9-27.新たな誓い(前編)
前話のあらすじ:鬼王レイゼンの音頭で代表達による酒盛りが行われました。街エルフの長老達もかなりはっちゃけていたようです。
黄竜さんとのお話を終えたから、次は雲取様に、変化の術について伝える段取りだけど。第二演習場にある控室に呼ばれて行ってみると、そこで父さん達が迎えてくれた。わざわざこちらまでくるなんて、何かあったかな?
「お久しぶりです。変化の術絡みで追加説明とかでしょうか?」
それにしては三人ともいるのは不思議だ。
「長老達と会ってから、三大勢力との方針決めが定まるまで、アキのありのままを観る為、接触を禁じられていたんだが、その縛りも解禁されたから、説明がてら会う事にしたんだ」
「会談の時、私達を見かけなかったでしょう? 私達はアキと会わないように、会談への参加時間帯をズラしていたのよ」
「それで、今回は久しぶりの家族団欒を兼ねて、雲取様に変化の術や、それに関わる情報の伝え方について相談する事にした、と。まぁ、親の心、子知らずだよね。こっちは色々、心配してたのに、アキは全然、そんな事気にもしてなかったんだから」
リア姉に言われて、そう言えば、ここのところ、起きたら会談だの、竜族とのお話だのと、やる事が詰まってたから、すれ違っているのも、何かあるのかなーくらいにしか思ってなかった。
忙しいのも考えものだよね。今回の集まりが終わったら、少しのんびりした時間を設けよう。運動も休みがちだったし。
「それって、家族との交流があると、僕の振る舞いが影響を受けるから、それを排除したって感じ? それとその手間を掛けて成果はあった?」
素の僕を見たい、というのは長老達からの依頼だったと思うけど、その後の各勢力の代表の皆さんを集めた会談でも、同席させないという徹底ぶりは、何故なのか気になった。
「我々が接触をしなかった理由はその通り。そして、成果は十分過ぎる程あった。もう、誰もアキが誰かの意見を代弁しているだけ、などと思う事はないだろう」
まぁ、同じテーブルに座って、他の人と相談なしに話している姿を見れば、納得もするか。
「でも、それなら各代表と話した段階で、疑念は払拭されそうなものですけど」
そんな疑問に、リア姉は首を横に振った。
「綿密な前準備をしてて、それを理解しているだけ、という可能性もあるから、それを排除して見せたかったんだよ、長老の方々は」
随分と慎重というか、可能性を完全に潰す気満々だけど、なんでかな?
「それって?」
「アキは皆と思いつくまま、時間の許す限り、話し合いをしただろう? 手元に資料を持つでもなく、その場で話を聞いて、すぐに答えていた。そこまで見せつければ、アキが自分自身で話をしてる事、しかもその場で考えて色々と提案している事も皆が理解できたんだよ」
「専門家の皆さんがすぐ疑問に答えてくれたから、テンポよく話が出来て良かったよね」
そう話すと、リア姉は何故か苦笑した。
「長老の思惑通り、と言う意味では確かに良かったかな。アキが長老達の手に負えないと皆が理解できたからね」
「え? でも、皆さん、ちゃんと話にはついてきてたよね?」
全体の話の流れはちゃんとコントロールできてたし、横道にズレすぎたら元にも戻してたんだけどなぁ。
「アキが話した部分だけなら、何とか表面的には理解できていたね。でも、他の選択肢ではなく、なぜ、それが選ばれたのか、どれくらい手間が掛かるのか、それに関係者に求められる資質がどれだけ高いのか、と言うように、疑問は山積みで、アキが退席した後は、マコト文書に詳しいメンバーが総出で、皆が納得するまで質問に答える羽目に陥ったんだ」
うわー、なんか大変だったんだね。
「それなら、そう言ってくれればペースを変えたのに」
「それでは意味がないんだよ。アキの思考の速さ、相手に合わせて平易な言い回しに変える柔軟性、そして、何よりアキの語る未来の全体像だけでもまずは聞きたかったのだから。だから、どの代表も、話を交わすことができて、とても満足していたんだ」
成る程。音楽は原音で聴かないと本当の良さはわからない、みたいな事かな。高い評価をいただけたようで、それは嬉しいね。
「長老の皆さん達、お酒が入ってはっちゃけていたようですけど、父さん達なら頑張れば止められたんじゃないんですか?」
「アレは半分は計算づくでやってた醜態だから、止めるなんて無粋な真似はしないさ。とは言え、残り半分は本気で、手に負えないと本心を曝け出していたようだったが」
