第九章の施設、道具、魔術
九章でいろいろと施設や道具、魔術が登場したので整理してみました。
◆施設、機材、道具
【人類連合の大会議場】
人類連合に所属する百を超える国々の代表が全員座れる大会議場で、人類連合の西側の中枢国ラージヒルにある。連合全体に影響のあるような重大な議題について話し合われる時に使われる。ただ、普段使いするには大き過ぎるため、実は使用頻度は低い。
吹き抜け構造であり、三階層分ほどと天井はとても高く開放感がある。そのため、幻影の世界儀を浮かばせる形で展示するようなこともできる。きっと、街エルフのロングヒル大使ジョウによる演説は、大反響を起こすことだろう。
【宝珠】
街エルフが製造している人工宝石の宝珠で大きさは握り拳大で探索者が利用することを想定している。膨大な魔力を蓄積しておき、いざという時に引き出して使う魔力の外部バッテリーといったところ。ただし、術者が自身の限界を超える魔力を一度に引き出すことはできない。また、蓄積されている魔力の属性が合わないと利用することもできないというように、術者との相性が発生する点は運用する際は注意すべきポイントと言えるだろう。アキ&リアが連樹の神に奉納した宝珠、今回の探索者向け宝珠、船舶向け大型宝珠は大きさこそ違うが、その役割は変わらない。大きい宝珠ほど製造が困難で作成時間もかかる。
【探査系術者用の避難所】
魔術での探査には、魔力を鋭敏に感知できる者が向いているのだが、探査能力が高い者ほど、強い魔力への耐性が低いという問題がある。鋭敏さが災いしてしまうのだ。探査に熟達した術者は貴重なことから、探査系術者を護るための魔導具は数多く開発されている。その中でも最も効果が高い施設が避難所だ。分厚い防護壁に囲まれており、中に避難することで、竜クラスの強い魔力に対しても、余裕で耐えられるという触れ込みだった。
……ただ、福慈様の魔力爆発では、避難所内にいても、更に複数の障壁を展開して、護符まで持たせる羽目に陥ったらしい。雲取様や雌竜達クラスであれば、耐えられたので、老竜クラスが別格という話だろう。
【長距離通信の魔導具】
遠隔地にいる者同士を本人と同じサイズの立体幻影と音声で再現して対話を可能とする魔導具である。声や動きを再現することが重要視されており、幻影の精度は本物に比べると劣るが、音声や動きのリアルタイム性はよくできており、慣れてくれば目の前にいるかのように話をすることができる。何でも立体幻影化するという訳ではなく、魔導具から少し離れると幻影の表示対象から外れるのは、本編で少し後ろに立っていたジョージ達が相手側に幻影がなかったことからもわかる。ロングヒルと共和国(本国)の間はレーザー通信網が整備されており、この幻影や音声のやりとりに必要な情報もそちらで送受信している。このような設備は街エルフしか構築しておらず、費用対効果の点からも他の種族は作る意味を見出していなかった。
しかし、アキと触れ合ってみて、少なくとも三大勢力間で各首脳部が直接いつでも対話できるホットラインの構築は必須との認識で、皆が合意した。知らないところでアキに動かれると、洒落にならない事態になることが容易に想像できたためだ。もちろん、統一国家樹立に向けて、密接な意思疎通と無用な衝突の回避を避ける意味合いもある。
そのため、街エルフから技術、資金の支援を受けて、三大勢力間のホットライン構築が進むことになるだろう。
【妖精サイズの竜の鱗を用いた装身具】
ドワーフ族のヨーゲルが、妖精族の彫像作成のための練習の一環として、こちらにくる六人分の装身具を作り贈ったもの。わざわざ雲取様から欠けている鱗を譲って貰い製作した。指先に乗るようなサイズのため、製造するための作業台や道具を含めて全て新たに造り出したが、これには複合工業施設の建設に従事しているドワーフ達が助力した。ドワーフ族でもその人ありと言われているヨーゲルでも手古摺ったが、それだけに出来栄えは、妖精族がお世辞抜きに絶賛した程だった。ちなみに練習ということで、妖精サイズの品を色々と作ったが、その出来栄えの見事さから、ドワーフの国でも評判になり、冬の趣味としてミニチュア作成が流行ることになった。
【妖精さんのハンググライダー】
妖精サイズのハンググライダーであり、形状的にはモーターハンググライダーに近い。これは、妖精が自分の羽を展開して推進力を生み出すためである。骨組みは彫刻家が作業皿を使い立体一発成型しており、金属製だがとても丈夫で軽い。翼もシャンタールが選んだ薄く軽く丈夫な布地を用いており、彼女が縫製を担当した。丈夫さと軽さの両立を極めて高いレベルで実現できているため、ちょっとした風でも上手く捉えて軽々と飛ぶことができていた。
