表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
219/769

9-21.帰還不能点(ポイントオブノーリターン)(前編)

前話のあらすじ:竜族について、こちらの武装ヘリと対比してみる事で、その特徴や限界を皆に示しました。「正しく怖れる」って大切です。

「皆さんに相談したい話は、竜族に変化の術を見せて、その改良、導入を促そう。簡単に言えばその事の是非だけです。ですが、それだけでは、不親切なので、それを行うと先々、どうなる事が想定されるかもお話しますね。まずは、変化の術について、トウセイさん、解説をお願いします」


話を振ると、トウセイさんは大きな体を縮こまらせて、少し悩んだけど、すぐに遠慮がちに僕の横まで出てきて、皆に一礼した。


「トウセイです。私の創り出した変化の術式について概要を説明します。簡単に言えば、自分専用の空間を確保し、そこに変化後の体を構築して、その体と本来の体を魂が共有するという仕組みです。実際にお見せしましょうか?」


論より証拠、確かに見てもらった方が理解して貰えると思う。何より僕も見てみたい。


「ここの広さで大丈夫ですか?」


「変化を見せるだけですぐ元に戻るから問題ないだろう」


ざっと反応を伺ったけど、特に拒む感じはないのでお願いしてみた。


『変身!』


僕が離れたのを確認すると、トウセイさんが鋭く一言唱え、次の瞬間、そこには四階建てにも相当する大鬼の姿があった。


早速、お爺ちゃんが顔の近くまで飛んで行き、その体に触ったりしながら、何やら興奮気味に話しているけど、よく聞こえない。


あまりにデカ過ぎて、なんか同じ鬼族とは思えない感じだ。というか、大鬼さんだけど、服装も先程のトウセイさんと変わってる。


変身と言うより、入れ替えた感じだ。


足なんて、もう足というより巨大な柱って感じで、お台場で見た実寸大のモビルスーツのような迫力が感じられた。


ただ、竜族みたいな圧力とか魔力は感じられないね。


そうして見てるうちに、大鬼さんがまた『変身』と唱えて、元のトウセイさんの姿に戻った。


僕とお爺ちゃんは盛大に拍手をして彼を称えた。


いやー、凄い。


「このように服装も含めて一瞬で変化する、この術で苦労した部分です。ただ、大鬼の姿では膨大な魔力、飲食物が必要で、普段とは体の動かし方も異なり、大鬼として高度な体術を駆使するには、かなりの時間を訓練に割り当てなくてはなりません。それだけの手間をかけてまで、採用するほどではないと判断されました」


凄い術だと思うけど、確かにコスパが悪そうだ。でもまぁ、僕にとってはそこは気にしない部分だけどね。


「実演ありがとうございました。僕は魔力は感知できませんでしたが、大鬼化すると魔力量も格段に増える感じでしょうか? そして、大鬼としてそこにいるだけでも、かなりの魔力を必要とすると見ましたがどうでしょう?」


「大鬼は保有魔力も、必要とする魔力も大きく増える。だから、少しずつ貯めても短時間ですぐに魔力が枯渇してしまい、訓練もままならない。訓練しない兵士は戦場では大した活躍はできなかったんだよ」


だよね。


「さて、皆さん。今の実演と説明で、竜族に伝えたいと考えた理由が見えてきたと思います。ヒントは、変身後は魔力が足りない、です」


「……それは変身前、別空間にいる状態の大鬼は殆ど魔力を消費していない事を意味する……そうか。逆転の発想だな、アキ!」


ユリウス様が正解に辿り着いた。見事。


「そうです。竜族の身では膨大な魔力が必要、ならば、変身後の体を人族辺りをベースにすれば、魔力は抑えられるという話になります。順番に魔力を蓄積するよう巣を共有すれば、一柱の竜と、人と化した竜、竜人としましょうか。それが五人、十人と一緒に生活できるようになるでしょう。共に手を携えて行動する仲間として見た場合、竜人はきっと破格の能力を示してくれます。竜の数も増えて、人の生活を理解し、道具を使い、知識の探究も共同で行える心強い仲間の誕生です」


ここで、世界儀を出して世界の広さと弧状列島の小ささを再認識して貰ってから、前に説明したチェス盤で、人数比率の説明を改めて行った。あの時は鬼族にしか説明してなかったからね。


そして、鬼族を示す二つの駒を指した。


「これは鬼族も同じです。魔力を抑えた人型形態、鬼人といったところですが、鬼族がそれを習得すれば、今の地域に例えば十倍の鬼人が生活できるようになるでしょう。いざという時は鬼に変身できる、そんな新たなスタイルです。そして鬼族は二つの駒でしたが、これが鬼人なら十倍。これなら、人族、小鬼族、鬼人族の数の差はかなり縮まるので、少数派(マイノリティ)として肩身の狭い思いをせずに済みます」


