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10-29.召喚体の比較検討(前編)

前話のあらすじ:連樹の神様が、樹木の精霊(ドライアド)の超集合体だった、ということが判明し、異種族化のノウハウなども得られるだろうし、これでまた研究も捗るだろうと思うアキでした。

連樹の森からの帰路は大変だった。急がなくていいですよとケイティさんは言ってくれたけど、急傾斜の階段を降りるのに、急ぐような真似ができる訳もなく。


足元だけに注意を向け過ぎだとか、腰が引けていて、そのせいでバランスが悪いとか、色々と指摘を受けながら降りた事もあって、途中で一休みして周りを見た時以外は、殆ど周囲の景色を気にする余裕もなかった。


幸い、今回はトラ吉さんの緊急補助は受けずに済んだ。済んだんだけど、それでやり遂げた顔をしたら、露骨に呆れられてしまった。


それから、真ん中に手摺りをつけるなら、高さはどれくらいがいいか、少しお爺ちゃんと測ってみたんだけど、竜の小型召喚サイズが妖精族の二倍程度と仮定すると、上下左右に体一つ分程度しかズレを許されない飛行になると分かった。


「ちょっと厳しそうだね」


「うむ。社の上から、結界に穴を空けて出入りした方が楽じゃろう」


なんでもないことのように言ってるけど。


「それって竜族でもできそう? 彼らって持続的な魔術は基本、使うことが無いって話だけど」


「慣れればできるとは思うがのぉ。じゃが、第二演習場で事前に訓練してからの方が良かろう」


「それもそうだね」


そんな話をしてたんだけど、ジョージさんから駄目出しされた。


「結界を壊さず出入りできるようになったとしても、それしか方法がないのでなければ、そんな真似は止めておく事だ。考えてみろ、自分の家に合鍵を作られて勝手に出入りされるようなもんだぞ」


お爺ちゃんと僕は顔を見合わせて、どちらからともなく頷いた。


「それくらいで十分でしょう。アキ様、馬車に乗って下さい。ジョージ、出発しますよ」


「あ、はい!」


僕たちが乗り込むのを確認してから、いつものようにウォルコットさんが最終確認をしてから馬車を進めていく。


その馬車を操る技量はいつ見ても見事で、こうして外を眺めていても、振動が感じられないまま走り出すのだから不思議だ。


時間もないので、馬車の中で明日の作業について話を聞いたり、今後、話をする竜の情報を頭に入れたりしてた。


まぁ、そのおかげで、お風呂では湯に浸かってのんびりする事ができた。やっぱりお風呂は命の洗濯だよね。


今日はそれなりに頑張ってたという事で、シャンタールさんが足のマッサージをしてくれたのも嬉しかった。聞いてみたら、秘書人形のロゼッタさんに指導して貰って腕を磨いていたとの事。


慌ただしかった一日も、こうしてのんびりと贅沢な時間を楽しんで終わる事ができれば全て良しって気分になれる。


「ニャゥ」


あまり時間は掛けられないけど、トラ吉さんにも御礼のブラッシングをして、満足そうな顔を堪能させて貰った。


「明日からは、召喚体の簡略化と、竜と妖精の召喚体の比較じゃ。何が出るか楽しみじゃのぉ」


お爺ちゃんもプレゼントが待ち遠しい子供みたいに大喜び。意識が落ちるギリギリまで、お爺ちゃんと明日のことを話していて、楽しかった。





翌朝は、ゆっくり身嗜みを整える時間もあって穏やかなスタート。食堂には家族の皆が揃っていて、僕の朝昼兼用食(ブランチ)に合わせて同席してくれた。


リア姉はと言えば、どこか眠そう。


「昨日、あれから揉めたとか?」


「揉めたと言うより、相談に乗った感じかな。彼らも危機意識は持っていたから、彼らの人材(リソース)も限られた中、ロングヒルの市街に誰を派遣するか、何処に宿泊するか、何を調べるか、何処が窓口となるか、研究の場を一度くらい見学させるか――まぁ、そんな事を詰めていたんだ」


おや。


「随分、細かい所まで詰めたんだね。それで研究への協力という事で、資金はマサトさんから、窓口はエリーのとこの文官のどなたか?」


「そんなとこ。彼らも自己完結している生活スタイルなせいで、あまり資金に余裕がない感じでね。場所も資金もこちら持ちで、とにかく引っ張り出す事にしたんだよ。借りではなく、正当な報酬の一部前払いだって納得して貰うのに手間取ったんだ」