ただ、そんな妖精さんのデモ飛行を観てしまっただけに、夢が膨らみ過ぎていたことを、各種族は自分達用のハンググライダーを作る際に身を持って知ることになりそうだ。
【緩和障壁の護符】
賢者とソフィアが共同開発した「こちらの意志は通し、竜からの圧力を軽減する」という都合のいい術式で、それを汎用化した上で、先行量産化したものである。この護符が開発されたことで、竜の前に立ち宣誓を行うといった儀式も行えるようになった。持続時間はあまり長くないなど、まだまだ改良の余地は多い。竜眼での観察の邪魔にもなるため、これがあれば竜との交流も万全とまでは行かない。護符の製造では、中枢部分に妖精の彫刻家による三次元立体製造技術が欠かせず、材料も特別なものを使うため、街エルフ、ドワーフ、妖精の協力がないと製造することができない。ちなみにこの護符は財閥からの貸与という形を取り、その賃料は効果に見合ってとても高い。ただ、他に代替品がある訳でもないので言い値で借りるしかないのが実情だ。
◆魔術、技術
【固焼き煎餅砕きの魔術】
皿の上に置かれたアイリーン謹製の鬼族向け固焼き煎餅を、翁がさらりと砕いた際の魔術で、人や鬼族換算でいけば、実は超難度魔術だったりする。なにせ、魔術の瞬間発動、飛び散らないよう周囲を覆う障壁と、煎餅を砕くための可動式の障壁の同時展開、更に煎餅は割れても皿は割れない力加減をしているのだから、まさに超魔術の無駄遣いといった感じだ。同じ真似もソフィアなら成功率は低い(皿が割れるとか)が何とか可能、ケイティには無理といったところだ。
【紙刃(魔刃)】
魔力を通すことで、薄い紙片を刃に変える技。魔刃と呼ぶ絶技、防御不能とまで言われる魔闘術の極みに繋がる初歩の技である。先ずは紙で果物を斬る。それができるようになったら、次はペーパーナイフで薪を斬る。そのように得物を変えていき、最終的には刀に魔力を通すことで、扉盾ですら真っ二つにできるようになるという。ただ、得物は別に刃物状でなくてもいいので、鬼族でも一部の達人になると、扉盾の縁に魔力を通して魔刃と打ち合うような真似もできるらしい。
【糸引き】
引っ張る瞬間に、如何に高めた魔力を糸に素早く通すか、それを鍛える鬼族の遊びである。魔術行使のために、自身の魔力を活性化させるという鬼族ならではの技と言えるだろう。この遊びで、魔力をモノに通すことに慣れていくことが、先々、魔闘術や魔刃に繋がっていくため、鬼族であれば誰でも熱心に遊んだことがある娯楽だったりする。ちなみに意識が他に向いていて「ただ持っているだけの糸」を魔力を通した糸で切るのは簡単だが、そんな小手先の技を使う子供は、皆からブーイングの嵐を受けることだろう。そんな真似をすれば切れるのが当然で、それでは全然面白くないからだ。……しかし、鬼族の女傑ライキは、事前情報もあったので敢えて、アキに対して不意打ちを行った。
結果、魔刃並みの鋭さを秘めたライキの糸はあっけなく切れてしまい衝撃を受けることになった。
【偽りの宝箱】
立方体の木箱っぽい仮初の物体を創り出す魔術。出現位置は固定されており、創造した位置から動かない。一部が脆く作られており、その一点をうまく杖で突くことで術式を崩壊させることができる、という魔術の観察力を養うための訓練用術式だ。ただ、アキは実は脆くない偽な方向から突き入れて、術式を崩壊させてしまい、鬼族の二人(ライキ、シセン)を驚愕させることになった。二人もアキと同様の真似をやろうと思えば、魔刃の技を応用して杖に魔力を通せばできなくもない。ただ、アキは普通に杖を持って突いただけでそれを為したのだ。二人が驚くのも当然だろう。
【防虫障壁】
主に鬼族が使っている野良仕事でよく使う術式である。発動後、維持しておく必要があるので、護符の形をしていることが多い。球状に障壁を展開し、対象の虫が接触すると一瞬だけ電撃が発生して駆除するというもので、仕組みとしては耐弾障壁と同じである。銃弾に比べれば虫は遥かに遅く脆いので、防虫障壁の護符は安価に量産可能で、地球での蚊取り線香レベルで普及している。
【火球連弾】
