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9-19.鬼族の研究者トウセイ

前話のあらすじ:街エルフの長老の三人目、クロウとの会談を行いました。竜に対する感情が真逆な長老達とアキでしたが、方向は別として深さならば一緒だから仲間、と言い切るアキの姿に、長老達はミアの姿をみたようで、溜まっていた不満を延々と語るような真似までしました。まぁ、長老達との会談は良い結果だったと言えるでしょう。


投稿が遅れてすみません、投稿設定を間違っていたようです。

へばっていた僕だったけど、ケイティさんから、トウセイさんとの会談をどうするか聞かれた瞬間、一気に体の隅々まで気力が戻って、即答で会談すると答えたのには、少し呆れられた。


「ほら、好物は別腹と言うじゃないですか。それみたいなモノです」


「うむ。儂も鬼族の研究者には興味がある。気合を入れ直して、出迎えるとするかのぉ」


お爺ちゃんも、一緒に小言を聞いてくれていたから凹んでいたけど、やはり回復してくれた。


逆に他の妖精さん達はかなりお疲れのご様子で、もう立ち会う必要はあるまい、とシャーリスさんが宣言すると、喜んで送還されていった。


妖精さん達が足早に還ったのは初めてかも。


まぁ、長老さん達、インパクトあったからね。


そんな訳で、別室で身嗜みを整えたりしてる間に、庭のテーブルセットも鬼族用に入れ替えが終わった。


そうして、待つ事数分。


遂に研究者トウセイさんが現れた。





背丈はセイケンより低く、同じように線が細いけど、鍛えている感も薄くて、ぱっと見、鬼族の一般人って感じの方だ。

姿勢も少し猫背気味で、丸メガネを掛けてて、如何にもな雰囲気を醸し出してる。

歳はセイケンよりは一回りか二回りは年上かな。少しお年を召している感じがする。

でも、目に宿した熱はなかなかのモノがあって、彼も今回の件ではかなりのやる気を見せてくれている感じだ。


さて。


「トウセイ様、遠路遥々、よくおいで下さりました。街エルフのアキです。世間では竜神の巫女と呼ばれてたりもします。僕達の研究に参加していただける事を大変喜ばしく思います。お疲れの事と思いますが、こうして先ずは言葉を交わしたく思い、歓談の場を設けさせていただきました。これから宜しくお願いします」


正式な挨拶をしてから、手振りを加えて、彼の熱意に並ぶように、歓迎の言葉を送った。


「儂が妖精族の翁じゃ。アキの子守妖精であり、共に研究を行う仲間でもある。宜しく頼むぞ」


お爺ちゃんが目の前まで飛んで、身振りを加えながら挨拶をした。


「ニャー」


足元のトラ吉さんも、俺も宜しくな、って感じで一声掛けてくれた。


僕達としては精一杯歓迎したつもりだったけど、トウセイさんは驚いたようで、ゆるゆると一歩下がって、震える手で、トラ吉さんを指差した。


「よ、宜しく。私がトウセイだが……大きな猫だが、まさか角猫なのかい⁉︎」


大きな体を縮こませて、恐る恐る聞いてきた。


あー、確か一般の人は角猫が怖いんだったっけ。


僕はトラ吉さんに一声掛けて許諾を得てから、トラ吉さんを抱き上げた。


「はい、トラ吉さんは角猫です。とても紳士で、僕の事を護ってくれています。意味もなく襲ったりしないから、心配ないですよ?」


そう、安心をアピールしてみたけど、話している僕を見る目にも恐怖の色が浮かんでる。


「き、君がアキだったね。本当に魔力がまるで感じられない。話に聞いていたが、今こうして目の前にいても信じられないよ」


犬が相手の匂いを嗅がないと安心できないようなモノかな?


