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10-19.白竜と紅竜

前話のあらすじ:白竜を交えて、小型召喚についていろいろ検討を行いましたが、まずは通常の召喚方式で、紅竜を召喚してみよう、という話になりました。妖精さん達で沢山やってて実績もあるので、とりあえずお試しでやってみるのもいいかなーと思いました。(アキ視点)

次の日はやっと雪も止み、弱々しいけれどお日様も出て、明るい雰囲気になった。気温は低いので、積もった雪が溶ける事はない。


第二演習場には、約束通り、白竜さんと紅竜さんが一緒に降り立った。どちらも甲乙つけがたいほど熟達していて、飛び方ではほんの少しだけ紅竜さんがリードし、魔力の抑え方では白竜さんがリードしてる感じだ。


今日は場合によっては紅竜さんの召喚を行うと言うこともあり、白岩様の時と同様、研究者の皆さんが観測用の魔導具を並べて、念の為、スタンバイしている。


召喚用の魔法陣だけど、お爺ちゃんを召喚した際の魔法陣を、こんな事もあろうかと、いつの間にやらロングヒルに持ち込んできたそうで、ドワーフのヨーゲルさんが指揮をして、夜中のうちに敷設してくれたそうだ。


なので、召喚については実行できる準備はできてたりする。


「紅竜様、よくいらしてくれました。白竜様、話は一通りしてあります?」


<話した。だから問題ない>


白竜さんは義務は果たした、といった感じだね。それに比べると、紅竜さんはなぜか僕に恨みがましい視線を向けてきていた。


<聞いたぞ。初召喚に私を推薦したのはアキらしいな>


「はい。貸しなんてさっさと返した方がいいでしょう? それに竜族初の召喚ですからね。紅竜さんなら、挑戦してくれると思ったんですよ」


僕の説明に、紅竜さんは首を傾げた。


<なぜ、そう思った?>


「雌竜の皆さんの中で、率先して先頭に立つ感じなのと、何かあれば、先ずは自分が試してみようって気質があるかなって」


白竜さんもその通りと頷いていた。なんだかんだと、雌竜達の中では仕切り役って感じだし、はじめに降りたった時も、代表して話をしてたからね。


<それは認めよう。だが、後で心話で伝えるから、今回の試みがどれだけ非常識かよく理解しておくように。普通は竜眼で見る事を許したりはしないし、我々は了承もなく他の竜を竜眼で見たりはしないのだ>


紅竜さんは、色々あって挑戦せざるを得ず、竜眼で観察する事の必要性も理解はしているけど、心情的にはかなり嫌、と思念波で感情マシマシで送ってきた。


<それでも今回は了承は受けているから問題ない。紅竜も覚悟を決めて、召喚されるがいい>


私がじっくり観るから、と白竜さんは煽るような目線で伝えた。もっとも、見たくない相手なら、そもそも頼んだりしないだろうし、なんだかんだと言っても、二人とも仲がいいんだろう。





賢者さんが、召喚について気を付ける事、何かあった場合の対応方法について説明して、特に追加の質問が出る事もなく、僕が召喚を行う事になった。と言っても、召喚用魔法陣に紅竜さんの所縁(ゆかり)の品をセットして、後は心話を行うだけというお手軽さだけどね。


<さて、紅竜様。召喚する前に、さっきの話を教えてください。竜眼で見られる事がどんな感じなのか。言葉にしないで、感情をそのまま渡してくれればいいですから>


紅竜さんは、そもそも言葉にするのは難しい、と言いながら、感情を山盛り渡してきてくれた。


あー、これは恥ずかしいかな。


人族で言えば、人前に裸で出るようなモノだね。小さい頃は気にならなくても、成長して、異性を意識するようになる頃には、見られる事を恥ずかしく思えてくる、と。


<すみません、これ程とは思ってませんでした。……無理強いはしたくないので、辞めます?>


<理解してくれれば、それでいい。……必要な事と理解はしているのだ。それに白竜なら、それほどでもない>


幼い頃から一緒だったから、仲のいい姉妹みたいなもの、と。そんな関係っぽい。


<ちなみに、雲取様が相手なら?>


<な、な、なんて事を!?>


やっぱり乙女のようで、気になる異性相手となれば、かなり恥ずかしいようだ。もっとも、でも雲取様が相手なら〜などと意を決するような事も考えてたりして、いざとなると腹が据わるのが女の子なのかとも思う。


そんな風に、妄想まで炸裂するほど迷走していた紅竜さんも、少し待っていたら落ち着いてくれた。


<落ち着いたようですので、そろそろ宜しいですか?>


<始めてくれ>


お爺ちゃんの時と違い、じっくり考えてから了承する感じで、魔法陣お任せの召喚術式が発動して、魔法陣の一部が輝き出したんだけど、魔力が物凄いペースで減っていく。


妖精さん達が光の花を大空に描いた時と違い、一気にがっつり持って行かれた感じだ。


ちらりとリア姉の方を見ると、目が合った。やはりリア姉の方も大きく減っているみたいだ。


そこまでして現れたのは、実体感の薄い、陽炎のような紅竜さんの姿だった。


羽を動かしたり、尻尾を動かしたりとあれこれ確認していて、表情からすると、それなりの成果は出ているっぽい。


白竜さんも召喚体の紅竜さんを竜眼で観察し始めた。


深夜まで起きているときのような眠気が酷いけど、まだなんとかなるので、話しかけてみる事にした。


「紅竜様、その体はどうですか? 空は飛べそうですか? それに竜眼や魔術はどうでしょう?」


<不思議な感覚だ。体全体が仮初で脆く感じる。空は飛べそうだが、竜眼は――厳しい。魔術は――やはり鈍いな」


紅竜さんは見返してやる、と白竜さんを竜眼で見たけど、残念性能らしい。その後、宙空に仮初の壁を作ってみたけど、僕でもわかるくらい、現実味が薄くてすぐ消えてしまった。


