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10-28.連樹の神官達

前話のあらすじ:神降しの御業によって、降臨時よりも長く、連樹の神様とお話することができました。竜族達が訪問して話をすることも認めて貰えたので目標達成です。(アキ視点)

大部屋は好きに使って良いとの事だったので、早速、ケイティさんがベリルさんと一緒にテーブルセットを手早く展開して、アイリーンさん特製のお弁当箱を取り出してくれた。


僕は移動中に遅めの朝食兼昼食(ブランチ)をいただいているので、茶碗蒸しと緑茶にしてくれた。


緑茶を飲んでホッと一息ついたところで、ケイティさんが話し始めた。


「我々も隣室で聞き、結論は理解しましたが、アキ様が、連樹の神様と心話で何を話されたのかを我々も把握したいので説明をお願いします」


ベリルさんがノートを広げてスタンバイしてるので、総合武力演習から直近の誓いの儀までの三大勢力の動きや合意内容、竜族の動きや福慈様の魔力爆発の話、それに今やろうとしている小型召喚や異種族形態への対応について、連樹の神様への相談内容、最後に意思疎通の制限を緩和する相談まで伝えた事を話した。


皆は最後まで黙って聞いていたけど、何故か揃って深い溜息をついた。


「どうしました? 予定通りの話を伝えただけの筈ですけど」


今回はミスしてないと思うんだよね。


「――いえ、特に話された内容に問題があった訳ではありません。ただ、僅か五分程度の心話でそこまで情報を伝えられた事に驚いているのです」


ケイティさんの言うのもわかる。


「アキ、いくら言葉にする手間を省いたと言っても、イメージだけを渡したにせよ、早過ぎないかい? 聞き流された可能性もあると思うけど、そこはどう思う?」


リア姉の疑問は、連樹の神様に触れないとピンとこないだろうね。


「連樹の神様って、樹々の集合体っぽいんですよね。その特性と思いますけど、思考を同時にいくつも並列で走らせられるみたいなんですよ。先程の話も区切りが良くなるたびに、聞いた話を考える部分を分けて、前の話を考えつつ、新しい話を聞く事ができているみたいでした。ほら、木に宿る精霊(ドライアド)っているじゃないですか。連樹の神様は、数万本の樹木の精霊(ドライアド)の集合体、そう捉えた方がいいのかもしれません。便利ですよね」


そんな話をすると、ケイティさんとエリーの表情が強張った。


「……精霊、その集合体、ですか。確かに連樹は極めて特殊な生態とは認識してましたが」


「つまり、同じように神と崇められていても、強大な個の緩やかな集まりである竜族と違って、人族よりも遥かに密接に連携する群れを体現しているのが連樹、そう言う事かしら?」


エリーも声が硬い。


「そうだね。連樹の樹木一本の発揮する能力と比べると、森全体が連携して集合体として動く時では、知性は飛躍的に高まると見ていいと思う。と言うか、それくらいぶっ飛んだ高い能力があるからこそ、異種族の形態をとるなんて離れ技ができたのかもね」


そう考えると凄いなー。


「アキ、つまり連樹の森は、樹木の精霊(ドライアド)数万が群れをなし、完全に統一された意志で動く群体と言う事なのか?」


ジョージさんも勘弁してくれって顔をしてる。


「そんなとこかと。そうなると、そもそも降臨も、神降ろしも難度が高いのに、後で話を聞かせよ、と言ってましたけど、社にきて話をすれば、周りの連樹の樹々が数百の目や耳の代わりをする事で、こちらの情報を見聞きするのは簡単なのかもしれません。この後、それも聞いてみましょう。巫女さんのことを幼少の頃から知っていたと話されていたし、それ程ズレた推論じゃないと思いますよ」


推論を話すほど、皆の表情が固くなっていくから不思議だ。


そんな考えが表情に出ていたのか、表情が硬い皆を代表する様に、お爺ちゃんがフワリと飛んできて、皆の考えを教えてくれた。


「アキ、皆の表情が硬いのは、エリー、リア、アキの三人を護る立場からすると、ここが死地に他ならないと理解したからじゃよ。言うなれば、数万からの樹木の精霊(ドライアド)に包囲されている、という話じゃからのぉ」


