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10-26.連樹の社再び(中編)

前話のあらすじ:連樹の神様とは「神降し」でお話することになりました。リア姉とエリーはお爺ちゃんに浮かべて空を運んで貰うことは、丁重に断ってたけど、落下時の安全装置がないと、浮かんだまま運ばれるのは怖いでしょうね。あと、なぜか踏み外したら急転落間違いなしな石段を登る憂鬱さを共感してくれる人がいなくて残念でした。(アキ視点)



翌日は朝から大忙しだった。

時間がないので、シャンタールさんに着替えの服の説明を受けながら、野外活動用の服に着替えて、ケイティさんが空間鞄に防寒着や着替えの服を入れたら、すぐに馬車に乗り込んで出発した。


御者台にはウォルコットさんとジョージさん、馬車の中にはケイティさん、ベリルさん、僕、トラ吉さん、お爺ちゃんという構成だ。


幸い、特注の馬車は揺れも殆ど感じないので、落ち着いて朝食をいただく事もできる。


ケイティさんが備え付けの簡易テーブルをセットして、空間鞄からアイリーンさんが用意してくれたお弁当を広げてくれた。


手早く摘めるようにサンドイッチの詰め合わせと、カップに注いでくれたのはミネストローネだね。


彩り豊かなサンドイッチを食べながら、ケイティさんと打ち合わせに入る。


「昨日、エリーとリア姉が行って、神官の皆さんとの話し合いはうまく行ったんでしょうか?」


「護衛も含めて昨晩はあちらに宿泊されてますが、今朝届いた報告では一応、神降ろしについて全面的な協力を確約してくれた、との事でした」


当然ですよね、といった感じにケイティさんはさらりと話してくれた。


話してくれたんだけど、いろいろと突っ込みどころが多過ぎて、何を聞けばいいか悩ましい。


「ケイティさんはどう思います? 禍根を残したりしてないか心配なんですけど」


返事はわかっているけど、一応聞いてみる。


「あの方々にしては判断が早く、得られた結果も最善だったのではないでしょうか? 心の内で何を考えられているのはコメントを控えます。これから会うのですから、先入観なく接するのが良いでしょう」


そう話して、にっこり微笑まれてしまった。残念、これ以上、情報は得られそうにない。ただ、状況証拠からして、エリーが色々と推測混じりに取り巻く状況の「見える化」をして、売り時は今、と理解させたってとこだろうけど。


或いは……


「もしかして、竜族が来訪されるのを我々には止める術はありませんが、彼らとの対応を自分達だけでされますか、とか話して脅すような事とかやってます?」


「アキ様。それは脅しではなく、事実の列挙に過ぎず、こちらはこれまでの実績、今後の見通し、協力できる体制を明らかにして手を差し出したのです。それを彼らがどう感じたかは、彼らにしか分からないでしょう」


これが公式見解です、と笑顔で纏められてしまった。まぁ、街エルフならそう話すよね、確かに。


「アキ、何か気になるのか? 全面的に協力を得られるなら、良いと思えるんじゃが」


お爺ちゃんも、結果が良ければそれでいいよねって人だし、問題があっても、後でフォローすればいいやってとこあるから。


「連樹の神様って、別に信者は必要な人数いれば十分で、規模を増やす気は薄そうだし、名声とかも気にしてない。一つの山くらいの規模で頭打ちになると聞くから、もう最大規模だしね。でも、社はとても立派だから、神官の人達は参拝する人が増える事を望んでる気がする。そのズレが変な方向に歪んだりしないかちょっと心配になっただけ。もう暫くすれば直接、話が聞けるし、杞憂だと思うよ」


