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2-16.新生活三日目⑤

 午後の運動も終わり、後は夕食を兼ねたお茶の時間だ。

 今日のお茶菓子は、蕎麦団子で黒蜜にきな粉の組み合わせが素朴だけど美味しい。玄米茶も合うと思う。


「アキ、朝の話だが、答えを教えて貰えないだろうか」


「私達も考えてみましたが、これといった答えを思いつかなくて」


「というわけで、アキの考えを教えてくれ」


 三者三様だけど、やっぱり、思いつかなかったみたいだ。

 あんな鬼族や小鬼族を相手に勢力を互角に保ち、海外貿易をほぼ独占し、宇宙にまで手を伸ばしているのだから、焦るような状況ではないと考えるのも仕方ない。僕も歴史に興味がなければ、気付かなかったと思う。


「まず、鬼族なんですけど、あれだけ身体も大きく、魔力も強いとなると、きっと人よりも長寿で子供もそうそう生まれず、成人になるまでの時間も長いということで合っているでしょうか?」


「そうだ。彼らがもし人並みのペースで子を為すようなら我々は勝ち目はないだろう」


「となると、事態は人族より深刻かもしれませんね。彼らは下手をすると百戦百勝しながら衰退していってるかもしれません」


「衰退? 鬼族の連中が?」


「例の騒音問題で鬼族はかなり数を減らしたのでしょう?」


「人族連合のほうが被害は大きかったが、それでも彼らも万を超える人数が死んだはずだ」


「となると、子供がそうそう生まれない彼らは、人族よりも痛手から回復するペースは鈍いことが想像できます。あ、そういえば鬼族と小鬼族の関係ってどうなっているのでしょう? 鬼族が強いから小鬼族を隷属させている感じでしょうか? それともゆるい同盟関係くらいでしょうか?」


「鬼族は部族単位で集まった国の緩やかな集まりである鬼族連邦を形成していて、小鬼族は王を中心とした王国が多くあり、王を束ねる皇帝の元で団結して帝国として活動している。確か鬼族連邦と帝国は、対人類連合戦の場合にのみ共同軍を出す条約を結んでいたはずだ」


 やっぱり。これはかなり鬼族連邦はヤバいっぽい。


「となると、小鬼族達の成人の儀ですが、鬼族相手にもふっかけてる可能性は高そうですね」


「小鬼族と鬼族では勝負にならないと思うが」


「確かに。でも無傷で勝てるほどでもないでしょう? だからさきほど百戦百勝しながら衰退しているかも、と言ったんです」


「アキは、人類連合もまた小鬼族相手に疲弊していく、だから人と鬼が争っている場合ではないと言いたいのか?」


 リア姉の口調からして、人族連合のほうはまだ、被害は許容範囲に収まっていそうだ。


「それもありますが、僕が不味いと思ったのは小鬼族の強さと十年で成人を迎える繁殖ペースの速さです。小鬼族が五年で成人するような種族だったら問題とは思いませんでした。それほど成熟が早いと、知識や技術を蓄えて伸ばす時間がありませんから。小鬼族の場合、人や鬼の技術を模倣できるだけの力がありながら、人の倍のペースで親になり子を産むことが問題です」


「人数が減ってもすぐまた人口が回復して戦争をふっかけてくるくらいだから、厄介なことは認めよう。だが、それが例えば人と鬼が手を結ぶほどの脅威かというとそれほどとは思えない」


「そうね。鬼族と違い、まだ海外に船を派遣するだけの力もないから、それほど危険とは思えないわ」


 うーん、父さん、母さんはそういう見解か。


「リア姉も同じ?」


「私もそう考えたんだが、アキのことだ。きっとこの弧状列島だけを見た視点では思いつかない話なんだろう、とは思った」


 おー、さすがリア姉。その通り。


地球あちらの話なんですけど、アメリカ合衆国は、二百五十年ほど前は三百万人程度の人口でした」


「アメリカというと、確かあちらで一番豊かで大きな国だったかな」


「はい。北アメリカ大陸の多くを領土とする超大国であり、世界中の軍事力とアメリカのそれで比較するとアメリカのほうが大きいというほどの国ですが、現在の人口は三億二千万人います」


「三億!?」


「大陸の大半を国土とする巨大国家ですから」


「誇張ではなく、三億か」


「はい。地球あちらには竜族はいないので、幼児期の死亡率を改善して、食糧生産が追い付けば、そして増加する人口を支えるだけの国土があれば、人はもともと増えやすいんですよ」