相手が穏やかな精霊で何よりじゃった、とお爺ちゃんはオーバーなアクションで、安心を表現した。


むむむ。


「神と崇められている方ですから、ある程度は仕方ない気がしますね。雲取様と初めて話した頃に比べると準備不足だったかもしれませんけど」


そう話すと、ケイティさんとジョージさんがバツが悪そうな顔をした。


「アキ、結果論で話しても仕方ないさ。これまでの歴史を見ても、連樹の森では精霊の動きがおかしい程度の話はあったにせよ、樹木はその場から動かず、竜のように広く知られると言う事もなかったのだから」


「まぁ、そうですよね。でも、どうせ群体なら、社の階段の入り口辺りで話しても伝わらないか聞いてみたいとこです」


そう話すと、皆が苦笑した。


「アキは本当に急階段が嫌なのね。流石に社の入り口で話をするのは失礼だと思うわ。真ん中に手摺りでも付けて貰うよう相談してみたら?」


エリーが呆れながらも折衷案を出してくれた。


「うん、それを相談してみましょう」


「しかし、手摺りか。ちと、邪魔かもしれん」


お爺ちゃんが懸念を口にした。


「えー、なんで?」


「今後、小型召喚された竜達が石段の回廊を飛んで社に通うじゃろう? 階段を覆う結界に竜が触れれば簡単に壊れてしまう。そして、儂らはともかく、竜族は細い回廊を通り抜けるのは苦手かもしれん」


大空を我が物顔で悠然と飛ぶのが天空竜なのだから、狭い洞窟を飛び抜けるような真似はそもそもやった事も無さそう。


「まぁ、そこは戻ったら竜の誰かと相談してみましょう。確かに大空を自由に飛ぶのが基本の竜にとって、上下左右、あまりズレずに通り抜けてって話は大変かもしれないから」


それくらいは簡単って答えてくれる気もするけど、と話したけど、皆の反応からすると勝率は悪そうだった。





それからは、ホワイトボードに書いた内容を叩き台に、もう少し詰める話はないか意見を出し合って、僕が追加で話した、連樹の神様の特性も加味した調整事項一覧が完成した。


限られた時間の中で考えた割に、課題を上手く列挙できたと思う。


後はどこまで話を調整できるか、だね。ここに書いた内容は僕達の視点ばかりだから、あちらからの視点を加えれば、調整もそうは揉めないと思った。





……って筈だったんだけど。


「天空竜の来訪は百歩譲って仕方ないとしよう。だが、鬼族や小鬼族まで社にやってくるだと⁉︎」


神官さんの一人がヒートアップして、そんな事許可できるかーっと大声で駄目出ししてきた。


「研究者気質で温厚な方々ですから、そんなに気にするような話でも――あ、鳥居はくぐる時に気を付けないと頭をぶつけちゃうかもしれませんね」


「そんな些細な話をしておるのではない‼︎」


そもそも我々、人族と鬼族、小鬼族の争いの歴史はーーなどと演説まで始められてしまった。


巫女さんを見ると、困った顔はしているけど止めるつもりはないようだ。と言う事は、連樹と共に暮らす一族としての意識をある程度、尊重しないといけない感じかな。


あー、面倒臭い。


「神官様、ひとまずその辺りで。調整項目は多いので、それぞれについて、一言、見解を述べる感じでまずは全体像を把握しませんか? どう実現するのかは調整の余地は多いと思うので、まずはできる所の「見える化」をしましょう」