「ならば、儂の魔力も感じられんから、本当にいるか確信が持てんかのぉ。ほれ、こうして触れてみれば、ここにいる事もわかるじゃろ」


お爺ちゃんがふわふわとトウセイさんの周囲を飛んで、肩に立ち止まったり、差し出された手の上に乗ったりと、繰り返す事で、やっとトウセイさんの体の強張りが解れてきた。


「翁、貴方が召喚体だと話には聞いていても、こうして触れる事ができると、ここに居るとしか思えない。とても不思議だ」


ん、気になる話だね。


「トウセイさん、召喚した相手には普通は触れないんですか?」


僕の問いに、トウセイさんは首を傾げたが、少し考えて、認識のズレを理解してくれたようだ。


「過去の事例では、召喚は高位の存在を短期間、この世界に顕現させるのに用いているんだ。現れた高位存在は恐れ多くて触れるどころが近付く事さえない、そう言うモノなんだよ」


あまり例のない話だから、僕が知らないのも無理はないと、丁寧に説明してくれた。瞳の畏れの色はだいぶ薄れてきたかな。


「それだと、妖精さん達はこれまでの召喚に当て嵌まらないレアケースって事ですね。――さて、トウセイさん。他のメンバーにもおいおい会って貰いますが、何か疑問や質問、懸念事項などありましたら、お話し下さい。時間が許す限り、お答えします」


用意した席に座って貰い、アイリーンさんに茶菓子と緑茶を出して貰った。率先して食べて、飲んで、緊張しないでいいですよ、とお爺ちゃんと一緒にアピールしたら、トウセイさんも身構えているのが馬鹿らしくなってきたのか、ボリボリと茶菓子を食べて、一息ついた。


「これは美味い!」


「アイリーンさんのお手製です。気に入っていただけたら、お安く譲りますので、気軽に注文してくださいね」


アイリーンさんが会釈したのに合わせて、トウセイさんも慌てて頭を下げた。


なんか、庶民的な鬼族さんだ。


僕がほんのりした気分で眺めているのに気付いて、トウセイさんは軽く咳払いをして、背筋を伸ばした。


「次元門構築だったね。ただ、私は変化の術が専門で、時空間制御も知ってはいるが専門家ではない。だから聞きたかったんだ。何故、私でいいと考えたんだ?」


確かに。


「トウセイさんは、故郷に戻っても自費で研究を続ける熱心な方と伺いました。それにセイケンが推薦してきた方です。必要な水準の技量はお持ちでしょうから、そこは心配してません。それに変化の術にも興味があります。妖精族の賢者さんにも聞きましたが、魔術に長けた妖精族でも体を変化させる術式は前例がないとのことでした。僕が求めるのは唯一無二の発想、柔軟な思考ができる、そんな研究者です。トウセイさんはその条件にマッチしていると思いました」


