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10-22.召喚術の効率改善(後編)

前話のあらすじ:妖精女王シャーリスの話によると、妖精の国で、物質界への召喚熱が高まっており、沈静化を図らないと国の運営にも影響が出かねない、という話でした。そのため、召喚人数を増やせそうな「魔力位階の調整」に関する情報は当面秘匿されることになりました。

外に集まる場を用意するのは大変なので、今回は皆で、鬼族の大使館に集合した。


定番の歯応えのある焼き菓子にシャーリスさんが興味を示したものの、固くて食べるのに苦労して、石かと思ったなどと話す一幕もあったりして、場の空気が和んだ。


「――という訳で、召喚術式自体の改良によって、更に召喚できる人数が増やせる、その事は、初期メンバー六人以外には、秘密として欲しいのじゃ」


シャーリスさんの説明を聞いて、具体的に何を気をつければいいのか、皆が意見を出し合った。そもそも効率を改善した召喚竜を目にするのも不味いのか、召喚の魔法陣を見せるのはどうなのか、竜族の竜眼のような観察に役立つ能力を妖精族は持っているのか、などなど、意見が出尽くすまでに三十分ほど費やした。


「新たに増える妖精達は、召喚体の保有魔力を大幅に抑える。だから、やれる事はこちらの魔導師と大差ないと思ってくれていい。それに魔導具も持ち込めないから、使える術式も片手間でできる簡素な物に限定される。だからここに居る者達が話さなければ、問題はあるまい」


シャーリスさんはそう話したけど、同意している人は少ない。


「魔力の位階を調整する機能を付けた召喚魔法陣から、妖精達は召喚される事になるが、魔法陣を見たら、気付く者も出てくるのではないでしょうか?」


トウセイさんがおずおずと意見を述べた。


「召喚を支えるアキやリアの魔力総量、回復量を知っているのは初期の六人だけよ。ならば、召喚枠にどれだけ余裕があるのか、推測で埋めるのは難しかろう」


シャーリスさんの意見にお爺ちゃんが遠慮がちに手を上げた。


「それなんじゃが、こちらで光の花を描いて大盛況だった件やアキがその際に魔力が大きく減って意識を落とした話は、大勢が知る所じゃ。そうなると、勘の良い者なら、二人の魔力総量や、簡易召喚体換算で何人喚べるか、推測も付いてしまうじゃろう」


むむむ。


「それでも、現在の召喚と、位階を調整した召喚で、どれほど改善できるのかは、両者を比べない限りはわからない、そうじゃないかい?」


師匠の言う事も尤もだ。


「それなら、召喚の方式は順次切り替えていくから、新旧の魔法陣を見比べたりしなければ問題なさそうですね。もし、効率改善に気付いても、竜族の分の枠も必要だから、妖精さん達の分が増えない、と話しておけばいいでしょう?」


どうかな?


「――気になる事があるんだ。翁だけは召喚体も特別で、以前、雲取様が竜眼で見た際にも、他の五人とはまるで別物と話していた。そこから、召喚効率改善に気付く人が出てくるかもしれないってね。ただ、私は翁の召喚は継続維持がいいと思う」


リア姉の意見に皆が注目した。


「宝珠経由の魔法陣は、魔力供給が魔法陣頼みだから障害に弱い。翁は今のままなら、二人の経路(パス)を通じて魔力は供給されるから、その点は安心だ」


よく考えてるなぁ。確かに子守妖精としてなら、最後の防壁として活動し続けられるとありがたいね。


「翁の召喚体と、簡易召喚体を見較べて、そこまで気付けるだろう者はそう多くない。そこはこちらで対処しよう」


シャーリスさんが請け負ってくれた。


「それなら、こちらは研究組が気を付けて、後は第二演習場に、新たにくる妖精達さえ近付けなければ、当面は秘匿できるだろうさ。竜の召喚である程度、見通しが立つまではどちらにせよ、現状維持しかないからね。それにいくらドワーフ達でも、魔法陣の手直しとなれば暫くはかかるってもんだよ」


師匠が総括して、当面の方針は決める事ができた。それにしても妖精さん達の一割召喚や、竜の召喚、か。いつのまにやら、バリエーション豊富になってきたものだ。





話し合いが終わったら、今度は研究組はセイケンも含めて第二演習場へ。


既に紅竜さんと白竜さんが到着して待ってたので、皆も足早にテーブルセットに集まった。


<もう心身共に回復したから、召喚をまた試してみたい>


紅竜さんはさすが前向き、先ずは自分からやろうと言う意気込みが段違いだ。


そう言えばちょっと気になったんだけど。


「魔力の位階を合わせるって話なんですけど、トウセイさんが大鬼で魔力供給したみたいに、召喚した紅竜さんに魔力供給をしたら、顕現率は良くなるんでしょうか?」


「――試してみる価値はあるかね。紅竜様は召喚後、竜眼の使用を禁止、本体の方は戦術級の常闇の術式で隠蔽、賢者は宝珠から位階を調整して魔力を取り出しておくれ。上手くいけば、前回よりマシな姿になるだろうさ。いいかい!?」