「堅実な方々なんだね。まぁ、ある程度、歴史のある宗教団体、それも自分達の一族だけで運営してるとなれば、手堅くもなるかな」


これが外部に信者を集めるタイプだと、資金繰りのノウハウに疎くてザルな資産管理をしてて、信仰心や虚栄心から、無駄に豪華な施設を作って赤字転落、なんてパターンも良くあるけど。


基本、現金購入しかしない倹約家みたいな一族か。それで裕福ならすぐ動く余裕があるけど、余力が少ないと、動きが鈍くなっても仕方なさそうだね。


「残っていたのが私とエリーの二人だったから、金銭感覚がなかなか合わなくてね」


「二人とも、欲しいモノは値札を見ないで買える人だからねー」


ぼくは庶民だけど、と話すと、何故か皆に苦笑されてしまった。


あれ?


「えっと、何かズレた話なんてしたっけ?」


変だなぁ、個人的に調達して貰ったモノで、それ程、高価なモノはなかったと思うんだけど。


「アキは私物が殆どないし、お金も触ると壊れて自分では使えないから仕方ないところだけど、少し金銭感覚は学んだ方がいいかな。連樹の神官か、その関係者が来るから、彼らの生活とか感覚を知る機会を用意しておくよ」


リア姉の提案に、父さんも母さんも、それにケイティさんまで頷いてる。


「庶民の暮らしを知る事ができるのは嬉しいのぉ。何せ、こちらに来てから会っている者達はそれなりの立場の者達ばかりで、偏っていると思ってたんじゃよ」


お爺ちゃんは嬉しそうに話したけど、ケイティさんに注意された。


「翁、こちらに派遣されてくる者が誰であれ、その者が普通の庶民な訳がありません。外を知る為に、一族を代表して来るのですから。それと基本的に直接触れるのは避けて下さい。護符は支給予定ですが、過信しないのが無難です」


ふむ。


「修行をしてる方なら大丈夫とかじゃないんですか?」


「修行を重ねている者の方が世事には疎い傾向があります。今回の目的からすると、俗世との交流を担っている者が選抜される可能性もあるのです。アキ様程ではないにせよ、翁との接触も一般人にとっては負担になります」


「うーむ、そういうところは不便じゃのぉ」


「竜族も、幼竜に触る時に加減してるようだから、その辺りの工夫を聞いてみるのがいいかもね」


「今日会う二柱にでも聞いてみるとしよう」


お爺ちゃんが、ふと思い出したように、儂も庶民派じゃがな、などと言ったので吹き出しちゃった。いやー、流石にお爺ちゃんを指して庶民派は無理があると思うよ。どう見ても、ちりめん問屋の御隠居様ってポジションだもの。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。

連樹の社への急階段は、周囲を覆う障壁を可視化すれば、急角度の狭いトンネルってことですからね。大空しか飛んだことがない竜族にとっては、そもそもそんな狭いところを滑空ではなく、急上昇していくという時点で、初挑戦となるでしょう。うまく行かない可能性が高そうです。

連樹の神官達や、彼らの一族からロングヒル市街に住む者が出てくる、というのはアキとしては嬉しいところ。ですが、高い生活費を必要とする都会に人を派遣して、仕送りをする側からすれば、できれば避けたいところ。通いで行ける距離なのだから、住み込む必要はないだろう、と思うでしょう。

アキが庶民派かといえば、心のありようは間違いなく庶民、誰かを使う支配者層から縁遠いのは間違いありません。普通の日本の家庭で育った一般庶民でしたから。

ただ、アキとの会談をセットされる連樹の関係者からすれば、複雑な心境でしょう。ご愁傷様です。

次回の更新は、2020年08月02日(水)21:05です。


<雑記>

政府がまた布マスクを国民に配布して500億円かかることに非難轟々ですけど、ちょっと考えてみると、不思議な話です。国民一人当たりに直すと約5円。先日、一人当たり10万円貰いましたが、今回の二万倍!、頭を捻って考えたでしょうか? 賛成、反対含めて考えました? もうすっかり過去のこととして、記憶の彼方に捨て去ってません? 国民は自分達が貰った金額がどういう意味を持っているのか、もう少し、せめて、今回の布マスク再配布の二万倍くらいは考えて欲しいなぁ、と。再配布に5分考えていたとするなら、十万円配布なら、十万分=200日/(1日8時間考えるとして)って話です。マスコミが煽っているのもありますけど、国民自身ももっと考えないといけないなぁ、と思う今日この頃でした。

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