「うむ。儂も話には聞いたが、お主の編み出した術式は、己を大鬼の姿へと変えるのじゃろう? 是非、見たいものじゃ」


僕達の話を聞いて、トウセイさんは少しだけ誇らしげな顔をしたけど、すぐ表情を曇らせた。


「高く評価してくれているのはとても嬉しい。ただ、私の術式は未完成なんだ。いや、完成には程遠いと言った方が正しい。今も研究しているが、解決策を見出せてもいない」


ふむ、やはり故郷に引っ込むことになったのはショックだったんだろうね。


「その件ですが、僕は魔術を瞬間発動させる二つの種族に伝手があります。まず妖精族。ここにいるお爺ちゃんもそうですが、魔術にとても長けています」


「紛い物じゃが、ほれ」


お爺ちゃんが杖を振ると、一瞬で鷹の姿に変化した。そしてゆっくり羽ばたいて、僕の肩の上に止まった。


肩に乗った僅かな重みのお陰で、すぐ目の前にいる鷹が幻影だとわかる。よく出来ているんだけどね。仮初の盾なんかより、余程本物っぽい。


「そ、それは変化、いや、しかし、幻影にしては違和感がない……」


トウセイさんが前のめりになって鷹の幻影を纏い、己は姿を消しているお爺ちゃんの事を穴が開く程、凝視していた。


いつまででも眺めていそうだったので、焦れたお爺ちゃんが羽ばたいて、トウセイさんへと飛んでいった。


咄嗟に手を出して身構える腕の間を、幻影の鷹は重なるように擦り抜けて、お爺ちゃんは幻影の鷹を消して、元の姿になり、驚いたトウセイさんの額をトントンと杖で叩いた。


「な? 幻影、今のが幻影だと⁉︎」


悪戯成功とお爺ちゃんがニンマリした。


「そうじゃ。儂らはこうして鳥の姿を真似る事はあるが、鳥に変化しておる訳ではない。じゃから、お主の術式には我らも興味を持ったんじゃよ」


「……凄まじい技量だ。これが妖精族か」


「お爺ちゃんは好事家(ディレッタント)で、魔術の専門家じゃないんですけどね。でも、かなりの腕でしょう? 妖精界に住む彼らなら異なる視点で何か改良点を思いつくかもしれません」


「それは、そうかもしれない」


「そして、もう一つは、竜族です。彼らの竜眼の見透す力は驚くべきモノがあります。妖精族とは別の意味で改良点を見出してくれるかもしれません」


「竜! いや、君は竜神の巫女だったな」


「世間ではそうとも呼ばれてますね。彼らと世間話できるってだけなんですけど。それで僕のお勧めは、竜眼で見て貰い、その結果を元に白竜さん、妖精族の賢者さん、それと僕の師匠ソフィアあたりのメンバーと一緒に検討してみるってとこですけど、どうです?」


きっと、今挙げたメンバーなら、魔術談義も盛り上がると思うんだよね。


「そ、それは私が竜の前で変化して見せるという事か⁉︎」


「勿論そうですけど、何か問題があるとかですか?」


「いや……ない、ないが、あの天空竜だぞ?」


かなり腰が引けてる感じだ。


「竜族の魔力なら軽減する緩和障壁の護符をお貸しできますよ? 彼らの分析能力は腕利きの魔導師にも勝ります。研究が進むチャンスと思いますが。……無理強いはしませんけど。どうします?」


さぁ、研究者としての覚悟はどれくらいか。


「やる! やるとも! 我らにはない文化を持つ魔術に長けた者達の助力を得られる機会など、我が故郷でこの後、何百年待とうと得られはしない。やる! やるとも!」


なんか、空元気の大安売りって感じだけど、一歩踏み出したその気概は尊敬できる。


「いいですね、まさに研究者って感じでとてもいいです。ところで、観察に邪魔になるから緩和障壁は展開するな、と言われても大丈夫ですか? セイケンは魔力を活性化してれば、長くは無理とは言ってたけど、なんとかなってましたが」


「無しでないと駄目なのか?」


「鬼族の魔力活性化を観察する時は、障壁は邪魔と言ってました」


「無しか……」


「分析精度を高めるのなら、無しでしょう。まぁ、慣れですよ、慣れ。最近の白竜さんなら魔力の抑えかたもとても上手だから、そんなに身構える程の話でもないですよ、きっと」


「平然と竜と話す君に言われても安心できないよ」


「まぁ、それはそうかもしれませんね。ところで、すみません。そもそもの話ですけど、変化の術の仕組みを大まかでいいので教えて貰えますか? 事前に立ち会う皆さんに概要を伝えておけば、分析に必要な魔導具とかも用意できると思うんです」


僕の提案に、彼はなんか諦めにも似た溜息をついた。


「元よりその程度は話すつもりだったが、君はどれだけ話を聞いているんだ?」


「大鬼に変化出来る事、でも初戦で大活躍したにもかかわらず、その後、殆ど姿を見る事がなかった、と。その程度です」


「そうか。なら、そもそもの術の仕組みから話すとしようか。まず――」


トウセイさんは概要と言っても、僕経由で他の関係者に話が伝わる事を考慮して、僕達の理解度をその都度把握しながら、丁寧に説明してくれた。良い人だ。


「魔術で召喚体を創り上げるのではなく、依代となる生身の身体を別空間に用意しておく、という点では、変化というより身体の差し替えといった感じの術なんですね。結構な複合技でちょっと大変そうに思えました。ところで、幾つか確認したい事があるんですけど」