師匠が皆に問い掛けて、ケイティさんを指差した。


「何、他人事みたいな顔をしてるんだい、常闇の術式、使えるんだろう? なら、ちゃっちゃと準備するんだよ。アキ、お前もボサっとしてないで、召喚陣に行きな!」


ケイティさんが難色を示したけど、こんな年寄りに大技を使わせようなんて敬老の精神はないのかい、などと師匠に愚痴を言われ、仕方なく魔術を使うことに同意してくれた。


召喚の為の心の接触に、視界は関係ないから、紅竜さんの同意を得て、先に魔術を使うことになった。


ケイティさんが杖を構えて、呪文を唱える。


『全ての星は眠りにつき、世界を真の闇が包み込む――黒夜』


溶け込むように、紅竜さんが半球状の黒い闇に飲み込まれてまったく見えなくなった。

以前見た時と同じように、杖の宝珠のところで、魔法陣がいくつも展開されているから、それで術式の維持をしているっぽい。


<――これなら、召喚体の紅竜が本体を見る事はできないと思う>


白竜さんのお墨付きも得られたので、さっそく、召喚の魔法陣に移動して、心を触れてみた。


触れた感じからすると、確かに完全回復しているようだ。


<紅竜様、回復されて何よりでした。召喚したら、前回との差や、宝珠からの魔力供給でどう変わるか確認してみてください>


<うむ>


紅竜さんは前回同様、丁寧に召喚の内容を確認してから承諾して、召喚体に意識を移した。


さて。


やっぱり、前回と同様、存在はしているけど、儚げな印象で、顕現率が悪そうだ。

相変わらず、魔力の減りが半端なくて、寝落ちしないように努力がいるのはキツい。


「紅竜さん、どうですか?」


<やはり感覚はあるが、体が脆い感じだ。竜眼も――やはり精度が悪い。魔術も――弱いか>


体を動かしたり、白竜さんを竜眼で眺めたり、宙空に障壁を作ってみたりと、試していたけど、感想は前回と変わらないようだ。


師匠が、竜眼を使うな、と話したろうに、とボヤいているけど、竜族にとって、竜眼を使うのは手足を動かすようなものだろうから、つい使っちゃったんだろう。でも、竜眼でも本体を覆い隠す闇の方は避けて白竜さんを見ていたから、前回と同じ轍は踏まないようにはしてくれている。


賢者さんが、大鬼のトウセイさんの時と同様、特大宝珠から位階を調整して魔力の放出を始めた。湯加減を調整するようなやり取りが幾度か交わされた後、紅竜さんは焚き火に当たるように、宝珠に手をかざしている。


「どうですか?」


僕の問いに、紅竜さんは暫く体を動かして確認をした。


<……これならかなり顕現率も良くなりそうだ>


僕が見ていても、少しずつだけど、実体化が進んでいるように見えるから、なかなかの成果と思う。


「それで、何か気になる事はあったのかい?」


師匠は紅竜さんの物言いから何か感じたようだ。


<確かに改善はしていってるが、脆い骨に血肉をつけるようで、効率が悪そうだ。白竜から見てどうだ?>


白竜さんは竜眼で観察すると頷いた。


<今の紅竜は、穴の開いた器に水を注いでいるかのよう。注ぐ水の量が多いから貯まってはいくけれど、無駄が多い。初めから、宝珠経由の召喚陣で喚ぶのが良さそう>


「先ほどの調整で、紅竜殿に合わせた魔力供給の為の術式は特定できた。この術式を改造中の魔法陣に組み込めば、紅竜殿の召喚も大幅に改善できるだろう」


話を聞いて、賢者さんが現状を総括した。

その後も、チャージするのは大した手間ではないからと、無駄には目を瞑って、召喚体の紅竜さんが力を振るうのに、及第点と言えるにはどの程度の顕現率が必要か調べていった。


その間も白竜さんは、妖精さん達を見比べたり、闇に覆われている紅竜さんの本体と、召喚体の紅竜さんを見比べたりと、とても熱心に竜眼で観察を続けていた。


結局、顕現率が六割で体を動かして違和感が我慢できる程度になり、七割で竜眼が実用レベルになり、八割になれば、魔術の使える最低ラインに到達する事が判明した。


それ以上、顕現率を上げるのは、魔力を注いだ際の伸びが悪くなってきた為、確認できず。


快適な召喚体験までは、まだまだ手間がかかりそうだった。

ブックマークありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。

宝珠経由の召喚は、翁以外の妖精達に対してだけ行うことになりました。翁は子守妖精であり、他の妖精達とは役目が違うので順当な判断でしょう。まぁ、宝珠経由の召喚だって今までは数分稼働すればよしとしたものを、何か月、何年と連続運転することを目指す訳なので、今後はいろいろと問題も出てくるでしょう。こちらでどれだけ大事故になっても、妖精界の本体側には影響がないので、妖精達は気楽なものですけどね。なんにせよ、位階を調整すれば、顕現率も改善できそうと当たりもついたので、プロジェクトとしては順風満帆と言えるでしょう。

次回の更新は、2020年07月08日(水)21:05です。

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