ずらりと二十個並んだ鬼族を示す駒。人族、小鬼族は三十駒ずつあるので、二駒の時よりはだいぶマシになったと思う。


皆が息を呑んで、チェス盤を凝視するのがわかった。


あー、なんか空気が痛い。


「あー、そんなに深刻に考えなくても、やる事は単に竜族に変化の術を見せて説明するだけですから」


僕の言葉に、ユリウス様が大きく首を振った。


「単に変化の術を見せるだけなら、珍しい術式と思われる程度かもしれない。だが、アキがその使い道、可能性、目指す未来像を語れば、その意味は、重みは、価値は何千倍、何万倍と跳ね上がるんだ。自分でも言っただろう? 世界の在り方を変えると。その通り。……これは変わるぞ。間違いなく。しかも、この話に乗る竜族もかなりいる、そうではないか?」


ユリウス様の推測通り。食いつくと思う。


「巣が空くのを待ってて下積みを延々と何百年と続ける若い竜達なら間違いなく興味を示してくれるかな、とは思ってます。それを否定する年配の竜は、既得権益を守ろうとする嫌な輩と見做されてギスギスした雰囲気が一時的には生まれたりするかもしれません。まぁ、彼らは賢いので、上手い落とし所を見つけるんじゃないでしょうか?」


僕の説明に、師匠は楽しそうに笑ってくれたけど、調整組は表情が引き攣ってる感じ。

そして、三大勢力の代表の皆さんは、何故か街エルフの老人達に同情の眼差しを向けていた。


「どうかしました?」


「その話、竜族に恩を売れば、研究に巻き込めるだろうという話に繋がるのか⁉︎」


努めて冷静にあろうとしても、なお抑えられない感情のうねりがクロウさんから感じられた。


「はい。既に次元門研究に向けた竜探しは始まってますけど、どうせならどーんと人材確保するのも有りかなーって。魔導師の頂点レベルの技量と竜眼持ちで時間も有り余って暇な人材が二、三万もいるんですから、借りられる手は可能な限り集めたいとこです。何せ、次元門構築は優秀な人材がどれだけ居ても十分とは言えませんし」


それと、三大勢力からの引き抜きでないなら、影響も少ないかなって思うんですよ、と告げたら、クロウさんに手招きされた。


何かなって近付いたら、頭がクラクラするようなデコピンをされた。


「痛っ、な、なんでーーえっと、なんか怒ってます?」


額を抑えながら聞くと、クロウさんは露骨に顔を顰めて見せた。


「怒ってるかだと? こんな面倒事を捻り込まれて怒らない訳がないだろう! 竜族をそんな頭数巻き込んで影響が少ない訳がない‼︎ 今回の件で、三大勢力も在り方が大きく変わるだろうと、その中でも新たな安定を生み出そうと話していたところに、いきなり前提を吹っ飛ばすような話を持ち込まれたんだぞ! (まつりごと)に携わる者達を超人か何かだとでも思ってるのか? お前はミア並の頭痛の種だよ」


おー、ミア姉に並ぶとか言われると、ちょっと嬉しいような。


「喜ぶな! 褒めてない。あと、代表の皆に言っておく。無責任に聞こえるかもしれんが、これが正直な認識と捉えて欲しい。――コレを我らだけで御する事など無理だ。責任を放棄しているのではない。話を表面的に理解するのがやっとで、とても多角的に分析などできん。だから済まんが力を貸してくれ。コレの話は悪くはない……一見そう思えるだけにタチが悪い。弧状列島に住む全ての者の未来の為に、皆の力が必要だ」


コレ扱いとは酷いなーって非難の気持ちを視線に込めてみたけど、妥当な扱いだ、と雑な表情で流された。


そして、ニコラスさんも、レイゼンさんも、ユリウス様まで、なんか頷いてるし!


「なんか、皆さん、酷いんですけど。いろいろ抱えていた問題も解決の道筋が見えてハッピーな気分になれて、僕も沢山の助力を得られて、弧状列島の各種族の交流が促進して、同じ国の民なのだ、と共通意識も生まれれば、今後の海外との交流も安心、ほら、四方丸く収まるでしょう?」


などと抗弁してみたけど、ユリウス様の指示に従って、何故か代表テーブルのところに、席を用意して座らされた。


「やはり未知の土地に向かうなら道案内がいると心強いものだ。そして、先程指し示した道筋には、色々と注意すべき障害があるように思える。それらを思い付く限りでいいから話して欲しい。我々が思いつかない視点、着想があるかもしれないのだから。頼りにしておるぞ、アキ」


なんか、優しい口調だけど、拒否権は無さげだ。仕方がないと話そうとしたところで、ユリウス様が何でもないことのように、追加で提案してきた。


「それと、竜神の巫女殿。この件で、皆の滞在が何日か延びる。竜族に悟られぬよう、上手く説明を頼むぞ」


なんか、少し意地悪な感じで丸投げされた。でも、代表テーブルの方々が発する「それくらいやるよなー」って無言の圧力が強くて、僕は勿論、と笑顔で快諾するしかなかった。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。

「良い事思いついたよ、これで問題も解決だ」、そう言って放り込まれた話が、それまで苦労して積み上げてきたモノをぶち壊すとしたら、長老が怒るのも無理ないですよね。

長老達が心労で倒れないよう祈るばかりです。

次回の投稿は、三月十五日(日)二十一時五分の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
評価・ブックマーク・レビュー・感想・いいねなどいただけたら、執筆意欲Upにもなり幸いです。

他の人も読んで欲しいと思えたらクリック投票(MAX 1日1回)お願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