ホワイトボードに意識を向けさせて、相談項目の多さを認識して貰い、まぁ、落ち着いて、と声を静かに響かせた。


ちょっと居住まいを正して、他所行きの振舞いを意識しつつ、あくまでも優雅に、優しさを前面に出して人畜無害さをアピールして。


「……いや、ま、まぁ、そうだな」


神官さんが少し挙動不審になったけど、すぐに気を取り直して、次の項目に話を進めてくれた。


……結局、全ての項目についてコメントを付けてくれたけど、いちいち保留だの、難しいだの、後ろ向きな回答ばかり。


だんだん苛ついてきて、本当に協力する気があるのか、問いただそうかと口を開きかけたところで、巫女さんが僕の発言を手で制した。





巫女さんは、癇癪を起こしている妹を宥めるような、少し困ったような、そんな優しい表情で話し始めた。


「アキ、人は話を聞いても、それを理解し、気になることを確認し、重要な事であれば裏取りを行い、そうして納得するのには時間が掛かるものだ。まして私たちの一族は、連樹の森で狩りをし、森の恵みを集め、湖で漁をして暮らす、そんな営みを繰り返してきた。とうしても新たな試みに踏み出すのに時間がかかる。そもそも外の事にも疎い。だから、そこに書かれた項目について、どの程度、時間の猶予があるのか教えて欲しい。そうすれば、どれだけ急いで対応すべきか判断できる」


成る程。言われてみれば、連樹の森は森エルフも近寄らない程だから、環境としては安定しているのだろう。そんな場所で森に寄り添うように暮らしていれば、時間感覚も自然のサイクルのようにゆったりとしたモノになっても不思議じゃない。


「それでは私の方から、各項目について、どの程度、猶予があるか話そう。ただ、確定していない内容も多い。期間に幅があるが勿論、早い方がいい。後になるほど、各勢力の動きが進んで、結果を受け入れるしかなくなる、そう考えて欲しい。アキは気になった事があれば質問する事。猶予について話し終えたらアキは別邸に戻る頃合だからね」


リア姉が前に出て、場を仕切ってくれた。


まぁ、僕が絡むのは確かにその辺りまでと思う。あまり細かい話になったら、お任せしておかないと、ね。


それからは、各項目について、最短でどの辺りになるか、普通ならどの辺りか、リア姉が説明し、ベリルさんがホワイトボードにどんどん書き込んでいった。

どの項目も早ければ一週間程度、遅くとも春先までには話を決める必要があると聞いて、神官さん達が焦っていたけど、まぁ、仕方ない。


「他に何かあるかい?」


「そうですね……どなたかロングヒルの市街に常駐されるのが良いと思います。三大勢力の上層部でも、ロングヒルで起きている変化を追いきれず、直接乗り込んできたくらいですから、人伝に聞いて把握するのも限度があると思うんです。それと――巫女様、差し支えがなければ、御名前を教えて貰っていいですか? 今後、巫女が増えてくると名前がないと不便ですから」


僕の願いを聞いて、巫女さんは少し考えていたけど、教える事に決めたようだ。


「私の名は、ヴァイオレットと言う。ヴィオでいい」


愛称まで教えてくれるなんて、サービス満点だね。


「それではヴィオ様、またの機会にお会いしましょう。別邸の方にもいずれいらして下さい。多様な種族が集まっているので、きっと楽しいですよ」


「……機会があれば、伺う事としよう」


ヴィオさんも、約束してくれた。これで、連樹の神様との協力体制も確立できるし、ヴィオさんや神官さん達も研究に加わるようになる。順風満帆だ。

評価、ブックマークありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。

連樹の神様が、精霊ではなく神様と称される理由が明らかになりました。超並列思考という特性を備えた樹木の精霊の集合体、というのがその答え。そもそもどんな樹木にも精霊が宿るという訳ではなく、精霊の宿る樹木、それが群れを成して一つの山を埋め尽くしているというのだから、他の精霊がまともに動かないのも当然なのでした。連樹の巫女さんの名前も教えて貰えて、今後は交流も増えて大成功とアキは喜んでます。

ただ、連樹の神様の正体を理解したことで、サポートメンバー達の憂鬱な気分は当面晴れることがないでしょう。

次回の更新は、2020年07月29日(水)21:05です。

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