「なんだい?」


僕は気になった事を幾つか聞いてみた。そしてトウセイさんの答えは満足のいくものだった。


うん、うん。多分、いけるんじゃないかな。


「トウセイさん、貴方の創り出した変化の術ですけど、もしかしたら世界の在り様を一変させることができるかもしれません。ただ、その場合、術式が洗練されて多くの人が使うようになっても、その術式は秘匿され、貴方がその事で称賛を浴びるのはかなり先のことになると思います。それに使い方も貴方が求めていた物と少し違うかもしれません。貴方は、変化の術が多くの人に使われ、それによって鬼族の未来が豊かになるならば、使い方が目指したそれと違う事、称賛が当面得られない事を許容できますか? 勿論、開発された功績は高く評価され、相応しい対価を得られる事は約束します」


僕の提案に、彼は奇妙な話と思いながらも、少し考えてから答えてくれた。


「私の研究が我が国の未来を豊かにするなら、称賛されるのが遅くなることくらいなんでもないさ。ただ、どんな使い方をすればそんな話になるのか見当がつかない。話してくれるかな?」


ん、いい顔をしてる。


「勿論です。ではまず鬼族の抱える問題点についてお話ししますね。彼らは――」


僕はケイティさんも近くに来て貰い、変化の術の特徴と、それを活かすアイデアについて、一通り話してみた。


話を聞いているうちに、皆がだんだん、口数が減っていき、最後は静かになってしまった。


「――という感じで、普及させれば、鬼族も竜族も抱えている問題も解決できて、僕達のような少数派(マイノリティ)が存在感を維持できる世の中になると思うんですよね。どうです?」


「……そんな発想がどこから出てくるんだ。それに竜族もだと⁉︎」


「弧状列島に住む竜族達は、争いを回避する方針を堅持している稀有な存在です。世界中を探しても、他の地域の竜達まで穏やかと考えるのは無邪気過ぎる考えでしょう。なので、彼らの問題解決にも使うべきと思うんです。そうすれば世界の有り様は間違いなく変わります。トウセイさん、貴方の術式は、今話した策を支える大切なモノとなるでしょう。秘匿されるのも仕方ないとそこは我慢してくださいね」


「……そこはいいんだが」


っと、アイリーンさんが合図してきた。いけない、そろそろ時間切れだ。


「えっと、すみません。名残惜しいところですけど、そろそろ寝る時間が迫ってきたので、どうするか、ケイティさん、検討をお願いします。多分、どうせなら今ここに来てる各勢力の代表の皆さんにも話を通しておいた方がいいと思うので」


「きっと、そうなるでしょう。――というか、アキ様が言い出したのが今のタイミングで幸いでした。トウセイ様、申し訳ありませんが、この後、メンバーを集めますので、アキ様の提案について、検討会に参加をお願いします」


「え、いや、まぁ、参加はいいが、君は先ほどの提案を皆で議論するだけの内容だと?」


「勿論です。トウセイ様、話を聞いて荒唐無稽に聞こえましたか? 私にはそれが確実に到達しうる未来の話にしか思えませんでした」


「……私も実現可能とは思った。しかし――」


「後はメンバーを集めて議論しましょう。もしかしたら、何か見落としがあるかもしれません」


ん、いい感じに検討してくれそうだ。


「それじゃ、皆さん、おやすみなさい。結果は明日の朝聞かせてください」


僕は目一杯、応援の気持ちを込めて笑顔で話したけど、何故かトウセイさんもケイティさんもノリが悪かった。お爺ちゃんだけは任せておけ、と元気に返事してくれた。


感想、評価、ブックマークありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。

さて、前々から名前だけは出ていた鬼族の「変化の術」の研究者トウセイが登場しました。これまでにない庶民派っぽいメンタルや外見ということもあって、アキは新鮮に感じたようですね。

そして、「変化の術」が持つ特性からアキは色々と思いついたようです。ケイティさんとトウセイさんの温度差はきっと、アキに対する経験の差でしょう。

次回の投稿は、三月八日(日)二十一時五分の予定です。

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