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9-22.帰還不能点(ポイントオブノーリターン)(中編)

前話のあらすじ:鬼族トウセイが編み出した「変化の術」、鬼族はあまり評価しませんでしたが、アキはその術の持つ可能性に気付き、皆が抱える問題を解決する使い方を示しました。時代はエコですからね。ただ、三大勢力が拮抗していた弧状列島を「世界」と見做していた人々に、惑星全域を想定した種族構成に踏み込んだ未来像はインパクトがあったようです。


まずはざっくりと。


「では、竜人、鬼人のうち、鬼人の方から話しましょう。トウセイさんが自身で実現しているように、次の段階(フェーズ)は、鬼人はどの程度の体格、魔力であるべきか決めるところですから。鬼人の基本フォーマットが決まり、その体を構築できる目処が立った時点で、試みる方を選抜という流れになるでしょう。トウセイさん、変身後の身体を作るのってどれくらい期間はかかるものなんでしょうか? それと選抜時の基準とかありますか?」


後ろにいると聞きにくいからと、トウセイさんも僕の隣に席を移された。凄く緊張してる感じだ。まぁ、同席している方々の圧が凄いからね。


「新たな身体を作るとなると、五年程度は必要です。それと選抜ですが、一般的な鬼族であれば問題ありません。妊娠中の女性は魂の操作に影響が出るので禁止です。空間制御の術式を扱える必要があるので、成人していた方がいいでしょう」


トウセイさんの説明に、レイゼンさんは嬉しさ半分、苦悩半分といった表情を浮かべた。


「思った以上に短期間で試行でき、人選も苦労せずに済む、それは良い話だ。だが、変化した新たな存在、鬼人を民が受け入れるには期間が短過ぎる。厳しいぞ」


それでも、トウセイさんに労いの言葉をかけたりと、萎縮している彼を気遣ってていい感じだね。お前の発言は俺が許す、そんな上に立つ者の意思を態度で示す辺り見事だ。というか、僕もなんか凄いところに同席してる気がしてきた。


「因みに、変化の術ですけど、これ、実質的には寿命が伸びたりしませんか? あと、休んでる方の身体もその状態で治療すれば、健康状態維持にも繋がる気がしますけど」


「……可能性はあると思う。ただ、魂は一つ、体は二つという状態が与える影響はまだわかっていない事が多い。それを目的とはまだしない方がいい。あと、空間に収めている状態では、空間鞄と同様、中は時間も遅くしている。瀕死の重傷を負ったとして、そこで健康な体の方に変身して、治療準備が整うまでの時間を稼ぐといった使い方はできるだろう」


「それ、凄い事ですよ! 治療が間に合わなくて症状が悪化したり、手遅れで亡くなったりする事も多いんですから。……そうすると、鬼人化は一種のステータス、ただの鬼より良い状態、異性から魅力的と思われる条件の一つになるかも」


パチンと手を叩いて、それは楽しそうと話したら、レイゼンさんが大きく溜息をついた。


「アキ、鬼人になれる利点はいいが、皆が鬼人として生活するのが普通になったら、鬼人同士で子は生せるのか? 鬼に戻って違和感を感じるなんて話になったら洒落にならんぞ。それに鬼人の外見はどうなんだ? 本人の面影が残る感じか? それともまったく別人もありか? 人気の面構えばかり並ぶような事態は勘弁して欲しいぜ」


成る程、自己認識の問題か。それはなかなか深い話題だね。


「今は魂との親和性を重視している為、本人の面影が残るようになります。私も長く大鬼として活動を続けた事はないので、自己認識はあくまでもこの姿です。それと子を生すことは難しいと思います。今の術式ではそこ迄は再現できていません」