「そんなに?」


「もちろん、アメリカの場合、よその地域の余剰人口を移民という形で受け入れているというのもあるので、最初の三百万人がそのまま増えた訳ではありませんが、それでもかなりのペースで人口は増えているんです」


「で、アキのことだから、話は世界白地図と関係があるんだな?」


「ご明察の通りです。人、鬼、小鬼、それにエルフとドワーフを入れたとして、この中で魔力が乏しい、この世界では人気がない場所での活動に順応できる能力は小鬼族が何歩か抜きんでていて、それに人が並ぶくらい。鬼族は住む場所が竜ほどではないにせよ結構限定されているんじゃありませんか?」


「確かに小鬼族は保有魔力も少ない分、魔力の乏しい土地でも生きていけるだろう。鬼族は逆に魔力豊かな土地でなければ、あの魔力を維持できまい」


 僕の提示した魔力の低い地域への順応、という見方は興味深かったようで、ケイティさんも含めて四人とも少し考え込んでいる。


「そこで、世界白地図です。魔力の高い地域は限られていて、それ以外の地域で最も数を増やしそうなのはどの種族か。やはり小鬼族と言わざるを得ません。そして、小鬼族は人の二倍のペースで増えるんです。子供のうちに死なないだけの医療技術と、増えた分を養える食料生産があって土地が確保できれば、人ですら二百五十年で三億人です。小鬼族なら何人になることか」


「……机上の空論ではないか?」


 父さんは、そういうけど、表情からして、そうであって欲しいという願望から出た言葉のようだ。


「そうかもしれません。でもそうでないかもしれません。まだ手付かずの広い土地が残っていて人や鬼が先に確保できれば、大きく優位を確保できるかもしれません。でも、既に小鬼族の手が伸びていて、手が付けられないほど人口が増えているかもしれません。人工衛星から、畑や水田、あるいは都市の広さを確認できませんか? 防竜林の区画単位くらいの精度でも十分なんですが」


「アキ、それは無茶というものだよ。だいたい小鬼族の街だってここと同様、屋上に木を植えて空からの認識を下げる程度のことはしているはずだ」


「でも、畑や水田は森とは違いますし、定期的に刈り取りも行うから、光学センサーで観察するだけでも結構、判断できると思うんですよね。あ、赤外線波長帯のセンサーがないと厳しいかな?」


「それは検討してみよう。それでアキは、小鬼族の人口増加に、我々人や鬼が対抗できなくなる恐れがある、そう言いたいのか」


「そうです。まだ世界規模で裏が取れてないようなので、まずは現状把握が最優先だと思いますが、もしアメリカ並みの小鬼の巨大国家があって、もう国内に開発できる場所がないとなったら大変です。毎年のように百万単位の移民船団が襲来してきたら、流石に街エルフの技術力があってもお手上げじゃありませんか?」


 実際にはそんな人数を運べる船団を作るだけの資源とか別の問題が出そうな気もするけど、船は使い捨てではないから、護送船団方式にすれば、大陸間であってもかなりのペースで大規模移民をすることはできると思う。陸地から離れた海なら脅威は海竜だけに限定できるから、英米がやったみたいに船団に護衛空母をつけて、飛行機で空中警戒とかするのもアリじゃないかな。一旦、陸から離れてしまえば天空竜との遭遇はほぼないと思って良さそうだし。


「そんな数が来たらどうにもならないが、そんな巨大船団が頻繁に出せるものか!?」


「三億の人口からしたら、百万人って、人口の〇・三%ですよ。十万人なら、毎年三百人です。余裕ですよね。数もそれだけ増えればそうそう襲われないでしょう。そして小鬼族なら、その何倍か来ても不思議じゃないくらいかと」


 水平線の彼方を埋め尽くす上陸を控えた船、人数だけでいえばノルマンディ上陸作戦が確か二百万人とかだったから、なかなか圧巻の光景になりそう。


「数に質で対抗するにしても、いくらなんでもそれは無理だ。例え何回かは撃退できるとしてもそれを果てなく続けることはできない」


 今年撃退しても、来年も、再来年も、相手の本国が無事で、余剰人口はどんどん増えるのだから、何度でもやってくるだろう。


「ですよね。だから、争っている場合じゃないだろうと思ったんです」


 ここまで話して、話し続けていたことに気付いて、ちょっとお茶を飲んで一息ついた。

 さて、ここからもうちょっと畳み込まないと。

今回のお話はキリがいいので、ちょっと短めですがここまで。

次回の投稿は、五月二十七日(日)二十一時五分です。

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