「顕現率が悪いようですね。ただ、今はこれ以上の顕現率は無理そうです。あまり使い過ぎると、お爺ちゃんの召喚も維持できなくなるので」


<それにしても、アレが私か。自分で自分を見るとはなんとも――>


そこまで話したところで、紅竜さんの様子が一変した。本来の自分自身を見つめたまま、凍りついたように動きが止まったのだ。しかも召喚体が急に存在感を失い、少しずつ消え始める。


「紅竜さん!」


大声で話しかけても反応なし、心話魔法陣に戻り、すぐに心を触れ合わせて、僕の方に意識を向けるよう、激しく心を接触させた。


<紅竜さん! 僕の声わかりますか!?>



触れてわかったのは、なぜか心がループしていて、こちらを向いていない、という事。

強引だけど、福慈様の時の経験をもとに、心を奮い立たせて、全力で叩きつけた。


<!>


何度目かで、やっとループが止まって、僕のほうを認識してくれた。


<……アキ、か。わたしは一体……>


かなり動揺しているものの、トラ吉さんがしてくれたように、そっと寄り添って僕の事を意識させるように仕向けていたら、十分ほどして、なんとか心が落ち着いてくれた。


<もう大丈夫そうですね、良かったです>


<……助かった。ありがとう>


心話に意識を切り替えて五感から切り離したのが良かったのかもしれない。聞くのが怖いけど、確認しないわけにも行かないから聞いてみよう。


<それで、何があったんでしょう? 僕が触れた感じでは、心がグルグルとループして終わりのない全力疾走って感じに陥っているようでしたけど>


僕の問いに、紅竜さんは自分の心に問いかけるように、少しの間、考え込んでいたけど、状況が整理できてきたみたいだ。


<私は召喚体を自身だと認識していた。ところが、目の前に本来の自分自身を見て、おかしな意識になった。あちらにいるのが本来の自分自身、ならば、今、自身だと感じているこの身は何か、どちらが自身なのか、とまるで、水面に映った自分同士が、自分こそが本体だと言い合うかのような状態に陥った。その辺りで自身が何処にあるか、足元が崩れる感覚に飲み込まれて――後は気がついたらアキと心話をしていたのだ>


聞いた感じだと、自己認識が本体と召喚体の間で揺れて定まらなくなったように思える。普通は経験できない、二人の自分。そのせいで魂が混乱したのかもしれない。


<妖精さん達も、本体は妖精界にいて、同じ場所で、本体と召喚体が並ぶような事はなかったから起きなかった問題かも>


トウセイさんの「変化の術」も体は入れ替わるから、同時に二つの体が並ぶような事にはならないし。


<先程も、本来の体を見るまでは、感覚が混乱することはなかった。だから、それさえ防げれば、問題発生は防げるとは思う>


ふむ。ただ、このまま続けるのは避けたほうがよさそうだ。


<取り敢えず、今回の召喚は一旦、此処までとしましょう。すぐに飛んで帰るのも止めて、ここで休んでいきませんか? 魔力は回復せずとも、心の疲労は休めば回復すると思うので>


僕の提案に紅竜さんは合意してくれた。


<それでは、召喚を終わりとしよう>


紅竜さんがそう告げると、心の状態が少し変わったのがわかった。ヘッドマウントディスプレイを外してゲームを終わらせたような、そんな感覚。顕現率の悪い召喚は、少し窮屈さを強いるようだった。





心話を終えて、外に意識を戻してみると、白竜さんが心配そうな顔つきで、紅竜さんと僕を覗き込んでいて、僕と目が合うと思念波を叩き込んできた。


<説明して!>


召喚が終わった事や、紅竜さんの状態が元に戻った事、僕が心話で何かした事、そもそも、紅竜さんの様子が激変した事など、色々と変化があり過ぎ、しかも自分では手が出せない歯痒さもあり、それらが渾然一体となって、少し涙目な感じの思念波だった。


皆を見ると、やはり説明するよう言われたので、僕は心話をする中で感じた事、話し合った事、召喚を終わりにした判断などを順を追って説明した。


時折、紅竜さんも補足してくれた事もあり、一通り聞くと、白竜さんも皆も取り敢えず納得してくれた。


紅竜さんから、精神的にかなり疲れたので、今日はここで寝て休んでから巣に帰り、日を改めて続きをする事が提案されたため、今日の研究会はここまでとなった。


白竜さんも付き添って休んでいくことになり、僕達は第二演習場を後にした。


召喚はまだまだ分からないことだらけだ。

評価ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

今回は、竜族初の召喚となりました。残念ながらいろいろと足りなくて、朧げな感じの召喚になってしまいましたが、それでも手乗りサイズの妖精さんと違い、三回建ての建物にも相当する巨大存在の実体化ですから、魔力が大量に必要なのも仕方ないところでしょう。そして、本体と召喚体が同時に存在することの弊害もまた明らかになりました。このあたり、初めて尽くしなので、次回から研究組が白竜や紅竜も交えて、検討を重ねることになります。

次回の更新は、2020年06月28日(日)21:05です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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