ふむ。当面は問題なし、と。


「変化する体ですけど、二つ目とか、三つ目とか増やす事は可能ですか?」


もしかして私の変身は後三回ある、とか言えたりするんだろうか。


「今の身体と大きく異なる形態に変化すると、やはり違和感が大きい。しっくりこない感覚が常に付き纏うのが実情だ。いずれは可能になるかもしれないが、それは技術が相当安定してから手を出すべき課題だろう」


「残念。そうなると、竜族の竜人化は難航しそうですね。竜と人では体の作りがかなり違うから。あ、でも妖精さん達が進めている僕の妖精界への召喚で、いずれ大きさの変換はクリアできそうだし、慣れの問題かもしれませんね。竜族を小型召喚する話もあるし、複数パターンの変身は発展系研究としても、異なる形態への変化の方は、案外何とかなるかも」


「そんな事までやろうとしてるのか?」


レイゼンさんが、唖然とした顔で聞いてきた。そんなに驚く話でもないと思うけど。


「娯楽ですよ。竜族は魔力消費の関係で自由に空を飛べない。だから小さな召喚体でいいから、自由気ままに全力で飛んでみたいって。妖精さん達も、共同研究する手筈ですから、そう遠くない時期にそちらは実現できるでしょう」


「……そうか」


「どうせなら、身体を全て魔術で構成するのではなく、魔導人形で予め作成しておいて、遠隔操作するだけにすれば魔力消費もかなり抑えられそう。師匠、それは有りでしょうか?」


「小型で思い通り飛べる魔導人形の竜を用意できれば、それは魔力消費は抑えられるだろうさ。そんな魔導人形が用意できるかどうかは、製造系に長けた人形遣いにでも聞いてみるんだね」


師匠はそう言って、話を長老達に振った。


「――作る事はできる。奴らの子供を殺す訓練用に昔作った人形の設計資料も、必要になる事を想定して製造設備も空間鞄に放り込んである。じゃが、何せモノが古い。今の規格にはまるで合わんから、再設計と製造設備の刷新がいるだろう。だが、わざわざそんなモノを作ってやる必要があるのか?」


流石、古い世代。竜族の娯楽の為に作るなんて、真っ平御免と言わんばかりだね。


「召喚体で思いのままに飛ぶ経験をしたなら、自分もやりたいと言い出す竜達で溢れ返るのは確実と思いますよ? なら、ここで手間をかけて魔導人形の小型竜を街エルフが気前良く提供すれば、恩が売れます。それもかなり高値で。相手が欲しがるモノをわざわざ手間暇掛けるのだから、竜族もその価値を認めるでしょう。そして彼らはモノを持たず、労働で支払うしかない。良いですね、実にいい。どうせなら十体くらい同時に利用できるようにして、集団飛行とか、集団同士の対抗戦とか、色々バリエーションを増やしましょう!」


「おい、いくら恩を売るにしても、そこ迄、やる意味があるのか?」


なんか声の掛け方が雑になってきてるなー。それだけ取り繕うのを辞めてくれているって事ではあるけど。


「設計して量産するなら、一つでも、十でも、二十でも手間は大差ないでしょう? それに大陸の竜達と争う事態になった時、個人技だけの大陸竜に対して、集団戦で経験を蓄積したこちらの竜達という状況が作れれば、ワンサイドゲームで殲滅する事だって可能でしょう。将来への投資と考えれば安いモノです。それに竜達の意識改革にもなります。協力して対応すれば、格上の竜にも簡単に勝てる、そうなれば、竜達も困難に対して役割を分担して共に対応するという意識が定着していきます。んー、ちょっと考えてみても、竜族の意識改革を行うという意味では、安くて相手に警戒もされなくていい案と思いますね」


どうです? と皆に話を振ってみたら、なんか皆に渋い顔をされた。


「どうしました?」


「また議題が増えたな、と少し疲れただけさ。気にせず続けてくれ」


ニコラスさんが戯けた口調で答えてくれた。実際、目にも力は十分宿ってる。ほぉ。なら、僕も頑張らないと!





