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10-21.召喚術の効率改善(中編)

前話のあらすじ:召喚に用いる魔力を、大鬼に魔力供給した際と同様、位階を落として魔力量を増やす提案が出て、早速、試す流れとなりました。ただ、妖精さん達の召喚も、位階調整すればもっと大勢召喚できそうと言う話しに繋がり、慌ててセイケンが流れを止めました。

具体的な話になれば、皆さん、専門家だから話は早い。その日のうちに大まかな設計は終わり、翌日以降、ドワーフのヨーゲルさん達や妖精の彫刻家さんの手を借りて、宝珠経由の標準的な召喚魔法陣に、魔力位階を調整する術式を組み込む作業が始まった。


……そして、今後、当面の間、今後やってくる妖精さん達に対し、この試みについて箝口令が敷かれる事になった。





「これが雪景色か。話には聞いていたが、これ程厚く積もるとは! やはり妾も来て正解だったわ」


妖精さん用で僕のとお揃いのオレンジ色の防寒着を着込んだ妖精女王のシャーリスさんが、僕の周りをふわふわと跳びながら、一面の銀世界を堪能していた。


僕はと言えば、先日と同様、スノーシューを履いて、雪道を歩く訓練をしていて、お爺ちゃんは今回は子守妖精役だ。そして、妖精界からはシャーリスさんが雪景色を見る為に訪れており、近衛さんはその護衛として同行してきた。勿論、近衛さんも今回は防寒着を着ていて御満悦だ。


「勾配の急な屋根は雪を落とす為か。それに建物も風に耐える以上に壁を厚く頑丈にしているのは雪の重みに耐える為。――成る程、よく考えられておる」


別邸の周りを歩いて、建物の作りを観察して、時折、お爺ちゃんに話を聞きながら、あれこれ考えている。


「それでシャーリスさん、今回は雪景色を堪能しにきたの?」


「それもあるが、今回の試みについて、増員する妖精達に対し、暫く箝口令を敷くよう依頼しに来たのじゃ」


関係者を集める手配は既にケイティさんに頼んでいる、とも。


「それって、更に召喚枠を増やせるというカードを伏せておきたいから?」


「それもある。じゃが、話はもっと単純な話よ。貴重な召喚枠を利用するとなれば、力量のある者が選ばれる。それが何十人と抜ければ、その穴埋めだけでも暫くは苦労する。まして、それが何百人となれば、国の運営にも支障が出かねん。だから箝口令なのじゃ」


ふむふむ。


「こちらにくる大勢の妖精さん達に対応するとなると、こちらも大勢で対応しなくちゃならないからね。でもそうなると結構大掛かりな話かも」


魔法陣建造に携わってるドワーフ技師さん達は多いし、第二演習場で警戒している人形遣いや森エルフの皆さんもいる。


「魔法陣で竜を召喚する、その情報には然程意味はない。召喚効率を改善できる、それによって更に召喚枠が増える、そこだけ秘匿できれば良い。それならば、ある程度、対象人数も絞れる筈じゃ」


んー、表情からして、秘匿は確実にやらないと不味いっぽい。


「もしかして、こちらに召喚される枠を巡って、騒動が起きているとか?」


僕の問い掛けに、シャーリスさんはうんざりした顔をして、チラリと近衛さんの方を見た。


「私は何も聞きませんのでご安心を」


近衛さんは大人の対応を約束した。


「続々と齎されるこちらの話に、興味を示す者達が爆発的上昇気流(アップバースト)の如く増えてな。例のハンググライダーや、飛行船の話も進めておるから、こちらが、実在する異世界、それも訪問可能な異世界と国民へも認識が広がった効果だが、ちと過熱気味なのよ。今は選抜基準を宰相が検討しているから、妾はこちらでの対応を分担する事にした、そう言う事じゃ」


「あー、つまり丸投げして、逃げてきたと」


僕が揶揄うように笑うと、シャーリスさんもふんっと鼻を鳴らして意地の悪い表情を浮かべた。


「そもそも、妾になんとか枠を融通しろ、と陳情が多過ぎる。日頃は無関心な癖に、こんな時ばかり頼るとはいい気なものじゃ。それに部下が出来る仕事は、部下に任せる、それが上に立つ者の権利であり義務じゃ。妾が忙しくしていては、落ち着いて判断もできぬ」