……とは言うものの、ギリシャだって、都市(ポリス)間で、自分達の神様が一番だ、と主張し合っていたし、崇める神様を推す気持ちは強いよね、きっと。信者なんだから。


そんな話をしながら、食事をしているうちに、連樹の社の麓、例の石段のある鳥居の前に到着した。


前回と同様、巫女さんとお付きの神官二人が待っていてくれた。


さてさて、どうなってることやら……





それで、防寒着姿で挨拶をしたら、なんか神官さんが不満そうな表情を浮かべた。


ちなみに、彼らも前回よりは冬向けの厚手の服装ではあるけど、神官らしく、巫女らしく、正装って感じだ。でも襟元とか寒くないのか気になる装いだ。


「寒い時期の外出に慣れていないので、体調管理と安全を優先しましたが、ご了承下さい。連樹の神様と会う前に正装に着替えますので」


社には神官の人達もいた社務所っぽい建物もあったし、そこで着替えればいいと思う。


「本日は、私が神降ろしを行うからそのつもりでいるように」


巫女さんだけど、前回より柔らかい印象に変わっていた。何かあったのかな。まぁ、いい変化だね。


「宜しくお願いします。神降ろしについて、あまりよく知らないので、連樹の神様と話をする前に、少し説明していただきたいんですけど、宜しいですか?」


「元よりそのつもりだった。――しかし、本当に竜族がくるというのか?」


信じてないというより、来ないと言って欲しい、そんな雰囲気だ。


「準備が整えば二、三週間は毎日、通いで来ると思います。伝言で聞くより直接話を聞きたい竜も多いと思いますし、言葉では伝えにくいところもあると考えています。あ、勿論、小さくなって来るので、妖精さんが来るくらいで考えていればいいんじゃないかと」


小さいと言っても、見た目だけなので、可愛いとか言って抱きかかえるような真似は、了承を得てからにしてくださいね、と補足したけど、来る、それも頻繁に来るとわかったせいかショックを隠しきれない感じだ。


後ろの神官達なんて怖れと嫌悪の入り混じった顔をしてる。それでも、武器に手を伸ばさないあたり、学習効果が出ていて良かった。


「……そうか。では社へ」


丁寧な物腰だけど、ついて行く以外の選択肢はないって雰囲気バリバリだ。


急勾配な階段を見て、気分がげんなりしてしまった。





前回と違い、着膨れしてはいるけど、足元が見えるおかげでだいぶ気分が楽になった。


それでも両端には手摺りも付いているけど、中央を歩かされる僕にとっては、遠過ぎて役に立たない。


だいたい、こんな急勾配じゃ、参拝に来る人が転落事故をいつ起こすか心配だ。


石の擦り減り具合をみた感じ、あまり参拝者は多くないみたいだけど。


「アキ、どうかしたかのぉ」


お爺ちゃんに声を掛けられて、少し意識が余計なところに流れていたのに気付いた。


上を見上げると、巫女さんと二人の神官が足を止めて僕の方を見ている。登り慣れているようで、彼らは余裕で歩いてるけど、そのせいで一般人との感覚のズレがある気がする。


……まぁ、同行しているケイティさんもジョージさんも、護衛人形の皆さんやベリルさん、それにトラ吉さんも足取りは確かで、この場では僕だけが一般人枠のようだけど。


「勾配がなだらかな女坂も用意した方がいいんじゃないかと思って」


「馬車で山を登った「いろは坂」のようにするなら、登り易くはなるじゃろうが、歩く距離がずっと増えそうじゃな」


それよりは短い距離を真っ直ぐ登る方が儂は好みじゃ、とか話しているけど、空を自在に飛べて、垂直上昇できるほど推力に余裕があるから言える話だと思う。


地球(あちら)と違って、空間鞄があって、馬車道を上まで伸ばす意味も薄いから、無い物ねだりだけど」


下を見れば、僕の乗ってきた馬車がオモチャみたいに小さく見える。石段は急勾配で落ちたら洒落にならない。


「ニャ」


トラ吉さんが上を見上げて、そろそろ登れ、と催促してきた。


深呼吸をして、気を引き締め直して、石段を登り始めた。結局、前回より寒かったこともあって、登るのに手間取ってしまった。

手を着かなかったのは良かったと思ったけど、ジョージさんからも、他の運動と違って中々慣れないものだな、などと残念そうな目で見られてしまった。


社から見下ろす風景は綺麗だとは思ったんだけど。


巫女さんと神官の二人まで、残念そうな表情を浮かべていたのは失敗したかなぁ。いつでも、どこでも淑女らしくってできるミア姉の事、ほんと尊敬するよ。


まぁ、背伸びはしないけどね。僕はミア姉じゃないんだから。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。

リア&エリーの先発隊の説得によって、連樹の神官達も協力を約束してくれました。どんなやり取りがあったかはアキは知りませんし、あまり興味もありませんが、エリーが経験を積むのには良い機会だったことでしょう。連樹の社に登ったのは二回目でしたが、アキはなかなか慣れないようです。これが魔導師なら簡単に空間に盾でも創造して、それを使って崩れた姿勢を戻すとかできるし、妖精さんならそもそも飛んでるから、落ちるという考えがないし、トラ吉さんなら、宙空に壁を作って蹴って戻るくらい簡単、という訳で、なかなかアキの小市民な感覚は理解して貰えません。

勿論、こちらの世界でも一般市民にそんな真似はできないから、彼らならアキに共感してくれるでしょうけど、市民達とアキが接点を持つのは危険過ぎて許可が出ないので、そんな機会は当分、訪れることはありません。

次回の更新は、2020年07月22日(水)21:05です。

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