結局、長老の皆さんの時と同様、摘める軽食を配って、昼食の時間帯もぶっ通しで、議論を進める事になった。


ベリルさんが書いていくホワイトボード上の項目もどんどん増えていき、そろそろ三枚目も埋まるかなってところまで色々と話が出た。


いやー、これだけ、その道のプロがいて、聞けば大体即答して貰えるなんて贅沢な体制のお陰で、議論が進む、進む。


途中からは後ろの席の人達が風の障壁を展開して、話の邪魔にならないように議論をしたりと、なんとも熱気を帯びてきた。


んー、いいね。


「お爺ちゃん、あっちから賢者さんとか呼ぶ?」


「さっき連絡をしたら、仕事を片付けたらすぐ合流すると言っておった。女王陛下もそんな話題なら参加するとの事だ」


「それは、更なる燃料投下って感じだねー」


で、何故、少し他人事のように話しているかというと、僕はそろそろ寝る時間だからだ。


「えっと、皆さん。この後、妖精族の皆さんも参加されて更に話も盛り上がってきそうで、話を続けたいところですが、そろそろ寝る時間なので、僕はこれで失礼します。もし、追加で話があれば明日、対応します」


「――そうか。話を纏めておこう。今日は有意義な時間だった。明日も宜しく頼む。それと、お休み、アキ」


ユリウス様が素敵な笑顔で見送ってくれた。くー、こういう心遣いもできるなんて、完璧超人か!って思っちゃうね。


他の皆さんも、また明日と送り出してくれた。というか、明日も続くのは確定っぽい。


なんか会議の途中でも、外に対して人の手配を告げるようなやり取りも頻発してたし、お祭り騒ぎだ。


師匠を見たら、トウセイさんの隣に座り込んで、何やら議論白熱って感じだ。トウセイさんも周りの熱気に影響されてか、だいぶリラックスした感じで、議論に熱中してる。


そしてエリー達、調整組の方はと言えば、こちらも結構賑わってる。やはりエリーが、牽引役のようで、皆に対して話を振ったりして議事進行役も兼ねているっぽい。


ケイティさんと女中三姉妹のテーブルは、いつの間にか通信用の魔導具まで設置されて、部下の女中人形の皆さんまで支援して、ベリルさんが黙々と資料を作成しているように見えた。


「にゃー」


そろそろ行くんだろ、って感じにトラ吉さんが声を掛けてくれた。


扉の横ではシャンタールさんが待っててくれた。


「お待たせしました」


「少し時間が押していマス。お急ぎくだサイ」


そう促されて、僕は別邸の中に戻った。そして、中は庭先の皆さんへの飲食物提供の為に、アイリーンさんの陣頭指揮の元、大勢の女中人形の皆さんがキッチンだけでなく居間も占領して料理をしていて、正に戦場と化していた。


うわー、裏方がこんな事になっていたなんて。


そんな騒ぎの中でもお風呂場は比較的、静かな方で、ずっと会議をしていて溜まっていた疲れを癒してくれた。


結局、ギリギリまでお風呂でまったりしていたせいで時間が更に足りなくなり、寝支度をしてベッドに潜り込んだのは、意識が落ちる寸前だった。


ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

「変化の術」を用いた社会変革提案の中編も様々な意見が出て盛り上がりました。アキは大したことではないといった感じで、竜族の小型召喚について話をしてましたが、各勢力の代表達からすれば、驚愕するのに十分な内容でした。なにせ、アキが妖精達を召喚した四カ月ほど前までは、召喚の常識は「高位存在を膨大な魔力を用いて僅かな時間、降臨して力を行使して貰う」といったものでしたから。

それを「竜族を小さな魔導人形の竜を用いて沢山召喚して思う存分飛んで遊んで貰おう」と言われれば混乱するのも無理もありません。ちょっと驚いた程度で表面的に取り繕うことができただけでも偉いものです。

次回の投稿は、三月十八日(水)二十一時五分の予定です。

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