父さんも、上司達の振る舞いには色々と思う所はあるようだけど、止める程ではなかったと。
「困ったおじ様達ですね。でも、そういう人間味があるところを見せてくれた方が、取っつきやすくなるからいいかも」
ちょっと、楽しい気分でそう話したら、リア姉が不思議そうな顔をした。
「アキはあの長老達相手でも全然物怖じしないんだね」
んー、そんな事はないんだけど。
「誠実だし、あの目は感情が読みにくくて困るけど、ミア姉や竜族という共通の深い話題もあるし、感情の方向性さえ気にしなければ、深く話し合えると思うんだよね。あと、最初の頃と違って、心の内を曝け出そうとかなり歩み寄ってくれてる感じもしたし、頭を使う話し相手としては、良い方々って思うよ」
あ、そうだ、ミア姉とのエピソードを聞く機会をねじ込んでおかないと。
「ミアが散々、振り回していたから、彼らもそれをつい思い出してしまうのでしょうね」
母さんがそう補足してくれた。
ふむ。
「そうそう、長老の皆さんと約束したんですよ。ミア姉とのエピソードを話して貰うって。ちゃんと予定に入ってます?」
「安心しなさい。何を話すかで盛り上がってたくらいだから、忘れる事はないわ」
「なら安心ですね。っと、それで、雲取様に変化の術について伝える件ですけど、方針とかあります?」
そう問い掛けると、父さんは一枚の用紙を取り出した。A4用紙一枚に収めるとは流石だ。
渡されたので、読んでみると、とてもシンプルな指示だった。
思いつく話を一通り、心話を使って言葉だけでなく、実際のイメージまで伝えろ、とある。
竜人となって人の文化を使いこなすことの利点、重要性や、魔導人形の小さな竜を用いて集団飛行や模擬戦闘をする意義を伝える事、ともある。
そして、一通り話せば、内容が多岐に渡る為、文字を使う事の重要性も伝わるだろう、って書いてある。変化の術を起爆剤として連鎖的に多方向に変化が生まれる事を理解させろ、って殴り書きまで。
「方針はこれで良いとして、雲取様には話をしっかり理解して貰った上で、本当に信頼できる方とだけ、周りには秘密にした上で話し合うようお願いした方がいいと思うんですけど、どうでしょう?」
「情報の拡散を防ぐのは良い考えだ。それで相談相手は福慈様かい?」
「はい。他の年配の竜は知りませんし、雌竜の七柱の皆さんだと、社会全体の視点は持てないでしょう。変化の術は老竜、成竜、若竜のどの世代にも影響があるから、人形竜での召喚遊びとは扱いは分けないといけないと思います。福慈様なら活動に必要となる適切な竜に声を掛ける事もできるでしょう。そうした働き掛けは雲取様では厳しいと思うので、そこは上手く分担して貰えば良いかなと」
「そうだね。先ずは変化の術について説明して、竜眼で観て貰おう。その上で心話で説明をすれば、具体的なイメージも持ちやすいだろうから」
父さんが総括してくれた。
うん、まずはそこからだね。
ブックマークありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。
アキだけ、代表達のテーブルに呼んで話を好き勝手させていたのも、実は街エルフの長老達の策略でした。おかげで各代表もアキが、自分達全員を相手に互角以上に話をしてくる者なのだ、としっかり理解できたことでしょう。
それと、今回こちらにきている長老達の振る舞いを観たら、本国にいる街エルフ達は目を丸くすることでしょう。本来、長老達は重々しさを重視し、思考を読ませない振る舞いを良しとしているので。
ただ、アキ相手に、そんな出し惜しみをしていると、「なんか反応薄いしよくわからないから、他の方々を頼って動こう」など考えてと蚊帳の外に置かれかねない、と判断したようです。実際、アキがロングヒルに来てからの行動の大半は、長老達の権力と全然絡んでませんからね。長老達も大変です。
次回の投稿は、四月五日(日)二十一時五分の予定です。
<雑記>
先日から喉の調子が悪かったんですが、喉の調子が悪化して掠れ声しかでなくなり、体温も37.3℃と微熱状態、寒気もあるという状態に陥ってます。過去の経験からすれば風邪を拗らせた状態で、少し休めば回復する筈なんですが……。
今回の場合、常にコロナウィルスかもしれない、という可能性があるので気が重いです。




