち合い、感動を口にして、と状況は混沌そのもの!


「全員、傾注!」


近衛さんが範囲を絞った思念波みたいな技を放ったっぽい。無色透明な魔力は見えないけど、何かが届いた妖精達が跳ねるように、近衛さんから距離を取って、一斉に近衛さんの方を見て黙ったからだ。


今の技、いいなぁ。僕もできたら、皆さんこちらを見てください、とか注目して貰うときに便利そう。


「小隊長、人員確認!」


「「「「「欠員なし」」」」」


「宜しい。管制官は私が行う。続け!」


弾かれるように、近衛さんが演習場の空きスペース、天空竜達が大勢来た時の為の着陸スペースに飛んでいき、それに合わせて四人一組の集団に分かれた妖精さん達が編隊を組んで後に続いた。


あっという間に喧騒が飛び退っていき、思わずお爺ちゃんの方を見ると、何ともバツが悪そうに弁明してくれた。


「皆、話には聞いていたが、半信半疑だったんじゃよ。妖精界と異なる世界、魔力がとても希薄、それなのに世界には命が満ち溢れておる。そんな異世界をまるでその場にいるように体験できる、ならば、感嘆のあまり、声が出るのも当然と言うモノじゃ」


なるほど。地球(あちら)で言うところのフルダイブ型ゲーム体験とか、そんな感じだ。


今まで、妖精界には確率論に頼るゲームすらなかった訳で、そこにいきなりそんな体験ができます、と鳴り物入りで異世界召喚が導入されれば、大興奮するのも無理はないよね。


「なんか羨ましいなぁ。地球(あちら)でもまだフルダイブ型体験ゲームなんて発売の見通しすらたってないのに」


「なんじゃ、そのフルダイブ型ゲームとは?」


僕は皆に、地球(あちら)におけるフルダイブ型ゲームの概念や、その実現状況を説明して、だからこそ、それがどれだけ羨ましいか、正直に話した。


ただ、ずっと体を動かさないことの危険性や、現実世界よりものめり込む事の危険性についてもざっと説明した。賢者さんが居心地悪そうにそっぽを向いたのを見て、調整組も大凡を察したようだ。


「――とにかく、暫くはメンバーを入れ替えつつ、一割召喚の特性や影響、能力の確認や個人差の調査に割り当てるつもりだ。個々の力量にもバラつきが大きい分、これまでより気を配らねばならん」


強引に話を切り替えた賢者さんだったけど、そこで見せた表情は、単なる魔術研究家ではなく、大勢を率いる為政者としての様子も窺えた。そんな顔もするんだね。


「なんだ?」


「単なる魔術大好きお爺ちゃんってだけじゃないんだなーと」


「いらんと言っても役職は付いて回る。面倒な話だ。だが、それも今回は近衛に一任しているから安心だ。さて、我々はもっと心が躍る刺激的な研究に戻ろうではないか」


バカンスに来てるのに仕事の話なんてするな、とでも言わんばかりに、いつもの賢者さんに戻ったので、皆も竜の皆さんがやってくるまでの間、昨日の検討内容の再確認と、気付きについて意見交換を始めた。





それで、紅竜さん、白竜さんが来て、昨日の検討の続きをする流れとなったんだけど、二十人からの妖精さん達が遠慮なしの機動飛行をしたり、幻影を出したり、訓練用の槍をバンバン撃ち合ったりと、派手に動き回っているのが目について、落ち着いて話に集中できないと、研究組からクレームが上がる事態になった。


そもそもなんでそんな派手な話になっているのか、近衛さんが呼び戻されて、皆の前で弁明する事に。


「召喚の影響で、魔力属性が完全無色透明となる事の影響が深刻であると判明した。魔力反応を消した状態での行動に慣れていない者も多く、衝突や誤射が頻発し、集団行動が事実上、成立しない!竜族が小型召喚で、魔力属性を真似て纏う話があったが、我々、妖精族にこそ必要だ!」


相互通信機能のないステルス機が何十機と集まったら、きっと混沌の場と化すに違いない。


「それって、皆さん、周囲の把握に思ってたより魔力感知に頼っていたと?」


「うむ、その通り。魔力属性が完全無色透明の者達が、集団行動する事の問題に直面したのは我々が初めての事と思う。とても厄介だ」


なるほど。


「ねぇ、お爺ちゃん。妖精さん達もこれまでで最大六人は同時に召喚してたけど、問題にはならなかったの?」


「好き勝手飛び回る状況ではなく、皆で空に光の花を描いた時は、光の粒を撒きながら飛んでおって、互いを認識するのは容易じゃったからのぉ。そのような問題が出るとは考えておらんかった」


ふむふむ。


「取り敢えず、研究組はこのまま第二演習場の中で検討を行う。そして、近衛以下、一割召喚組は演習場の外で、土手の高さを越えぬよう飛行制限を設けて、確認作業をすれば良いと思うが、ケイティ殿、どうか?」


話を振られたケイティさんは、また厄介ごとが来たって表情を隠さなかったけど、すぐに気を取り直して、ジョージさんと近衛さんに声を掛けた。


「確かに、魔術が流れて飛んできても厄介ですし、動き回る様子が目に入るだけでも気が削がれるでしょう。ジョージと近衛の二人は、森エルフ達と、飛行可能な範囲の調整をしてください。――それと、近衛、アレはどうにかなりませんか?」


ケイティさんが指し示したのは、こちら、というか二柱の竜に興味津々で、待機エリアの端に妖精さん達がわらわらと集まってなにやら楽しそうに話していて、まるで雀のお宿状態だ。


「竜をこれ程、間近で見るのは初めての者も多いのだ。白竜殿、紅竜殿、後で皆と交流する機会を設けて貰えないだろうか?」


近衛さんはそう提案したけど、二柱の反応は鈍い。


<ああいう幼竜の集まりみたいなのはパス。紅竜、任せた>


<私だって、あんな数に好き勝手、周りを飛び回られるのは勘弁して欲しい>


残念、同意は得られなかった。と言うか、僕だって、何十人もの興奮している幼稚園児の群れの中に放り込まれたいとは思わないからね。


「では交流の方法は改めて調整とさせて欲しい。あの通り、竜族との交流を望む声はとても大きいのだ」


近衛さんの食い下がりに、二柱とも仕方なさそうに、調整する事は合意した。


……したんだけど、思念波から、他の誰かに押し付けようとする気持ちがダダ漏れ。


でも、二柱から黙ってろ、と睨まれたので、口を閉じた。


結局、戻った近衛さんへの容赦ない大ブーイングが起きたけど、なんとか妖精さん達は第二演習場の外へと移動してくれた。


ただ、妖精の団体さんは、まるで、嵐が過ぎ去った感じでとても疲れた。

後回しになっていた妖精さん達の省エネ、魔力一割化による大量召喚が行われましたが、先に来ていた妖精さん達は役職も上なだけあって落ち着いた方々だったんだなぁ、と思えるような騒々しさで、紅竜、白竜ですら、そっと目を逸らす程でした。しかも、現行の召喚が抱える問題「魔力属性がアキやリアと同じ完全無色透明になる」の影響が大きく、そのままでは運用することが厳しいことも判明しました。感知できない妖精達が好き勝手飛び回るなんてのは、為政者にとっては悪夢そのものでしょう。

次回の更新は、2020年08月12日(水)21:05です。

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