火球を秒間数発のペースで次々に生成して連射する戦術級魔術。あくまでも「次々に火球を生み出して撃ち出す」という一つの術式なので、火球を何百発と撃ち出そうとも、発動に必要な魔力は発動時の一回だけで、後は維持していけばよい。アキの場合、石礫を飛ばす呪文をやはり秒間数回というペースで使いまくっていたが、現象は似ていても、両者は全くの別物である。
単位時間当たりの火力はなかなかのものであり命中精度も高いのだが、維持している間は、火球発射しかできず、維持している間、同じペースで発射し続けてしまうため、実際に使う際には身を守る護衛の存在は欠かせないだろう。
なお、普通は敵部隊を相手に使うものであって、個人に対して使うものではない。
【包囲陣形の透明魔法陣】
妖精の槍を任意の方向に射出する術式を多数、同時展開する新型魔法陣である。
通常の槍の射出と違い、放つ寸前で留めてあり、照準も自動。狙った相手の主要な体の部位に多数を同時命中させる事で、受け流す事も耐える事も出来ず、その場に完全に釘付けにする仕掛けである。妖精の槍と照準と発射を担う術式をセットにして、更にそれらを束ねて対象を決めると、それぞれの槍がどこを狙えばいいか指示する術式まで組み合わせている、というなんとも凝った仕組みだ。
勿論、賢者の作であり、シャーリスも心の隙間に術式を入れて使っていただけで、こんな面倒な魔法陣を自力で展開できるのは賢者だけだろう。
ただ、せっかく作ったものの、お試しで街エルフの長老達を打ちのめしただけで、本番では使用されることがなかった。
本編で説明されているように、妖精界でもこの魔法陣は意味がなく、アキを護り、相手を無力化するため「だけ」のためにわざわざ用意された術式だった。多分、今後日の目を見ることはないだろう。
【福慈様の魔力爆発】
老竜である福慈様の逆鱗に触れた結果、秘めていた魔力を暴発させた事故。膨れ上がった魔力の渦は、波紋が広がるように弧状列島の大半の地域にまで届いた。激しい怒りに満ちたそれに触れた多くの者が恐慌状態に陥り、天空竜達も驚いて、空へと舞い上がり、距離を置いた程。しかも、落ち着くまでに数日を要したというのだから迷惑この上ない。
現象としては、魔力を乗せた恫喝である「竜の咆哮」と同じだが、規模と威力があまりにも違い過ぎた。
この件からしばらくの間、若竜達が怖がって近寄る頻度が減って、福慈様はがっかりしたらしい。自分から出かけるのは億劫なので、遊びに来てくれる相手がいるのは嬉しい。それだけに来客が減るのは寂しいようだ。
【変化の術】
鬼族の研究者トウセイが創り出した、まったく別の身体に瞬時に変化できる魔術である。時の流れを遅くした個人用の異空間に、変化用の身体を創って、二つの身体を一つの魂が共有するという方式を取っている。そのため、服装なども含めて全てが一瞬で入れ替わる。変身ではないのだ。ちなみに実装方式の関係で、時空間制御ができて、五年間程度持続する変身用の身体を創る術式をずっと発動させている必要があるため、トウセイは「鬼族の成人なら誰でもできる」と軽く言っていたが、人族換算で言えばハードルはかなり高い。
ただし、この術の改良はあまり行われていないことから、発展の余地は大きいと言えるだろう。トウセイ自身は体格が恵まれていないこともあり「より強くなりたい」という思いから創り出した術だったが、本編でも語られているように、魔力が薄い「こちら」の世界では、魔力を多く必要とする体への変身は欠点が多かった。
しかし、アキは「別の身体に変化できる」点に注目して「より少ない魔力でも活動できるように変化する」と別の視点から導入することを提案したことで、この術式の価値が大きく見直されることになった。会議に参加していた全ての種族がこの術式の導入を本気で検討していることからも、その注目度の高さが伺える。
……しかし、不老長寿に繋がる術とも言えるため、取り扱いは慎重さが求められる。恐らくトウセイは今後は、アキ並みの厳重管理下に置かれることになるだろう。
ちなみに、鬼王レイゼンがトウセイの一族の扱いも変える、といった話をしていたが、これは「変化の術」を最終的に完成させたのはトウセイだが、全てをゼロから自分で創った訳ではないためだ。トウセイの一族は、「変化の術」を支える様々な魔術に精通しているのだ。そのため、術式の改良となれば、一族全体を囲ったほうがいい、と判断したのだろう。
◆その他
【竜神の巫女】
