10-15.雲取様と内緒話
前話のあらすじ:スノーシューを履いて雪道を歩いたり、新たな成竜、白岩様がやってきてお話しました。穏やかな日々ですね。(アキ視点)
白岩様が去ったのを確認して、今度は心話用の魔法陣に移動して、雲取様の黒く透き通った鱗をセットして貰った。
<雲取様、今、お時間宜しいですか?>
心が触れた感じでは、深い思索に耽っていたってとこなので、お邪魔だったかも。
<……何だ? 今日の相手は揉める事はないと思っていたが>
<白岩様とのお話は良い感じで、次に来る約束もしました。ちょっと相談したいのは福慈様の事です>
先程までのやり取りのイメージを渡して、和やかな会合だった事を伝えると、雲取様も安堵してくれた。
<問題がなかったのは何よりだ。それで福慈様か>
<はい。三大勢力の話し合いと、それに伴う竜族の皆さんの立ち合いも無事終わったので、その旨を報告しようと思うんですけど、先日の話を雲取様が福慈様に話してからの方が良ければ、福慈様への心話は後回しにしようと思いまして>
三者で話し合えないのが心話の欠点ですよね、とも伝えた。
<その件か。確かに順番は考えねばな。我の考えもまだ纏まっておらん。福慈様には我の方から会合が問題なく終わった事を先ずは伝えておこう。それと、我が先日の話を福慈様と話し終えるまで、アキは福慈様との心話を控えてくれ>
雲取様は、僕と福慈様が話をして物事が雪崩を打って変化しかねない、と懸念しているようだ。というか、そういう気持ちが伝わるよう、意識して心の内を渡してきてくれている。心遣いが嬉しい。
<では、そのようにします。できれば、福慈様と話した結果を、差し支えのない範囲で教えてくれますか? その方が話がしやすいので。それと場合によっては、心話魔法陣を改良して、所縁の品を簡単に切り替えられるようにして、雲取様には福慈様の住まいに出向いて貰って、擬似的ですが、三者で話し合える感じにしてみてもいいかな、と思うんですが、どうでしょう?>
僕の提案に、少しの間、雲取様は考え込んでいたけど、結論が出たようだ。
<福慈様と我であればそれもいいだろう。ただ、心話をしている間は無防備になる。どの竜でもできる手法ではないだろう>
確かに深い信頼関係にないと、無防備な姿は晒せないね。
<それでは、スケジュール通りであれば、次の来訪時に成果を聞かせて貰う感じで、もし、急ぎであれば森エルフかドワーフの方に連絡して貰って、僕から雲取様には心話を繋げるようにしますね>
<うむ。それでいこう>
ん、特にすぐ思索に戻りたい感じでも無さそうだから、ついでに白岩様とのやり取りの件も相談しておこう。
<それと、ちょっと相談なんですけど、来訪してくれる皆さんへお出ししているケーキや飲み物なんですけど、今日のような天候が荒れている日には、すぐ冷えてしまい、味わって貰うのに不適切なので出せない件、他の竜の方々にも伝えて貰えますか?>
僕は、雪が降る中では、ケーキもすぐ冷えるし、味覚も鈍くなって、食べる環境ではないことを伝えた。
<――ふむ。貴重な食べ物なのだから、合わない環境で食する事は、料理をしてくれたアイリーンへの誠意も欠く行動だろう。わかった。それで、どのような天気ならば問題ないのだ?>
僕達がたくさんの人達で協力して、とても大きなケーキを、多くの手間を掛けて作っている事を知ってるから、雑に食べるのは失礼だし、勿体無いとも考えてくれたみたい。こちらの事を理解してくれるのはほんと有難い。
<風と陽射しは魔導具で何とかできるんですけど――>
僕は、街エルフの魔導具で風避けと陽射しの制御はできるけど、気温制御や湿度制御はあまりできない事から、それを前提に冬場の天候で、飲食に適している、魔導具制御で飲食に適するよう制御できる、魔導具込みでも厳しい、そもそも出歩きたくない、といった感じにパターン分けをして説明した。
<――快適な気候はかなり限定されるのだな。其方らの魔導具があれば、条件が緩くなるのは幸いだ。ところで、訪問時には広さからいって、この演習場しかないのはわかるが、心話魔法陣ならば、アキの住む家の近くに建物を用意して、その中で行えばいいのではないか? そうすれば風雨や寒さも問題とはならないだろう>
確かに。良い提案だ。
<良いお話と思います。今後、やり取りをする竜の方々にも増えていけば、第二演習場への移動の手間も省いた方が良いでしょう。ちょっと検討して貰う事にします>
<うむ、それがいい。――話のついでになるが、先日の話について、少し確認したい事があるのだが、時間はいいだろうか?>
<はい。まだ三十分くらいなら平気なのでどうぞ>
<うむ。それでな――>
それから、僕が先日話した竜族への様々な提案について、雲取様が考えた事や疑問に思った事などを時間ギリギリまで話し合った。心話のおかげで、話も効率よく交わす事ができて大満足だった。
◇
第二演習場からの帰りの馬車。
外の景色をながめたいなぁと思ったんだけど、有無を言わさず、馬車の中に引き摺り込まれた。
中にはいつのまにか、呼び寄せていたらしく、ベリルさんがノートを開いて、ヒアリングの準備万端って感じに。
「アキ様、先程、雲取様と話された内容について、できるだけ詳しく話してください。時間が惜しいので入浴時間もヒアリングを並行します」
ケイティさんがなんでもないことのように、そんな事を話してきた。そこまで警戒するような話はなかったと思うんだけど。
「福慈様との心話は、雲取様が福慈様と話をした後に回そうって事と、寒い日には料理は出せないよって話と、竜族への提案について、雲取様と質疑応答してきただけですよ?」
僕はざっくりと雲取様とのやり取りを纏めて話したんだけど、ケイティさん、ベリルさんの姿勢は変わる事がなかった。
「それデハ、先ずは心話のスケジュール調整の件について、お聞かせくだサイ」
ベリルさんが先ずはそこからと、さらさらとノートにメモを書いて、続きを促してきた。
……結局、その時に感じた事や思いついたけど話さなかった内容まで、お風呂に入ったりして寝支度をしている間も、寝るギリギリまで、話す羽目に陥った。
別邸の裏庭に、心話魔法陣を設置する建物を増築する方向で調整してみる、とケイティさんが同意してくれたのは良かったけど、往復の手間は省けても、ヒアリングの手間は減ってくれない。
誰か、心話用の記録装置を作って欲しい。心底、そう思った。
誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。
今回は、雲取様とのちょっとした内緒話という事で、福慈様への報告をどうするか調整したお話しでした。アキの方からしか繋げられない、一対一しかできない、と心話の不便なところも見えてきました。もっとも、それを不便と感じるのは、今のところアキくらいなものでしょう。そもそも普通の魔導師だと、魔力属性が合わないと心話が出来ないので、特定多数と、などと言う話は試せませんから。
次回の更新は、2020年06月14日(日)21:05です。