たまには息抜きもせんと〜、なんて言ってる。近衛さんもそんなシャーリスさんの言葉を咎めるつもりはないようだ。


「こちらで羽を伸ばしてのんびりしてください。寒い時期ならではの体が芯から温まる料理も沢山あるから、昼食は期待できますよ」


「それは良い♪ 寒い日に温かい料理を食し、暑い日に冷やした料理を食する、か。贅沢な話よな」


「体は食べた物で出来てますからね。過剰な美食は害になるけど、毎日のことだから、どうせなら美味しくいただきたいものです」


その後も、昼食の話題に花を咲かせながら歩けたので、スノーシューでの雪道歩きも楽しく終える事ができた。





昼食は、なんと雪見鍋! 擦り下ろしたたっぷりの大根のお陰で、サッパリした味わいになり、野菜や豚肉の旨味がダシと合わさって、つい食べ過ぎてしまい、シメの雑炊を食べた後、暫くまったりしている程だった。


「擦り下ろした大根がまるで雪のようじゃ。アイリーン、見事じゃった。我が国でも大鍋で皆が食せる鍋料理の催しを考えてみるとしよう」


「夏場でもすだちを加えレバ、問題ありまセン。後ほど、翁にレシピを伝えておきマス」


アイリーンさんが一礼し、シャーリスさんもまた満足そうに頷いた。


日本あちらでも、何千人と食べられる大鍋で、鍋料理を作って、皆で食する祭りが開かれていたから、きっと上手くいくよ」


「魔力もないのに、そのような大仕掛けは大変ではないのか?」


地球あちらではその代わりに機械仕掛けが発達しているから。大鬼のトウセイさんより大きな機械の腕で、鍋をかき混ぜたりするんだよ」


そこまでしているところは稀だけど、と伝えたんだけど、食にそこまで情熱を傾ける事に、シャーリスさんは衝撃を受けたようだ。


「――あちらの話はスケールのおかしな話が多くて、話を聞いてもなかなか信じ切れぬものよ」


アキの話す事を疑っている訳ではないのだが、と話してくれて一安心。


「シャーリスさんと心話ができればいいんですけどね。なんとかなりません?」


僕の問いに少し考えていたけど、何か閃いたみたいだ。


「アキは所縁(ゆかり)の品を経由して、相手と心を繋ぐ。そして、所縁(ゆかり)の品と相手は深い経路(パス)で繋がっている。それを術式が利用する事で両者を結んでいる。ここまではよいか?」


「うん、そうだよね」


「ならば、アキと深く交流を重ねる事で、二人の間に太い経路(パス)が形成されればどうか?」


所縁(ゆかり)の品と持ち主が繋がるように、僕とシャーリスさんも繋げられるって事?」


シャーリスさんは深く頷いた。


「もっとも、アキが試すのであれば、先ずは翁と試みてみることじゃ。妖精族の中でアキと最も交流しているのは間違いなく翁だからのぉ」


「うん、うん」


それならちょっと試してみたいなーと考えたところで、ケイティさんが割り込んできた。


「アキ様、今のお話は興味深い内容を含んでいるとは思いますが、実現には幾つもの困難があります。翁から繋ぐには、魔力属性が完全無色透明のアキ様を認識せねばならず、アキ様から繋ぐには、まず心話の技を習得しなくては、それも叶いません」


「う、それだと厳しそう」


それに、と言いながらケイティさんが僕の手に、そっと自分の手を重ねてきた。


「もう少し準備に時間は必要ですが、私との心話を先にしませんか?」


「えっと、その、お願いします」


茹で蛸になりながら話す僕に、リア姉が溜息を吐いた。


「いや、これは普通の反応だから!」


年上のお姉さんが控えめに、自分との約束が先、とアピールしてきた、というのは、心にグッとくるポイントが高いよね!

まして、ケイティさんのような美人さんなら尚更だ。


そう話すと、リア姉は何を思ったのか、自分の手を重ねてきた。


「どうしたの?」


何のつもりなのか、謎だ。


「――その差はあんまりじゃないかな?」


リア姉はブスっとしながら、それなら指圧してやるー、などと言って、僕の手をいじくり回した。

評価、ブックマークありがとうございました。執筆意欲が大幅にチャージされました。

妖精女王のシャーリスもきて、今後やってくる追加の要請達への箝口令が敷かれる事になりました。流石に中枢から何百人と抜け兼ねないとなれば、国が傾きますからね。

心話に関するケイティの反応は、アキ的にはポイントがストップ高でしたが、リアからすると、自分への反応が鈍い事は残念だったようです。それはそれで好ましい反応とリアも理解はしてるんですけど。

次回の更新は、2020年07月05日(日)21:05です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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