アキがどの竜とも心話、思念波を用いて意思疎通ができることから、これまで相互不干渉を貫いてきた地の種族と竜族の間に交流が行われるようになった。しかし、現在のところ、竜の膨大な魔力から生じる圧力に耐えて対話できるのはアキとリアだけであり、他の者は緩和障壁を用いることで、多少の時間であれば会話ができるようになったが、まだまだアキやリアのレベルには程遠い。オリジナルのソフィア向けにチューニングされた緩和障壁であれば数時間の対話を可能とできるが、先行量産型では汎用性がある代わりに、性能はそこまでには至っていないためだ。緩和障壁の護符は街エルフから貸与されているが、その額も結構高く、各勢力とも緩和障壁の護符なし、つまりアキやリアのように素で対峙できる「竜神の巫女」を求めている状況だ。
アキ曰く、竜クラスの魔力でないと感知できない「鈍感力」が必要ではないか、とのこと。
これまで魔力感知に優れた者は選出してきたが、鈍い者をわざわざ選ぶようなことはなかったので、鬼族は、まず鈍感力に優れた者を選出しようとしている。
ただ、紅竜も言っていたが、単に目の前に立って会話できる「だけ」では巫女としては下位だとも言われており、人選は難航しそうだ。
なお、森エルフのイズレンディアやドワーフのヨーゲルが取り組んでいるのは、自分達でも雲取様と心話をできるようにしよう、というものであり、方向性が少し違う。彼らが心話に拘るのは、自分達の崇める雲取様とアキが親しげに心話をしているのを何度も見たからだったりする。通過点としては、竜族と対峙して思念波と声を届ける魔術で交流する、というのもアリだろうが、彼らはそれではアキの心話に大きく劣り、満足できないと考えているのだ。
「竜の魔力圧に耐えられる」、「竜と改良された心話術式を行っても耐えられる」、「異種族でも偏見を持たない」、「自分である程度考えて発言できる」、「竜の文化、思考への理解がある」etc、etc
「竜神の巫女」に求める資質は色々と考えられるが、アキがあまりに普通からかけ離れているため、どれが重要なのか、まだどれを優先すべきかもわかっていない。
当面はアキとリアだけが「竜神の巫女」として活動していくことになるだろう。
【時間通貨】
妖精の国で使われている通貨であり、万人(妖精)に共通の単位である時間を通貨として、やりとりする仕組みで、「こういうことをやって欲しい、何時間で」という要求者と、「これができる、何時間まで」という対応者をマッチングさせる仕組みと、やりとりした時間を管理する仕組みがないと運用できない。概念はあっても地球で時間通貨が使われ出したのが二十一世紀になってからなのも、コンピュータネットワークの普及と、高速処理できるコンピュータが確保できたからである。
妖精の国にコンピュータはないが、そもそも国土も狭く、国民もそれほど多くなく、なにより時間通貨を使ってやりとりしよう、という人がそれほど多くないので、組合で照合して管理する程度でもなんとかなっているのだ。
大概のことは自前でできる妖精族だからこそ、自分にできない=専門技術ということになるので、マッチングもしやすいのだろう。本編でも語られているが、平均寿命が人族の半分ほどの小鬼族と、数千年単位で生きる竜族が共通の時間だからお時間通貨を使えるか、というと何か工夫がないと難しいだろう。
【召喚体の食事】
召喚体は実体がある訳ではなく、仮初の体が構成されている状態にあるため、召喚体が飲食をしても、味わえるが腹は膨れないし酔うこともない。同様に、召喚体が殺傷されるような事態に陥ったとしても、本体側には何の影響もない。……とはいえ、例えばナイフを身体に突き刺されたあらゆる感覚、内腑を抉られる刃の動きや痛みを経験してしまって、精神が何の影響も受けない、とも思えない。今のところ、召喚体がそこまで酷い目に遭った事例はないのが幸いだ。
【鬼族の団子】
魔力が豊富に含まれていること、鬼族サイズということで大きいことを除けば、人族の作る団子との違いはない。鬼族にとっては、軽く摘まめる軽食扱いといったところだ。
魔力が濃いため、人族の場合、魔導師クラスでない限り飲食しないのが吉。一般人が食せば魔力過多に陥ることだろう。
ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
それと誤字、脱字の報告ありがとうございます。五回、十回と読んでいても気付かないものなのでほんと助かります。
本文での説明と重複して同じ内容を書いても意味がないので、内容は少し別の視点から書いてみました。
次回は、「第九章に登場した各勢力について」になります。
投稿は四月十九日(日)二十一時五分の予定です。




